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『降りしきるこの雪のように』 作者:月夜野 / 恋愛小説 ショート*2
全角1559文字
容量3118 bytes
原稿用紙約4.55枚
 婚約をしている女性と男子大学生の、儚く消える雪のような一瞬の心の交流を描く。
 しんしんと、あたり一面を静かに埋め尽くす白い雪。
 雪? また夜中にこっそり降ったのか?
 人々や街の建物を全て覆い尽くす圧倒的な存在感なのに、その登場はいつも静かだ。アパートの駐車場や近所の空き地、近くを流れる川の土手、大学までの道のりなど、全てがいつもとは違う色に染まる。いつの間にか、だ。
 僕は部屋を出ると、アルバイト先の学習塾までお気に入りの黒いブーツで行く。ザッ、ザッと雪を踏みしめる音がやけに大きくて、意外なほどリアルに僕の耳に届いた。
 そういえば、学習塾でアルバイトをすることが決まって数日後、初めての出勤日のときもこんな朝から雪が降り続く日だった。とても早く着いてしまい、僕はまだ開いていない教室の前の軒先でずっと降りしきる雪を見ていた。
 その時、教室長のあなたが駆けて来た。
「遅れてごめんなさい。少し待ちましたか?」
 あなたは白い頬を少し赤らめて言った。
 僕はいいえ、雪を見ていましたとだけ答えたのかな。確かそのような不器用な返事しかできなかったと思う。
「雪を……見ていたのですか?」
「降り積もった雪にまわりの様々な音が吸収されて、街が静かになるから。だから、雪は嫌いではないんです」
 僕は初めて会った人になにを言っているのだろうと後悔した。しかしあなたは頷いて、少しの間僕と一緒に降りしきる雪を眺めていた。

 それから、僕はずっとあなたの下で働いていた。
 冬が終わり、花粉症が厳しい春の日の午後も、冷房が利かなくてとても暑い夏の昼下がりも、生徒から張り詰めた緊張感が徐々に伝わり始めてくる秋の夕刻も。
 よく仕事の合い間に少しだけ話をした。どんなことを話したのか、よく覚えてはいない。あなたもきっと、覚えてはいないだろう。でも僕の話や伝えたかった感情をあなたはいつも受け止めてくれた。あの雪のように、何もかも吸収してくれたんだ。本当に大事なことは何一つ言えなかったけれど、僕は少しずつ心が穏やかになっていく瞬間を感じた。それはまるで欠けていたパズルのピースが見つかってはまった時のような、収まるべきものが全て収まるべきところに収まった、そんな心地よい満ち足りた時が流れていくのを感じた。

 今でも覚えているのは、やっぱり雪の話だった。
 授業が終わってほっとしたのか、北国育ちだとよくわかるあなたの白い肌は部屋の暖房に温められて、ほんのりと紅潮していた。 
「私はここよりももっと雪が降るところで生まれたんだけど、1月2月の大半は二階から外に出なくちゃいけないくらいの地域なの。それで、みんなは雪を生活の敵だって言って煙たがるけれど、私はとても好き。小さい頃はなぜ心躍るのか理由がわからなかったけれど、今ならなんとなくわかる。同じ街なのに、夏と冬とでは別の街みたいになるじゃない? それがとても好きなのかもしれない」
 雪の話になると、あなたはとてもよく話した。それ以外では僕が話を一方的にしていたのだけれど。 
 
 でも、限界があった。全ての時の流れを逆行させるようなことなどできなかった。あなたの指に光る小さな宝石は依然として白く綺麗に輝いていたし、僕自身、一体自分が何を求めているのかわからなくなっていた。
 
 僕は生徒に数学を教えつつ、時折事務作業をしているあなたのほうをちらっと見た。そして、そのまま教室の窓の外へ目を移し、降りしきる雪の姿に目を奪われた。
 雪が、降る。
 絶え間なく、どこまでも白く埋めてしまうほどに降り続ける雪を、僕はまるでシャッターを切るかのように何度も瞬きをしつつ、じっと眺めている。この記憶は写真のようにそのまま残ることはないんだろうな――そんなことを思ったり、した。
 これが僕の最後の授業だというのに、僕はいつまでも雪を眺めている。
 飽きもせず、ずっと。
2005/12/29(Thu)00:08:49 公開 / 月夜野
■この作品の著作権は月夜野さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 およそ半年振りです。5作目になりますが、なかなか上手く表現することでができませんね。だけれども、物書きにとってはそこの苦しみこそが快感なのかもしれない、と思った大雪の午後。
 正規表現に基づき、一度修正しました。
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