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『どうか、幸せに』 作者:十魏 / リアル・現代 恋愛小説
全角3144文字
容量6288 bytes
原稿用紙約11.1枚
 初恋の人を覚えていますか。  大好きな、大切な幼馴染を覚えていますか。
 

――――――――――

 ちなつちゃんへ

 おたんじょうびおめでとう
 これからもなかよくしてください
 ぼくのたんじょうびもおいわいしてください
 あしたもあさってもいっしょにいようね
 ぼくはちなつちゃんがすきです
 だからもっとふたりともおおきくなったら
 ぼくとけっこんしてください

 きょうすけより   6月10日 ちなつちゃん6さいおめでとう

――――――――――

 ちなつちゃんへ

 7才のおたんじょう日おめでとう
 ちなつちゃんが小学生になっていっしょに
 学校いけてうれしいです
 こんどのドッジボールのしあい見にきてください
 ぼくは2年3くみのエースです
 かっこいいところ見せます
 ぼくがかっこよかったらぼくのこと好きになってください
 やくそくだよ

 きょうすけより   6月10日 ちなつちゃん7才おめでとう

――――――――――

 ちなつへ

 たんじょう日おめでとう
 さいきん、ちなつは3年生になってクラスの子といっしょに学校行くし
 いっしょに行けなくておれさみしいです
 だから今度いっしょに行こう
 それからちなつ、もしクラスの男にいじめられたらおれに言え
 おれが守ってやるから
 好きな子を守るのは男としてとうぜんだしな
 大きくなってもおれずっと
 ちなつを守るよ
 だからずっといっしょにいよう

 きょうすけより   6月10日 ちなつ9さいおめでとう

――――――――――

 ちなつへ

 たん生日おめでとう
 ちなつは最近、かわいくなったと思う
 オレいつも「ブス」とか言うけど本気で
 クラスの男子もちなつのことねらってるヤツいるんだよ
 でも絶対わたさない
 ちなつはオレのものだから
 オレはちなつが好きです
 ちなつ、ちなつが17才でオレが18才になったら結婚してください
 オレ経ざい力ないかもしれないけど
 ちなつに苦労はさせないので
 だからオレと結婚しよう

 京介より     6月10日 ちなつ11才おめでとう

――――――――――
 
 ちなつへ

 誕生日おめでとう
 部活がんばってるか?
 剣道部は大変だろうけどがんばれよ
 俺ももうすぐ大会で、スタメン入りできそうだ
 マジで俺の最後の試合見に来てほしい
 俺マジで上達して上手くなったから 
 ちなつに見てほしいんだ
 もう夏になったら受験とか忙しくなるし
 俺この大会マジで頑張るから
 もし俺がホームラン打てたら、
 ちなつ、俺と付き合ってください

 京介より     6月10日 ちなつ14歳おめでとう

――――――――――
 
 杉崎智夏さま

 16歳の誕生日おめでとう
 ちなつも遂に16かぁ
 俺はもう後一年だから 
 だから、待っててくれ
 この前久しぶりに会えて嬉しかった
 制服すげぇ似合ってた
 ちなつも俺見てかっこいいって言ってくれて
 お世辞でも嬉しかった
 俺は今甲子園出場向けてマジ燃えてる
 絶対行くから、俺の雄姿を見せるよ
 俺、ちなつの前では
 常に一番かっこいい俺で居たいんだ

 中江京介   6月10日 智夏16歳おめでとう

――――――――――

 杉崎智夏さま

 遅れたけど17歳おめでとう
 何で遅れたか、分かってもらえると思う
 今日は6月13日、やっと18歳になったよ
 これでやっと、本気で言える
 
 智夏、俺と結婚してください

 中江京介   6月13日

――――――――――



「……バカだぁ」

 あたしは思わず一言呟いた。だってそれしか言いようがないよ。呟いてあたしはただ笑っていた。笑わずにいられない。
 なんて、なんて純粋な。綺麗な想いの数々だろう。
 あぁそうだった、京ちゃん。大好きな一つ上の幼馴染。小さい頃はいつも一緒だったのに。少しづつ距離が離れていって。でも心のそこではいつも思っていた。本当に好きだった。それが恋愛感情かどうかなんてわからないぐらい、ただひたすら。
 あたしの中には京ちゃんしか居なかった。

 少しずつ距離が離れていって、高校も別々になった。でも誕生日には必ずお互いカードとプレゼントを送った。三日違いの誕生日にはカードとプレゼントを贈りあう、小さい頃からの習慣だった。高校生になっても、携帯のメールなんかじゃなく、郵送でカードを送った。"大好きな京ちゃんへ"、いつしかそう書くのが恥ずかしくなったっけ。
 何度、思っただろう。好きです。その言葉を書こうと何度。結局一度もかけなかった。だって京ちゃんはカッコ良くてすごくモテた。あたしのことなんて、好きなはずない。
 毎年、京ちゃんから届くカードはいつもたった一言。
 "誕生日おめでとう"
 それだけしか書かれてなかったんだもん。

「……バカだなぁホント」
 あたしはまた呟く。
 高校卒業して、あたしは大学へ進学して、かけがえのない人と出会った。京ちゃんとは全く違った存在。あたしは彼と人生を共にしていこうと決めた。いつしか、京ちゃんとあたしの"誕生日おめでとう"は行われなくなってた。でも、それは自然なことだと思ってた。
 そしてあたしは、その人と結婚した。今は本当に海が近い、小さくてかわいい家で二人で住んでいる。すごく、幸せだと自分で思う。
 結婚式には、京ちゃんへ招待状を送ったけど。京ちゃんはその時海外に住んでて結局来れなかった。それもまた自然な、というか仕方ないこと。
 あたしと京ちゃんはもう、全く違う人生を歩んでいるんだから。

 だけど。


「杉崎、改め市井智夏さま
 
 誕生日おめでとう
 どうか、これからも幸せに

 ちなつの幸せを心より祈って

 中江京介   6月10日 ちなつ25歳おめでとう」



 今朝、届いた手紙。ロスからのエアメール。京ちゃんは今、ロスでリトルの野球コーチをしているとおばさんからこの前聞いた。京ちゃんらしいな、そう思ったし、野球を続けているのも、何だか嬉しかった。
 波風に吹かれながら、あたしはエアメールの封を切った。
 一緒に入っていたのは、あたし宛への手紙。6歳から17歳のあたし宛の手紙12枚だった。毎年京ちゃんは書いて、でもそれを送れなくて、結局たった一言の手紙を送ってくれたんだろう。思うとすごくバカみたいだ。
 本当に。ただ、いとおしくてたまらない。
 初恋は綺麗だと人は言う。でもこんなに綺麗でバカな話はあるだろうか。笑える。なんて、なんてお互い。こんなにも。あぁ、あたしは本当に好きだったんだ。
 そして、今は心から思える。京ちゃんの言葉のとおり。

「……どうか、幸せに」

 あたしは、12枚の手紙たちを胸に抱きしめた。これは京ちゃんの区切りなんだと思う。だからあたしも、区切ろう。
 あたしは、そのいとおしい手紙を細かく引き裂いて小さなビンに入れた。そして、6月の海へ向かって、放り投げた。
 
 さようなら、何より綺麗な想いたち。



 そして私は、もう一度手紙を見た。今朝届いた、12枚の過去の想いの他の、二枚の手紙。
 一枚は25歳の、今日の私への優しいメッセージ。
 そしてもう一枚。私はまた小さく呟いた。

「貴方こそ、どうか幸せに……」


 京ちゃんが送ってくれた結婚式の招待状、そして同封されてた、京ちゃんと優しそうな綺麗な女の人が一緒に写っている写真に向かって。
 二人の笑顔は、とても幸せそうだった。



 ふと見た日取りは、9月10日。あたしの誕生日の3ヵ月後。
 あたしは思わず笑う。あぁ何だかあたしたちの誕生日みたいだね。何だか神聖な。深いつながりを感じてしまった。
 その3日後、京ちゃんの誕生日からちょうど3ヵ月の9月13日は。

 あたしとあたしの大切な人の、待望の赤ちゃんの出産予定日だ。



2005/10/01(Sat)11:50:07 公開 / 十魏
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■作者からのメッセージ
 恋愛の一つの形、といいましょうか。ずっと側に居た幼馴染って、恋愛かどうかはともかく、とっても大切なものだと思います。そういう思いを込めて、書いてみました。私の初恋も、ずっと側に居た幼馴染だったなぁとか思いつつ笑
 手紙や日記をベースにしたお話は書くの大好きです。読み手にはどのように映るかは、結構賛否ありそうな気もしますが……少しでも楽しんで読んでいただけたなら、嬉しいです。
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