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『星はそこに居る』 作者:もろQ / リアル・現代 恋愛小説
全角4065.5文字
容量8131 bytes
原稿用紙約12.35枚
 「うー、寒ぃな」
 息抜きと思って冬の公園に出てみたら、満天の星空とミツルがいた。びっくりするほど星が綺麗で、風が冷たくて、なのにミツルは真夏みたいな格好だった。
「それじゃ寒いに決まってんでしょ?」
「だってよ、家ん中暖房付けっぱなしで暑かったから」
 バカ。

 まず星に見とれてしまった。ここに来るまではどこも曇っていたから、きっとここの空だけ晴れているんだ。直感的にそう思った。とにかく、星は凄く綺麗だった。黒い紙の上に、白い絵の具をたくさん吹きこぼした感じだった。シャンデリアみたいに眩しいけど、作り物には見えなくて、並び方は不規則だけど、なんだかひとつにまとまって見えて。たまにこういうの目にすると、なんか、幸せってこういうもんなんだなあって勝手に想像したりできちゃうから好き。
 で、ミツルが声をかけてくれるまで、ミツルの存在には全然気付かなかった。ミツルは半球型のジャングルジムの上で寝転んで星を見ていた。

 「お前、受験勉強してる?」
「してるよ。ちょっと休憩」
「ふーん」
 ミツルは? と聞こうとしたけどやめた。あんまりしてなさそうだから。ミツルはこちらに向けていた首を夜空の方に戻した。立っているのが辛くなって、私はジャングルジムの棒のひとつに腰をかけた。鉄の棒はひやっとしている。私も星を見上げた。
「すげえな星」
「うん、ね」
「こういうの見てっとあれだな、あの科学館思い出すよな」
「……科学館?」
「あれだよ、小3の時に行った」
 ああ、思い出した。隣町にあるこども科学館の事だ。理科の体験学習という名目で、学年全体でプラネタリウムを見に行ったんだ。あの時の映像は私の頭にも鮮明に焼き付いている。館長のおじさんは、映写機の前で「これでプラネタリウムの星を映しているんです」と仰々しく説明していたが、当時の私はまるっきり信じていなかった。だって、こんなへんてこな機械で、あの目も眩むような星空が作れるわけないと思っていたから。おじさんの説明を半信半疑で聴いていた私の横で、ミツルはまさに星みたいな目をして映写機を見上げていた。
 私とミツルは、小学校からの友達だった。

 「あの感動は今でも忘れらんないね」
 鼻をズッとすすりながらミツルが言った。
「何それ、おっさんみたい」
 私が冷たく言い放つと、ミツルは恥ずかしそうに笑った。
「でも、分かるよ、私も憶えてるもん」
 空から目を下ろし、正面のブランコを見た。ピンク色のペンキが剥げてところどころ赤黒いさびが露になっている。その向こう側に萎びた木が一本立っている。私は、なぜか自分の顔がにやけているのに気がついて、あわててしかめっ面にして見せた。
 「うー、寒ぃわ」
「だからなんでそんな薄着なのよ? 私のコート貸そうか?」
「ハァ?! いいよそんなの」
「そんなのって何よ!」
 馬鹿みたいな大声を出した。公園には私とミツル二人だけだったけど、ちょっと微妙な心持ちだった。また風が吹いて、その後ミツルは小さな声を漏らした。
「いいよ、頭冷やしてっから」
 えっ?

 なぜかその夜は、ちっとも眠くなかった。親が寝静まった後でこっそり抜け出してきたから、もう大分遅い時間だったんだろう。それでも公園にいた間は、あくびひとつ出てこなかった。ただ静かだった。風の音、ざわめく木の声、それとミツルの呼吸の音以外、何も聴こえなかった。多分、他の音は全部、あの星の光に吸い込まれてしまってる。

 どぎまぎする癖がある。特定の誰かとかじゃなくて、例えば電車の中でも学校にいても、仲がいい人でもそうでなくても、そこに誰か人がいるとなんだか気になって仕方がなかった。人の目を気にするタイプなのかもしれない。人見知りかもしれない。とにかくそういう事がよくある。で、その反面、ミツルといるとそういう事は全然ない。おかしいなと思って色々調べてみたけど、結局なんでか分からない。でもまあ分からないままでいいやと思っている。だからミツルにも何も言っていない。

 「あっ、流れ星!」
「えっ、嘘?」
 ミツルの言葉にハッとして、すぐさま空に視線を巡らせた。しかしいくら探しても、星はそれぞれ同じ場所でただ光っているだけで、動いている物などどこにも見当たらなかった。
「本当に?」
「多分、流れ星だったと思うけど……」
 急にしどろもどろになってしまった。私は拍子抜けして、首をだらんとうなだれた。
「なんかの見間違いじゃないの」
「分かんないけど……」
 ミツルの言葉はついに聴こえないくらいに弱々しくなった。私は寂しいような、物足りないような気分になって、地面の砂をぱっと蹴ってみた。

 「ミツル、なんか願い事した?」
「え、なんで?」
「いや、言うじゃん。あのあれよ、流れ星が……」
「おいおい勘弁してくれよ」
 私が言い終わる前にミツルのわざとらしい溜め息がこぼれた。
「ガキじゃねえんだからさ、するわけないでしょ。仮にしようとしても速すぎて無理だから」
 確かにそうだけどさ。なんとなくミツルの言い方にとげがあったので、私はむっとして下を向いた。足をぶらぶらさせると、影がそれを追いかけるように地面を走った。変な体制で座っているので、腰が痛くなってきた。
「まあしかし、願い事を言うのであれば、そうだな……」
 ミツルがぼんやり呟いた。私は振り返って空の上に寝転ぶその人を見た。そして次の言葉を待った。ミツルは何を願うんだろう。
 ところが、ミツルはしばらく何も言わずに黙ったままだった。空を向いたままで表情の見えないその人は、ここから見るとまるで眠っているようだった。私も何て願い事するの? なんて訊けないから、何も言わなかった。結局ミツルは続きを話さなかった。
 風が吹いた。
「うおっ、寒ぃな」
「だからコート貸すよ。ほら」
「いや、いいからマジで」
 今度はむしろ遠慮がちな声だった。私は眉根を寄せた。
「なんでよ? 風邪引くよ」
「うーん、まあな。でも言われてんだよ親父に。女子供から物は借りるなって」
 何その妙な言いつけ。

 今日のミツルは変だ。口ごもったり、変な事言ったり、急に黙り込んだり。何より声の感じがいつもと違う。重くて空っぽな雰囲気がする。暗くて顔が見えづらいからだろうか。夜中だから、ミツルは眠いんだろうか。いろんな事を考えるけど、どれもなんだか違う気がする。空を見ているミツルの影絵が、だんだん小さく遠くなっていく気がする。
 不安になってきてしまった。ミツルの考えている事が分からない。何を考えてるの? ミツルは何を欲しがってるの? 分かんないよ。教えてよ。ミツルの事もっと教えてよ。黙ってないでさ。ねえ、寂しいよ。怖いよ。ねえ。そんな所に寝転がってないでさ、こっちに降りてきてよ。ねえ、ミツル。ねえ。どこへ行っちゃうの?

 「星ってさあ……」
 ミツルの声がした。胸がいっぱいの私は小さく「何?」としか言えなかった。
「星はさあ……どういう想いで光ってるんだろうな」
 息が詰まりそうだった。
「どういう事を考えながら光ってるんだろうな……」
 苦しくて死にそうだった。目をつむった。冷たい風を思い切り吸い込んで、むせ返りそうになる。 
「ミツル……」
「宇宙の暗闇に突然産み落とされて、何を受け入れる事もなく、拒む物もなく、ただそこにいるだけで」
 ミツル。お願い。
「なんの楽しみもなくて、ただ辛いだけて、友達はずっと遠くにいるから、多分誰とも話できないし」
 ミツル。
「そのうち何のためにそうしているのか分からなくなって、もう本当は生きている意味なんかないんじゃないかって思って、きっとすごい辛くて、もう死にたいって思って、でもなんとか持ちこたえてきて、でもそしたらまた死にたくなって」
 ミツル、

 「でも、それでも光ってるんだよ、まだ」
 笑っていた。ここからでもはっきり見えた。ミツルは悲しそうに、だけど優しい顔で笑っていた。目から涙が溢れてきた。
「俺らは、だからずっと見守っててやらなきゃ、な」
 水滴が右の頬をなぞっていった。コートをかぶせた膝の上にそれはぽたりと落ちた。分からなかった。だけど、ミツルの微笑んだ顔がなんだか傍にいてくれる気がして、私も無理矢理微笑み返して見せた。ミツルも泣いているみたいに見えた。

 ジャングルジムの上、ミツルはもう一度星空を見たような素振りの後、公園の地面の上にトサッと降りた。私も倣うように立ち上がる。まばゆい星を背にして、その人の影がこっちへ歩いて近づいてくる。ミツルの顔は変わらず微笑んでいた。
 「美幸、ありがとな」
 明るい声でミツルが言った。
「俺、その……色々考えててさ、お前が一緒に居てくれてなかったらどうなってたか分かんなかった」
「うん」
「でもスッキリした。今日ここ来て良かったよ。うん、ありがとう」
「うん」
 じゃ、行くから。そう言って、ミツルは公園の小さい門をくぐって銀色に光る上り坂を歩いていく。そうか。私はまた小さくなっていくその人の影を見つめて確信した。私は冬の空気を吸い込んで大きな声を張り上げた。
「ミツル!」
 美幸って呼ばれたの、久しぶりだった。最後に呼ばれたのいつだったっけ、って思い出したら、小学生のとき、あのこども科学館でプラネタリウムを見た時だった。隣の椅子に座っていたミツルが、無限に広がる宇宙の中で呼んでくれてたんだ。
「すげえな、美幸」
 大人になっていって、私もミツルも、いろんな事で悩んで、忘れて、失くしていたけど、そうだよね。ミツルはずっと傍に居てくれてたんだよね。私の心の中で、星の中で、ずっと私の名前を呼んでてくれてたんだよね。本当にありがとう。
 「ミツル! ちゃんと勉強しろよ!」
 坂のてっぺんで、後ろ姿が恥ずかしそうに立っていた。最高に嬉しくて、ずっと笑っていた。きっと、すごく間抜けな顔だったと思う。

 その次の日学校で、私は初めてミツルのお父さんが脳の病気で昏睡状態にある事を聞いた。
2005/11/20(Sun)22:54:34 公開 / もろQ
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■作者からのメッセージ
また妙な恋愛モノです。今回は自分で書いてて恥ずかしくなってしまった。
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