オリジナル小説 投稿掲示板『登竜門』へようこそ! ... 創作小説投稿/小説掲示板

 誤動作・不具合に気付いた際には管理板『バグ報告スレッド』へご一報お願い致します。

 システム拡張変更予定(感想書き込みできませんが、作品探したり読むのは早いかと)。
 全作品から原稿枚数順表示や、 評価(ポイント)合計順コメント数順ができます。
 利用者の方々に支えられて開設から10年、これまでで5400件以上の作品。作品の為にもシステムメンテ等して参ります。

 縦書きビューワがNoto Serif JP対応になりました(Androidスマホ対応)。是非「[縦] 」から読んでください。by 運営者:紅堂幹人(@MikitoKudow) Facebook

-20031231 -20040229 -20040430 -20040530 -20040731
-20040930 -20041130 -20050115 -20050315 -20050430
-20050615 -20050731 -20050915 -20051115 -20060120
-20060331 -20060430 -20060630 -20061231 -20070615
-20071031 -20080130 -20080730 -20081130 -20091031
-20100301 -20100831 -20110331 -20120331 -girls_compilation
-completed_01 -completed_02 -completed_03 -completed_04 -incomp_01
-incomp_02 -現行ログ
メニュー
お知らせ・概要など
必読【利用規約】
クッキー環境設定
RSS 1.0 feed
Atom 1.0 feed
リレー小説板β
雑談掲示板
討論・管理掲示板
サポートツール

『チップ・チープの百鬼夜行 EP』 作者:春内けいく / 未分類 未分類
全角4131文字
容量8262 bytes
原稿用紙約12.05枚
   エピローグ 二十年後

「あれ? おっかしいなあ」
 ダンボールをひっくり返しながら神崎雄太は間の抜けた声を上げた。中身がめちゃくちゃに散らばって畳の一部を占拠する。雄太はそれを気にする様子もなく押入れの中から新しいダンボールを引っ張り出した。
「さすがにもう見つかんねーかな」
 言いながらガムテープの封を切る。中には古い雑誌がぎゅうぎゅうに詰まっていた。これには探すものはないと判断したか、雄太はそのダンボールを隅に追いやってまた別のダンボールを押入れから出した。
 時刻は夕方。場所は神崎家にある雄太の自室である。雄太は学校から帰宅してそのままダンボールをひっくり返す作業を始めたので制服であるブレザー姿のままだった。
「んー。いきなりなくなるわけはないよなあ」
 呟いていると一匹のゴールデンレトリバーが雄太の近くに寄ってきた。何を勘違いしているのか物欲しげな顔を雄太の太ももに寄せる。
「お前にやるものなんざ何もねえよ。しっしっ。あっち行ってろ、うたね」
 彼が手で追い払う動作をするとレトリバーはすぐに部屋を離れていってしまった。普段いうことをを全くきかないだけに雄太は少しあっけにとられる。
「んだよ、あいつ」
 一抹の寂しさを覚えつつ雄太は取り出したばかりのダンボールに取り掛かろうとした。
「ただいまー」
 そこで玄関から透きとおった声が聞こえた。どうやら雄太の母親が帰ってきたようだ。おおかた買い物にでも行っていたのだろう。どうやらうたねの奴は母親の帰還を敏感に察したらしい。すぐに母親が澄んだ声でうたねに話し掛けるのが聞こえた。
「ただいま、うたね。アンタのご飯も買ってきたわよ」
「お帰り母さん」
 雄太は部屋から顔も出さずに大声を出した。玄関からキッチン兼リビングまでは一本道で繋がっており、雄太の部屋は一本道の半ばにある。必然、その作りのおかげで母親は雄太の部屋を通り過ぎる。
「雄太、今日は早帰りねー。おやつも買って来たわよ……て、何やってんのよアンタ」
 買い物袋を提げた母親が通りすがら顔を覗き込ませた。畳一面を覆いつくすガラクタと空ダンボールの数々。久しく開かれた押入れからは微細な埃が宙を舞っていて煙たいことこの上ない。その惨状を目にして母親は生ゴミにたかる蝿でも見たような表情になる。
「あー、これはアレ……まあいいや。とりあえずおやつ食おう」
 説明するのも面倒くさく感じたので、とりあえず雄太はそう言った。

「つうわけでえ……俺はあのブリキのオモチャを探しているわけよ」
 バニラアイスをスプーンですくいながら雄太は説明を終えた。キッチンにはテーブルがあり、そこに雄太と母親は向かい合いに座っていた。この家の中で和風様式の部屋はなぜか雄太の自室だけである。そこにちゃぶ台と布団だけで置いて寝起きしている雄太にとってテーブルでの食事や勉強はどうしても落ち着かない気分にさせられる。
「ふうん」
 母親はあまり興味を示した様子もなくあいまいに頷いた。
「母さんがアレをどっかにやったわけじゃないよな?」
「しないよ。そんなこと」
 母親はアイスを頬張りながらそっけなく言った。
 神崎雄太の母親は神崎舞という。クラスメイトからは若くてなかなかの美人と評判の母親である。雄太からすればそう若いとも思えないが、今年三十六歳で十三歳の息子を持っていることを考えれば、まあ確かに若いのかもしれない。高校までは合唱部、大学ではアカペラをやっていたという舞はなるほど確かにキレイな声をしている。ただ雄太を叱るときには、その声はあまりにもよく響いてご近所まで伝ったりするので正直勘弁して欲しい。腰にまで届くほど長い艶やかな黒髪は舞の大きな特徴の一つだが、時たまトリートメントが大変だと漏らしている。だったら髪を切ればいいじゃん、と雄太は一回だけ言及したことがあるが、「そんなこと言ってるとアンタ、女の子にモテないよ」とむっとした表情で返されて以来髪形については何も言わないことにしている。
「でも、マニアっていうの? そういう人も案外近くにいるものね」
 アイスを食べ終わって紙容器を始末しながら舞が言った。
 雄太が自分の部屋でそのブリキで造られたロボット人形が転がっているのを見つけ出したのはつい三日前のことだった。舞や父親の神崎雄一の話によれば、それは雄太が生まれたての頃に雄一の買ってきた物であるらしかった。まだ幼稚園にも通っていなかった雄太はそのロボットを大切にしながら遊んでいたそうだ。雄太は全く覚えていないがそうであったらしい。
 やがて雄太がブリキ製ロボット以外のオモチャにも興味を示し、使わなくなってしまったので父は泣く泣くそのロボット人形をダンボールの中に入れ押入れに保管した。以来、雄太の物ばかりでなく神崎家で不必要になったものはダンボールに詰めて雄太の部屋の押入れに置いておくのが神崎家の慣習である。なんで俺の部屋なんだ、と雄太は文句を言いたくなるが「じゃあお前は押入れを使うのか?」と訊かれでもしたら「ノー」と答えるしかないので黙っている。
 それで何故ダンボールに封印されたまま十年近く押入れにあったそのロボットがここで出てくるのか。そこに薄気味悪さを感じずにいられず、そう両親に訴えた雄太であったが、母・舞の「どうだった構わないでしょう。何か悪さをするでもないのに」の一言で跳ねつけられてしまった。
 確かにブリキロボットは何もしなかった。ただ『家の中』でおとなしくしているのみであった。だが雄太の部屋においたままで学校に行ったはずであるのに帰ってきたらリビングのテーブルに座っていたり、しばらく眼を話しているうちに雄太の部屋に戻ってきていたり、これで恐怖を感じるなという方が無理な話である。しかし両親は(主に母が)笑い飛ばして相手にしてくれない。
どうすればいいんだ、と意気消沈するうちに学校の友人に相談したのが今日のことである。すると友人のひとりが「その人形、俺の親父なら買うかもよ」と言い出したのだ。聞けば彼の父親はブリキ製人形の熱狂的なコレクターであるらしい。そこで「あのお宝鑑定とかのテレビにも出たことあるんだぜ」と自慢げなのかヤケ気味なのかよくわからない態度の友人に二つ返事でOKを出し、今日は部活がないのもこれ幸いと帰ってきたのだ。あのロボット人形ともおさらばできて、しかも少なからぬ臨時収入まで入ってくる。雄太に断る理由などどこにもなかった。
しかしあれだけ不気味な存在感を放っていた人形が今度は跡形もなく消え失せていたのである。
 家中をいくら探しても見つからず、それで雄太は自室の押入れをひっくり返して捜索をしていたのだ。
「あーあ。折角の臨時収入が」
 雄太は椅子の上でのけぞって背筋を伸ばした。びきびきっと嫌な連想が浮かぶ音が頭の中にはしった。
「アンタが不届きなこと考えてるから先に逃げちゃったんじゃないの?」
 舞は丁寧にうたねの毛を梳き始めた。櫛で毛並みを整えられるゴールデンレトリバー。雄太の部屋とは違う木目を覗かせる床にごろん、と寝そべりながらうたねは心地よさそうに身をまかせている。
「ぞっとしねぇ。冗談にとれねえんだよ、この場合」
 雄太はぶるりと身を震わせた。道路を往行する人間や車の合い間を縫って錆と手垢に塗れたロボットがよたよた進む。まざまざと目に浮かぶようだった。
 自分の想像にひとり震える雄太を他所に、舞はどこか心ここにあらずという様子だった。うたねの毛を梳いてやりながらぼんやりと別のことを考えているようである。
「もしかして……近くに、来ているのかしら……?」
「んー? なにか言った」
 舞の呟きは雄太には上手く聞き取れなかった。舞は静かに首を振った。
「いつか繋がることはあるっていう……そういう話よ」
「わけわかんないんだけど?」
「あら、こんな時間。雄一さんが帰ってくる前に夕飯の支度済ませなきゃ」
 時計に気付いた舞は慌ててエプロンを装着しキッチンに立った。テーブルの上に置かれた櫛と舞を交互に見やってうたねが物足りなそうな顔を見せる。雄太は頬杖をついてふてくされた表情を作った。
「……無視かよ」
「今日のおかずはアンタも雄一さんも好きなカニクリームコロッケなのよ」
「今から作って間に合うのかよ。手ェ抜いたような料理じゃ親父もガックリするぜ」
「じゃ、ちょっぴり夕飯は遅くなるけど我慢してね」
「えー……ってそういう話してたんじゃないしっ」
 言ってからやれやれと雄太は首を振った。かなり強引なやり方で誤魔化された。母親が何を言っていたのかよくわからなかったけれど、わかったところでロボットが戻ってくるとも思えなかったし、考えてみればこれはこれでロボットを手放すことができたのだからこれ以上不気味な思いはしなくて住むのだ。
 舞は牛乳やら何やらを混ぜ始めていた。リビング側、雄太の方に背を向けたままで舞は口を開いた。
「あのね」
「ん?」
 舞が首だけで雄太を振り返った。舞は笑っていた。ただいつも彼の母親が見せるような純粋で活発な印象の笑顔とはどことなく違った表情だった。両目から雄太を包み込むような眼差しを向け、口元はうっすらと緩んでいるだけの、それだけの笑顔。水のように静かで雲のように柔らかい。そんな舞の表情を雄太はこれまで見たことがなかった。
「アンタのあのブリキの人形ね」
 舞は、言った。
「今ごろ五円くらいで売られてるかもね。御縁がありますように、なんてね」
「はあ?」
 ウインクする舞の顔は雄太の知る母親の顔に戻っていた。雄太は思わず嘆息する。
 わけわかんねえ。痴呆にはまだ早いだろう。つうか三十六になってウインクって……。
 雄太はキッチンとは反対を向いて窓から覗く空を眺めた。
 季節は冬だった。夕方を過ぎて乾いた空には夜の闇が澄んだガラスのように広がっている。都会の空では星なんて見られないけれど、その一番高い所には、ぼう、と淡い光を放つ丸があった。
 意味もなく雄太は、思った。

 今夜は、満月なんだな……。


<THE END/CONTINUE TO PROLOGUE>
2005/07/17(Sun)23:39:07 公開 / 春内けいく
■この作品の著作権は春内けいくさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
えと。EPです。エピローグなんです。
>これまでの「チップ・チープの百鬼夜行」を読み続けてくださっていた方々
遅れに遅れて申し訳ありません。「チップ・チープの百鬼夜行」は作品集の11にて更新されております。どうか読んでやってください。
>いきなりエピローグかよ!? と本文飛ばしてこの文だけを読んでくださっている方々
これは「チップ・チープの百鬼夜行」という小説のエピローグにあたる部分です。ここで会ったのも何かの縁です。作品集11に本編がありますので良ければ読んでやってください。
>いきなりエピローグから読み始めた勇気ある方々
ややこしい真似してすみません。でもエピローグだけ読んでいても本編も楽しめる仕様になっております。ここまで来たら読むしかありませんよね!

さて本編を読んでこのEPも読んでくださった方は、本編のふざけたような作品コメントにも目を通していただいたはずなのですが……
ごめんなさい。終わり方が二つだなんて訳のわからないことをしてしまいました。
けれどこれが僕の納得いく形での物語の締めくくりだったのです。その辺のご理解をば、どうかお願いいたします。
このEPまで読んでくださったあなたには、もう一度「ありがとう」の言葉を届けさせていただきます。
この作品に対する感想 - 昇順
感想記事の投稿は現在ありません。
名前 E-Mail 文章感想 簡易感想
簡易感想をラジオボタンで選択した場合、コメント欄の本文は無視され、選んだ定型文(0pt)が投稿されます。

この作品の投稿者 及び 運営スタッフ用編集口
スタッフ用:
投稿者用: 編集 削除