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『本気で生きる』 作者:上下 左右 / ショート*2 未分類
全角1802文字
容量3604 bytes
原稿用紙約6枚







――なあ、お前って本気で生きたことある?

 全ての不要な物を排除した後のような真っ青な空。一組のカップルをまるで見守るかのように晴れ晴れとしている。
 季節はそれほど暑い時期ではないのだが、今日の太陽は二人の肌を焼くような勢いで照らしている。
 公園のベンチに座る二人。
 近くには日陰があるというのに、わざわざ二人はそこに座っている。
 暑いとはいっても汗を流すことはない。
 時折吹く風は太陽熱で温められた体を冷ますかのように、かといってそれほど強くはない心地のよいものだ。それによって二人はちょうど良い体温を保っている。
 そのまさに散歩日和な天気の中、男性が自分の彼女にそのような質問を投げかけた。
 彼氏と同じように空を眺めていた彼女は突然のその問いかけに驚いたが、すぐには答えることができない。

――本気で生きる?私は今も本気で生きているわよ。

 女は彼氏のほうを向き、そう返答した。
 それはとても軽い返事だったかもしれない。笑いながら答えた彼女は、珍しく見る彼の真剣な顔に少し後悔する。

――それは違う。本気で生きているんじゃなくてただ単に生きているだけだ。

 まるで、全てを見透かしているような目で見つめられた彼女は顔を真っ赤にして顔を逸らした。
 女の方はまた空を見て、今度は反撃とばかりの男に聞いてみた。
 
――じゃあ、あなたはどうなのよ。今まで本気で生きていたの?

 自分を見ていないことを確認しながらもまだ彼女のことを見つめていた男は一度下を向き、空よりもさらに上の、宇宙を見ようとしているかのごとき目で空を見た。そして、静かな声で答える。

――俺は、本気どころか普通に生きているのかどうかもわからない。
 彼女のほうは、一瞬男が何処かで頭を打ってしまったのかと考えた。
 今まではこんなことを言うどころか、普通に話をするときも真面目さが見られなかった男が、まるで哲学者のようなことを言い出したのだ。そう思ってもおかしくはない。それが普通の反応だろう。

――なんなのよ、その答え……。

 もっと立派な答えが返ってくるのかと思い期待していた彼女は拍子抜けしてしまった。
 二人の会話はそこで終了してしまい、風が吹きぬける音のみが二人の間を支配していた。




 一組の老夫婦が、綺麗に掃除された部屋の中にいた。
 真っ白なベッドに真っ白な壁。周りには医者と、何人かの看護士が囲んでいる。
 その何人もの人間に囲まれているベッドに寝ているのは男性のほうだ。老女は自分の夫の手を握っている。
 周りでは忙しそうに働いている医者も看護士も無視して、ただ握り締めている。とくに話しかけるということもしない。
 昏睡状態に入っている老人は目を覚まそうともしない。ずっと眠っているだけだ。
 心拍数が弱まっている。だからこうして医学の心得のあるものがこの部屋に集合しているのだ。
 老婆には何もすることができない。
 横で心拍数を教えてくれる機械が音をたてながら生存を確認させている。しかし、それは刻々と死へと向かっているのも同時に承知させる。
 
――なあ、本気で生きたことはあるか?

 寝たきりになっている老人は目を瞑ったまま、まるで眠っているかのごとき表情で自分の妻に尋ねた。
何十年も前に言われた言葉を彼女はまた同じ人物から聞いた。
 医者達は意識を取り戻したことに驚いたが、老婆はそれ以上にまたもその質問が飛んできた事に驚く。
 だが、今回は困ることなくはっきりと答える。

――私はこの数十年本気で生きていました。貴方を愛していた。それが本気で生きていたということ。
 
 まるで、今までの日常を思い出すかのような目で見つめながら老婆はそう言った。
 若き日を思い出している彼女。
 涙を流しているのに笑っている。喜んでいるのか悲しんでいるのかわからない状態。
 もう、ここにいる全員がわかっている。彼が目を覚ましたこと自体が奇跡。彼の命ももう、永くは保たない。
 男はそれ以上何も発することはない。それが彼の最後の言葉となった。
 静かに目を覚ました彼の顔は憑き物が全て取れたようなすっきりした、そして今までで最もやさしい笑顔だった。
 その安らかな表情を残したまま彼の心臓は停止し、先ほどからうるさかった医者も静かに黙祷を行う。
 部屋には唯一、心拍数を表示していた機械が音をたてているだけだった。 






2005/09/17(Sat)17:15:12 公開 / 上下 左右
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■作者からのメッセージ
こんにちは〜。他の方々に感想を書くのはいいが、なんか変なことしか書く事ができない上下です。迷惑かけた方々すみません……。
さてさて、どうも少し長い小説を書いているとSSが思いついてしまうものですね。今回の作品もそのときに生まれたものです。しかし、そのせいでなんだか中途半端な出来というか、題材に対してこれでは少しもったいないような気がしてならないのですよ、自分では。できれば時間があるときにこれの長編を書いてみたくなってしまいます。それでは、こんな作品を読んでくださった皆様、有難う御座います。
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