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『霧と男と自転車と』 作者:RRs / ショート*2 童話
全角747.5文字
容量1495 bytes
原稿用紙約2.75枚
少し昔の話。それは霧がまだ人間と話す事ができた頃の話

ある、険峻な山に一人の男がいた。
男は歯を食いしばり、そびえ立つ坂を自転車でよじ登っている。
したたる汗が夏の陽光で蒸発し、薄い霧が男の体からたち込めていた。
霧は尋ねた。
「何故お前はそんなに苦しい思い、嫌な思いをしてまで坂を登っているんだい?」
霧の問いに、男は唸りながら答えた。
「山のてっぺんに行きたいからだよ」
霧はさらにたずねた。
「山の上に何かがあるのかい?」
「……何もないさ」
霧は訝しげな顔をする。
「では何故?」
ふぅと大きく息を吐く男。
「それが人生ってものさ。高い所を目指しているんだ」
「……車を使えばいいだろう」
「他人の力を借りてもうれしくはない」
「ならば歩いて行けばいい」
「それじゃあ意味がない。苦労して登った分、後に楽しい時間が待っているんだよ。」
「……歩いては楽しいものが待っていない?」
「ああ」
男は笑いながら言った。
霧は男の言っている事がいまいち理解できなかった。
霧が、その言葉の意味を考えている間も男は必死に登り続ける。
ゆっくりゆっくりペダルが回る。
そんな男を見て霧は思った。
(何か、男の為にできる事はないだろうか……)
霧には、男の背を押してやることはできなかったし、男もそんな事はして貰いたくないだろう。
霧はふと、延々と続く道の先を眺める。
山のてっぺんはまだまだ見えない。
一体どこまで続くのであろうか?
霧はふと、男の為に、自分でもできる事を思いついた。
(頑張れ。頑張れ!)
心の中で、男に最後のエールを贈る。
そして霧は、果てなく続く道に男が滅入ってしまわぬよう、濃い霧になった。


夜。男がダウンヒル中に転倒、死亡したという悲報が彼の両親に届いた。
それからだ。霧が人間と会話をしなくなったのは。
2006/07/02(Sun)23:53:23 公開 / RRs
■この作品の著作権はRRsさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初投稿です。よろしくお願いします。
ショートショートです。
オチが弱いというよりわかりにくいというか…。
小説みたいなの書くのは初めてなのでこの長さでも疲れますね…。
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