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『Shadow』 作者:元徳 / ファンタジー アクション
全角10477文字
容量20954 bytes
原稿用紙約31.9枚
前世紀に生きた人間達の『えらい残し物』…。それは病原体という人類史上最大の敵であった。その病原体が遥か何千年という時を経て2284年、日本で『謎のウイルス』へと進化を遂げ、進軍してきたのである。そこで斎條と片桐の二人の研究員が語るものとは…。そして、M.S感染者が求めるべき答えとは…。
 西暦2286年 7月21日 菌類研究科 斎條 真

 古い歴史に生きた人間達はどれだけ沢山の病原体を目にし、感染の防ぐ手当を見つけたものであろうか…。強いて言えば、人間と悪性ウイルスによる『果敢ない戦争』…。事の発端は今の昔、我々が生活する上で行っていかなければならない『自然の掟を破る』事にあったのだろう。だが今は違う。『自然の掟を破る』という言葉は二流者や外道者が率いらなければ、決して出る事のない言葉。今、まともに働いている人間であれば、そんな言葉は絶対に存在しえない。今はハイテク業で人間と自然の掟を上手くやり取りし、共存し合っている事が現状。これは昔の人間達が強く求めていたものでしょう。それにしても、昔の人間達は今の我々に『えらい残し物』を遣してくれたものだ…。あなた達が行った『自然破壊』や『石油問題』その他、多々ある環境問題…。今となっては有り得ないその多々ある問題こそ『えらい残し物』すなわち病原体が大きく育ち、深い眠りから目を覚ましたのです。勿論、善なる『天使』としてではなく、猛威なる『悪魔』としてですよ。決してあなた達にはご存知ないとは思いますが、今大変、大騒ぎになっている病原体があります。
 それは未だ不明の『謎のウイルス』…通称『M.S』Mystery Shadowはここ日本だけによる発生場所となっています。M.Sは免疫力が『強い』『弱い』人間でも無条件で感染ルートを獲得し、遠慮なく人の体へと侵入します。侵入したM.Sはまず、内部での宿所を確保する為、一時、人間の免疫組織を破壊し、心臓部分へと図々しく留まります。やがて、大脳の中枢部に好んで移動(何故脳を好むのかは不明)し、感染者は激しい頭痛に見舞われる事となり運悪ければ、いきなり死亡するケースがあると言われています。M.Sで死亡した人体を医療機関等が丹念に調べ上げた結果、頭痛が起こる原因はM.Sが複数分布する『謎の円盤』通称『M.D』Mystery Discにある事が分かりました。M.Sが人間へと感染する本来の目的…。それはM.Dから人間の身体へと発する『影異変』通称『S.A』Syadow Accidentというものであったのです。
『M.S』について解説した関東医療施設の菌類専門科である片桐氏が2085年、4月5日の時にこう述べていた。


 「今、日本全土では『謎のウイルス』の感染が多発しており、残念な事に数万人という感染者を出しています。この問題について、我々、医療機関等は立ち上がってはいますが『謎のウイルス』から分布されている『謎の円盤』の『影異変』というものに日々、震撼と混乱の渦を巻き起こしています。ですが私はこのような時こそ、冷静に対処しなくてはならないと思ったのです。そこで本日までに『謎の円盤』の正体、二つの特徴的な部分を突き止めました。この特徴的な部分、私は『段階的』なものとして考えています。
 まず最初に初段階となる一つ目は丁度、五日目が過ぎると『感染者の影が勝手に動く』事から始まります。これは最近の検査結果で分かった事ですが『勝手に動く』とは私の誤った考えで感染者の『意思』で動いているという事が分かりました。そして、今、私がこの段階や次の段階である感染者に一番注意を促しているのは『他者に影で攻撃的な行動をしない』という事です。ようするに、感染者の影は物理的な行いができる訳なのです。主に物を持つという事が可能です。次に影というのは本来、ある物体が光を浴びるとその物体と同じ形となって地面に反映され、初めて『影』となって現れるはずですが、感染者の影は例え、光を浴びなくても地面に反映されるものになっています。つまり、感染していない人の影が普段現れないような夜、天候(主に曇り)、光が遮断される一定の区域でも存在しているという事なのです。今、私が申し上げた『場所』ですが、感染者の影はちゃんと形となって現れています。そこで、二つ目の二段階目『影の新たな形成』初段階から一週間が過ぎた頃にこの傾向が見られ始めます。この時、影は実体化を実現し、感染者でない者やある者にも影が浮かび上がって見えてきます。二段階目の『影の新たな形成』は元より存在していた影が異種型の影へと変化を遂げる段階です。私がこれまでに調べ上げた結果、5種類の異種型に変化する事に分かりました。それらは、ある生き物の形に似ている事から、まず一つ目は『龍型』。この型は、五種類の中で一番少ないものと思われ、特殊な形である事が分かっています。次に『巨人型』『獣型』。この二つからは『龍型』には見られなかった『影の大きさ』に関わってきている事が判明されました。この二つからは小さいものから特大なものまでの影が見られています。次はこれといって特に特徴を表さない『鳥型』と最後に元の影からの『変異型』となる事が分かりました。正直、私はこの事実を知った時、生まれてこの方、驚きを知らなかった私にその機会を与えてくれたようです。影が五種類もの形に進化。これは、一体我々に何を意味しているのかは未だ不明ですが、ウイルスがこれ程までに進化するというのは、今までに発生した世界のウイルスと比較してみると『初めてのケース』となります。ので私的にこの『謎のウイルス』もっと念入りな調査を行っていきたいところですが、まず、ここで第一に気付いておかなければならない事は『ウイルスの発生源』となる場所です。これ以上、問題化するのは断じてなりません。昔の状態に戻ったら、それこそ今の日本は崩壊してしまう危機に面する事となります。感染者を増やしてはならない事が先決なので、次回はそこから調査をしていきたいと思っています」


 ここで、片桐氏のM.Sの解説は終わるわけですが、彼の言う『二つの特徴的な部分』というのは、今や医療機関等が調査しているM.Sの未知数に比べれば、ほんの数ミリの情報源にしか過ぎていません。
 これが前世紀の人間達が残した『えらい残し物』の新種型です。一体彼らは私達の影を何故、変化させるのかなど知るよしもありません…。ですが、いきなり感染者が死亡するケースは昔、起こっていた感染病と同じ事です。未だ、M.Sの対処の仕方など手足が出ない状態ですが、必ず正体を突き止めてみせましょう…。ここまでウイルスを発展させた昔の人間達を我々は非常に恨んでいます。しかし、今は見習うべきです。
 ウイルスとの『果敢ない戦争』で勝利を勝ち取ってきた人々を…。



−序章−



 西暦2286年 3月29日 明石警部補(25)

『他者に影で攻撃的な行動をしない』という規律など明らかに幻想にしか過ぎませんよっ! あの時、私達警部等が厳格な規律を医療機関等に要求しておけば、こんな惨事にはならなかったであろうに…。
惨事とは今、犯罪者達がゆり花に近ずき自らM.S感染状態となり、影を使っては次々と犯罪を繰り返している事にあります。M.S感染者が数万人と増え続ける中、新たに続々と多数の犯罪グループが結成されてゆき、一番代表的なグループが岳ヶ浜付近で猛威を振う犯罪グループ『魔のイレズミ』です。彼らはいずれも12人程度のグループで結成されており、影で攻撃するテクニックは底を知れないものがあります。以前調査した結果、彼らは皆『影の新たな結成』を成し遂げており、多数『龍の形』をしていました。今、我等が彼らの偵察、奇襲に恐れをなして撤収するのも無理はないでしょう。だからといって、彼ら犯罪グループ等を野放しにするなどもっての外です!
警察本部、自衛隊等も総勢を以ってこの惨事に尽力するつもりでいます。ですがやはり、影を操れる善なるM.S感染者も必要となってきます。 
一緒に彼らを撲滅していきましょう!



第一話   −忠告−



 西暦2286年 4月24日 早乙女 隆介(16)


 引越し後の初夜…。
 俺は昨日、岳ヶ浜高校の通学のため実家を出た。学校から自宅まで自転車で走って約15分、閑静な住宅街の中に俺が新しく住むアパートがある。2.DKの小さな部屋だが俺はそれで満足していた。元々、掃除が苦手で部屋はすぐ片付けられるくらいの広さで十分だと考えていた。
引越し労働でビッショリ濡れたTシャツを脱ぎ捨て、新しい郵便受けに入っていた夕刊を眺め、額の汗を腕で拭きながら溜め息をついた。
何だか引越し初夜だというのに、あまりの部屋の静けさに押しつぶされそうだった…。
畳6畳の大半を占めるベッドの上に勢いよく倒れこむと、枕もとに置いてあったリモコンでコンポの電源をつけ、静けさを紛らわそうと思う俺。スピーカーからは、外人ヴォーカリスト『レーム・ウァーン』の熱狂的な歌が始まった。
 部屋の空間の静けさを一旦は紛らわせるが、俺の中の静けさは紛らわせてはいなかった…。
 「なんだろう…この空虚な気持ちは…」
 昨年の夏に母さんが亡くなった…。死因はM.S感染の末期症状…。
胸が苦しいと急に倒れ、救急病院に運ばれたが、病院に着いた時にはもう、帰らぬ人となっていた…。すでに死んでいる母さんに無駄な診察を受けさせる医師…。
僕と父さんは医師に呼ばれた…。あの時の事はあまり覚えていない、というより思い出したくないだけだ。ドラマで聞くありきたりの台詞を医師は簡潔に告げた…。
 「今から手術治療を施しても…、残念ですが…」
 父さんは拳を握り締め、唇を噛み締めた。その横で俺は泣いていた…。
たしか、あの日は母の誕生日だった…。
父さんと俺とで母さんの大好きなプレゼントを贈ってあげようと思っていた…。
 『ゆり花の着物』である。
そのプレゼントは棺桶に入る母さんに着せられ、やがて火葬された…。
 幻覚だったかもしれない。俺の瞳にはいつも優しく、温かかった母さんの姿が映っていた。
 「俺を見ながら微笑むなよ…、母さん」
 母さんは俺が小さい頃からいつも俺におせっかいばかりかけていた。だが、今はそんな母さんを心底愛しいと思っている。
俺は泣き崩れた…。
 そんな俺を見ていた父さんは強く抱きしめてくれた…。
 「お前はまだ16歳だからな…、母さん天国で謝ってるよ」
 父さんの優しい胸に抱かれ、俺は更に泣くことを強めた…。
 「だから、そんな母さんを許してやってくれ…」
 母さんは俺に手を振り、幻想にも消えていった…。父さんも俺もこんな事になるなんて夢にも思っていなかっただろう…。
俺は昔3人で住んでいた頃の家を思い出す。
白色の厚壁に若葉色の屋根…。
ふふふ…、そうだった。あの頃は捨て子犬の『ライハ』もいたな…。4人家族だ。
そのライハが駆けずり回っていたあの小さな庭…。
そして、昔の事を思い出すと必ずあの光景を思い浮かべる。小さな庭に僕が生れた時、植えられた一厘のゆり花を…。
春には可憐に花を咲かせ、4人家族の心を満たしてくれたあのゆり花…。今もあの花はあの場所で皆がいた頃のように花を咲かしているのだろうか。母さんが他界すると父さんは、あの家を売り払い、近くのマンションに移り住んだ。
 父は強張った笑顔で言う。
 「あの家は、私一人で住むには少し広すぎるんだ」
 たて前はそう言っていたが、俺にとっては母さんとの思い出が詰まった大切な家…。今はただ、辛く悲しいものになってしまった事に、耐えられないのだろうと父さんは感じているのだと分かった。いつのまにかCDの曲が全て終わっている事に気がつく。
俺はベッドから起き上がり、シャワーを浴びに行った。風呂場は至って新しく、いつ見ても光って見えるようだった。俺はそのままシャワーを浴びた。シャワーの熱い滴が顔にかかり、足元に滴り落ちる。頭からシャワーを浴び、しばし目を瞑った。
(あのゆり花を一目でいいから見てみたい…)
そのまま目を瞑ったまま、色鮮やかな花をつけ、俺と丁度同い年になったあのゆり花を思い浮かべる。しばらくすると俺の心は、母さんの暖かい温もりの体で抱きしめられた気持ちに満たされていた。シャワーの蛇口を閉め、タオルで体を拭いている最中、ある考えを思いついた。
(そうだ、今度、あのゆり花を見に行こう)
俺は冷蔵庫を開け、冷たく冷えた麦茶のボトルに手をつけると、自分の考えに笑みを浮かべた。すると突然、玄関の扉からドンドンという叩く音が聞こえた。俺はびっくりして、飲んでいた麦茶を咽込んだ。再度、またドンドンと聞こえる。時計を見ると丁度、0時を回ったところだ。こんな時間に誰が何の用だろうといぶかしげになる。俺は玄関扉に付いているのぞき穴から誰がいるのだろうと思いながら、調べるがのぞき穴からは暗くなった世界しか写っていない。俺は仕方なく扉を開き、外の様子を見る。
誰もいない…。
どっかの小動物が扉を蹴ったのだろうと一人で解釈し、俺は扉を閉じた。
(今日はもう寝よう…、明日学校あるし…)
俺は洗面所で歯を磨き、ドライヤーで髪を乾かすと電気を消し、部屋に戻ろうと廊下に出る。そのとき、初めて部屋に人がいることに気が付いた。部屋の明かりは消えているため、窓から入り込む月明かりで、人影がゆらゆらと動いていることが分かる。俺は小さい頃に母さんから言われて、嫌々入った空手を今では真剣に続けているため、自分の身を守るためなら、例え殴り合いとなっても勝つ自信があった。間合いを十分にとり、構えながら部屋に入った…。
 「誰だ! ここに何のようだ! 殴り合う気なら相手になってやる!」
 俺は怒鳴り声を上げると同時に部屋の明かりをつける。そこにいたのは白と赤の着物を着込んだ、20代位の女性だった。夜の帳のような黒い髪がロングヘアーのようになっている。端麗な顔の持ち主で彼女を一目見て何か懐かしいものを感じ取った。
彼女は俺を見て微笑むと衣文掛けに掛けてある岳ヶ浜高校の制服のポケットから俺の生徒手帳を取り出す。
 「岳ヶ浜高校かぁ…、隆介は大きくなったんだね…」
 俺はとりあえず、空手の構えを崩し、落ち着いた。
 「君は誰? こんな夜更けに俺に何の用?」
 俺の部屋を見慣れたような視線で見回す彼女はやがて、座布団の上に座り机の上にあった『レーム・ウァーン』のCDラベルの文字を暗読し始めた。
 「私は皐。あなたの家の住人であなたに呼ばれたからここへ来たの」
 彼女が泥棒でない事に安心した俺は、ベッドに座り込み聞き返す。
 「人違いかもな。俺には姉妹などいないし、母以外の女性と一緒に暮らした覚えなどないし…」
 皐は俺の返答に笑みを浮かべてこう言った。
 「知ってるわ。隆介は突手だもんね。もしかして、まだ彼女いないの?」
 彼女が今言った言葉に俺は恥じながらに反応し、顔が赤面している事に気付いた。そして、場を紛らわすかのようにちょっとした強がりを俺は言い張った。
 「なっ、いるよ! いるに決まってんだろう!!」
 皐はふ〜んと分かったような表情をして、無理に嘘をついた俺に気付き、俺の頬をつねった。
 「うそつき〜! 昔から隆介は嘘つくと鼻を掻く癖があるの! 強がり言ってもすぐ分かるんだから!」
 俺は自分でも自覚していない癖を他人から言われて、情けながらも狼狽した。
 「いい加減にしろ!! キミがした事は不法侵入だぞ! 一体俺に何の用があってここへ来た!?」
 俺の頬をつねり続けていた皐の手腕を俺は強引にも振りほどき、さっきから俺が思っていた事を簡潔に言った。
 「もう! さっきから言ってるでしょ! あなたに呼ばれたからここに来たって…」
 「だから、キミなんて呼んでないよ!!」
 皐は今の返答を聞くと、忙しそうにしながら俺の制服からなにまで片付け始める。
 「ちょっと、何してんのさ!?」
 皐は怒ったような口調で言い返す。
 「隆介の分からず屋な性格は、昔と今でも変わらないね!」
 俺はとうとう我慢の限界に達してしまった。
 「分からず屋はあんたの方だろっ! こんな夜更けに…ふざけやがって! とにかく自分の家に帰れ! ここは俺の部屋で俺の家なんだから!!」
 こんな夜中に近所迷惑にもなるほどの怒鳴り声を俺は張り上げた。すると、部屋は水を打つような静けさになる。その静けさはベッドに寝転がっていたあの空虚な気持ちみたいだった。皐はうつむきながら小さな声で俺に囁くように話し始めた。
 「私の部屋で私の家だった場所は、3年前に小さなほころびができて、それから1年後に大きな穴がポッカリと開いてしまったの…」
急に悲しげな表情で悲しい過去を話し出した皐を見た俺は、自分が先ほど言った言葉に恥じと情けを感じ、今までとは少し違った強がりで言った。
 「だ、だから…、な…なんだよ」
 微かの月光に照らされている皐は、窓の先に見える街の風景を見ながら言う。
 「今はもうあのひだまりの中が、ただ眩しくて温かくて…。 今はそんな日常を懐かしく思い浮かべるだけ…」
 皐はとっさに俺の表情を覗う。そして、皐は俺に近づき、今までの自分の行動を謝罪した。
 「ごめんね…、いきなり来たりして。 今はここが隆介の居場所であり、家なんだもんね」
 「別にいいよ…。 今更、謝らなくても…」
すると、急に皐は笑みを浮かべながらこう言った。
 「でも、将来はここで所帯持ったりするんでしょ? いつかな〜…」 
 「な!? …こいつっ!」
 「ふふっ!! 分からず屋さんが怒ったぁっ!!」
 不思議と皐が謝った後は部屋の中が和んでいた。何時の間にか、ふざけ合いになっていた俺と皐…。俺と皐の距離はもう10センチもないところで止まっていた…。すると、皐は両手を俺の頬に置いた。
 「本当はね、あなたの泣き声が聞えて心配だったから来たんだ」
その言葉を聞いた俺は何かを思い出そうとした。だが、頭の中に急にもやがかかったように思い出せないでいた。
 「けど安心した…。 隆介は強くなったね、泣き虫だったあの頃と全然違うよ」
 二人の距離を保ったまま、皐は微笑むと自分の髪に刺さっていた簪を手渡した。
 「受け取って」
 俺の手の平には、白銀のきらめく装飾が施されている簪が冷たい感触を伝えた。
 「受け取れないよ、こんな高価なもの! 大体俺は君の事を…」
 皐は直も言葉でつむごうとする俺の口へ……。
 口づけをした…。ファーストキスとなった俺のこの瞬間…。
 全ての時が止まっていたような気がした…。
 「…これで私の心も整理がついたみたい」
部屋の明かりが突然消える…。そんな中、月明かりが照らす部屋の中で皐の姿だけが霞んでゆく…。皐からも霞ゆく俺の姿を見ながらこう言った。
 「隆介…。 ゆり花には近づかないで…。 あなたの大切なあのゆり花には危…」
 言葉が急に途切れた。皐は消えてしまった。
 (ゆり花? 危?)
最後は皐の謎の忠告だけが疑問として残っていた…。辺りは暗くなっていて今、起きた事が現実だったのかさえ分からなくなりそうだった。
 でも手には、皐の髪に刺していた簪が光を携えて、月の光をはかなげに反射していた…。





 西暦2286年 4月25日 東条 隼人(16)



 透き通る青い空、美しい音色を奏でる小鳥達、それでいて辺りはしーんと静か…。
ロマンチックな句をいつもの如く語る俺、東条 隼人は岳ヶ浜高校2年生である。何時の日か、トラブルメーカーとして名を馳せた俺は、辺りの奴から俺に恐れをなして逃げて行き、勇敢に立ち向かう奴は俺から痛い目に会い逃げて行く…これがいつものパターンであり俺の日課でもある。だからって、成績が良くないって関係無いからな!
 とにもかくにも今日はすがすがしい朝だ!
俺はいつものようにコーヒーカップへと美しく手を伸ばす…が俺の弟・和人(8)がうっとうしくも邪魔をしてくる。
 「これで何十回目だ? 和人…。 いい加減俺の朝に邪魔するな。 いいな?」
 「ひょわ? 何の事かのぉ…、耳が遠くて聞えんわい!」
 和人は急に俺から逃げ出した。まぁ、懸命な判断だな。とうとう、俺の怒りに触れてしまいやがった。ズンズンと足音を立てながら生意気な弟の方へと俺が近ずいていく…。だが、急に和人の経緯を見失った…。
 「隠れたか…」
 これまた、懸命な判断である。だが今更、神経を研ぎ澄まされた俺から逃げる事など絶対不可能…。とりあえず、2階にある大きな戸棚の上を調べた………。
 いない…。
次はクローゼットの中を隅から隅まで調べた……。
 いない…。
次はベッドの下を調べた…。
 いない…。
俺は小学生の弟が隠れそうな所を次々と調べた挙句。
いない…。
そこで俺はようやく気付く。
和人も隠れる神経というものが研ぎ澄まされているという事実を…。
 探すのをあきらめ、自分の部屋から丁度出た矢先、鬼ばばが目覚めた。こいつは俺の祖母であるが、トラブルメーカーの俺より遥かに勝っている。強いて言うならば、俺の弱点はこの鬼ばばだけだ…。
 「寝坊したね…、隼人?」
 即座に俺は目標物から危険をサーチする。鬼ばばの怒りが徐々にヒートアップしてゆく…。さ あ…、次は俺が逃げる番だ!
 「これには事情があってさぁ…」
 「問答無用っ! 覚悟!!」
荒々しく2階の階段から俺と鬼ばばは降りていった。すると、影で和人が笑っているではないか。なんと浅はかな俺…。
 「お母さん、ご飯」
 「はいはい、今用意するからね」
 和人と母は何事も無かったかのように階段を降りていった。



 朝の騒動は無事終結し、朝飯もちゃんと食えた。すがすがしい朝なんて俺には一生巡り会えないのかもな…と無難にも思いながらも登校の時間が来たようだ。
 「行ってくる!」
 「行ってらっしゃい、隼人!」
 岳ヶ浜高校まで徒歩20分。さほど遠くない距離に俺の通う学校がある。無遅刻週間だった今日、校門の前には竹刀を持った鬼教師・神崎がいた。神崎は俺に視点を向け話し掛けてきた。
 「よう! トラブルメーカー! 最近、遅刻しないなぁ! 何時まで続くか見ものだな、こりゃ」
受け答えとして俺は返事をしない。何故ならこいつは、ちょっとやそっとの無視ならキレないからだ。心から言わせてもらえば、いい気に乗るなって感じだな。
学校の中はさほど綺麗とは言えないが、地震がきても崩れない程の耐震度は獲得している。何せ、岳ヶ浜高校は古い歴史を経てこの時代まで乗り越えてきた学校だからな。
4階の一番左側に2−4、俺がいるクラスがある。
 そして今日、4月25日の学校生活が始まる。
 「おーっす! 隼人! なんだ? いつもより遅いじゃねーか!」
 「鬼ば…否、ちょっとトイレで…な」
すると俺が席に着こうとする矢先、今でも俺に対抗する不良(勇敢に立ち向かう奴)・篠田が立っていた。こいつは先日、俺によってぼこぼこにされたが、まだ懲りずに挑戦状を果たしてくるようだ。
 「なんだよ、おい! トイレかよ! 篠田くん笑っちゃうよぉ!! おほほほほっ!」
 「そうか…、そんなに可笑しいか篠田…。じゃあ、もう笑えなくしてあげてもいいよな?」
急に篠田は戦いの構えに入った。すると女子生徒や男子生徒のざわめき声で教室全体が盛り上がる。まるで格闘技の試合みたいに。だが、俺は思った。(この雰囲気…篠田とじゃ、勿体ねぇな)とな。その構え方といったら毎度、笑いを誘うようである。まず、両腕はぶらぶらとメトロノームのように左右に振らせている。何故かは知らん…。考えたくもない。そして、どういうわけか、脚の構え方はバラバラ…。
とりあえず、この前は大股だろう…で一昨日が膝をくっ付かせる構え方。先日が蟹股でちょこちょこと動き回る有様。
 まったく…猿を思い出すよ。こいつに哀れを感じた俺は言う…。
 「やめろよ…これ以上は…。 これ以上お前を殴ったら本当に逝きかねねぇよ…」
 「な…なめるなよ! 東条! 俺はキックボク…」
 篠田の言い口に朝のショートホームルームのチャイムが割って入った。
 「ちっ! 覚えてやがれっ!」
篠田は席へと戻っていく。
懸命な判断だ。
扉から入ってきたのは、どうやら転校生だったらしい。後から先生が入ってきた。しどろもどろしている転校生は、皆の顔に直視できていないまま朝のホームルームが始まった…。
 「えぇと…それじゃあ君、自己紹介してもらえるかな?」
 「はい…私の名前は早乙女 隆介で…す。 皆さん、一年間よろ…しくお願い…します」
 個人的にはどうも友達には、なれそうにねぇな。もう少しはっきりと言えるものかと思ったが 実際、いざこうしろと言われてみれば、できなくもなるわな…。
 「じゃあ、隆介君…、丁度、隼人の隣が空いているからそこへ座りなさい」
 「はい!」
 おいおい、元気な返事をするのはいいが、なぜよりにもよって俺の側に…。
勘弁してくれよ…。


その時、隆介からの視点から隼人の後ろに信じられない者達を見た…。
それは黒い騎士と吸血鬼の二人の姿であった。皐の時と同じ幻想である。隆介は恐れ慄き、後ろへ飛び上がった。
 「おいっ! 隼人!! 早速、喧嘩売っちまたのかぁっ!」
 「違うって…、もう勘弁してくれよっ!!」
 「おい、隆介君、気を付けた方がいいぜ! こいつ校内一のトラブルメーカーだから…」
 隆介は、他の人の言葉など耳に受け入れられなかった…。それは目の前の恐怖と巡り会ってしまっていたからである…。背丈の低い吸血鬼が隆介に言う。
 −恐レ慄クナ、人間ヨ−
 続いて、屈強な黒の甲冑をまとった騎士が言う。
 −キサマ二忠告スル、ユリ花ニハ近ヅクナ−
 (何故? 何故近づいてはいけないんだ!?)
 すると、二人は消え行き様に言った…。
 −ユリ花ニハ、オ前等、選バレタ者タチヲ蝕ンデイク毒素ガアル−
 (選ばれた者達?)
 二人はそう言うと消えていった…。
幻想を見たかのような後に隆介は何故か隼人の顔をボーッと見つめていた。すると隼人が隆介の 目を覚ましてくれたようだ…。
 「おいっ! 隆介君! 大丈夫か?」
 「え?…あ、うん。 ありがとう」
 腰が抜けた状態の隆介を隼人は手を貸し、席に着かせた。
 だが、二人にはまだ知るよしもなかった…。
 これから手を貸し合い『何か』と戦っていく事を…。
2006/08/01(Tue)04:57:11 公開 / 元徳
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■作者からのメッセージ
説明的な部分だけではなく、これから少しずつ、人物物語の方へと触れてみようと思います。
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