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『粉雪』 作者:時貞 / ショート*2 ショート*2
全角4231文字
容量8462 bytes
原稿用紙約12.75枚
 僕と美由紀が付き合い始めたのは、ひらひらと粉雪の舞う寒い冬の夜のことだった――。

 あの頃の僕は、本当にまだ子供だったのだろう。美由紀という《恋人》が居るということだけですっかり慢心し、思い上がっていた。
 美由紀は決して美人とは言えないが、笑顔がとても可愛らしく、いつも優しかった。僕に対してはもちろん、他の誰に対しても……。あの頃の僕は、すっかり調子に乗っていたのだろう。美由紀が傍に居ることを、すっかり当たり前のことのように思っていた。僕がどんなことをしようとも、美由紀はずっと傍に居てくれるものだと思っていた。当然のように。
 悪友たちとの遊びに費やす時間が増えていった僕は、それに反比例して美由紀と会う時間が少なくなっていった。すれ違う日々が続き、やがてある日、美由紀から突然別れ話を切り出されたのである。
 青天の霹靂だった。
 高鳴る動悸を必死で押さえつつも、僕はその別れ話を受け入れた。混乱した頭で、態度だけはあくまで平静を装って。バカな男の見栄だったのだろう。「別れたくない」なんて言葉は口に出せなかった。
 胸に小さな穴があいたような虚脱感を覚えつつも、しばらくのあいだはまだ余裕があった。たとえ美由紀にふられたからといって、それで僕の恋愛が終わったわけではないと思っていた。美由紀よりもっと素敵な女の子が現われるだろう。新しい彼女なんてすぐに出来るだろう。そう思っていたのだ。
 思い上がりもいいところだった。
 新しい素敵な女の子との出会いなど、そうそうあるものでは無かった。悪友の紹介で知り合った女の子に対しても、友達以上の感情は持てなかった。そうした日々を送るうち、僕の胸にあいていた小さな穴は、次第にその大きさを増していった。それまで必死で押し隠していた気持ちが溢れ出し、感情の波に打ちのめされる。嫌というほど思い知らされる。
 僕には、美由紀しか居なかったのだ――と。

「お先に失礼します!」
「おう、お疲れさん」
 いつものように居酒屋でのバイトを終えると、疲れた足を引き摺るようにしながら家路についた。途中でコンビニに立ち寄り、夜食用のおにぎりとサンドイッチ、それに缶ビールを二本買う。じめじめと蒸し暑くなってきたこの時期には珍しく、涼しく乾いた風が爽やかな夜であった。
 ふと見上げると、藍色の空にはたくさんの星が瞬いている。こうして星を見上げるのなんて実に久しぶりだった。美由紀と一緒だった日々――彼女は星空を二人で見上げるこうした時間が好きだった。
 僕の足は、自然に街の中心にある市民公園へと向いてしまう。美由紀とよく散歩を楽しんだ公園だった。このところ、気付けばその公園をあてもなくふらつくことが多かった。心のどこかで、その公園に行けばいつかは美由紀に会えるかもしれない――そんな都合の良い考えがあったのかもしれない。
 公園に着いた僕は、ゆっくりと周りを見渡した後で木製のベンチに腰をおろした。静かな夜である。たまにたむろしている高校生たちの姿も、今夜は見えない。
 コンビニのビニール袋から缶ビールを取り出し、プルトップを抉じ開けた途端、背後から聞き慣れた声とともに大きな手が僕の右肩に掛かった。
「よぉ、シンジ。今夜も来てたんかい」
「ああ、ヒデさん」
 振り返ると、長い蓬髪の下から優しい笑顔を覗かせているヒデさんの姿があった。
ヒデさんは、いわゆるホームレスである。夜はこの公園で寝起きをしている。ふとしたことから話し掛けられ、いつの間にか親しくなっていた。年齢は定かではないが、僕より十歳以上は年上であろう。どんな環境で育ったのか、どうしてホームレスになったのか、細かいことは一切聞いたことが無い。逆に僕の話しは、どんな些細なことでも聞いてくれる人であった。僕はヒデさんの前では包み隠さず、何でも話すことが出来た。そのヒデさんにもまだ話していないことといったら、美由紀との別れ、そして僕の美由紀に対するいまだ断ち切れない想い――それだけだった。
「ちょうどニ本買ってきたんで、一緒に飲みませんか?」
「おっ、わるいねえ」
 僕はコンビニのビニール袋からもう一本缶ビールを取り出すと、ヒデさんに手渡した。
「じゃあ、遠慮なくご馳走になるか」
 ごくごくと喉を鳴らしながら、美味そうにビールを飲み干すヒデさん。僕も一息にビールを空けると、缶を握りつぶした。
 それからしばらく、ヒデさんと他愛ない会話で盛り上がった。ヒデさんは僕なんかよりもずっと物知りで、頭も良かった。会話も上手く、人の話しもじっくりと聞いてくれ、理解するのも早かった。なんでホームレス生活なんかをしているのか、不思議と感じてしまうことが多い。
 星についての話しに一区切りつき、二人ともしばらく無言で空を眺めていたとき、ヒデさんがふいに切り出してきた。
「なぁ、シンジ。そろそろ話してくれてもいいんじゃないか?」
「――え?」
「随分長いあいだ想い悩んでいることがある……、そう顔に書いてあるぜ」
「…………」
 ヒデさんはゆっくりとベンチから立ち上がった。
「まっ、俺で役に立てるかどうかはわかんねえけどさ」
「……ヒデさん」
 ヒデさんの優しい眼差しに誘われるように、僕は美由紀とのことを語り始めた。

「ふーん、なるほど。で、いまでもその子のことが忘れられないってか」
「……ええ」
 僕の双眸には、知らず知らず涙が溜まっていた。ヒデさんは真面目な表情でしきりに頷いている。
「その、別れるとき、彼女は最後に何て言ったんだい? 思い出すのは辛いだろうけど」
「……ええ。《今のシンジには私は邪魔みたいね》って、そう言って去っていきました」
「ふむ」
 ヒデさんは僕に一歩近づくと、にっこりと笑いながら大きな手で僕の背中を叩いた。
「はっはっは、そんなこと、うじうじ考えてるもんじゃねえだろうが。まだ好きなんだったら、もう一度ダメモトでトライしてみろよ! それっきり話しもしてねえんだろう?」
「は、はい。……でも」
「でももへったくれもあるかってえの。上手くいきゃあ上等だし、もし駄目だったとしたって今よりゃずっとスッキリするだろうが。お前、男だろ?」
「は、はぁ」
「もし駄目だったら、俺が朝までヤケ酒に付き合ってやっから」
「ヒデさん……」
 僕は決心した。
 ヒデさんに背中を押してもらって、今までうじうじ想い悩んでいた自分がバカらしく感じられてきた。ヒデさんが大きな勇気をくれたのだ。どんな結果が出たっていい。ハッキリと自分の気持ちを伝えることさえ出来れば。そして、昔の自分のことを謝ることさえ出来れば。
 僕は携帯電話を取り出すと、メモリから美由紀の携帯番号を呼び出した。ヒデさんは気を使ってか、ベンチから離れたところをふらふらと歩いている。手のひらにじっとりと浮かんできた汗をジーパンで拭ってから、思い切って通話ボタンを押した。
 いつも以上に、携帯電話のコール音が鼓膜に大きく響く。それに合わせて、僕の胸の鼓動も激しく高鳴っていた。
 七コール目。もう切ろうかと諦めかけたときだった。
「もしもし……、シンジ……?」
 懐かしい声。
 その声を聞いただけで鼻の奥がツーンとなり、思わず涙声になりそうだった。全身が一気に熱くなる。僕は完全に頭の中が真っ白になってしまっていた。一方的に伝えたいことを話しきると、美由紀の反応も待たずに最後にこう結んだ。
「それじゃあ明日の夜八時、この市民公園のジャングルジムのところで待ってるから!」
 
 約束の時間、僕は少し早めに市民公園に到着すると、ジャングルジムの前でじっと立ち尽くしていた。果たして美由紀は来てくれるだろうか? 期待と不安とが、胸の中で何度も交錯する。
 気持ちを落ち着けるために煙草に火を点けた。紫煙を一口吸い込むと、少しだけ気分が柔らかくなったような気がした。
 そのとき、遠くに女性らしき人影が見えた。その人影はどうやらこちらに向かって歩いてくる。慌てて煙草を靴底に押し付けて揉み消すと、吸殻をシャツの胸ポケットに放り込んだ。鼓動が高鳴り、まるで心臓が口から飛び出してきそうな気がする。
 その人影が面前二十メートルほどまで近づいた途端、僕の全身から力が抜けた。美由紀じゃない。まったくの別人だったのだ。思わず腕時計に目を落とす。ちょうど八時を五分ほど過ぎたところだった。
 その女性は僕に一瞥くれると、足早に歩き去っていった。前方にはもはや、誰の姿も見当たらない。
「はっはっは、やっぱり駄目だったかぁ……。明日の夜はヒデさんとヤケ酒かな」
 自嘲気味にそう呟いたのと同時に、ふいに後から背中を指でつつかれた。驚いて振り返る。
「シンジ……?」
 自分の目が一瞬信じられなかった。
「み、美由紀……」
 昔と何も変わっていない、美由紀のはにかんだような笑顔がそこにあった。
「――み、美由紀! ごめん! ぼ、僕はっ……、僕はっ……、美由紀っ!」
 公園に来る前に、何度も頭の中でシュミレーションしてきた言葉が思うように出てこない。そんな僕を見て美由紀はくすくすと笑いながら、
「シンジ、私に何が言いたいの?」
 僕の目を覗き込むように、そう問い掛けてきた。
「ぼ、僕には……、僕にはやっぱり美由紀が必要なんだっ!」
 自分でも驚くほどの大声でそう言っていた。美由紀も少し驚いたように目を丸くしていたが、やがて小さく溜息つくと、
「……随分待たせるんだから」
 そう言ってにっこりと満面の笑みを見せた。

 しばらく二人で寄り添って、その場にじっと立ち尽くしていた。
 こうしていると、昔のシーンが目の前によみがえってくる。
 二人で良く散歩を楽しんだ公園。そう言えば、あの粉雪の舞い散る寒い夜、僕が美由紀に告白したあの夜も場所はここだった。季節こそ違うが、この公園で僕は美由紀に二回告白したことになる。
 そのとき――。
「あっ!」
 美由紀が驚いたような声をあげた。
「どうしたの? ――あっ!」
 目の前の光景を見て、思わず僕も驚きの声をあげてしまった。

 ――ひらひらと、風に揺られて白いものが舞い落ちてくる。

「あの夜と、同じ……」
「まさか、こんな季節はずれな……粉雪……?」
 二人そろって頭上を見上げる。
 するとそこには、ジャングルジムの上でしきりに蓬髪を掻きむしっているヒデさんの姿があった。



        ――了――
2006/04/27(Thu)18:54:18 公開 / 時貞
■この作品の著作権は時貞さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
お久しぶりでございます。といいますか、はじめまして。時貞と申します。お読みくださりまして、誠にありがとうございました。
しばらく読むほうも書くほうも小説から離れておりましたので、かなり緊張の心持ちで投稿させていただきます(汗)
いままで投稿してきたショートx2では、いつも書きあがってから最後にタイトルを付けていたのですが、今回はあの名曲のタイトルがどうしても使いたかったので、タイトルが先にあってそれをもとにストーリーを作っていきました。
何でも結構ですので、お言葉をいただけると幸いです。

宣伝ですが(汗)以前連載していた《ドッペルゲンガー密室殺人》の方も過去ログ内でひっそりと更新しております(笑)
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