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『リトル・スノー 9話  』 作者:風間 リン / 未分類 未分類
全角12454文字
容量24908 bytes
原稿用紙約41.95枚

 少女は言った。
「寒いのはお好きですか?」
少女は白髪の、14、5歳のとても美しい子だった。白いマントに純黒のドレスを着た少女はそのまま膝間づく。
「今日から、貴方をお守りします。」


  リトル・スノー

 16歳。それがオレの年齢であり、そのまま彼女いない暦を指す。2年のオレは、受験勉強するような状況下でないため、というかやる気が無いため毎晩ネットは読書。漫画だけど。
 今日は少し寒い。いつも窓を開けて寝ているのだが、肌寒く耐えられなくなったので窓をしめようとした。

「閉めないで下さい」
か細い女の子の声だ。すぐ近くから聞こえる。
「だ、誰?」
「上です」
う、上!?ここは2階……。
「な、浮いてる!?」
「こんばんわ。大栗銀河さんですね」
何でオレの名前を知ってるんだ…ていうかメチャかわいいんですけど。
白いマントだ。少し短めの。黒いドレス…スカートの中が見えそうで見えない。…ってそんなこと思ってる場合じゃない!
「そうだけど…君は……」

「寒いのはお好きですか?」
ニコリと笑った。紫の瞳が月明かりに反射して神秘的だった。
「へ?」
「今日から貴方をお守りします」
 映画の中の王女様がするようなお辞儀をした。スカートの端と端をつまんで礼、っていうアレね。オレはただそれを眼を丸くしてみることしかできなくて、何が起こったのか全く整理できなかった。


 「私は死神です。でもまだ死神じゃないんです」
少女は部屋の真ん中にちょこんと座り言った。30分ほど前突然現れた少女は簡単な自己紹介の後、自分が現れた理由を説明するが、その相手はあまり理解していなかった。
「それって…」
少年が口を開いた。少年の名は槻木銀河。机の椅子に座って少女の話を聞いていた。きれいに整頓された部屋…というよりは必要以外のものは無いというような部屋はこぢんまりとしていた。
「今、死神は代替わりの時期なのです。私は死神の子で、一年間人間界で修行してその評価次第で新しい死神の妻となれるのです」
「妻…」


「銀河様は私の兄にあたります」
少女がサラリと言った。
「へ!?」
「あなたは今の死神王の実子です。私も、銀河様と同じ両親から生まれました」
「オレの両親は、下にいるぞ?」
「えぇ、肉体はあの人たちです。ですが魂は私と同じ親から生まれたものです。死神は男の子が生まれる確立が本当に低いのです。男の子が生まれた瞬間にその魂を同じ日に生まれた人間界の子の肉体に埋め込むのです。」
次元の違う話に益々頭が混乱する。そしてあまり信じれない。少女がニコリと笑った。
「今まで、死んでほしいと思った人が何かしら怪我をしたり病気をしたり…といったことはありませんでしたか?」
「……」
ギクリと心が揺らいだ。小学生のころ、自分ばかり悪いように仕向ける教師が死んでほしいと思ったとき、事故にあって大怪我したことや、友達と喧嘩した次の日にその友達が心臓麻痺で入院したことを思い出す。
「あるんですね」
またニコリと笑う。
「調査では銀河様は今まで3回ほど人の寿命を縮めてます」
「は!?」
「さすが、死神王の王子です。貴方はまだ力のコントロールができてないので、これをつけてください」
少女が首にかけたペンダントをはずして銀河に渡した。シルバーのペンダントで、髑髏の形をしていた。デザイン上では、自分の服に合わせやすいなーと思いながら恐る恐るそのペンダントを首にかけた。
「そのペンダントが貴方の力を少しずつ吸い取り、凝縮します」

「はぁ…で、君名前…」
「へ!?言っておりませんでした!?申し訳ありません!私、リトル・スノーと申します。小雪、とお呼びください。」
「こ、小雪…」
「はい、銀河様」
「よろしく」
「よろしくお願いします」
二人はニコリと笑った。



 銀河と小雪の生活が始まる。


 午前7時。規則的なアラームが部屋に響く。部屋の片隅のベットに眠る銀河。布団からゆっくり手を出し、すばやく時計のアラームを消す。上半身を少しずつ起こし、そして頭をボリボリとかく。ごく普通の朝だ。
「(やっぱりいるよな)」
 よろしく、と言ってみたものの半信半疑だった。現実とはかけ離れた世界の嘘のような話で、ましてやこんな見たこともないような美少女が平凡な自分のもとにやってきて、守るなんて…と。
 小雪は床に座って寝ていた。
「こ、小雪?起きろよ。おい」
銀河は恐る恐る声をかけた。起きる気配が無い。本当に気持ちよさそうに寝ている小雪の顔に太陽の光があたる。
「銀河ー?起きなさいよ!」
銀河の母の声だ。ついでに階段を上って、部屋に近づいてくる。
「(やべ!おかんだ!どうする。小雪のことがばれたら!)」
急いで飛び起き、小雪をつかんで押入れの中に押し込めようとしたが、押入れの襖に何かが引っかかってなかなかあかない。小雪はのんきに寝言を言っている。銀河の全身を冷や汗が覆う。どんどん近づいてくる、足音。

――――もうだめだ!

「起きてるならちゃんと返事なさい」
ドアを開くと同時に母の声。銀河の顔はつぶれたケーキのようだった。
「えと…これは………その……事情があって…」
泣きそうな声。
「何言ってんの。早くご飯食べちゃって」
そしてドアが閉まる。何事も無いように。銀河はそのまま硬直した。

「ん……あ、おはようございます。銀河様」
小雪がニコリと笑う。
「こ、ゆき…のこと、おかんにばれたかもしれん……」
またも泣きそうな声。そして、ヘナヘナと座り込む。
「あいつは思いこみが激しいっていうか、この前もクラスのヤツたくさん呼んで、文化祭の打ち上げしたときも、クラスの女子に『どの子が銀河の彼女かしら』って聞きまわってたんだ!」
「私の姿を見られたのですか?」
髪をときながら言う。まだ少し眠いらしく、声が寝惚けている。
「あぁ…そうだよ」
絶望感タップリだ。そんなにいやなのか銀河。
「大丈夫みたいですよ?」
「は?」

「大丈夫です。このマントは姿を消す働きがあるのです」
肩にかける短い白のマントの先をつまんでヒラヒラと動かす。
「え、でもオレには…」
「死神とその魂を受け継ぐ者、つまり銀河様のような方には見えます。ほかの一般人には見えません。それが肉親でも」
淡々と説明する。
「早く言えよ!」
銀河が叫ぶ。そして時計に目をやると7時15分を軽く越えていた。まずい、と立ち上がり、急いで階段をおり、着替え軽く朝食を口に詰め込んだあと、かばんを取りにまた部屋に戻った。
部屋では小雪がベットにすわり、何か本を読んで、そして何か呟いていた。
「あ、銀河様学校ですか?行ってらっしゃいませ」
ニコリと笑って言った。
「あ、うん…部屋のもの勝手に探るなよ」
得にベッドの下と机の一番下の引き出しは絶対に見るな、と忠告し急いで学校へと走って行った。

 いつものようにバスに乗り、いつものように校門をくぐり、いつものように友達にあいさつをする。そしていつものように教室に入り、担任がくる。だらだらと時間がながれ、そして昼になった。
 いつもパンを食べる銀河は、生徒の殺到するパン販売所。必死で目的のパンを買おうとするが、1週間に3日は大抵余り物。そんな日は軽く憂鬱。

「屋上行くかー」
 長い階段を上り、そして重いドアを開けた。一瞬強い風が吹き、そして屋上へ。少女が一人。

「あ、銀河様」
聞き覚えのある少女の声。日光をさえぎるように目の上に手をやり、もう片方の手は強い風になびく髪の毛をまとめていた。

「小雪…だよな」
一瞬疑う。それもそのはず。今朝まで白髪だった少女の髪が薄い栗毛になっている。服装は銀河の高校の制服。
「髪は、白いと目立つじゃないですか。あ、でも力を使う時やあのマントを羽織ったときは白髪に戻っちゃうんです。あ、力っていうの…」
エヘ、というような擬音が似合う顔。
「じゃなくて!何で学校に!」
「だって、いつ銀河様がどこぞの輩に殺されるかわからないじゃないですか…でも違うクラスになっちゃいました」
「ていうか、オレの命なんて狙う輩なんていないって…」


「お前、大栗銀河だな!命をもらいに来たぞ!」
 露出度の高い服を着た少女が大きな赤い鎌を持って飛んできた。肩には小雪と同じ白いマントをつけている。


「あ、こういう輩ですよ」
 一瞬笑った小雪は、耳につけていた小さな鎌のイヤリングを取り外し力をこめた。
大きな銀色の鎌が現れる。


 
 屈んだ状態から直った銀河は今朝までつけていた白いマントを急いで羽織る小雪を見た。栗毛だった髪が一気に白髪へ。そして、高校の制服が黒いドレスに変わっていた。大きな鎌を振りかぶり、そして襲ってきた少女に飛び掛った。が、少女も同じように、小雪の鎌を食い止める。
「あたしの名前はファイア・フラワー…焔花だ!」
 大きく叫んだ少女、焔花はそのまま宙を舞いそのまま大きく息を吸い込んだ。
「――!銀河様!伏せて!」
小雪が叫ぶ。一瞬すくんだ銀河はそのまま頭を低く屈めた。そして小雪は指を刺し、そのまま腕を天に向けた。その瞬間、空気が小雪の指先に集まっているのを銀河は見た。
 同時に、焔花が吸い込んだ息を思いっきり吐き出すように口から焔を出した。灼熱の焔が、銀河の周りを包んだ。

「……正室の子を、お舐めでないよ」
小雪がニヤリと笑った。紫の瞳に冷酷な笑みが浮かぶ。天に掲げた指を勢い良く振り下ろした。集まった空気が一気に焔花の身体と、銀河の周りの焔を包んだ。

「な、動けな…い……」
絞るような声。焔花の四肢が凍っている。持っていた赤い鎌は屋上の片隅に落ちている。
次第に、四肢を固める氷が広がって焔花の身体を包んでいく。小雪の顔は冷酷のまま、少しずつ近寄る。
「こ、小雪?」
銀河の声は届かず、小雪は氷漬けの敵を睨んだまま。

「貴方の主人はどこかしら…?」
「ご主人様は今ココにはいない!」
凍りついたままでも口は動くらしい。
「そう………貴方はドコで500年間過ごしたのかしら?私はね、極寒に地でこの肉体に魂を宿らせ暮らしていたの…。仮の身体でもね、ちゃんと栄養を取らないと腐っていく…貴方も良く知っているはずよね…」
 淡々と話す小雪をただ見つめる焔花、そして銀河。

 長い沈黙。破ったのは焔花。
「それが何ってい…」
「ビタミンは生肉で取るのがいいのよ!」
爪が伸びる。否、爪に氷を貼り付け、そのまま焔花の頬をかすらせる。
「ヒイィィィ!!」
焔花の悲鳴。屋上から学校中に響く。

そのとき、屋上のドアが開いた。

「焔花!」
男は焔花と小雪のそばまで駆け寄った。制服を着ている。どうやら銀河と同じ高校の生徒のようだ。銀河より少し小柄だ。
「ご主人様!…申し訳ありません。焔花は負けました…」
「いいんだよ…」
凍りつき、小雪によって切られた頬をやさしくなでる男。そして、首にかけるペンダントをはずし小雪に渡した。
「…どうぞ。お受け取りください」
「はい。確かに」
小雪がニコリと笑った。そしてそのままとがった爪でそのペンダントを切り裂く。ペンダントから何かドライアイスの煙のような気体があふれ、銀河のペンダントへと入って行った。

「上で待ってるよ。信二」
焔花はそのまま気体となり、消えて行った。
「あれ?オレなんで屋上に…?」
信二と呼ばれた男はそのまま階段を下りて行った。


「…な、何が起きたんだ?」
久しぶりに声を出した銀河。ゆっくりと立ち上がり、恐る恐る小雪に近づく。
「(生肉…)」
銀河の頭にはその単語でいっぱいだった…。



「つまり、死神界で生まれた女は100年間親の元で暮らして、その後人間の肉体をそのままコピーした肉体に魂を宿らせ修行をするのです。その後また死神界にもどって、学校に通い、今に至るのです。」
 得意げに話す小雪。銀河はあまり理解していなかった。
出窓に座る銀河、そして床にチョコンと座る小雪。6月の風は雨上がりで少し湿っぽい。最近新しく変えた緑のカーテンがわずかに揺れる。
「えーっと…で、今日のあの子たちは……」
「あの者たちは、私たちと同じ様な者たちです」
「えーっと修行?」
「…はっきり申し上げますと…これからもたくさんあぁいう敵が押し寄せてきます」
笑いながら、言った。
「はぁ!?何で!?」
「えーっと…王の代替わりの次期だとはもう言いましたよね。実は銀河様はその死神王候補なのです。今つけているペンダントがその印で、それは人間にはつかむことはできません。」
 小雪は銀河の机の上にあるノートを開いて鉛筆で何か描き始めた。
「…?ナニコレ」
「まぁ見てください」

 1銀河様は私の主人である
 2銀河様は7人いる死神王候補の一人
 3ペンダントを破壊した時点で、集められた力が勝ったほうのペンダントへ入っていく
 4その時点で候補は、パートナーのことやそれに関する記憶をなくす
 5残された死神は死神界へ帰る

 サラサラとノートの真ん中に書いていく。筆跡がキレイだ。
「帰っていった死神はどうなるんだ?」
銀河が言った。
「死神界で貴族の娘として結婚とかするんですよ」
「貴族!?結婚!?男は生まれないんじゃなかったのか?」
「男は普通に生まれますよ。死神王には、正室が一人と側室が何人もいて、死神王の実子の男は生まれにくいんです。実際、50人いる側室から生まれた子供は88人でそのうち男は銀河様を含む7人です」
 
 小雪が来てまだ2日。銀河は小雪の説明の度に驚き、戸惑う。そして本当に信じてよいものか、と考えさせられ小雪の顔を見てみるがこんな純真か顔が嘘など言うわけないと思っていた。

「私も、銀河様も正室、クイーン・スノーシルバーの子です。ちなみに私は末娘にあたります」

 初めて聞く母の名。

「写真…とか無いの…?その、母親っていう…」
 顔を赤らめて銀河が言った。小雪はクスリと笑い、銀河の頭に手を乗せた。そしてゆっくりと目を閉じた。
銀河の脳裏に、見たことのない風景が浮かぶ。白髪…というよりは銀髪の女性が立っている。純白のドレスを着ているが、こちらをみようとせずただ背中を向けている。
周りにたくさんの侍女を引き連れ歩いていった。

 そして映像が消える。

「申し訳ありません銀河様。候補は母の顔を見ることを硬く禁じられるいるので、ここまでしか……」
頭から手が離れる。一瞬、冷たい風…そう冷蔵庫を開けたときのような風が吹いた。
「いいよ。ありがとう…オレの母親が二人いたとしても、今は下にいるあの人がオレの母親だから」
頭をかきながら、恥ずかしそうに行った。そしてベッドに座り込む。

「えぇ、そうですね」
笑って、そして銀河は眠りについた。


小雪は窓を静かにあけそのまま夜空に消えていく。



死神の小雪が現れて早2週間。あれから敵は来ず、のんびりと時間が過ぎていく。毎晩少しずつ少しずつ死神について語る小雪。そしてそれをちゃんと覚えようと必死な銀河。いつしか一冊のレポートが出来上がっていた。

「ひゃー…すごいなぁ…死神ってのも大変だよな」
パラパラとレポートをめくる。我ながらよくこれだけまとめたと、自画自賛している。
「人間のほうが大変ですよ」
「…たとえば?」


「そうですね……人間はすぐ死にますね」

 沈黙。サラリといっただけに、冗談と取るべきかそれとも本気なのか。
「銀河様?」
 苦笑する銀河の顔を覗き込む。ハッと我に返る銀河。風にのって、さわやかな柑橘系の香りがした。小雪がいつも愛用している香水の香りだ。そのにおいに誘われてか、黒い蝶が時々部屋にやってくるようになったいたことに最近気づいていた。

「ていうか、その銀河様ってどうよ?」
「どうって…?」
「いやーいくらオレが小雪の兄貴でも…『様』っていうのは…」
流石に、堪えるらしい。というか一言でいう違和感。今までそんな風に呼ばれたこともなく、きっとこれからも呼ばれないような名前。
「そうはいきません!仮にも死神王の正室たった一人の男児である貴方様を呼び捨てには!」
いきなり立ち上がって叫び、そしてまた銀河に近寄る。

「……呼び捨てとかじゃなくてもいいから…たとえば……『君』とか…?」
途切れ途切れに恥ずかしそうに言った。
「ダメです」
ふいっと窓の外へ目をやる小雪。
「………銀河さんなら、いいですよ」
思いがけない一言に、小雪に目をやると珍しく紅潮した顔をしていた。

 散歩に出かけた。ただ何もすることが無く、勉強という道もあったが暇つぶしに勉強なんていうガリ勉は、ありえないと近くの川原まで来ていた。普通にトコトコと歩く銀河に対し、空を飛ぶことができる小雪は空中から銀河を見張るといいながらも一人で夕焼けの空中散歩を楽しんでいた。
 6月も末になり、日中は気温が高いため小雪は少し弱っていた。能力の特徴に合わせて肉体が作られる死神は、環境に合わない場合がある。つまり、極寒の地で長い時をすごした小雪の肉体は季節でいう冬に本領を発揮するのだ。
 
 そのときだった。

「大栗さんだよね」
小学生くらいの男の子だった。帽子を深くかぶり、そして手にはボールを持っていた。
「そうだけど?」
「僕はね、13人目の側室の子供なんだって」
「――!」
 
 銀河の背後から襲い掛かる女。薄い若草色の髪を一気にひとつにまとめた女だった。女は大きな緑の鎌を振りかぶり、そして銀河の背中を…切り裂いた。

「銀河さん!」
空中から急降下してくる小雪。すでに鎌は巨大化し、その若草色の女に切りかかる。

「ミドリ!がんばって!」
少年が叫ぶ。ミドリとは女の名前らしい。ミドリは髪止めに使っているピンを取り外し、小雪に向かって投げつけた。ピンは小雪の首元をかすり、血がでる。
 親指でその血を掬い、ペロリと一舐め。

「お舐めでないわよ」
小雪の目が変わる。その間も銀河の背中からは血があふれる。
「あなたの主人、早くしないとヤバイわよ」
「そうね。貴女には早くあちらに帰ってもらわないと」
「帰るのはあなたじゃなくって?」

 同時に飛び掛る二人。


 西に傾く太陽は空を橙色に染め上げていた。
息を切らす女が一人。若草色の髪の女、ミドリ。破れた服やところどころにある切り傷が、戦いのすさまじさを物語る。
そろえられた髪の毛は長さがばらばらになり、段を作っていた。左目から血があふれる。少年は端で泣きそうな顔をしている。銀河は沈黙のまま。

 2分前、同時に飛び掛った二人。鎌同士で迫り合い、また離れる。と、同時に小雪は人差し指を伸ばし、ミドリに向かって大きく振る。小さな氷の粒がミドリに向かって一直線。ミドリは周りの植物の成長を促し、目の前に草の壁を作り自分の力で覆ってそれを強化し、氷をよけようとする。が、氷は一粒残らず草の壁を貫き、ミドリの体を切り裂いていく。
氷の一つがミドリの目を直撃。
「――ぎゃぁぁああっっ!」
言葉にならない悲鳴が響く。

「お引きなさい」
小雪が声をかける。
「――っ…」
血の滴る左目を押さえ、右目で思いっきり小雪を睨むミドリ。…が、すぐにそれが止んだ。ミドリが軽く笑った。

「勝てそうにありませんわ。魔力で覆った私のグリーンウォーを破ったのは貴女が2人目です。」
「もう一人は貴女のお母様ですか?…貴女は強い。今日は帰りなさい。また戦いましょう…。」
 一瞬見つめあい、そしてミドリが少年の元へ駆け寄り少年の腰をしっかりつかむと、そのまま飛んで行った。

「――銀河さん!」
急いで駆け寄る。呼吸はしていた。傷はそう深くなかったが、ショックで銀河は気絶している。まだ暖かい首元を触って、安堵の表情の小雪。
 袖を捲し上げ、傷口に手を翳しゆっくり目を閉じる。白い光。そこから風が吹いているように小雪の髪が小さくなびく。


「……ん」
 頭を持ち上げる銀河。見慣れた部屋だったが、最後の記憶から大分時間がたっているらしく、自分が何をしていたのか数秒戸惑っていた。
「あっ!背中!」
右手を伸ばし、背中をさする。あるはずの傷が無い。
「………?」

「あ、起きました?」
窓から小雪が入ってくる。手には小さなナイロン袋が。
「小雪…」
「アイス買って来ました。食べません?」
袋からカップを取り出す。チョコチップの入ったアイスクリームだ。
「傷なら治ってますでしょう?私たちの魔力は人を治す力…いや、人を殺める力を持っているのです」
「…?」
「細胞の成長を促す力で、それを一気に流し込むことで内側から…逆に微弱にその力を当てると治癒能力を促すのです。銀河さんの傷もそうして治しました」
 小雪はアイスを差し出し、ニコリと笑った。悲しそうに。アイスを受け取った銀河の顔は少し曇っていた。

「…ごめん。オレが、ボケっとしてたから」
「いいえ。私は銀河さんを守るといって、怪我をさせてしまいました。…失格ですよね」
床を見つめ、ボソボソとつぶやいた。目にはうっすら涙が浮かんでいた。

「たった一回の失敗で、そんなにクヨクヨしてたらキリないぞ。…今こうして元気なのも小雪のおかげだし、結果オーライ…じゃないかな」
 カップの蓋を開け、その蓋をペロリと舐める。銀河の口の中にバニラの香りとうっすらチョコの風味が広がった。
 小雪が涙を一粒落とし、そして拭う。

「私の分はなーんとハーゲンダッツなのです」
袋から取り出したもう一つのアイスは抹茶アイスだった。


 朝、まだ学校に来たばかりで少し眠い。

「転校生と付き合ってるって?お前もやるな」
 前の席のめがねをかけた山田が、ニヤニヤしながら言って来た。ついでにその横に2名ほどオマケが。
「いや、何でさ」
軽い冷や汗。突然の質問に対して答えが浮かばず、口元をモゴモゴと噤む。
「帰り一緒なんだろ?」
「朝もだろが」
「てか仲良く喋ってるとこ見ちゃいました★」
 3人まとめて質問攻めで。銀河の答えは
「いや、まぁ…別に付き合ってるわけじゃないし。てかオレに彼女できないの知ってるだろ」
 イスの背もたれに思いっきり倒れ、迫り来る3人の顔をよける。休み時間、ザワザワと教室内がざわめく。
「だよなー。てかお前告白とかされるのに、絶対振るからなーアホだろ」
山田の顔が離れた。山田、モテたいのなら痩せろ。その太った体どうにかしたら望みは薄くは無い。
「てか小雪ちゃんかわいーよな」
友人その1。よく喋るが特別仲がいいわけではない。
「彼氏いるんだろうなー…前の学校のヤツとか…どっかの金持ちとか?」
友人その2。その1と同じようなモン。
「あー小雪にも彼氏いねーぞ」
サラリと一言。そしてノートを開いて、ラクガキ。昨晩みたロボットアニメの題名を忘れたので友人らに聞こうとそのロボットの大まかな形を描いていく銀河。
「おいおい、呼び捨てかよ」
「ちょっと怪しいんでないの?銀河君」
「あ、それってアレだろ…ホラ、昨日の6時からやってたヤツ」
 銀河のラクガキをみて山田が答える。他の二人は銀河が口走った「小雪」という呼び捨てに敏感に反応。そしてガシリと肩をつかみ、始業のチャイムがなるまでずっと「どんな関係だ」「付き合ってたら殺すぞ」「メルアド教えろ」とうるさかった。

 昼休みに友人3人に引っ張られ、やってきた6組の教室。美人の転校生を一目見ようと少なからず人が集まっていた。
小雪は教室の真ん中に群れを生した女子の輪の中心にいた。女子たちは小雪の長く細い栗毛で遊んでいる。みつ編み、おだんご、ツイン、しまいには軽い縦ロールなどなど…。文字通り遊ばれていた。

「ダメだ銀河。標的の周りには大きな壁がある。あれをどかすのはムリだ。ていうか近づきたくない、寿命を縮めるぞ」
その2。何て正直なヤツ。自分から誘ったくせに、女子の集団という一人だけではなんてことないが集団になると核爆弾に劣らない兵器と進化するそれに素直に撤退を申し出た。
銀河もそれに同意。

「あ…」
か細い声。兵器の中心から聞こえた。
「どうしたんですか?」
小雪が銀河のほうを見つめ、そして女子たちは睨んでいる。中にはニヤニヤと笑ってクスクス笑っている。
「こ、小雪ちゃん!?」
「山田、お前キャラ違うだろ。…いや別に。こいつらがこゆ…天界さんのこと見たがってたから、そんだけ」
 親指で友人らを指した。そのまま友人らをひっぱって廊下を歩く銀河。

「何もないのかよ」
「何もないよ。すまんな、つまらんくて」
「つまらん」


「ていうのが、今日あった」
ベットに寝転ぶ銀河。小雪はいつものように部屋の真ん中にちょこんと座る。そして笑いをこらえていた。
「人間って面白いですね」



 53円特売の甘ったるいピンクのジュースを一気飲み。学生という名の貧困。
「最近の女子高生はこんなモンをオイシイオイシイって飲んでんだな」
ジュースの容器である牛乳パックをゴミ箱に向かって投げるが、失敗。学校の横にある小さなスーパーのゴミ箱は、買い食いをした生徒たちのゴミでいっぱいいっぱいだ。渋々、ゴミ箱の下に落ちていた紙パックを拾い、ゴミ箱の中に押し込んだ。
「……オイシイ…」
銀河の横でポツリと小雪が言った。手には銀河と同じ、53円特売のピンクのジュース。目を輝かせ、付属のストローをチュウチュウ吸っている。
「人間界にはおいしいものがいっぱいあるんですね!」
「…いやぁ…何を今更。この前アイス喰ってたんじゃ…」
確かに、銀河が落ち込んだときに何処からかアイスを買ってきて、うれしそうに食べていた。


「アレはクラスの女の子に教えてもらったんです。『ヘコんだ時はアイスに限る』って」
 他愛ない会話。他にも、クラスのことなどを話していた。




「お、紫陽花だ」
民家の庭に青い紫陽花が咲いていた。そかにも淡い桃色の紫陽花もあった。
「紫陽花が咲くと、6月って感じだな」
「そうなんですか?…申し訳ありません。こちらの生活はまだよくわからないところが多くて…」
小雪が一瞬表情を曇らし、そして困ったように笑った。
 確かに、小雪が銀河の元にやってきて1ヶ月を過ぎるかどうか位だ。すぐに慣れろ、というほうが無理に等しい。


「今日はこっちの道行くか」
 銀河は小雪の腕を軽くつまんで引っ張った。いつも通る道を一本外れた、小さな小道だが園芸趣味の多い地域なのか紫陽花のほかに、白い百合や早咲きのひまわりなどが塀やフェンスを越えて小道にはみ出ていた。
「…ぅわぁ」
小さな歓声。花の一つ一つを確かめるように触っていく。
「死神の世界には花ないのかよ」
「ありますよ。魂を溜め込むことのできる、積魂花という花と、妃の証の殺草という花があります」
 あ、なんかそれっぽい、というような返事をしトコトコとその小道を歩いて行った。
どうやらこのあたりは数十年前の都市開発の時に一気に越してきた家族が多く、ほとんどがそのまま年老い、趣味は専ら園芸という一帯らしい。




小道を抜け、街の中心部にある大きな屋敷の前で立ち止まる。
「「あ」」
 少年と銀河が同時に声を上げる。少年の姿をどこかでみたことがあると銀河は思ったのだ。少年も同じように。
「アンタ…確か…ミドリって死神の」
「銀河さん、気をつけて。ミドリがいるかも…」
小雪が当たりを警戒する。すると女が一人屋敷の門から出てきた。
「周様、まってくださ…」
出てきた瞬間、小雪の存在に気づく。女は先日銀河に怪我を負わせたミドリその人だ。
「お、お久しぶりでございます」

ミドリが言った。


銀河の顔が少し青ざめていた。



 何度聞いたか、同じ言葉。




忠誠を誓います。



 その言葉が頭の中で繰り返されているにもかかわらず、ミドリは言い続ける。
周という少年、どうやら金持ちの息子らしい。大きな屋敷、広い部屋。たくさんの使用人。ミドリも使用人という形で屋敷に寝泊りしているらしい。
 もう襲う気は全くないことを確認した小雪と銀河は屋敷の客間に案内された。
「そんなこといわれても…」
戸惑いの表情。確かに、殺されかけた人に忠誠を誓うといわれても、むしろ恐怖が体を包むだけ。大きなソファーの横に座る小雪は、出された紅茶を静かにすすっているだけで何も言おうとしない。少年、周にいたってはミドリがいうならそれでいいと何とまぁ単純なやつ。
「小雪は…どう思うさ」
小雪の顔をうかがう銀河。ティーカップをテーブルに置いた。そして
「それは、銀河様が決めてください」と一言いうと、茶菓子として出された高級ケーキを食べだした。
 何で、そんなことを言い出すだとミドリに聞いてみた。ミドリは、小雪の強さに惚れたのだと、そして銀河からは王の素質があるのだと言い出した。
小雪の強さはまぁわかるとして、自分の王の素質なんてどこをどうしたらわかるのかまったく検討がつかない。

「んー…友達ってのは?」
「私たちはコレでも腹違いの兄妹でございます」
即答だった。ミドリの言葉が目線が銀河を刺した。

「だー!もう仲間ってことにしとけっ!」
 何もかもがめんどくさくなったような言い方…いや、むしろそうだった。この際何でもいいやという考え方だ。ちょうど小雪がケーキを食べ終えたところだったので、銀河は小雪に問う。
「いいよな、別に」
「銀河様がそう仰るのならば」
「てことだ、ミドリ」

 ミドリは深く頭を垂れた。

 その日の夜、銀河の部屋でいつものように過ごしている二人。
ふと思いついたように銀河が言った。

「オレさ、小雪が寝てるとこ見たのお前が来て次の日の朝だけだわ」
キョトンとした表情をする小雪。
「あれ?言ってませんでしたっけ?」
「説明するほどの事情があるのかよ」
ただ言ってみただけなのに、事情があって答えが返って来るとは思わなかった。笑って流されると思った。
「説明するほどのことじゃないですよ。私はその中で寝てます」
指した指は銀河へ。否、銀河の胸元。シルバーアクセサリー風の髑髏のペンダント。銀河の力を少しずつ吸い取るというアレだ。
「は?」
 小雪曰く、銀河が寝てから少したってその中に入って自分の寝るとか。
「別に入らなくても寝れますけどね。実際授業中に寝たりするんですよー」
その中で寝ると疲れやその類がすぐ取れて短い睡眠でも平気だという。

「なんだそりゃ」
「だから、私は銀河さんの一番近くで寝てるんですよ」
 一気に銀河の顔が赤くなった。その現象に気づかずにニコニコを笑みを浮かべる小雪。急にペンダントの重みが増した気がした。寝言は何か言っていなかったかと聞くと、それは秘密ですと笑われた。

「…聞くんじゃなかった」
「何か言いました?」

「いや、寝にくなったなって思っただけだよ」
「じゃぁもう寝ましょうか」
「イヤミか、オイ」
「もうこんな時間ですよ?」

 時計の針は午前1時を指していた。

「…そうだな」



 





 
2005/07/18(Mon)02:07:09 公開 / 風間 リン
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■作者からのメッセージ

え!?ラブコメ!?
違うよ!コレアクションだよね?(聞くな

更新遅くてごめんなさい。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい
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