オリジナル小説 投稿掲示板『登竜門』へようこそ! ... 創作小説投稿/小説掲示板

 誤動作・不具合に気付いた際には管理板『バグ報告スレッド』へご一報お願い致します。

 システム拡張変更予定(感想書き込みできませんが、作品探したり読むのは早いかと)。
 全作品から原稿枚数順表示や、 評価(ポイント)合計順コメント数順ができます。
 利用者の方々に支えられて開設から10年、これまでで5400件以上の作品。作品の為にもシステムメンテ等して参ります。

 縦書きビューワがNoto Serif JP対応になりました(Androidスマホ対応)。是非「[縦] 」から読んでください。by 運営者:紅堂幹人(@MikitoKudow) Facebook

-20031231 -20040229 -20040430 -20040530 -20040731
-20040930 -20041130 -20050115 -20050315 -20050430
-20050615 -20050731 -20050915 -20051115 -20060120
-20060331 -20060430 -20060630 -20061231 -20070615
-20071031 -20080130 -20080730 -20081130 -20091031
-20100301 -20100831 -20110331 -20120331 -girls_compilation
-completed_01 -completed_02 -completed_03 -completed_04 -incomp_01
-incomp_02 -現行ログ
メニュー
お知らせ・概要など
必読【利用規約】
クッキー環境設定
RSS 1.0 feed
Atom 1.0 feed
リレー小説板β
雑談掲示板
討論・管理掲示板
サポートツール

『ミリオンカリヴァー』 作者:日本戦士 / ファンタジー ファンタジー
全角8607.5文字
容量17215 bytes
原稿用紙約28.4枚

遥か昔、天地は七つの魔に因って混沌と化していた
人々は臆し、獣は怯え、光が差す事さえも許されなかった
剣の国オルゴーの若き王、アーク率いるオルゴー騎士団は、七つの魔を
討ち滅ぼす為に立ち上がり、国の象徴である聖剣を掲げて旅に出た
死の山を越え、火の海を渡り、邪の森を進み、闇の空を駆け、
遂に七つの魔を追い詰め、騎士団と七つの魔との壮絶な闘いが始まった
アークは全身全霊の力を求って遂に七つの魔を打ち滅ぼしたが、アークは
聖剣と共に粉々に砕け散り、闇の晴れた星空の彼方へ飛び散っていった
平和を見守る星々に変わったかの様なアークの最期を、オルゴー騎士団は
後生に渡って伝え続け、福音の光が、世界を照らし続けた

*        *        *        *        *        * 

黒い煙を尾の様に引きながら、汽車は薄暗い炭鉱街に辿り着いた。
正午だというのに採掘車が吐き出す蒸気と、常に周りに舞う塵が
天を厚く覆っている為、日光など申し訳無い程度にしか照らされていなかった。
繁華街も人の出入りは少なく、所々に立つ屈強な男達がやけに視界に写り、
まるで住人を監視しているかの様に見えた。
駅員に切符を渡した金髪の男は、辺りを見回した後、
腹が減ったのか駅近くの定食屋に向かった。
ボサボサの金髪に緑色の眼をした男、身長はあまり高く無く、170が良い所だろう。
入り口で金髪よりも何倍もデカイ大男が横目で睨んできたが、無視して定食屋の戸を押す。
店内には暗い顔をした炭鉱夫らしき人々が黙々と食事をしていた。
金髪は炭鉱夫達の注目を浴びながらカウンター越しに座る老婆に声をかける。
「おばさん、このお勧めのシチューってやつお願いね」
「…あなた、この町の人じゃないわね?」
金髪はカウンターに置いてあるメニューをぱらぱらと捲った。
「うん、ムーンガルドから来たんだ」
「第1星都市じゃないの、随分遠くから来たんだねえ」
「それより何かこの街って雰囲気が暗くない?」
「時間だっ!!早く仕事に戻れっっ!!」
突然表にいた頬に傷のある男が、手に抱えた棍棒を振り回して大声を上げた。
炭鉱夫達は疲れた顔で立ち上がり、遅い足取りでぞろぞろと店を後にしていった。
食器内にはまだ半分くらい飯が残ってある物もあった。
カウンターに黒っぽいシチューとパンが現れ、金髪はスプーンを手に取る。
「随分厳しいんだね」
「昔はこんなんじゃなかったのよ」
カウンターの奥から菜箸を持った茶毛の少女が顔を出した。
結構背が高い、長い髪を後ろに束ねてエプロンをした
可愛らしい顔に皺を寄せて、入り口を睨んでいる。
「早くこんな町から出た方がいい。この町はテーラードって男に支配されてるの」
煮込みを頬張りながら金髪の男は少女の話に耳を寄せた。
「昔はテーラードもいい人だったんだけどね、
5年位前から急におかしくなっちゃったんだ。
炭鉱夫が暴動を起こさない様に用心棒を雇って、炭鉱夫の作業をどんどん
厳しくしていった。何十人もの男達が倒れたよ、私のパパも…」
老婆は口の端を結んで少女に一喝した。
「エル、テーラードが聞いていたらどうすんだいっ」
「おばあちゃんもそう思うでしょ、少しは愚痴でも零さないと
イライラが溜まっちゃうの」
金髪は最期のスープを飲み干し、息をついた。
「見た目は危なげだったけど結構旨かったよ、御馳走様」
そう言って金髪がポケットに手を入れた瞬間、目つきが変わった。
ごそごそと身体中を探っている。額の汗粒が増え、顔色が青くなってきた。
「…金が…、無いや…」

沢山の具材が詰まった荷物を両手で抱え、金髪はエルと一緒に商店街を歩いていた。
エルは怒った顔をで腕を組み、ずんずんと前を歩いて行く。
「なあ、少しは手伝ってくれない?」
「何が少しはよ、あんた喰い逃げしようとしてたんでしょ!」
「いや、汽車に乗った時はあったんだよ、おかしいなあ」
「知らないわよそんな事!それにその小汚い鞘、剣が入って無いじゃないの」
確かに金髪の男がベルトに差している丸い緑色の宝玉が唾の辺りに付いた鞘には、
本来の意味である刀剣が納められていなかった。
その時、
『誰ガ小汚イ鞘ダ、コノ青臭イ子娘』
突然の声にエルは立ち止まり、金髪の男に振り返って手を上げた。
金髪はエルの掌を避け、首を横に振る。
「誰が青臭いですって!?」
「そんな事言ってないってっっ」
「馬鹿みたい!あんたどうしようもないわね!」
「あんたあんたって言うけど俺にはアクセルってそりゃ立派な名前が…」
「まだあんな不味くて汚い定食屋で働いているのかエル?」
その声を聞いたエルの足がぴたりと止まった。目の前には車が止まり、
窓から紅いコートを羽織った中肉中背の男がニヤついている。
次第に人込みが集まって車と二人を囲み始めた。
エルは顔が強張り、指が白く変色するまで拳を握っている。
「テーラードッッ」
「テーラードさんだろ?その目、お前も父親に似てきたな」
「お前がパパの事を言うなっっ!!」
「あんたがテーラードさん?」
集まった人込みからひょいとアクセルは顔を出した。
テーラードは急に顔を歪ませ、アクセルを睨み付ける。
「何だ、お前は?」
「丁度良かった、あんたが大事そうに抱えているその剣、見せて貰えるかな?」
アクセルはテーラードが抱えた紅い鞘の剣を指差した。
テーラードは慌ててコートで剣を隠し、大声をあげる。
「お前達、そいつを片付けてしまえ!!」
その言葉と同時に車の中から三人の大男達が現れ、剣や棍棒を構えて襲い掛かってきた。
アクセルは荷物を横に下ろし、腰に差した鞘を手に取って降り掛かってきた
棍棒をガードすると丁度前に出た大男の膝を踏み、鞘を男の鼻に叩きつけた。
そのまま後ろに倒れる男を足蹴にして、アクセルは舌で唇を濡らしながら
鞘を構えて他の大男達に向かっていった。
三人の大男を一人の小さな男が次々と倒していく様は、まるで、魔法の様に見えた。
大男達が全て地面で這いつくばると、人込みからは小さな歓声が轟いた。
アクセルは余裕の表情で鞘を車に突き付ける。
「さて、これでお終いかな?」
テーラードはいつの間にか運転席に座り、唾を撒き散らしながら大声で吠えた。
「お前等、覚えておけっ!!」
車は鉄鋼屋の鉄屑入れに衝突しながらも、猛スピードで来た道を戻っていった。
アクセルは一息ついてから鞘を腰にしまい、荷物を持って立ちすくむエルをじっと見た。
「炭鉱街の支配者、ってだけじゃないね?」
エルはまだ拳を握ったままだった。

「私の父とテーラードは親友だったの」
場所は変わり、二人は塵で汚れた灰色の河川で夕涼みをしていた。
と言っても太陽が見える事は無く、濁った空全体が紅く染まっているだけなのだが。
アクセルの横に座ったエルは次々と口から言葉を紡いで行く。
「10年前、二人で炭鉱会社を作って、数年で町を仕切れる位にまで成長したわ。
私はママが早くに死んじゃったから、お父さんの大変だった時期をよく覚えていた。
それに、父の相方だったテーラードも良く覚えてる。
優しく笑う父と違って、テーラードは大きな口を空けて笑う人だった。
正直五月蝿いって思った事もあったけど、凄く良い人だった。
でも、あの男は5年前にあるモノを炭鉱で見つけた辺りからおかしくなった」
アクセルは真剣な目つきでエルに問い掛ける。
「あの剣の事?」
エルは少し驚いた顔をしたが、直ぐに俯いて頷いた。
「テーラードはあの剣を自分で管理するって言い出した。父も別に止めなかったわ。
けど、その頃からテーラードは違法のやり方でお金を荒稼ぎする様になって、
パパはテーラードを家に呼んで当然テーラードの事を責めたわ。
その次の日、パパは炭鉱の事故で死んでしまった」
アクセルはエルの大きな目を見た、涙が溜まっている。
「軍の調査であれは事故って決まった。でもそんな筈が無いの、爆発物を管理していたのは
パパなのよ、そのパパが爆発の分量を間違えるなんて考えられない。
私は覚えてる、あの前の晩のテーラードの眼を。あの憎しみが籠った悪魔の眼を!
テーラードが殺したんだ、絶対に!!」
エルは涙を拭う事無く叫んだ、その為か涙が跳ねてアクセルの頬を濡らす。
熱い、とても熱い涙だった。
アクセルは頬の涙を拭う事無く、目線を川に戻す。
「そりゃ軍はテーラードから金を貰ってるんだろう」
エルは驚き、アクセルは目線を鞘に移した。
「こんな小さな街の有権者を敵に回す程、軍は格好よく無いって事さ。
現に今の状況は5年も続いているんだろう?5年もあればここから一番遠い
第6星都市、ジュピターナの軍司令部にだって話が届いている筈だ」
「そんな、軍まで裏切っているなんて…」
『何ヨリモソノテーラードトイウ輩ヲ押サエルノガ先決ダナ』
あの時の声がまた聴こえた。エルは頭を上げて辺りを見回す。
アクセルはその言葉に頷いている。
「でも“力”を使ってくれないとこっちに反応が出ないからなあ」
『何ダ?マタ俺ヲガラクタ扱イスルノカ?』
「ちょっ、ちょっと待って!アクセル、誰と話してるの?」
アクセルは思い出した様に鞘を持ってエルに向けた。
「へっ?」
緑色の宝玉に、エルの顔が丸々と写っている。
『マズハテーラードノ住処ヲ教エテクレ子娘』
鞘が喋った。エルの思考は一時的に止まり、始動したと同時に大声を上げ、
近くにあった木の影に隠れて声を震わせた。
「さ、さ、鞘、鞘が、しゃ、喋った、喋った!?」
アクセルは頭を掻き、普通に鞘に話掛ける。
「やっぱちゃんと話してからじゃないと」
『全ク、今ノ人間ハ少シノ事デ驚キ過ギダ。怯エテナイデ戻ッテコイ』
しかし、尚もエルは木にしがみつき動こうとしない。
『…ナラ其処カラ話ヲ聞ケ。信ジラレナイ事ダラケデ収集ガ付カナクナルゾ』
「エル、大丈夫だからこっち戻っておいで」
アクセルは笑いながら手招きを繰り返した。
エルは顔を顰めながら恐る恐るニ人(?)の元に歩み寄る。
『“ミリオンカリヴァ−”ハ知ッテイルナ?』
エルは肩を震わせて何度も頷く。
ミリオンカリヴァ−とは世界中で知られる最も有名な伝説の事だ。
地方に因っては多少アレンジがくわえられた話もあるが一般的に知られている話は
上記に記した通りである。
『イイカ、アレハ伝説デハナイ。真実ダ。俺ノ名ハ、アークランド・オルゴー、
俺達ハ飛ビ散ッタ聖剣ヲ探シテ旅ヲシテイル』
エルはまた思考が停止しそうになった。隣のアクセルが優しく補足を加える。
「えっと、ミリオンカリヴァ−が伝説じゃないかもって話は昔から言われてるじゃん?」
確かに様々な地域で剣を御神体とした宗教や団体は数多く存在していた。
「俺はある場所でこの鞘を見つけ、色々あってこの鞘と共に旅をしてる。
この鞘は、散らばる前の聖剣が納められた鞘らしいんだ。」
アクセルの補足にアークが続いた。
『七ツノ魔トノ闘イノ後、幾先年ノ時ヲ越エ、何故コノ鞘ニ宿ッタカハ分カラナイ。
ダガ、聖剣ガ散リ、七ツノ魔ガ再ビ魔力ヲ持ツ前ニ、“エターナルカリヴァー”ヲ
再ビ手ニ入レナケレバナラナイ』
エルはアークの言葉を頭の中で繋げ、答えた。
「何となくわかったんだけど、“エターナルカリヴァー”って何?」
『ミリオンカリヴァーノ意味ハ直訳デ“百万ノ聖剣”。コレハ星々ノ様ニ散ッタ為ト
言ワレテイル。シカシ、真ノ意味ハ全ク違ウ』
次はアークの言葉をアクセルが続けた。
「本来の意味は“百万の力を持つ聖剣”って意味なんだ。
エターナルカリヴァーはその百万の力を制御する事が出来る力を持った唯一の聖剣の事」
エルは二人の話を黙って聞いていた。いつの間にか震えは止まり、鼓動が激しくなっていた。
無理もない、子供の頃から祖母に夢枕で聞かされたお話が真実なのだ。
興奮しないで怯えている方がおかしい。
「それで、テーラードが持っている剣が、それかもって事?」
エルの言葉に頷くかの様にアークがタイミング良く答える。
『マダ分カラナイガ5年前ニマダ俺ガ誰ノ手ニ触レラレル事無ク倉ニ眠ッテイタ時、
散ラバッタ聖剣ノ力ヲ使ッタ反応ガ合ッタ。コノ地方モソノ一ツダ、可能性ハ高…』
ゴオオオオオオンンンッッッッ
突然闇夜の空が一瞬紫色に光り、地面が2度3度激しく揺れて
巨大な爆発音が空と地面に木霊した。
アクセルは驚いて鞘を落し、後ろを振り返る。
「なんだ!?花火か!?」
エルは爆発音を聴いた瞬間、身体中に汗が吹き出た。
花火。そんな華やかで、愉快な音じゃない。
「…!!おばあちゃんっっ!!」
エルは突然立ち上がり、振り返らずに町へ走っていった。
あの爆発音、あの発光、あの爆発は父を殺したものと同じだった。

「おばあ…ちゃん…」
エルが辿り着いた時、自宅でもある定食屋は完全に崩れてしまっていた。
大砲が当たったんじゃない、中から爆発した様な、粉々の崩れ方だった。
「おい!近くにいちゃ危な…エル!?無事だったのか!?」
店の常連だった炭鉱夫がエルを見つけ、話かける。
エルは炭鉱夫に気付くと掴みかかり、大声を上げた。
「おばあちゃんは!?おばあちゃんはどうしたの!?おばあちゃんは大丈夫なの!!?」
炭鉱夫は暴れるエルの肩を掴み、声を絞って頭を振る。
「…誰もエムばあさんを見ていない。もし中だったとしたら
あの状態じゃ、エムばあさんはもう…」
俯いた炭鉱夫を前にエルはまた崩れた我が家を見た。
大勢の炭鉱夫が慎重に木材や石版を取り除いていく。
エルの胸が大きく鳴った。感情が、支配される。
悲しみ、苦しみ、嘆き、嫉妬。涙が引き、感情が、一点に集中する。
…憎しみ。
エルは隙を見て炭鉱夫のジャケットからナイフを抜き、
全速力で走り出した。ナイフを握り、目を血走らせ、口から呪詛の言葉を何度も繰り返した。
「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してや殺してやる殺してやる殺」

人足遅くアクセル達も現場に辿り着いた。
炭鉱夫が叫び、子供が泣き、老人が祈る、そこはまるで、地獄の釜の底の様な光景。
アクセルは近くでウロついている炭鉱夫を捕まえた。
「エルは、先に来てただろ!?」
「ああ、あんたはさっきの。エルならさっきまで居たんだが、
…俺のナイフを持ってどっかに行っちまったよ」
そう言ってジャケットからナイフを入れていたらしき古ぼけた鞘を取り出す。
「何処に行ったんだ!?」
「…」
炭鉱夫はチラッと横目でアクセルの注意をずらした。
アクセルがそっと覗くと其処には間抜け顔をしたテーラードの手下が
欠伸をして作業を眺めている。
「…テーラードの所だな、有難う」
アクセルはそう言うと崩れた家を背にして走り出した。
場所なんて分からない、だが、本能が、走れと叫んだのだ。

「テーラード!!出て来い!!」
その頃エルは町はずれにあるテーラードの屋敷の前で
門番に掴みかかっていた。門番は声を荒げ、エルを突き飛ばす。
「さっさと消えろ!ぶっ殺すぞ!!」
エルは顔に出来た傷口を触り、ナイフを取り出した。一瞬門番の顔が強ばる。
「私は毎日包丁で肉を切り裂いてんだ!どかないなら容赦しないよ!!」
「エル、入ってこい」
その時、門番の後ろに構えた大きな分厚い鉄の門が開き、
余裕の表情でテーラードが姿を現した。右手にはあの紅い鞘に覆われた剣を握っている。
エルは門を潜るとそこには何十人もの手下が二人を囲んでニヤついていた。
テーラードは葉巻きをくわえ、笑っている。
「エル、一体私に何の様だ?私は忙し…」
「あんたがおばあちゃんを殺したんだろ!?パパと同じ様に、その剣で!!」
テーラードはエルの叫びを聞き、顔を歪ませた。
「…、何故この剣の仕業だと知っている?」
テーラードは紅い鞘からゆっくりと剣を抜いた。
白く輝く剣身には、無気味な紅い波紋が浮かび上がっている。
「やっぱり、お前かああ!!」
テーラードの言葉にエルは再び激情し、叫びながらナイフを向けて走り出した。
「全く、親子揃って私に因縁をつけてくるとは、愚かな連中よ」
走って来るエルにテーラードは剣を向けると、剣を彩った紅い波紋がするりと剣から抜け、
生きた蛇の様に一直線にエルに向かっていった。
驚いて身を伏せたエルの持つナイフに飛び掛かってきた紅い波紋は絡まり、
突然、紫色の発光と共に音を立てて爆発した。
爆発したナイフの破片がエルの腕や服を切り裂き、エルは小さく唸ってその場に倒れる。
「…な…なん…なの…?」
エルを襲ったナイフの破片はカタカタと震え、煙の様に抜け出た紅い波紋は、
テーラードの構える剣にゆっくりと戻っていった。
「お前がミリオンカリヴァーの真の理を知っていたのは多少驚いたが、冥土の土産に教えてやろう」
テーラードは剣先をエルに向けたまま近付き、髪を掴んで目の前まで上げた。
醜いテーラードの臭い吐息が、エルの鼻を突き刺す。
「そうだ、私がエヌの奴とババアを殺したのさ。この剣でな」
そう言ってテーラードは剣先をエルから近くにあった石柱に向けた。
すると紅い波紋はまた剣から抜け飛び、石柱に絡み付いた次の瞬間、
柱は一瞬あの光を放って大きな音を立てて爆発した。
紅い波紋は崩れた石柱の中から顔を出し、テーラードの剣に戻っていった。
テーラードは笑いながら剣を立て、剣に浮かぶ紅い波紋を見つめる。
「どうだ、可愛いだろう?火爆蜥蜴、“サラマンダカリヴァー”だ」
テーラードは掴んだ髪を離し、右の拳でエルの頬を殴り飛ばした。
「あの時、何故かエヌの入った炭鉱にこいつが忍び込み、奴が起動させた爆発に驚いて
サラマンダは爆発した。爆発の大きさに炭鉱は崩れ、不用心なエヌは事故によって死んだのだ」
尚もテーラードは唾をまき散らしながら口を動かし続ける。
「そしてつい先程、こいつはある不味くて汚い定食屋に迷い込んでしまった。
そしてあの黒いシチューにでも手をつけたんだろう。その不味さに驚いて爆発してしまい、
ガス管に接触して大爆発をしてしまったんだ。全く、運が悪い一族だよ」
テーラードは手下と共に高笑いをあげた。高笑いは星空を見せない黒く曇った空に消え、
エルは気力を無くして涙を流した。先程とは違う、全く熱く無い、絶望の涙。

「そして、お前は私を狙う蛮族と間違われ、私に殺されるのだ」
テーラードはうなだれているエルに向かって剣を向けた。
頬に剣先が刺さり、一筋の紅い線が頬を伝っていく。
「さらばだ、エル」
テーラードは剣を振り上げ、一直線にエルの後頭部目掛けて剣を振り下ろした。
「悪いがそうでも無いぜ、ここのシチューは」
突然エルの後頭部に鞘が現れ、テーラードの振り下ろされた剣は音をたてて
跳ね返った。テーラードは身体をよろめかせて後ろに下がる。
「き、貴様っっ」
エルの前には、鬼の形相とも言えるべき顔をしたアクセルが立ち塞がった。
俯いたエルにアクセルは腕をかけ、そっと眼を閉じ耳元に語り掛けた。
「俺がこいつを倒したら、おばさんは必ず生きている、だから、安心しな」
再び立ち上がったアクセルは、ベルトに差した鞘の柄部分に握った左手を当て、構えた。
まるで、其処にあるべき剣を引き抜くかの様に。
テーラードは笑って剣をアクセルに向け、大声で叫ぶ。
「馬鹿かお前!?剣なんぞ無いではないか!!お前達!!早くこいつ等を殺せ!!」
すると二人を囲んでいたテーラードの手下達は、津波の様にアクセルに襲いかかってきた。
アクセルが禍々しい人波に囲まれ、見えなくなった瞬間、
突然、この屈強な男達が、まるで紙人形の様に吹き飛んだのだ。
テーラードは剣を構えて冷汗を流している。
「っっ何だ!?何が起こったのだ!!?」
大量の砂煙が舞い、煙は急速に中心の何かを包んで渦を作っていく。
渦の中心では、アクセルが青白く輝く半透明の剣を、構えていた。
「数千年前、七つの魔を討ち滅ぼした英雄アークの記憶が造り出した聖剣の面影、亡霊、
それがこの“ファントムカリヴァー”だ」
アクセルが剣の名を告げた瞬間、青白い剣はより輝きを増し、テーラードの屋敷を包んだ。
光の中、エルは金属が折れる澄んだ音を確かに聴いた。その音を聴いた瞬間、
身体中を蝕んでいた憎しみが、光に洗われていく気がした。

「もう、行っちゃうんだね」
エルは汽車のホームでアクセルを見送っていた。
あの後家の下敷きとなった祖母であるエムは、奇跡的に一命を取り留め、今も病院で入院をしている。
「おばさんにも宜しく言っておいてくれよ」
「ねえ、これからテーラードはどうなっちゃうの?」
アクセルの隣に置かれたアークは、エルの質問にゆっくりと答える。
『聖剣を使ッタ者ハ聖剣ノ呪イガ掛カル。人ニ因ッテハ2度ト立チ直レナイ様ナ呪イガナ』
「そう、なんだ」
寂し気な顔をして笑うエルの表情が見えるかの様に、アークは続けて答える。
『邪気ヲ払ウ呪イダ。邪気ガ完全ニ払エラレタラ、記憶ハ残ルガ、昔ノ様ニ戻ッテイル』
「これからの頑張りはエル次第だよ、頑張ってな」
アクセルは手を出し、エルは涙をぬぐって手を握った。
「有難う、アークも、有難うね」
汽車は大きく汽笛を鳴らし、アクセル達が最初にこの街に来た時の様に、
黒い煙の尾を引いてゆっくりと動き始めた。
空は、神々しい迄に青く輝いていた。
2005/08/06(Sat)02:52:59 公開 / 日本戦士
■この作品の著作権は日本戦士さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
某掲示板に書いてた小説を
まとめた物です。
感想、酷評、宜しくお願いします。
この作品に対する感想 - 昇順
感想記事の投稿は現在ありません。
名前 E-Mail 文章感想 簡易感想
簡易感想をラジオボタンで選択した場合、コメント欄の本文は無視され、選んだ定型文(0pt)が投稿されます。

この作品の投稿者 及び 運営スタッフ用編集口
スタッフ用:
投稿者用: 編集 削除