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『 すくい 【読みきり】』 作者:夜行地球 / ショート*2 恋愛小説
全角4512文字
容量9024 bytes
原稿用紙約15.35枚
 『僕』から『貴方』へのラブレター。



 僕と貴方が出会った事は奇跡だった。

 そんな風に言ったら貴方は笑うだろうか?
 もちろん、僕だって本気でこんな事を言っているわけじゃない。
 この世のほぼ全てが偶然で成り立っているって事くらい知っている。
 その偶然の中の気に入った幾つかを、人が『奇跡』と呼んで特別扱いしているだけだって事も。

 だけど、ちょっとだけ考えてしまったんだ。
 僕の短い命の中で本当に意味があったのは、貴方と一緒に居た数ヶ月間だけだったんじゃないかってさ。
 ま、勘違いなのかも知れないけどね。
 ただ、そんな勘違いを起こしてしまうって言うこと自体が信じられない事だったんだ。
 全てのことに興味が無く、生きていることにも価値を見出せなかった僕にとっては。

 だから、今だけは許して欲しい。
 僕らの出会いを奇跡と呼ぶことを。


   ◇◇◇


 物心がついた頃には、僕は『施設』の中にいた。
 とは言っても、別に暗い過去があるわけじゃない。
 気付いたら親が自分の側に居なかった。
 ただそれだけの事。
 親の顔を知らない事を不幸に思った事なんて無い。
 『施設』で育った僕らにとって、そんな事は当たり前の事だから。

 失った物を悲しむのは容易だけど、持っていない事を悲しむのには想像力がいる。
 きっと、僕らには想像力が欠けていたんだ。
 クリエイターには向いて無いって事だろうね。

 『施設』では単調な毎日が続いていた。
 来る日も来る日も食う寝る遊ぶの繰り返し。
 ある意味天国みたいな生活だったけれど、今日が今日である意味が何も無い生活という表現のほうがしっくりくる感じがしていた。
 僕らの生活に変化が現れるのは年に数回。
 新しい仲間が入って来た時と、『すくい』の時だけだった。
 『すくい』というのは『施設』の管理人が行うイベントの名称で、良く言えば僕らの里親探し、悪く言えばただの見世物。
 人前で晒し者になるのは御免だったけど、外の世界が見れるのは少しだけ楽しみだった。

 僕らを見て「かわいいわね」なんて言う人は大勢いて、興味があるそぶりでちょっかいを出してくる人も居たけれど、そのほとんどが僕らを彼らの家に連れて帰ろうとはしなかった。
 結局、育てるのが面倒なんだね。
 まあ、無責任に連れて行って育てる事を放棄するような奴らよりはマシなんだろうけどさ。

 僕らを本気で育てる気のある数少ない人達が欲しがるのは見た目が綺麗だったり体が丈夫そうだったりする仲間だけで、ガリガリに痩せこけて今にも死にそうな僕なんかには興味が無いみたいだった。
 中には「変な病気でも持っているんじゃないの?」なんて事を管理人にいう人さえもいた。
 その時の管理人は曖昧な笑みを浮かべるだけで、肯定も否定もしなかった。
 ちゃんとした検査なんか受けた事が無かったから、僕が何かの病気にかかっているかどうかなんて分からなかったんだろうね。
 
 そんな感じで毎回ある程度の数の仲間たちが引き取られて行き、残された僕らは単調な毎日に戻っていった。


   ◇◇◇


 僕が貴方に出会ったのは夏も終わりかけの八月のある日、僕が参加する七回目の『すくい』の時の事だった。
 かっちりとしたスーツを着こなした貴方はとても素敵で、僕は一目で心を奪われてしまった。
 貴方は『すくい』に参加する人特有の妙な傲慢さを持っていなかった。
 かといって、慈愛に満ちていたわけでもなかった。
 簡単に言えば、無表情だったって事なんだけれど。
 あの時の貴方の状況を一言で表すなら『場違い』っていう言葉がぴったりだろう。
 だから、僕が貴方に連れて行かれる事が決まった時に感じたのは、幸福感ではなくて違和感に過ぎなかった。
 
 家に着くと、貴方は僕に新しい居場所を与えてくれた。
 少し投げやりな貴方の様子から、僕を受け入れる準備なんて出来ていないだろうと思っていたので、自分の居場所があるというのはちょっと意外だった。
 『施設』では大勢で寝るのが当たり前だった僕にとって、一人で寝るという事は初めての経験だった。
 広すぎる空間というのは意外に不便なもので、余計な物思いに耽らせる作用があるらしく、『施設』だったらもう消灯の時間だとか、いつも僕の横で寝ていたアイツはもう寝ただろうかとか、今回の『すくい』ではどれだけの仲間が引き取られる事になったのだろうかとか、どうでも良いことばかりが頭を駆け巡った。
 気を紛らせようと周囲に目を配らせると、一枚の写真がテレビの上に飾られているのに気がついた。
 それは真っ白なウェディングドレスを着た女の人がタキシードを着た男の人と並んで立っている写真だった。
 その女の人は見事なまでの満面の笑みを浮かべていたので、それが貴方の姿だと気付くのに少し時間がかかってしまった。
 貴方があんな笑顔を浮かべられるのだと知って、その時の僕は何故だか嬉しくなった。

 貴方はあまり多くを語りたがらないタイプだった。
 僕と貴方が一番近づくのは僕の食事の時間だったけれど、僕が食事を食べている様子を見て、貴方はいつも静かに微笑むだけだった。
 僕が貴方の家に来てから数週間。
 特に大きな出来事もなく、平穏な日々が過ぎていった。
 『施設』にいた時のような意味の無い停滞ではない、充実した安息。
 僕だけを見てくれる人がいるという事が、これ程までに心を安らげてくれるものだとは知らなかった。

 部屋のあちこちに置かれたペアグッズの数々がまるで使われずに放置されているのを少しだけ不思議に思っていたけれど、僕には聞く事ができなかった。
 いや、聞きたくなかったというのが本音だったかも知れない。
 あの写真に写っていた男の人が誰なのか、という事と同様に、聞いてしまったら大切な何かが崩れてしまいそうで。

 そんな日々に変化が訪れたのは、僕が貴方の家に来てからちょうど二ヵ月目の夜の事だった。
 いつもの帰宅時間を三時間も過ぎていたのに一向に帰って来ない貴方を僕はぼんやりと待っていた。
 どうやら途中で寝てしまっていたらしく、ガチャリという鍵の開く音で目を覚ました。
 危なっかしい足取りで部屋に入って来た貴方は僕を見て、
「まぁだ起きていたの? 早く寝ないと大きくなれないわよぉ」
 と、少し呂律のまわらない口調で言った。
 そのままソファに倒れこんで寝てしまった貴方は典型的な酔っ払いだった。
「……しゅんすけぇ、どうして私たち……」
 寂しげな寝言が、静かな部屋に染み込んでいくようだった。

 日に日に落ち込んでいく貴方を僕はどうにかして元気付けたかったけれど、僕と貴方の間にある『見えない壁』がその全ての試みを弾き返した。
 その壁さえなければ僕達はもっと近くにいる事が出来ただろう。
 けれど、それは少し無理のある願いだ。
 その壁が無ければ、僕らの関係を維持する事は出来なかったのだから。 
 僕に出来るのは貴方の近くにいる事だけ。
 何も考えていない振りをして、おどけた行動で貴方の気を紛らわす事くらいしか出来なかった。
 
 今振り返って見ると、あの時の僕はその状況に満足していたのかも知れない。
 貴方の苦しみが分かっているのは僕だけだ、という思い上がり。
 それが僕の思考の全てだった。
 僕は単なるエゴイストに過ぎない。

 そんな僕の姿を見て、神様は決めたのだろう。

 僕の命にピリオドを打つことを。
 
 
   ◇◇◇


 秋が深まり冬の足音も聞こえ始めていたあの日。
 無機質な電話のコール音と共に一日が始まった。

 迷惑そうに受話器を取った貴方の顔が時間が経つと共に徐々に綻んでいくのを、僕は興味深く見つめていた。
 電話の内容は良く聞き取れなかったけれど『しゅんすけ』という単語が何度か出た事だけは把握できた。

 受話器を置くやいなや出掛ける準備を始めた貴方は、洋服選びに一時間、化粧に二時間をかけた。
 そんなに準備をしなくても貴方は十分に魅力的だよ、と僕は心の中で苦笑した。
 嬉しそうに出掛ける貴方に心配をかけない様に、僕は体の不調を隠して普段どおりに見送った。


 そして、貴方が出かけてから五時間後、僕の命は実にあっさりと終わりを迎えた。


 貴方が家に帰ってきたのは、草木も眠る丑三つ時。
 既にこの世の存在ではなくなっていた僕には実に都合の良い時間帯だった。
「ただいまー」
 帰ってきた貴方はとても上機嫌で、右手にケーキの箱を携えていた。
「良い子で留守番してたかな?」
 その軽快な足取りは、僕の姿を見てピタリと止まった。
 
「え……」
 貴方は呆然とした表情で、ケーキの箱を床に落とした。
 真横になったケーキの箱を見て、僕は中身が絶望的な状況に陥った事を確信した。
「嘘でしょ……ねえ、動いてよ」
 その時、僕は貴方の動揺ぶりを見て『僕』という存在が貴方の中で決して軽いものでは無かった事を確認できたと喜んでいた。
 二重の意味で、僕は腐っていた。

 一時間ほど呆然としていた貴方は、何かに気付いた様にシャベルを持って庭に出た。
 そして、おもむろに庭にシャベルをつきたてはじめた。
 土砂降りだったのに傘も差さずに黙々と穴を掘り続ける貴方を、僕はずっと見ていた。
 穴を掘り終わって戻ってきた貴方の化粧はぐちゃぐちゃに崩れていて、不謹慎ながらも笑ってしまいそうになった。
 ま、生物学的に笑うなんて事はできなかったけど。

 貴方は僕を掘った穴に横たえると、そっと土を被せた。
 僕に降りかかる雨の中に温かいモノが混じっている気がしたけれど、全ての感覚が停止していた僕だから、それはただの思い過ごしだったのかも知れない。


   ◇◇◇


 それから数日後、貴方は花の種を買ってきて、僕の埋まっている土の上に蒔いた。
 花の種類はスナップドラゴン。
 その和名を知って『なかなか気の利いた墓標だ』と、僕は彼女のセンスに素直に敬意を表した。
 
 スナップドラゴンの芽が出始めた頃、貴方の家に一人の男の人が訪れた。
 一度も会った事が無かったけれど、しっかりと顔を知っている男の人。
 貴方と一緒に写っていた、あの男の人だった。
「もう一度、やり直そう」
 その男の人の言葉に、貴方は黙って頷いた。

 スナップドラゴンの花が咲く頃には、貴方と男の人の生活は違和感の無いものになっていた。
「綺麗に咲いたわね」
 そう言った貴方の笑顔は、写真に写っていた笑顔に引けをとらないくらいに素敵だった。
 貴方の家には真新しい表札が付いた。
 『井上 俊介・加奈子』と書かれた文字には幸福感が滲み出ているようだった。


   ◇◇◇


 短い一生だったけれど、そう悪いもんじゃなかった。
 貴方に会えたから、そう思える。

 不思議だね。
 何だか死んだ後の方が、貴方の近くに居る気がする。
 僕はこれからも貴方を見守っていく事にするよ。
 姿を変え、形を変えて。

 最初は、一匹の金魚として。
 いまは、一本のキンギョソウとして。
 そして、その後は……

 その後は一体何になろうかな?



   <終わり>
2005/10/30(Sun)23:00:51 公開 / 夜行地球
■この作品の著作権は夜行地球さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 どうも、お久しぶりです。というか、初めまして。
 時間的な問題から、最近は書き手としてだけではなく読み手としても参加出来ていない夜行地球です。ショートなんか書く時間があるなら中断していた長編の続きを書けよ、なんて言う記憶力抜群の方がいたら、この場で謝罪しておきます。すみません、アレはしばらく書けません。誰か時間を下さい。
 それでは、作品を読んでいただいた皆様、どうも有難うございました。感想をいただけると更に嬉しかったりします(笑)
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この作品の投稿者 及び 運営スタッフ用編集口
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