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『たんぽぽと太陽と、そして雲は』 作者:煌 / 恋愛小説 ショート*2
全角5784.5文字
容量11569 bytes
原稿用紙約17.9枚
初恋。たんぽぽにとって世界の中心は、雲ではなく太陽だった。同じ空の上にいるのに、かなわないものってある。そんな話です。
 おっと。
 たんぽぽの花をふんでしまうところだった。
 なんでこんなところに生えているんだろう。ブランコの柵のそば、なんて、いつ、何回踏まれるかわかったもんじゃない。つい舌打ちする。でも、こいつは好きでここに来たわけじゃない、んだよな。運命とか言ったらちょっとかっこいいけど、実際は風と親のきまぐれでしかない。
 で、ぼくが一歩下がってしゃがみこんだのも、きまぐれ。
地面におしつけられたたんぽぽの葉っぱが、干す前の洗濯物のようにみえてきた。右手で葉をそっと持ち上げて、しわをのばすみたいに葉の先端から根元まで、左手で砂や泥をおとしていく。晴れ続きで土がかわいているから、ごはんつぶより小さいありがぼくの前をとおりすぎるまえにおわってしまった。ついでだから、他の葉もおなじようにきれいにする。
 自分の花びらとめしべとおしべを持った、ひとつひとつのちいさな、ほとんど同じ大きさで同じ色の花のあつまり。誰もが太陽の光を求めていて、けっしてとどきはしない空に少しでも近づくために、皆で協力するふりして利用しようとしている。その争いは、自分たちが見つめている空の蒼からは程遠い、にごった川みたいな青色。花びらの黄色からは想像もつかない色だ。太陽の光を受ける生き生きとした笑顔は多くの人に好まれるし、公園のほかの花より目をひくんだけど、なんだかその姿は、卵の殻みたいにもろくて不透明にみえる。そう思うのは、ぼくだけなんだろうか。
「ひろくんはやさしいね」
 突然、左手のほうからともちゃんの声がした。見られたくないことをみられたわけじゃないのに、ぼくは葉をいじる手をとめてしまった。
 お気に入りのワンピース――黒地に大きいひまわりの柄で、ともちゃんのお母さんが作ってくれた――に、薄手の白いカーディガン。肩で切りそろえた黒いストレートの髪に、黄色のヘアバンドが映えている。今日は何故か、白にすこし灰色がかかった色の毛玉(みるく)を連れていなかった。笑顔が、砂糖を入れ忘れたクッキーみたいに味気ない。
「たんぽぽ、好きなんだ」
 ともちゃんがいるところ以外じゃあ道端の花なんて気にしなかっただろう。いつもなら、たんぽぽ以外の花ならなおさら、踏んでも気づかないか、気づいても放っておく。でも、たんぽぽだけは、特別だった。
近づいてくる、くっきりとした眉と大きくて丸い瞳。
 なんだか首筋がかゆくなってきた。急に頭の温度が上がっていく。それは、ぼくたちの上でいじわるな笑みをうかべている太陽のせいじゃないことはわかってた。長袖の服を着ていられるくらい、まだそんなに気温は高くない。着てからあんまり動いていないから、手のひらはともかく、額や顔はぬれていない。でもぼくは、
「……暑いね」
 額の汗をぬぐうふりをして顔を隠した。
 ともちゃんは何を言われたのかよくわかってなかったらしく、ぼくの顔を覗き込む姿勢のまま動かなかった。ぼくは目のやり場を探して、ゆっくりと立ち上がって空を見上げた。すると、ともちゃんもぼくとおなじように上を向く。
 前に水彩絵の具で描いた空より透明感があって鮮やかな青空に、みるくの小さかったころみたいに真っ白で丸く、抱き心地のよさそうな雲がひとつだけ浮かんでいる。その雲のほうが太陽よりずっと大きいのに、存在感は太陽に惨敗していた。
 目を合わせたくてもすぐそらしてしまうかもしれないけど、やっぱり顔を見たいから視線を左に移す。「みるくは、どうしたの」ぼくは、ぽつりとつぶやくように言った。ともちゃんとぼくの身長はあんまりかわらないのに、髪でかくれてるわけじゃないのに、空を見上げたまま黙っているともちゃんの顔がよくみえなかった。


◇◆◇

「あら、ひろくん、おはよう」
 おばさんが、薄い青色のチェック柄のエプロンをとりながらぼくたちのほうへ歩いてくる。女の子はお父さんに、男の子はお母さんに似ていることがよくあると言うけれど、ともちゃんは絶対お母さん似だ。ビィ玉みたいな黒い眼と、上と下と大きさのバランスがとれてる唇は特にそっくりだ。
「おはようございます。みるくに会いたいんですけど、おじゃましていいですか」
 エプロンを下駄箱の上に預けてしゃがみ、おばさんはぼくの頭をなでるように、右手を置いた。なんだかちょっと照れくさいけれど、おばさんの手はあったかくて、ホットミルクを飲んだときのように、ほっと、落ちつく。泡立てたせっけんみたいにやわらかく、なめらかな微笑。ともちゃんはこんなふうに笑うことがあるのかな、あるのなら見てみたい。
「居間のソファーに寝かせているわ。……大丈夫よ、みるくはもうおばあちゃんで、風邪をひきやすくなっちゃってるだけだから」
 無意識のうちに、ぼくは声や表情に、焦りや不安を混ぜていたらしかった。何でだろう。
 ともちゃんが握る手に、少しだけ力がこもった気がした。おばさんは、ぼくにしたように、ともちゃんの頭に手を置いて、あやすように言う。
「智、そんなに落ち込まないの。みるくが悲しむでしょう」
「だって……」
 言葉は続かなかった。黒い瞳が歪む。ぼくは、ともちゃんの震える手を、包むように握りしめた。ぼくの手はそんなに大きくないから、包み込む、っていうのはおかしいかもしれない。でも、包み込めるようになりたかったから。
てのひらはいつのまにか汗をかいていて滑りやすくなっていたけど、今、握っているこの手を離したくなかった。
 

◇◆◇

おばさんに連れられて、ぼくたちは手をつないだままみるくと対面した。
 白にすこし灰色がかかった色の、ぬいぐるみのような毛。走り回るときに揺れる大きな耳は垂れていて、ソファーにもうすこしでとどきそうだ。ふっくらとした見た目のわりに器用に動く足は体の下にあり、今は見えない。いつもどおりのみるくだった。でも、眼を閉じて、鼻の先も動かしていないから、ほんとにぬいぐるみになったのか死んでしまったのかと思ってしまう。
 なでてみる。みるくはぴくりとも動かないけれど、掌から伝わってくるぬくもりが返事代わりになった。
「ともちゃん、おみやげあげよう」
 つないでいた手を離し、さっき公園で摘んだ、みるくの大好物のたんぽぽとオオバコを、みるくの顔の前に置く。おいしそうで元気になれそうなのを、一生懸命選んできたんだけど。
 すこしだけ、鼻の先が動いた。うっすらとまぶたが開く。でも、青っぽい黒の眼に、生気は感じられない。昔ともちゃんが風邪の熱に浮かされたときみたいな、弱々しい眼。せきがひどくてほんとに苦しそうなのに、大丈夫だから、って無理に笑った。
 ぼくはなにもできなかった。ただ、そばにいることぐらいしか、できなかった。
 ソファーに肘をついてみるくの顔を覗き込むように座ってるともちゃんも、今、そんなふうに思っているのだろうか。いつもの笑顔は消えている。不安と心配がこころの器にいっぱいで泣きそうなのに、口をかたく閉じて必死にこらえていた。
 ぼくらは医者でもうさぎでも神サマでもないから、みるくの状態はどれくらい悪いのかとかみるくの考えていることはわからない。ただ、祈るしか、ない。
 ……でも誰に?
 祈れば助けてくれるなら、どうして悲しいことや辛いことがいっぱい起こるのだろう。
 初詣で、病気せず元気でいられますように、ってお願いしても病気になった。
 神社に行って、治してくれたら一生貴女を信じますって、何度も何度もお願いしたけど、叶わなかった。
 祈ってもとどくわけがない。神サマなんていないんだから。
 でも、今必死にお願いしてるともちゃんを見ていると、そんなこと言えなくなった。あのときのぼくにそんなこと言ってみろ。自分の無力さに自己嫌悪して、潰れてしまいそうになる。ともちゃんは、きっと泣きだしてしまうし、ぼくのことを嫌いになるだろう。それだけは避けたい。だって、そうなったら、ぼくのほうが潰れてしまう。


 ぼくとともちゃんはずっとみるくのそばを離れなかった。
 みるくは、くたびれたワイシャツみたいに寝込んだままだった。それでも、たまに背中や頭をなでると、表情がおだやかになる。枕元で母親の顔を見つめる子どもみたいなその顔は、一瞬だけ、仕事と家事で疲れきったおばさんみたいな顔にもみえた。
 普段は過ごせない、こういった、ゆったりとした時間が心地よい。って思っていたけれど。それはいろんな条件が満たされてはじめて訪れるものなのかもしれない。たとえば、そこにいる皆のこころの中が穏やかな状態だとか。
 もし、その時間を作らせないようにしているものがそこにいたら、ぼくはなにをするんだろう。
 そしてふといけないことを考えてしまう。この首を折ってみるくを死なせてしまえ、なんて。
最悪じゃないかと、ぼくの頭を殴るぼくの分身。単なる嫉妬だろ? 彼女はみるくのことばっかり考えてるからさあ。
そうなんだろう。たまにそんな感じの思いを抱いたことがあるから、言われるまでもない。でも、右手がみるくの首筋で止まってしまう。
 みるくは鋭いから気づいているだろう。でも、何も返事をよこさなかった。かってにしろ、とでも思っているのだろうか。ぼくのことを見透かしたふりしているのだろうか。
その推測を裏切って、ほんとにやろうかと、手に少し力を加えたけれど。できたのはそれだけで、それ以上強く首の骨を押せなかった。手だけじゃなくて、身体が強ばって、何故か汗が流れてくる。同時に、頭に誰かのか細い声が響いた。臭気がぼくの頭をマヒさせる。
 
 ぼくは耐えられなかった。
 手を離しても、みるくはまぶたひとつ動かさない。ただ息を吐くだけ。


◇◆◇

 見舞いのために、たんぽぽの花とわた毛を摘んできた。みるくにあげるのなら花だけでよかった。でも、ともちゃんはみるくにずっとくっついていて疲れているだろうし、ちょっとした気分転換になるかもしれない。わた毛は風に吹かれてしまって、ひとつも欠けていないきれいな球が案外なかったものだから、いつもよりちょっと遅くなってしまった。休日だからちょうどいいかもしれないけれど。
 チャイムを押す。

 返事はない。
車はないから、おじさんとおばさんは朝から買い物に行っているのだろう。ともちゃんはまだ寝てるのかな。腕時計は9時30分を指している。もう起きててもいいんじゃないかと思ったけど、ぼくが来るのが早すぎたのかもしれない。

 もう一度押してみる。

 ……やっぱり返事がない。
 なんとなく嫌な感じがする。外の道から見えるしすごくあやしがられるだろうけど、幸い誰も歩いていなかったし車も通っていなかったから、ドアに耳を押し付けてみた。周囲が静かすぎて、心臓の音がやけにおおきいように感じる。
 暫くその格好でいたけれど、何も聞こえなかった。仕方ないから、おじさんとおばさんが戻ってくるころにまた来ようと思って姿勢を正そうとしたとき、
 耳から耳へと勢いよく矢が通り抜けるかのように、ともちゃんの泣き声がぼくの耳を貫いた。
 ドアノブを握ってひねる。やっぱり鍵はかかっている。がちゃがちゃと音がむなしく響くだけで、びくともしない。
 手を放したとき、ふと、縁側の窓が開いていれば、すぐ居間へ入れるんじゃないかと、思いついた。玄関の右手にある、裏庭に直結する細道に向かう。

 ともちゃんはみるくを両手で抱いて、雨が降った後の砂山みたいに床に崩れ落ちていた。下を向いているから、顔は髪にかくれてよくみえない。ふつうの子よりすこし声の大きい子だなと思っていたけど、小さい子でもこんなに大きい声を出せるんだと思ってしまうくらい、今の泣き声はよく響く。
「ともちゃん……」
 どうすればいいのかわからなかった。どうしたら泣きやんでくれるだろう。ふと視界にたんぽぽが映る。いや、今は、それはどうだっていい。
 ぼくは、ともちゃんをそっと抱きしめた。
 ともちゃんは右手でみるくを抱いたまま、しがみつくようにぼくの背中に手をまわした。黒い髪が触れて、腕や指の間を、からまらずにさらりとおちる。ミントの匂いがかすかにする。香水の匂いは強すぎて嫌いだけど、この匂いはすぐ鼻になじんでしまった。顔はぼくのTシャツに埋まって見えない。でも、見えなくてよかった。ともちゃんの泣いている顔をこれ以上見ていたら、ぼくも一緒に泣いてしまっただろうから。そうしたら、ともちゃんはずっと泣きっぱなしで、ひからびてしまうかもしれない。いや、そうじゃなくてただ単純に、ぼくはただ、ともちゃんの泣いた顔を、見たくなかった。いつものように笑っててほしかった。あの黒いワンピースの中で咲いているひまわりの花みたいに、陽だまりの下で空を眺めながら笑ってる姿が、ともちゃんにはとても似合っている。
 だから、泣かないで。
 そうつぶやくように、抱きしめる腕に力をこめた。
 ともちゃんとぼくの心臓の音って、こんなに大きかったか。身体はこんなに熱かったか。どうにかなってしまいそうなくらいだ。頭がすこしくらくらする。腕時計の針は規則正しく動いているのに、時が今ここだけ止まってしまったみたいに、時間がたつのがとても遅い気がする。でも、このままでいてもいいかな、なんて思ってしまう自分をみつけて、殴りつけたい衝動にかられる。


 もう、3時間くらい経っちゃったんじゃないかと思ったとき、遠くでドアの開く音がした。いや、そんなに遠くないはずだ。ぼんやりしてたから、耳がおかしくなっちゃったのか。
「智、ただいまー」
 おじさんとおばさんの足音と声がだんだん大きくなる。
 ともちゃんは目をさましたかのように急に顔を上げて、僕の腕をふりほどいた。ほとんど一瞬のことだった。そのままおじさんのほうへ走っていくともちゃん。ふりむかない、一度も。
 ぼくはただ、ともちゃんの髪がゆれるのを見ていた。小さい背中を見ていた。
 気づくと、ずっと手の中にあった、たんぽぽの白い綿毛が欠けていた。ともちゃんがぼくを後ろに押した瞬間、ぱっととびちったのだろう。なんて弱く、はかない、たんぽぽのわた毛。







































今日、ともちゃんは一度も、ぼくの名前を呼んでくれなかった。
2005/09/16(Fri)23:28:28 公開 /
■この作品の著作権は煌さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初投稿です、はじめまして。煌です。
(多分)これが大学時代唯一の小説となるので、友人や身内以外の人にも感想や批評をもらいたいなと思って投稿しました。
よろしくおねがいします。
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