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『天の中心をわずかにずれ』 作者:へげぞ / 未分類 未分類
全角2948.5文字
容量5897 bytes
原稿用紙約8.85枚
 皇帝は恐れていた。
 いつか自分より優れた遺伝子をもつ人間が現れるのではないかと。
 だから、人間の突然変異体であるミュータントたちを弾圧していた。
 皇帝の地位は、古代の機械神により与えられたもの。
 古代の機械神はいった。
「すべてのヒトの遺伝子を検査した結果、おまえが最も優れたヒトゲノムをもっている」 と。
 そして、機械に選ばれたその人間は、自分の遺伝子を保存し繁殖するために、宇宙の中心として帝国を築くにいたったのだ。
 もし、自分より優れた遺伝子をもつものが見つかったら、機械は自分を見放し、その新しい者につくだろう。
 そうなる前に、滅ぼしてしまわなければ。

 辺境の惑星ジャガイムでは、一人の少年が旅立とうとしていた。
「いったいどうしたことだ。この少年の身分証は最優先で登録に割りこんでいくぞ。船の乗船許可が特等待遇になっていく。きみはいったい何者なのだ」
「おいら、ただの笛吹きだよ。笛を吹いてお金をもらってるんだ」
「バカな。この少年の財布は帝国金庫と直結してる。帝国の金をすべて使ってもいいというのか」
 切符係の男は、少年の身分証をうらやましがった。
「おじさんにこの身分証を譲ってくれないか。いや、力づくでも奪っていくぞ。これがあれば、銀河帝国の財政を一人で自由にすることができるのだ」
「ああ、ダメだぞ、おじさん。返してくれよ。おいら、困るぞ」
 その時、惑星軌道上の軍事衛星からレーザーが発射され、惑星上のビルのなかにいた切符係の男を瞬時に射抜いた。
 切符係の男は頭を焼かれて死んだ。
「この子供、軌道ネットワークの直接護衛対象だ。なんということだ。まるで、皇帝のような権利をもっているぞ」
 まわりの人々は口々に騒いだ。
「おいら、隣の惑星のサツマイムに行くんだ。笛を吹いて、いろんな星をまわってみようと思うんだ」
 少年はいった。
「気をつけろ。ひょっとしたら、この子供が皇帝なのかもしれない。あるいは皇帝のクローンなのかも」
「きみは本当に自分が何者なのかを知らないのかね」
「おいら、ただの笛吹きだって」
「ふーむ。事情も知らずにこんなことをいうのもなんだが、きみは一度帝国の首都へ行ってみるべきじゃないかな。きみは自分で知らないだけで、帝国の関係者なんだと思うんだ。それも、極めて位の高いね」
「おいら、旅ができるんならどこでもいいんだよ。それってどこにあるんだ」
「帝国の首都は、天の中心、北極星にある。すべての星の北となるべき聖地だ。そこでは皇帝を守るためにあらゆる設備が統一されている。危険かもしれないが、きみの運命がそこにあるはずだ」
 少年は薦められたとおり、北極星に行ってみることにした。

 北極星を中心に銀河帝国はまわっていた。
 少年は北極星につくなり、機械の検問に引っかかった。
「がはははは、おまえはダメだ。無許可なうえに、貴族の称号もないうえに、皇帝の下僕でない。おまえはこの門を通るのに不適格だ。残念だったな。おまえの命もここまでだ」
 機械の声ががなりたててくる。
 少年はいきりたって文句をいった。
「なんだよ、ちゃんと通してくれよ」
「ダメだ。通せないね。不適格なおまえはゴミだ。ゴミのように処理されるんだ。つまりは死んでしまえ」
「おいら、ここに真実を知るためにやってきたんだ。何で死ななきゃいけないんだよ」
 機械はそれを聞いてゲタゲタ笑って答えた。
「ムダだ。ムダなのだ。我々機械はムダを嫌う。人間の遺伝子などひとつあればいいのだ。それ以外など、すべて破棄されるべきゴミだ」
 機械は何度もゲタゲタ笑った。
「最も優れた遺伝子を持つのは皇帝だ。皇帝以外の人間の遺伝子など不必要だから、消えればいいのだ。だから、おれたち機械は人間をちょっとでもチャンスがあればどんどん殺していくことにしているのさ。おまえもただ、そのチャンスのひとつに引っかかっちまっただけなんだよ。おまえが死ぬ理由なんて、その程度。さあ、分かったら死ね」
 機械が少年に致死毒を撃とうとした時、一瞬速く最優先暗号が伝送されてきて、機械の動きをショートさせた。
「……バカな。おまえはおれよりも上位のシステムに守られていたようだ。人間の廃棄処理より重要なプログラムがまだ残っていたのか……。皇帝に会え。おまえは天球世界の真実を知るだろう」
 機械はそのまま壊れて動かなくなってしまった。
 少年は皇帝に会いに行った。

 帝国の最中枢に少年は導かれた。
 最高議会や枢密院の決定を自由に覆すことができる秘中の秘である場所だった。
 そこにはいる人々はみんな同じ顔をしていた。
 皇帝のクローンだ。
 皇帝のクローンが帝国の最中枢をすべて動かしているのだ。
「おや、皇帝の遺伝子をもたぬものがここにまぎれこんでいるぞ。まさか、古代神の予言にあった突然変異体ではなかろうな。ついに皇帝よりも優れたヒトが誕生したのか」
「おいらと帝国とはどんな関係があるんだ」
「待っていたのだ。おまえが現れるのを。行け。この奥に皇帝がいる」

 皇帝は生命模型のなかにいた。
 最も優れたキリンと、最も優れたライオンと、最も優れた極楽鳥と、最も優れたトカゲと、あらゆる最も優れた生き物たちと一緒に皇帝はいた。
「いつかおまえのような者が現れると思っていた」
 皇帝は堂々と真っすぐに立っていた。
「余は最も優れたヒトだった。しかし、今ではおまえが最も優れたヒトになったようだ。おまえのゲノムが認証されれば、余は廃位されるであろう」
 皇帝は一歩も逃げたりはしなかった。
「だが、余はどうするかをすでに決めてある。死ね。余は戦ってでも、この地位を守る」
 皇帝は0.1秒の速さで対人バズーカを発射した。
 しかし、少年はそれよりも速い速さで迎撃ミサイルを撃っていた。
 爆発が起こった。
 倒れたのは皇帝だった。
「おいらだって、簡単に殺されはしないさ」
「……おまえの勝ちだ。この解析機械に自分の血をたらせ。これは旧型だが、かつて全人類の遺伝子を検査した古代の機械神だ。この解析機械によって皇帝が決定される」
 そういい残して、皇帝は息絶えた。
 少年がいわれたとおりに血をたらすと、古代の解析機械が泣きはじめた。
「おお、おお、なんということだ。劣等遺伝子のなかから本当にキタより優れた遺伝子が生まれるとは。それなのに、わたしは検査に落ちたものをムダな遺伝子だと決めつけ廃棄しつづけてしまった。おお、おお、なんということだ。どうやら、わたしは間違っていたようだ。おお、おお、わたしはずっと検査を受けにきた人を殺しつづけてしまった」
 古代の解析機械はつづけていった。
「被験者よ、おまえは最も優れたヒトの遺伝子をもつものだ。ヒトの感情は三十七種類しかないが、おまえには突然変異によって三十八番目の感情が生まれている。その感情を“すべきらう”と名づけよう。おまえは最も優れたヒトとして、天の中心、北極星に君臨し、その遺伝子を繁殖させるのだ。われわれ機械はすべておまえに従おう。そして、これからはもうムダなヒトを廃棄するのはやめにしよう」
 こうして、少年が新しい皇帝となった。
 少年はみんなが幸せであれと命令したため、みんなは幸せだった。
2005/08/21(Sun)20:30:28 公開 / へげぞ
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■作者からのメッセージ
SF活劇。
題名だけ変えてみました。
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