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『あの日君と見たこの海で』 作者:橋本マド / リアル・現代 未分類
全角3699文字
容量7398 bytes
原稿用紙約10.25枚
 小さな島が人里離れた所にあった。南に位置するその島は自然が溢れ、消えようとしない過去の地球の姿が深く残っていた。島の周りには大きな海。さんご礁に囲まれた美しく静かな海だった。島もまた静かで、人は住んでいない。使われなくなった建物には蜘蛛の巣が掛かっていて、道には車が一台も走っていない。歩行者も1人もいないしネコすらも歩いていなかった。いわば無人島だ。しかしかつてはここにも人が住んでいたのだ。穏やかで何もない島。でも人々はこの島を好いていた。自然が溢れるこの島を。だが今はもう誰も居ない。蝉の声が島を囲い、手入れのされていない雑木林がうっそうと島を覆いつくしていた。誰もいない、哀しい島。静けさだけがただよう。
 そんな島に人が1人、古い岬の先で海を眺めていた。乗ってきた船を止めるやいなやすぐさま岬の上に立ったのだ。この場所には似合わない格好。少女だった。少し険しい顔、しかし顔は愁いをおびている。長く伸ばした髪を風になびかせ、静かに蒼い海を睨んでいる。16、17ぐらいの年頃だろう。まだ少し幼さが残る顔つきだ。
 波が砂浜に引き上げられ音を生む。静かな海。人の声は聞こえない。
 少女は静かに深呼吸をする。浜の塩辛い臭いがする、清清しい海の臭い。海風の柔らかさも肌に伝わってくる。穏やかな気持ちが体にしんとうしてきた。心身ともに清らかな落ち着いた気持ちになった。彼女は静かに微笑んだ。
「変わっていないなここ」
背伸びをしながら愛らしい表情をする。海と太陽しか広がらない地平線をながめ背筋をぴんと伸ばしていた。清清しい空気に身をまかせ、海のその広い感覚に心を躍らせた。
 しかし顔には少し暗さが目立った。何か深い考え事をしたように、表情は沈み少しやつれていた。白い肌は明るい色を忘れたかのよう。少女はため息を漏らした。照りつける太陽は容赦なく彼女に光を浴びつけていた。嫌なことが頭を巡る。少し昔のこと、丁度お昼頃の時間帯だった。前に一度ここに来たことを…
「お嬢様」
 そう近くで声が上がった。少女は首をそちらにむけた。いたのは男性だった。深めに帽子を被り、かるくお辞儀をしてくる。いわば使用人だ。専用のクルージングに乗りこちらの様子を伺ってきた。せっかく思い出にに浸っていたのに…。少女はめんどくさそうな顔をすると静かにため息交じりに口を開けた。
「先に帰っていて下さい。私はここに残ります」
 前髪を撫でながら呟くように言った。相手の男性は小さくお辞儀をするとそのまま船のなかに姿を消した。少女は小さくため息をつくとまた広い海を眺めた。空と水平線が上手く綺麗に混じっていた。
 少女の名前は神無月 アリア。父が有名な会社の社長であるため傍からみればいいとこのお嬢様だ。しかし現実は違う。退屈な毎日と変わらない日常。言いたいことも深くは言えない。はっきりとわかるのは孤独。自分に恵まれているのは孤独くらいだった。
 アリアはまたため息を付いた。見えない未来と見えない明日。頭の中には暗いことしか浮かんでこない。何も考えたくないのにそれしか浮かんでこないのだ。ただの絶望しか…
「いっそあの時、時間が止まれば良かったのに…」
 いつのまにか口が開いてた。瞳の色はくすみ完全に色あせていた。瞳に写るのは海。真っ青でそれでいて太陽の光が反射しまた光を生む。美しいと素直に感じてしまう。のに、なぜ自分はこんなにも心が思いのだろう?
 くすんだ瞳に涙が溜まった。こぼれないものの、我慢していたものが溢れようとはしていた。でも、涙はでない。渇いた瞳は随分泣くのを忘れている。何年も彼女は泣いていなかった。
「あの時すら泣けなかったもん」
頬を撫でる優しい風を感じ、そっと呟いた。果てしない風、果てしない海。こんな小さな島なのに大きな希望が溢れている。それはずっといつまでも。…そう思っていたのに。
 不意にアリアは目線を海から離した。目に映ったのは砂浜、それとテトラポット。テトラポットには藻がこびり付いていて、何重にも重なっている。なんの変哲もなかったが、アリアは物思いにふけていた。誰もいない島の誰もいない砂浜のさらに奥。テトラポットの上には誰もいない。でもアリアは見たんだ。そこに人がいたのを。そしてその人物と話したんだ、この場所で初めて。
「もう居ないんだね」
 居たはずの人物を懐かしむようにアリアはか細く声をはいた。もうその声は届かない。何故ならもうそこに彼はいない。あの時あった少年はもうここにはいない。でも何故かそこにまだ居るようでおもわず話かけそうになった。
 あの時から時が経ったその場所は、あの頃と特に変わりはなかった。変わりがあったとすれば自分の心ぐらいだろう。
 まだ日が当たる海を見つめ少女は静かにその場所に座り込んだ。アスファルトの冷たい感触が服の上から伝わってくる。波の音が近い、静寂の中響いている。昼だとゆうのにこんなに静かな理由をアリアは知っている。何故こんなに静かなのかは今から少し前の事件のせいだ。あの日、私はここに来た。そして1人の少年と会った。初めて会ったこの場所で私たちはわかりあうことが出来た。そして私はそれから深く変わった。
 波うち際から発せられる波の音を耳に、あの頃と何も変わらないこの場所を懐かしんだ。そして頭のはあの頃の映像。
 一年前の暑い夏のことを深く思い出していた…

+++++

 一年前の夏。
当時16歳だったアリアを連れ、父はこの島へ来た。遠くから見たこの島の感想は何もない小さな島だった。父に無理あり連れてこられただけあって目に映る島の印象は最悪だった。都会みたいに便利じゃないし、映画館も遊園地も何もない。ただの田舎だ。怪訝そうに表情を歪めていたが、島にはすぐついてしまった。
 一度そこに足を置いてみる。だがやはり田舎だ。本当に何も無い。周りを見渡せば海ばかり。どこまでいっても海しか見えない。島の内部だって建物は少ないし樹ばかりが埋め尽くす。それを見たとたん、ため息しか出なかった。せっかくの夏休みをここで過ごすと思うと心が重くなる。もう帰りたい気持ちだった。
 そんな娘の身を案じてか、父は心配そうにアリアの表情を伺ってきた。
「アリア大丈夫か?船酔いでもしたのか?」
船の中から顔をだしそう聞いてきた。アリアは苦笑いすると大丈夫、と首を縦に振った。そうすると父は安心したような表情を見せる。しかしアリアは心の中で最悪な表情をしていた。本当にため息しかでない。だからと言って父につまらないなどは言えなかった。自分の気持ちが受け入れられるとは思わなかったからだ。
 しばらくして父は船に乗りどこかに去ってしまった。仕事関係だろう、沢山の書類を手に行ってしまったんだから。1人とり残された彼女はまた小さくため息をついた。辺りから虫の声、人の声は聞こえない。都会と違って道に人が溢れていない。人々の楽しそうな笑い声、喋り声が何一つ聞こえてこない。まるで自分1人だけがこの空間にいるような感覚だった。風さえもが孤独を誘ってくる。
 まるで私だけの世界みたい…
 心の中で呟くと静かに苦笑した。何でこんなとこで黄昏ているんだろう?苦笑しか漏れない。くだらない、最高にくだらない。
(どこに居たって独りのくせに…なにが自分だけの世界だよ)
 低く、そして馬鹿にしたような乾いた笑み。その笑みが向けられたのは自分。一番嫌いな自分。言いたいことも何も言えず、やりたい事も見つけられず、いつも硬く嘘の笑みがへばり付いた顔。そんな自分が大嫌いだった。一時は死んで欲しいくらい。居なくなればいいとも思ってしまったんだ。
 海岸沿いをゆっくり歩きながら彼女は辛そうな表情をした。履いていたサンダルの間に熱い砂があたる。すべったいのに暖かくて気持ちいい。よくみる海の砂浜と違ってゴミが一つも落ちていない。それが不思議でならなかった。こんなに綺麗な砂を見たことがない。しゃがんで砂を触ってみると、一つ一つが輝いている。薄汚れていない、くもりが一つもない。見ていて飽きない。不思議で思わず笑ってしまう。傍からみれば変な人だ。独りで砂浜に座りこんで笑っているんだから。でも、あたりに人は見えない。
 アリアは砂を手から優しく落とした。
「ほんと、誰もいない島」
 見渡す限り海、そして空。あとは森林があるくらいで本当に何にもない。都会と違いがあり過ぎて内部に入るのが怖いくらいだった。でも何でだろう?さっきまであれだけ暗かった自分がいつのまにか笑っている。風になびかせた黒い髪を撫でながら確認するように静かにまた微笑んだ。そして歩き出す、一歩一歩確かめながらゆっくりと。砂浜の優しい薫りと太陽の光が心地いい。海岸線は何も無いものの優しさが溢れ自然が目に入り込んだ。静かで落ち着いていて、それでいて楽しくなる。蝉の鳴き声もうるさく感じなかった。波の音と反響して不思議なハーモニーを生む。耳にいい響き、歩いていてこんなにも音を気にしたのは始めてかもしれない。歩くのが逆に楽しくなりそうだ。
 
 

2006/08/05(Sat)07:08:01 公開 / 橋本マド
■この作品の著作権は橋本マドさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
ある歌を聴いて海の話を書いてみたくなり、書いてみました。
誤字脱字、ご指摘ありましたらお願いします。
7月30日 少し書き直し
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