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『星のプール』 作者:鈴乃 / 恋愛小説 恋愛小説
全角3105文字
容量6210 bytes
原稿用紙約9.75枚

 永遠の恋人、翔へ

   才能って、何なのでしょう?
   生まれる前から神様に与えられたもの?
   幸せになるためのもの?
   世界を救済できるもの?
   生きるために必要なもの?
   そう考えると全部間違ってる気がするよね。
   最近よくそんなくだらないことを考えてしまいます。
   頑張ったって出来ないこともあるし、頑張らなくったって出来てしまうこともある。
   そんなとき、才能って何だろうって思うんだ。
   よく教師が、「才能は九十九パーセントの努力と一パーセントの可能性で出来てる」
   って言うけど、あれを聞くだびにセンセの鼻を粉砕骨折させてやりたくなる。やりた
   くったって出来ないこともあるし、叶わない夢の方が多いんじゃないかなって思えて
   きて、最近はどうしようもない。
   あたしはこの謎がわからないままこの世を去ります。
   ずっと黙ってたけど実は、あたし癌なんだって。水泳選手なんて夢は叶わないってき
   っぱりお医者さんに言われちゃった。
   水泳選手は仕方ないから諦めたけど、もう一つの夢は諦めるつもりはないんだ。
   だから、今日こうして叶えさせてもらうね。最期の我がままを許してください。
   最期の夢は…――

    

 プールサイドに若い男がいた。茶色いスーツの裾を捲り上げ、靴も靴下も隣に脱ぎ捨ててある。むき出しになっている足だけをプールに浸けてプールサイドに腰掛けて、茶封筒を握っている。
 プールにはたくさんの星が映っている。鏡のように、或いは本物の宇宙のように。男はたまに足を動かし、星を歪ませる。
 まだ赤い日が顔を指している頃から男はずっとそこで同じことを繰り返していた。もう悠に三時間は経っているだろう。一向に動こうとはしなかった。
 そんな男がやっとのことで腰を上げたのは、それから一時間後のことだった。

 暗闇のプールサイドに、学生ズボンにワイシャツ姿で座っていた。靴と靴下は脱いであるが、水に浸けよう決して思えなかった。
「ばぁっ!! 」
「うわあっ!! 」
 足元から突然突き出てきた白い水泳帽をきっちり被った亮(トオル)が、満面の笑みで満足そうに俺を見上げてきた。そのうち「えへへー」と声を上げて笑いだした。俺は今、相当間抜けな顔をしているに違いない。
「ねねっ、翔、タオルとって」
 亮が俺に向かって両手を伸ばしてきたが、俺は腰を浮かせてフェンスに向かった。フェンスにくっつけるようにして置いてあるスポーツバッグの上に丸めて置かれていたバスタオルを投げると、あいつも一人でプールから上がってきていた。バスタオルは風に煽られたものの見事にコンクリートの上に落ちた。
 亮は見慣れた競泳用の紺地に青いラインの走る水着を着ている。その体は流線型をしていて、水着がよく似合う。男である俺が言うと微妙に変態臭いんだが。
 水着の上に方からバスタオルを羽織った亮の隣に俺も腰を下ろした。
「変な質問してもいいかな? 」
 まるで座るのを待っていたかのようにタイミングよく亮が口を開いた。目線はプールの水面、或いは底を眺めている。
 俺は軽く首肯した。
「翔くんは、生まれ変わったら何になりたい? 」
「は? 」
「もし、もう一度生まれてくるならだよ」
 俺は返答に困った。今がとても幸せだから生まれ変わりたいとか思わないし、だからと言ってそれが言えるほど素直ではない。正直言えば、「お前が隣にいれば何でも良い」になるだろう。
「特に、ないな。お前は? 」
「あたしはカジキマグロ! 」
 またしても俺はみっともないくらい間抜けな顔をしているだろう。カジキマグロって何だ? 魚だった気がするが、俺の気のせいか? それとも亮の頭がついにぶっちゃけたのか?
 「間抜けな顔ぉ〜」と亮が腹を押さえて笑い転げた。
「あのね、カジキマグロって言ったのにはちゃんと理由があるんだよ。カジキマグロってすごく速く泳げそうで羨ましいじゃない? 」
「俺にはさっぱりわからねぇ……」
 まだ笑いながら説明をした亮は本当に楽しそうに笑っている。涙が浮かび始めていた。しぶしぶ「あの、笑うのやめてもらえませんかね? 」と言うが効果ゼロだ。
「そういえばさ、泳ぐってどんな感じなんだ? 」
「うーん? 空を飛んでるみたいな? 」
 亮は答えてから「ヘンなシツモン〜」と再び笑い始めた。空を飛んでる感じとかいわれてもわからねーよ。
「翔も泳いでみればいいじゃん」
「あのなぁ、カナヅチに向かってその台詞言うか? 」
「うん、言う。練習もなしにいきなり泳げる人なんていないんですーだ。だから教えてあげるって言ったのに」
 ちょっとだけ頬を膨らませて、笑う。そんな亮はとても可愛かった。
 不意に、亮の顔から笑顔が消えた。
「水に入ると、細胞が溶けていく感覚があるよ」
「細胞が、解ける? 」
「うん。イメージだけどね、細胞が溶け出して水の一部になれるような気がするの」
 そういうと亮はバスタオルを肩から下ろして立ち上がった。そのまま歩いて飛び込み台に立つと、一度大きく息を吸って胸を膨らませる。その空気全てを吐き出すと今度はちょっとだけ胸を張り、直立。腰から深く体を曲げて、足をピンと張る。足が宙に浮いた瞬間、水の中をを飛ぶ魚を見た気がした。
 音もなく、水しぶきも上げず水中に潜った。
 こうなると亮はしばらく水中から顔を出さない。自己記録を更新するため、毎度毎度飽きもせず泳いではターンを水中のみで繰り返しているのだ。
 時計を持っていないからどれくらい経ったのかはわからないが、陸の上に一人で相当長い時間いるように感じてき始めた頃、ひょっこりと水中から白い水泳帽が現れた。
「ねぇ、あたしの鞄の中にある茶封筒とって!! 」
 フェンスわきのスポーツバッグ、さっきはタオルでわからなかったが口が開いていて、一番目立つところに茶封筒が乗っていた。
「取りにこい!! 」
「それ、あたしがいなくなってから中身読んで。あたしが翔あてに書いた手紙だから」
 そういうと、亮は仰向けに水の上に浮かぶ。まるで沈み易いベッドに横たわっているかのように。
 長い沈黙が続いた。
 その間亮はずっと星空を見上げていた。実際、顔が見えていないからどんな表情でどこを見ているのかはわからないが、顔は上を向いていたし、少なくとも俺を見ている気配はなかった。
 俺は黙って亮を見つめていた。
 不意に水面が揺れて波紋が立つと、初めからそこには何もなかったかのように亮は星のプールから姿を消していた。

 茶色のスーツの男は星のプールの真ん中をまるで海月のように力なく漂っている。波がないから浮いているだけなのかもしれない。
 両手両足を広げ、全身どこにも力をいれずそこに存在している。
 男の右手には茶封筒が握られている。水に濡れてぐしょぐしょで到底読めそうにない。
「お前があの時言ってた、水に溶ける感覚ってこういうことなんだな」
 天を仰いだまま、口だけを動かして呟いた。声は夜の闇に、或いは星の輝く空に飲み込まれていった。




   だから、今日こうして叶えさせてもらうね。最期の我がままを許してください。
   最期の夢は、あなたに愛されたまま水の中で死ぬことです。
   だから救急車なんて呼ばないで。翔はあたしをプールの中に仰向けに浮かべて家に帰
   ってください。だけどあたしを永遠に心の中に置いておいてね。
   こんなにも我がままでごめんね。

                                FROM 宮下 亮
2005/07/19(Tue)16:58:58 公開 / 鈴乃
■この作品の著作権は鈴乃さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 ここまで読んでくださった皆様に心の底よりお礼申し上げます。

 ぶっちゃけた話し、あらすじは大分前から出来上がっていたもののどう書こうかと悩んだ挙句がこれです(汗
 文才が欲しいーーーーっ!!と世界の中心で叫びたい鈴乃でしたw
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