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『亡き骸は泣きながら』 作者:蓮永 / 未分類 未分類
全角4645文字
容量9290 bytes
原稿用紙約15.05枚

・亡き骸は泣きながら/前・





 ぽつりぽつりと臙脂色の街灯は連なって灯り出し、夜道を艶やかに照らし出す。
 道が続く限りに照らし続ける街灯はまるで、御伽の国に誘い込むようだ。夜陰の漆黒に交わる色彩も、奇妙できれい。
 そんなとある街。
 そしてここはとある古めかしい屋敷。
 広い庭園は殺風景で、窓に明かりは一寸も無い。更には存在を覆い隠すように端々が茶色に枯れた蔦が張り巡らされている。
 ただ、そんな不気味な屋敷だけれど、近隣の子供には好評を買っている。
 銀の目を持つ妖怪がすむお化け屋敷、と。
 夏になればコッソリ紛れ込んだ子供たちが悲鳴とも驚喜とも、さらには狂喜ともとれない叫び声をあげて駆け回っているのだ。
 ―――お化け屋敷!!
 実際に子供たちの表現は間違っていないし、むしろピッタリだ。けれどその屋敷の持ち主としては相当複雑な胸の内。
 確かに最近ちょっぴり庭の手入れはサボりがちだけれど。
 確かに最近ちょっぴり極度のインドアが祟ってカーテンを締め切り引きこもりがちだけれど。
 確かに最近ちょっぴり部屋の片隅に見事な巣を構える細蟹とはお友達になりつつあるけれど。
 改めて思い知った現状に屋敷の若主である彼、久瀬 律也はそっとため息をついた。

 律也は絵描きだった。
 彼の絵はピカソのように、抽象的で奥深くに眠っている魂から描き出したような素直な絵ではなく、かといってゴッホのように大胆な筆触、鮮やかで強烈な色彩に彩られたものでもない。
 幻想的で尚且つ曖昧、奇怪な世界観で奇妙な存在感を生み出す。
 何時間でも見つめていられる。けれど、見つめれば見つめるほど、まるで自分すらも絵画の一部分であるかのような錯覚を覚える。
 《魔女の指先》……不可思議な魅力を持つ絵を生み出す彼の指を周りはそう呼んでいる。
 魔女の指先を持つ若き天才画家。十七歳で大々的なデビューを飾った律也。
 けれど。…これらは全て昔の話。その栄光から五年経った今はあまりぱっとしない毎日を過している。





「………ふぅ」
 そんな彼はひとつ、疲れたような息を零す。
 木炭を傍らの机へそっと置く。炭で黒ずんだ《魔女の指先》で食パンを掴み、かじりついた。
 それはどことなく惰弱な、甲斐性なしな印象の強い男である。
 ポップな骸骨の絵が描かれたシャツに黒の長めのスラックス。部屋着としてしか使えなさそうなだぼっとした服ではある。
 縛った黒髪は背中に届くか届かないかで、まるで女のように長かった。
 そういえば髪を切りに行こうと決意してから半年くらい経っている気がする。ついでにアトリエに引きこもって一週間ほど過ぎた気がする。
(そうだ、そろそろ食材が底をつきそうだから明日くらいに買い物に行こう)
(そのついでに髪もばっさり切ってこよう)
 小さな決意を守れるかどうかは律也の意欲にかかっていた。……だが、何となく無理そうな気がする。
「……今日はもう寝てしまえ」
 ネコのように丸めていた身体をぐっと伸ばして律也は呟いた。一人暮らしだと独り言が多くなる。
 伸ばした瞬間身体の端々がバキバキとなったのは運動不足の証だろう。改めて言うのもなんだが律也はかなりひ弱だ。
 アトリエと証した自室には、数日前に描きあげた油絵が濃密な香りを漂わせている。
 半開きのカーテンから覗く硝子越しの景色は余りにも気持ち悪い。蔦の葉がピタリピタリと窓ガラスに張り付く。カエルの白い腹の様だ。
 熟した満月のひらひらとした明かりが、ぼんやりと律也の端整な顔立ちを縁取っていた。今宵はあまり星達が活気ではないらしい。
 保健室のベッドを連想させる簡易なパイプベッドに寝転んだ。白く清潔だけれど安っぽいタオルケットを手繰り寄せ抱締める。
 明日は何時に起きようか。
 好きなときに起き、気まぐれに絵を描き、時折出かけ、そして眠る。
 俗世との繋がりが蜘蛛の糸のように細いこのアトリエはいつ、何をするも自由。
 唯一外とリンクしている古めかしい掛け時計を見上げ、なんともいえぬ表情で息をつく。



 ―――カタン



 不意に小さな物音が響いた。
 眠りにつこうとしていた意識が脳の奥底から一気に迫上がる。
 風が窓を鳴らす、乾いたような音ではない。子供たちがはしゃぎすぎて鉢植えを破壊する、あどけない音でもない。
 間違いなく人、もしくは人と同型の何かが意図してこの屋敷に降り立った音だった。
 その瞬間、物音は確実に足音へと変わる。
 恐怖体験を愛する好奇心旺盛な子供だろうか。
 鬱蒼とした庭は好きなだけ遊べと開放しているものの、幾らお化け屋敷とはいえ律也の住まいなのだから不法侵入だ。
(……いや、流石にこの時間帯……ありえないか)
 自らの考えに首を振った。
 ここに遊びに来る子供は大体、小学校中学年くらいだ。親の監督もなしにそんな夜更けに出歩かないだろうし、親の監督があれば勝手に屋敷に入り込んだりしないはずだ。在宅時もドアの鍵も窓の鍵も、裏口の鍵も締め切っているから抉じ開けて入ったことになるし。
 ベッドに腰掛けて自問自答。サラサラと頬を滑る髪が邪魔で、もう一度ゴムで縛った。そして立ち上がった。
「……泥棒だったらどうしようかな」
(盗む物なんて何もないけど……と、絵があるか。でも絵画を盗む怪盗なんて中々居ないよなぁ……)
 泥棒でも子供でも、追いかけっこでは勝てる気がしない。負ける気満々。
 我ながら運動神経にはさっぱりと自信がないのが自慢なのだ。
 泥棒だか子供だか、姿形の分からないアリスの兎に誘われて。
 一週間ぶりに、律也はアトリエの扉を開き外へと駆け出した。





 濡れ羽の様な黒い髪は緩やかに靡き、日に焼けた様子のない肌はやや赤みを増し、茶色を帯びた眼差しは疲れたような色彩を見せていた。
 けれどその中に、かすかな好奇心が混じるのもまた事実。
一歩進むごとにドキリと高鳴り、また一歩進むごとにフワリと広がる。
 真っ暗な廊下を足音忍ばせて進む。あえていうならイメージは競歩だ。
 電気をつければ一発で見つけられるのだろうけれど、それは出来ない。正体不明のエネルギーに邪魔されているだとか、電気の配線がひとつ残らず切断されているからだとかいう、震え上がる様な恐怖を誘う理由じゃなくて。
 廊下の電球がひとつ残らず切れている、そんなとほほで間抜けな理由のお蔭で。
 真っ暗。そうは云っても、律也もだいぶ視界が開けてきた。元々ネコの様に夜目は利くほうなのだ。
 両親が好きだった絵が僅かに輪郭を浮かび上がらせ、左右からニッコリと微笑みかけてくる。それはぞっとするほど異様で不気味。


 ―――コツコツ……

 ―――コツコツ。


 途端、足音が止まった。すこし怠惰を引き摺るように進んでいたそれは、ぱたりと止んでしまったのだ。
 律也は少しうろたえ、歩を止める。
 不気味な絵画に囲まれた廊下を、コツコツ響く怠慢な足取りを追いかけている物だと不思議に勘違いしてしまっていた。
 いつの間にか摩り替わった思いに、小さく微苦笑を浮かべるより他なかった。
(……まさか本当にお化け屋敷になったっていうのは……ないんだよ、な……?)
 もし住み着いているなら家賃がっぽり頂いてやる。なんて。
 足音が止まった場所、それはもとのアトリエだった。どうやら一周してきたらしい。
 律也は絵描きになってからこの家に住みだした。しかし、住むと云ってもアトリエに篭りっぱなしで、屋敷内を歩き回ることなどまずなかった。そんな怠慢が昂じてだろう。律也は情けない事にこの屋敷の間取りを未ださっぱりと記憶していなかったのだ。
 律也は高鳴る心臓を押さえて、ギギギと煩いアトリエの扉を押した。
 そして、律也の油絵の前でしゃがみ込んだそれ≠ニ目が合った。そして悪びれなくそれ≠ヘ言った。


「あぁ…………今晩は、お邪魔しています……」


 薄く微笑する子供の姿が、そこにはあった。
 黒とは呼べない濃紺の髪色に、空にも似た真っ青な眼差し。白磁の肌は日に曝された事が無い様にも思えた。
 鳩の血のイヤリング、同じデザインのネックレス、そして貝殻の腕輪を何十にもつけている。
 そのイメージは童話に出てくる綺麗な姫君。隙の無い完璧な子供だが、どこか浮世離れした雰囲気。
 恐怖体験大好きな子供説が律也の中で一気に浮上してきた。最近の子供は本当に好奇心が旺盛だ。
 しかし、「今晩は」と微笑まれても、不法侵入者に「いらっしゃい」なんて云えるほど律也の心は広くはない。
 律也は床に座っている子供を一瞥し、訝しげに眉根を寄せた。眉間にくっきり浮かぶ猜疑の心。
「何処から入った?」
「……まずは誰、と聞くのが先ではありませんか?」
 くすくすと微笑む姿は、子供らしさを言うものがすっぽりと抜け落ちている。印象だけ捉えるならばどちらかといえば、妖艶で、可愛らしいなんていう形容が最上級に似合わなかった。
 さらに饒舌な敬語には見下したような大人びた様子も、年上の人間に心からの敬意を払う様子も無い。
 何の意味も無く使われる丁寧な敬語。子供は普段からこういう口調であるのだろう
 律也はとてもその子供が気に入らなかった。

 子供は大して気にした様子も無く、臆さず凛とした声でさらりと告げた。
「鍵が開いていました。書斎と思しき部屋の隣、何も置かれていない部屋の窓の鍵が」
 鍵を閉め忘れている箇所があったという戸締りの穴を突かれたのは妙に悔しい。ついでにこの子供の思惑通りに次は「誰であるか」を聞かねばならない事はさらに悔しかった。
 こんな子供に大人気ないと、二五年の歳月を経た理性が噛み付いてくるのだが、素直に聞き入れられない自分が律也の中には居た。
「誰だ?」
「蝶子です……因みに貴方様のお名前は?」
「……律也」
 ―――そっちが名前しか教えないならばこっちだって名前しか教えない。
「はい、分かりました。久瀬律也さんですね」
「何で苗字知ってるんだよ……」
「あらあら、家の標識は何のためにあるとお思いでしょうか律也さん」
 ―――ああ、そーかい。
 明らかに不法侵入者(その上子供)のペースであった。
 律也は苦虫を噛み砕き、疲労と苛々と困惑が綺麗に等分された溜息をついた。
「……肝試しがやりたいなら庭でやれ。お化け屋敷といわれようともここは俺の家……家宅への侵入は子供とはいえ犯罪だ」
「肝試し……? いえいえ、わたしはそういった用事ではありません」
 残念ながら目の前の侵入者は恐怖体験が大好きな子供、とは違うらしい。
 予想が外れたことに律也は少なからず残念そうな表情を見せた。
「無用の者が好んで来る家でもないよ、ここは」
「そういった用事ではないと、わたしは言いました。つまり別の用事で訪ねているということ」
「……用事?」
 反復して問いかけ返す。律也はおもむろに首を傾げた。そもそも用事があるからと行って不法侵入が許されるほど甘い世の中じゃないのだけれど。
 蝶子と名乗った子供は、あどけないこっくりとした青の眼差しに真っ直ぐ律也を写し、言った。
 律也の元に現れた、時計と同じく外とアトリエを繋ぐ存在……。

「血を少量、頂けませんか? 律也さん」

 ……かと、思われたのだが実は未開のファンタジーワールドと頼んでもないのに繋いでくれる存在だったようだ。
 凄艶たる微笑はとても甘ったるかった。




【続】
2005/07/02(Sat)10:01:46 公開 / 蓮永
■この作品の著作権は蓮永さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
お初お目にかかります、蓮永(はすなが)と申すものであります。皆様の圧倒されつつこっそりとお邪魔させていただきました。
初投稿ということで先ほどからキーを叩く指はカタカタと震え、心臓はばくばくと早鐘のように鳴り響いているわけですが……小心者の自分が心底情けないです;
至らない作品ではありますが、批評や感想など宜しければお願い致します。
最後に蓮永の噺を御拝読くださった方、本当にありがとうございます。
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