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『断ち切られる逃避』 作者:恋羽 / ショート*2 未分類
全角2188.5文字
容量4377 bytes
原稿用紙約7.4枚








※作品の一部にグロテスクな表現を含みます。精神、肉体の如何に関わらず損害を被る可能性をお持ちの方は閲覧を中止して下さい※













 ――その部屋には、光が差さない。
 時計は男の苛立ちを助長するように、ほんの一寸たりとも動きを見せようとはしない。いや、黒い壁に取り付けられたその壁時計はもしかしたら確かに時を刻んでいるのかもしれない。ただ事実を受容する男の感覚が軋んでいるだけで。
 コンクリートで塞がれた扉の跡。窓の跡。外部と完全に遮断されたこの世界は余りにも黒い。安物の壁紙は安物のカラースプレーで安物の漆黒に塗り潰されている。黒い壁を照らすのは弱々しいブラックライト。星の輝きを忘れた宇宙が今この世界に広がっていた。
 その暗がりに、一組の男女がいる。一組、という表現は適当ではないかもしれない。が、その四畳程の空間には確かに一人の男と女がいた。
 二十四、五くらいに見える男は黒く塗られた壁に背を凭れ掛け、どことも知れぬ中空に視線を投げていた。瞳に輝きは無く、何一つとして意思が感じられない。痩せ細った右の手で見苦しく伸びた不潔な髪を、左手で地肌が見えぬ程に増殖した髭をそれぞれ乱暴に引き抜いていく。抜けども抜けども伸び続ける体毛が、時の失われたこの空間で唯一時の流れを感じさせていた。時折苛立ちに満ちた舌打ちをし、露になった頭皮を掻き毟る。その音が不愉快な静寂に包まれた世界に満ちた。時は男の髪を引き抜き、肌に蚯蚓腫れを残して去っていく。
 男より幾分若く見える女は、見る者に不快感を抱かせる疲れ果てたような表情をその恵まれない顔立ちに浮かばせながら男の反対側の壁に背を預けていた。施してからどれだけの時間が経ったのかさえ見当のつかない崩れきった化粧の跡は幾筋もの醜い線を描いている。過剰に分泌され続け、除去されることの無い皮脂は汚らしい光の乱反射を起こし、乱れ絡まった髪は怠惰に染まっていた。女は膝を立て、その内腿を直線的な炎を吐くガスライターで炙る。いや、彼女はその炎で絵を描いているのだ。青白い肌に引かれる赤く焼けた肉の曲線が形成され、糜爛し腐りかけた数々の火傷は女を通り過ぎた時間を刻み続けている。人の焼ける臭いが狭い空間に漂い、既に痛覚を失った女の静かなる慟哭が音の無い世界に響き渡っていた。
 美しく、時の過ぎぬ世界。ああ、もしもこの世界に二人の人間が存在しなかったなら、それは今よりも遥かに美しいのに。私は心からそう思った。




 私は脳裏の片隅に存在する空間から二人の人間を除去し、漆黒に満ちた心地良い世界を一旦閉じることにした。




 飛躍し逃避していた意識を現実世界に向ける。世界は退屈に満ちていた。歩みを忘れた時の流れは私の苛立ちを只管に助長し、既に常軌を逸してしまった私は黒い壁に背を凭れ掛けながら時の無情を憂えている。何一つとして進むことの無い停止世界で、私は進まない壁時計を眺めている。
 





 ……? 何かがおかしい。何かが。
 目の前に広がる黒い世界、ブラックライトに照らされる陰鬱な世界が、まるで逃避世界に満ちていたあの情景と重なって見えたのだ。あの美しい怠惰なる世界とこの退屈な世界が似通って見えてくるのだ。そう、それは丁度あの不愉快な二人の人間が、遅々として進まない時間に苛立ちを感じて無為な時間を過ごしている、あの研ぎ澄まされた宝石の様な世界にそっくりなのである。
 ……もしもこの世界があの世界と同じものなのならば。私はそう考えるだけで吐き気がした。余りの吐き気によって、私は髪を引き抜いていた右手を口に当てる。


 ――私はあの汚らしい男そのものではないか……!
 

 だとしたなら。私は中空に投げていた視線を、空間の反対側に向ける。
 そこに、一人の女がいた。
 彼女は自らの足をライターの炎で焼いている。人間としての尊厳はその姿には感じられず、ただ私の目に痛みだけを伝えていた。
 私は心から恐怖してしまう。


 ――私は、もしかしたら、誰かの脳裏にほんの一瞬だけ留まっている下らない逃避の切れ端なのか……?


 私が生きているのは、誰かがその現実逃避を終えるまでの時間なのか。誰かが自分自身の退屈な日常へと戻っていくまでの、その時間なのだろうか。私は、絶望に苛まれた。




 どのくらいの時間が流れただろう。私は終わらない絶望を断ち切り、不毛な思案に逃避するのでもなく、眼に力を込めた。
 視界の中心に女を捉え、僕は立ち上がる。
 もしも私が誰かの逃避の中に生きているのだとしたら、もしも私の存在がふとした瞬間に断ち切られるのなら。私を脳内に住まわせている人間もまた、誰かの現実逃避の中に生きているのだとしたら。
 私は、無為に続くこの連鎖を断ち切るべきなのだ。
 衰えた足の筋肉は体を運ぶには弱過ぎた。しかし、私は必死で足を前へと運ぶ。
 私の、ほんの数メートルの長旅は、足を焼く女が初めて私を発見したことでその半ばを過ぎる。だがそれが終わりではない。
 永久が幾ら長くとも、私の存在がどれだけ希薄なものであっても、私は確かに私としてここに存在し、私の思いの向くまま自らの口を開くのだ。ただ私自身の意思によって。
 さあ、言霊を宙に放とう。




「         」




 永遠は終わった気がした。




        <了>

2005/10/09(Sun)08:23:28 公開 / 恋羽
■この作品の著作権は恋羽さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ

『闇と神は同じ語源から生まれたものである』
 僕はあと数週間で二十歳になります。人よりも少しばかり入り組んだ事情を抱えた人間である僕にとって、その区切りは一つの重要な境界線になるでしょう。
 人は二十歳を過ぎるまでに幽霊を見なければ、それ以降の人生でそういったものを見ることが無いそうですね。そう聞く度、僕は少し寂しいような気がしてしまいます。いえ、幽霊を見られないことが残念なのではありません。
 冒頭の言葉、どこで聞いたかは忘れてしまいましたが、正に僕の今の気持ちにふさわしいと思います。数週間の後、僕は畏怖すべき闇と、縋るべき神と、巡り合うことが出来ないまま退屈な日常をはじめるのか、そんな感じです。二つのものを同時に失う、それがひどく寂しい。
 そんな気持ちのまま、十一月某日、僕は二十歳になります。



 なんて意味のわからないことはどうでもいいとして(笑 お久しぶりの方、お久しぶり。はじめましての方はじめまして。恋羽です。ひたすら暗いこの駄文に目を通していただき、誠にありがとうございます。
 いつもの僕ならば暗いまま終わらせるところなのですが、あえて少し明るい方向へ進んで終わらせることにしました。きっと明るい気持ちで書いたからだと思うのですが。本当ならもっと綺麗な短編を書ける精神状態だったのですが、こういうのもいいなぁと思いまして。

 「」の中を空白にしてみましたが、ここにはどうぞ貴方様のお好きな言葉をお入れください。そして、貴方のお力で闇の連鎖を断ち切ってください。……なんて意図です。

 それではお読みいただきありがとうございました。できましたらどんなに短くとも構いませんので、またどんなに乱暴でもどんなにやさしい言葉でも甘んじて受けさせて頂きますので、ご感想をお聞かせください。本当にありがとうございました。


 そういえばタカハシさんの居酒屋に入れなくなっていた。うーん、何があったんでしょ?
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