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『キスは後ででいいの』 作者:イシュ / 恋愛小説 ショート*2
全角1133.5文字
容量2267 bytes
原稿用紙約3.8枚
戦場に向かう大事な人を送り出す人の心情です。解りにくいことは重々承知で描写のところは2段下げにいたしました。

 ねぇ、いま光ったよね。
 ほらあそこ、窓の外……。
 こうしてみると大きな花火みたいだよね。
 もしかしたら飛び散ったあの光がヒトの欠片かもしれないのに、なんて綺麗に貴方の顔を照らすのかしらね。
 あそこではたくさんの人が命を落としてる。でも……夜だから皆寝てるよね。
 夜にいきなり攻撃するのを卑怯だっていうけど、私はそう思わないんだ。
 死ぬなら自分がしらないうちに死にたいもの。
 動きたいのに大怪我して動けなくなるのも嫌。わざわざ痛い思いをしたくないの。
 それに寝ている間なら、夢、見てるでしょ?
 幸せな夢を見てて……大切な人が死んだりするのを見なくてすむから……。
  遮るように、窓の外で新しい花が咲いた。
  外界と室内をつなぐ窓ガラスがビリビリと震える。
  でも、とっても静か。まるでこの部屋だけ別の世界にあるみたいに。
 貴方の腕にだかれながら見える景色は燃える花の色をしているのね。
 ……なんのお話してたんだっけ……そうだ、大事なお話なんだよ。
 大切な人が目の前で死んじゃうのは嫌だっていったよね。
 ……でも、遠く離されて、私のしらない間に死んじゃったり、私の気付かないところで凄く苦しかったりするのは、やっぱりやだよ。
 もしかしたらもう死んじゃったかも……なんて考えながら暮らしてなんていけないよ。だから……、
  
  ――   だから   ――

  触れ合った肌を通して、貴方が苦笑したのが伝わってきた。
  私が言いたい事、全部知ってる笑い方。
  大好きなの、その笑い方。でも今は悲しい。
 ……笑わないでよね。これでも、ちゃんと自覚してるんだから。
 私……人一倍弱虫で、泣き虫だから、もううんざりされてるって、わかってるんだから。
 でも、嫌われちゃうってわかってるけど……どうしても……。

  耳に柔らかいものが触れた。
  それは貴方の唇。私が決定的な言葉を言う前に、もうおやすみのキスをするつもりなの。
  でも今日はごまかされたくない。
  もちろん、いつも貴方がごまかしてるだなんて思ってるわけじゃないけど、このまま寝ようとしても眠れないから。
  二人にはもう明日しかないんだから。
  だから、キスは後ででいいの。

 ね……最後に言って欲しいことがあるの。
 絶対に離れたりしないって言って欲しいの。
 私の目を見て、少しでも安心して眠れるように……。
 今だけでいい……。朝日で溶ける淡い約束でいい。
 時計とか、そういう形見で虚しいトキを測りながら長らえたくないから。
 それからおやすみのキスをして。
 それでね、今夜はこのまま離さないで。
 ……わがままだって思うかもしれないけど……花火があんまりにも目に痛いから……ね……――。
2005/11/13(Sun)23:40:07 公開 / イシュ
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