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『親愛なるジョンへ』 作者:天かすラヴァー / リアル・現代 ショート*2
全角1054文字
容量2108 bytes
原稿用紙約3.55枚

「ジョンになりてぇ…」
 祐二はいわゆる学生で、世に言う受験生だがやる気はまったくなかった。
机の上に腕を組み顔を乗せ、明らかに眠そうな顔で言った。
「ジョンってお前、イヌかよ」
たまたま横にいた健介が言った。念仏のように教科書に書いてある芭蕉の生涯を語る国語教師の声は雑談する生徒の声に殺されている。
「いや、ウチの弟」
「あ?お前三姉弟の末っ子だろ」
「ジョンはかわいい弟だ」
それを聞いて健介は少し考えた。
「あ…」
「やっとわかったか?」
健介が頷く。そしてお前んちで飼い始めたっつーうさぎだろ、と続ける。
「うさぎは寂しかったら死ぬっつーの?アリャ嘘だよ。ジョンは家族が旅行に行ってる3日間、一人だけで生きてた。飯も大量の牧草で補ってたんだけどよ。結構図太いんよ」
ノートにうさぎの絵を殴り描きする。嫌にメルヘンチックなうさぎができていく。
「うさぎってニンジン食うんじゃないのか?」
「アリャなんでも食うよ。ジョンはカレーも食った。まぁ舐める程度だがな」
初めて聞く話に健介が関心するが、よく思えばどうでもいい話だなぁと思ってた。
祐二は続ける。
「昨日よ、水菜をあげたわけよ。そしたらジョンは茎を残しやがんの。葉っぱしか食わないんだよ。水菜は茎がうまいのにねー」
「さっきから食いモンの話ばっかりしてんじゃねーかよ」
大きなあくびをしながら健介が言った。そして教科書の芭蕉の写真にうさ耳を付け足す。

「で、何でお前はジョンになりたいわけ?」
そういえば、というように聞いた。話の本題といえばそれだ。
「そりゃアレよ、ジョンってのはかわいいじゃんかよ。コノ前も姉貴の友達来た時にチヤホヤされてた。」
何だそんな理由か、何て単純なヤツだとため息ひとつ。
「ホラ、童話でもかわいい女の子がうさぎ追いかけるじゃんか。そんなふうにうさぎには追いかけたい、かまいたい、っつー気持ちにさせんだよ」
「あー…言われてみればそうかもしれんな」
「しかも死んだあとも愛されると来た」
突然の言葉に驚く。
「あ?」
「ファーだよ、ファー」
「何だ毛皮か。」
「若いネーちゃんの首に巻き付けれるってちょっと浪漫じゃん?」
祐二がニヤリと笑った。そのとき授業終了のチャイムが鳴った。
 その瞬間、待ってましたといわんばかりに日直が「起立!」と叫んで、生徒が一斉に立ち上がった。ガタガタとイスの音が響く。

「まぁそんな夢もいいんじゃねーの」
「あ、一個言い忘れてたことが」
「ん?ナンダヨ」

「ジョンって女の子なの。ジョンて男っぽいから弟なの」
「アレマ」
2005/11/21(Mon)13:26:11 公開 / 天かすラヴァー
■この作品の著作権は天かすラヴァーさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
数年前に他界したラッキー(♂)に捧げます。
未熟もので申し訳ありません。
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