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『−レクイエム−二章』 作者:結衣華 / ファンタジー
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天は地、地は天
天と地が交わりし時
世界は終焉を迎える―――
汝、死を恐れるべからず
汝――我が意志に従いし者よ
汝と我が集いし時、世界は救われる
さぁ、目覚めるがいい
世界を救うため
世界を守るため
そして…
汝と我が集いし場所は
世界の中心
人々の聖域
彼等はこう呼ぶ
天使と魔族が住みし【天界】と―――

序章
(…此処は何処だ?)
少年は真っ暗な空間を歩いていた。そこは何も見えず、何の音も感じられなかった。
(僕は何故こんな所に居るのだろうか)
少年は更に歩く。だが幾ら歩いても何も見えては来ない。少年は孤独感を感じた。
(…僕は死んだのか?)
彼は思い出そうとする。何があったのか、何故此処に居るのか。だが、思い出そうとすると酷く頭が痛む。
思い出すのを拒んでいるのか、それとも元からわからないのか。少年を孤独感と恐怖感が襲う。
(嫌だ…僕はまだ死にたくは)
その時、声が聞こえた気がした。耳を澄まさないと聞こえない程、小さな声。
(誰だ?何処に居るんだ…?)
少年は声の主を探して走り出す。すると声が近くなってくるのがわかった。
声は、少女のような澄んだ声をしていた。聞くだけで心が洗われそうな聖母のような、それでいて消え入りそうな声だった。少年は声の元へと向かおうと走り続けていたが疲れ果ててしまい、しゃがみ込む。少年を、再び孤独感が襲う。
気付けば、声は何時の間にか聞こえなくなっていた。
「助けて…誰か」
少年は聞いた。今度ははっきりと、助けを求める声。消え入りそうな少女の声を。少年は手を伸ばす。
何処かに届くかもわからないが、そうしなければいけない気がしたのだ。
しかし、予想に反して少年の指先は何かに触れた。暖かい、手の温もりの様な物を感じた。
あるいは、心の温かさなのか…少年は思わず『それ』を掴んだ。『二度と離したくない』そう感じた。
『それ』がとても大切な…まるで自分の心の一部であるかのように感じたのだ。
その時、声が聞こえた。少女の声が、まるですぐ傍に居るかの様にはっきりと。
『貴方なのね?私の…契約者は』
『…契約者?』
少年には解らなかった、契約者が何なのか。そしてこの声の主は誰なのか。
刹那、真っ暗な闇の世界が消えた。代わりに新たな世界が広がる。
この世とは思えない程美しい世界、豊穣の大地、澄んだ青空。そして、全ての命の源である海。少年は自分の目を疑う。
こんな世界は未だかつて見た事が無かった。これが人々が言う『楽園』なのか…?
その世界に見入ってると、隣から声がした。
『これが未来の世界よ』
『‥未来の?』
少年は問いながら声の主を見た。だが、顔がはっきりと見えなかった。
『そう、今の世界が夢見る世界。今の世界は汚れている、昔のような美しい世界に戻りたがっているのよ』
『そうなのか?じゃあ、今のようになってしまったのは何故なんだ?』
少年は解らなかった、何故このような話を聞かなければいけなかったのか。
少女は答えずに、ただ遠く遙か彼方を見つめている様にも見えた。そして少しの間の後、口を開いた。
『…選ばれたのよ貴方は、この世界を再構築する人として』
『世界の再構築?』
少女は少年の方を向く、だがやはり顔は見えなかった。
『ええ、貴方はこの世界を再構築しなくてはならないの。そうしなければこの世界は消えてしまう。だから、貴方は旅立たなくてはいけない』
『…何故僕が選ばれた?他にも人は居るはずだ』
『それは、貴方自身が知っていること。貴方は強き仲間を集めなさい、そして必ず私の元へ来て。そうすれば、この世界は…』
少女が語ると共に、世界が歪み始めた。
空は曇り、緑が消え、輝きを湛えていた海も…もはや生命の息吹は感じられない。世界そのものが黒く染まっている。そして、少女の姿さえも消えかけて――
『待ってくれ、僕はまだ良く意味が…!』
『お願い…、必ず私の代わりに…』
一瞬、少女の顔が見えたような気がした。だが次の瞬間、少年の意識はそこで途切れ――

=序章終幕=

第一章【目覚めの時−始まりの幻想曲−】

少年は目を覚ます。
体中が酷く痛み、何か気分的にも優れない。ふと、違和感に気が付き体を見ると手当が施されていた。さっきまでの夢のようなものは何だったのだろうか、いや…そもそも夢だったのだろうか。少年はベッドに寝かされていた、ここは民家なのだろうがあまりにも古い。壁は所々壊れており、床も数カ所穴が開いていた。少年はこの家を知らない、ということは今何処ら辺に居るのかさえもわからない。今の状況を把握しようと、起きあがろうとした。その時…
「まだ傷完治してないんだから動かない方が良いんじゃないの?」
少年は驚き声の主を見る、流石に急に動いたせいで傷が痛む。
「っ、誰だお前?」
「見た所あんた、旅の人に見えるけどなんで倒れてたのさ?しかも結構傷負ってたみたいだし」
少女はそう言いながら、透明なビンを投げてよこした。
少年はそれを受け取りつつ、中身を見る。どうやら痛み止めのようらしい。それを受け取ったのを見、少女は語り出す。
「自己紹介まだだったね、私はルキナ、ルキナ・ヒナサキ。此処等に来たのは最近なんだけどね、旅の途中なのよ」
ルキナとかいう少女は、見た目は16歳辺りで澄んだ青の髪と目を持っていた。プロポーションも中々のもので、結構な美人であった。
「旅の人ってことは、此処はお前の家じゃないのか?」
「此処は元々無人っぽかったから使わせて貰ってるだけ、で…君の名前は?」
少年は少々戸惑いながらも、ルキナがせっかく自分から自己紹介をしてくれたのを思い出す。しぶしぶ名を言う事にした。
「…僕の名前はロベル・ヴィルファルス。何故、こんな傷を負ってるのかもわからない」
「わからない?まさか…記憶喪失じゃないだろうね?」
「そうかもしれないな、今まで何処に居たのかさえも思い出せない…」
ルキナはそれを聞き、困ったような顔をして前髪を払う。
「あ〜、これはめんどい事になった…まぁ名前覚えてたから助かったけど。んで、ロベルはこの後どうするのさ?てか、どうして自分の住んでた所から出たのさ?少なくとも、此処ら辺あんたの故郷でもないっぽいし…」
ルキナのその問かけに、あの夢の事を思い出す。そして少々気が付く
『ルキナの声とあの時の声、似てるかもしれない…』と。そして、あの時少女に言われたことを思い出す。今はそのことしか思い出せないので、言う。
「…どうしてかはわからないが、世界を再構築しなければいけないらしい。それで僕は旅をしてたんだと思う」
「世界の再構築?ぷっ、あははは!」
ルキナは一瞬考え込んだかと思ったら、腹を抱えて笑い出したのだ。流石に急に笑われ、ロベルも頭にきたようだ。
「笑うな!なんで僕なのか知らないが、唯一覚えてることがそれだけなんだ…だからだよ」
ロベルは痛む体を無理矢理起こし、ルキナを睨む。ルキナも、笑うのを辞め一旦息をつき喋り出す。
「あぁゴメン、んでも何でロベル…今までのこと忘れてるのにそれだけは覚えてるんだろうね。何か見たり、お告げとか聞いたりした?」
「…『夢』なら見た気がする、それで顔は見えなかったが少女に言われたのさ。『貴方は世界を再構築しなければならない』と」
「夢、ねぇ…」
ルキナは額に手を当て考え始めた、だが彼女は全く知らないわけでもなさそうな…そんな表情をしていた。
「そういや何でロベルじゃなきゃいけないんだろうね…別に他に人は腐るほど居るってのに」
「わからない…、その理由を確かめるべく僕は旅をしていたのかもしれないな…」
真剣そうなロベルの表情を見、ルキナは昔に言われたことを思い出す。
(そういやルリが言ってた。何時かは世界を再構築しないと、全ての世界が消え去ってしまうと…)ルキナは考えるのを辞め、ロベルの方を見て何か決心したようだ。
「よし!なんなら私もその旅手伝うよ」
「…は?」
ロベルは一瞬自分の耳を疑った。ルキナが旅を共にする?会ったばかりだというのに。だから彼は、迷っていた。
何もかも忘れてしまい、それに今はこんな傷を負っている。ロベルは恐れていたのだ、自分が足手まといにならないかと。そんな様子を見ていたルキナがロベルに言う。
「んまぁ…、完璧にあんたを信用してるわけでもないけど。だけど、ロベルここら辺のことわかる?それにあんた今怪我してるじゃない、絶対一人じゃ危ないって」
「それはそうだけど…」
ロベルがそう悩んでると、彼女は少々天井を仰ぎ…そして彼の方を見る。
「ま、仲間は少しでも多い方が良いじゃない」
「そうだな…それじゃ、よろしく頼むよ」
「おっけ、よろしくロベル。で、あんた今この世界がどんな感じなのかもわからないよね?」
「ああ、さっぱりな」
「ふむふむ、そうか…ならまずそこから説明する必要ありそうだね」
ルキナはそう言うと、荷物から古びた地図を取り出し彼の前に広げる。その地図には、ロベル達が住んでいると思われる世界と、その世界を挟んだような形で書かれている世界が二つあった。
まず彼女は、真ん中の絵を指し語る。
「此処が、私達【ヒト】が住んでいる世界『人間界アイベル』。そして上に、つまりアイベルの上にあると伝えられている『聖界ボルテルク』。で、下に書かれている世界が未だに誰もたどり着いたことがないと言われている世界『天界ファイベルク』この地図は、想像から生まれた物らしくて本当にこうなっているのかは誰も知らないみたい」
「想像から生まれた地図?」ルキナは軽く頷き、話を続ける。
「そう、私も何処で手に入れたのかもう忘れちゃったけど…この書き方からしてもう数百年前の物にも見える。それに、保存状態も悪いせいかボロボロ。鑑定人にも見せたことあるけど、『今まで見た事もない地図』とか言ってたし」
「そうか…、で僕等が住んでいると言われるアイベルだかの今の状況は?」
「…」
ルキナは急に黙ってしまったが、何もなかったかのようにまた別の地図を広げる。
それには大陸のようなものが書かれており、上に『アイベル』と書かれてあった。
「ここら辺が私達の現在地、そして此処が…」
彼女はそう言い、一番大きい大陸の中心部にある都市を指す。
「此処がこの世界の中で一番大きい都市、人間界アイベルを統率している都市『ローゼロンズ』。王であるフェイルロストを護衛している軍の本拠地にもなってる」
「王…フェイルロスト…」
ロベルには何か引っかかった、その名前が。しっかりと覚えているわけではない、だが何処かで聞いたことのある名ではあった。
もしや自分は昔王都に居た?
「…何か思い出した?」
ルキナが問いかけるが、やはりはっきりとはしないことだったので首を横に振り答える。彼女はそれを見て、残念そうな表情をしつつ話を続けた。
「その護衛軍は、今は各地に駐屯地を作り治安を王の代わりに保ってる。私達が居る近くにも駐屯地あるっぽいし、気を付けないと軍のお世話になっちゃうかもしれないからね」
「軍だけは出来れば関わりたくないな」
「私もよ、軍に居たって良いこと何もありゃしなか…」
「…軍に居た?」
ルキナは言いかけて辞めたが、ロベルには聞こえてたらしい。彼女は焦ったような仕草をしながら、否定する。
「ぁ、いやその、居たって良いことないだろうなーって言おうとしたのよっ!」
彼女のその言葉に少々疑いを持ちつつも、ロベルは最終的にルキナのミスととっておくことにした。その後も、近くの街のことなどを説明し終え彼等は旅にでる準備を始めた。その時に、ロベルは自分の剣を鞘に収めながらルキナに問いかける。
「…ルキナ、本当にお前軍人ではないよな?」
ルキナはロベルの方へ背を向けたまま、答える。心なしかその声は、何かを込めたような声だった。
「否定はできない、だけど今は言うことは出来ない。後に知るだろうからね、それでロベルはどうする?私が軍人、もしくは敵だったら」
「…わからないな、その時による。もし本当に敵だったら容赦はしないと思う」
「そっか」
そう言い、ルキナは剣を腰の鞘に収め彼の方へ振り向く。
「ま、今は仲間なんだし気楽に気楽に。まずは一番近い街に行こうか」
「…ああ」
ルキナが先に出て、ロベルはその後に続く。その時、ロベルは願っていた。
『ルキナが敵になることがないように』と…。

=一章終幕=


第二章【二つの顔−罪人の聖歌−】

民家らしき家を出てから二時間程経った今でも、彼等は未だに森の中を歩いていた。人気もなく、辺りには獣の声と風のざわめきしか聞こえない。ルキナがたてた予定では、既に近くの街へ着いても良い頃なのだが、辺りには鬱蒼とした木々と何の種かわからない植物があるだけ。地図を持っており、この辺に少々詳しいと言っていたためにルキナを先頭に歩かせ、その後をロベルがついて行く。だがロベルは何時負ったかもわからない怪我のせいで、少々ペースが出せないでいたようだった。先ほどから道無き道を、危機感や恐れることなくどんどん進んで行くルキナに、ロベルはふと思ったことを聞く。
「なぁ…、さっきから同じ景色しか見てないような気がするんだけど…まさか迷ったとか言わないよな?」
その一言に、ルキナは思わず進めていた足を止めてしまう。
腰に手を当て、ロベルの方向を向かないために顔は見えなかったが声で焦りを感じていることがすぐにわかった。
「…ば、ばれた?」
ロベルは少々軽く溜息を漏らし、汗で額に張り付いた不気味なほどに綺麗な藍色をした前髪を払う。
「…はぁー、お前な『道なら大丈夫だから任せておいて』とか言っておきながらこれか」
「う…、さっきから何か変だとは思ってたんだけど」
「それを早く言ってくれよ…」
ロベルは少々疲れも溜まり、足も痛み始めていたので近くの木へ腰掛けた。まだこんな道を進むのかと思うと、気分が元々上々でなかったために、更に凹んできた。喉が渇いていたために、水を飲もうと水筒を取り出し口へ含む。よっぽど喉が渇いていたのか、何時も以上に水が冷たく感じられた。彼が休んでいる間にルキナは周囲の状況を見てきて、それから彼の左側に木へ背中を預け、少々疲れたのか息を漏らす。
「まぁ、迷ったとしてもこの森はそんな大きくなさそうだから大丈夫でしょ」
「なんでそう思うんだ?」
「だって…ほら」
彼女が指さす先には、僅かだが街のようなものが確認できた。ロベルはそれを見て、少々安心した。後もう少し行けばようやく街か…。だが安心できたのもつかの間、一瞬彼の視界が急に右へ揺れる。それの対処ができずに、頭を木にぶつけてしまう。どうやら彼女がロベルのことを突き飛ばしたのだろう。いきなりの事に、ロベルは少々戸惑いながらも痛む頭を押さえつつ。
「っ、いきなり何す…!」
だが、それを気にしない…いや、あたかも聞こえていないかのようにルキナは言う。
「…誰かいる、それも結構な人数」
「…ぇ?」
ロベルには何が何だか良くわからなかった。だが彼女は冷静に周囲を見渡しながら。
「さっきあんたが座ってた所見てみな」
そう言われ、彼は先ほどまで自分が座っていた所を見た。其処には、独特な装飾を施した剣が突き刺さっていたのだ。それも、人の急所を確実に捉えるような位置で。ルキナは自分の剣を引き抜き、そして自分達が進んできた先の道を睨むようにして見る。ロベルは未だに状況判断できすにいた。
「なぁ、何で僕等が狙われなきゃならないんだ?」
「とにかく、構えて…来るよ」
彼女がそう言った瞬間、真上から武器を構えた軍兵がルキナへと剣を向け木を蹴り跳躍。彼女は素早く視界に入るようにと身を翻し、剣身で受け流しもう一本の剣を鞘から抜き斬りつける。だが軍兵も隠し持っていたのか。短剣でそれを薙ぎ払い、そして距離をとるために後ろに地を蹴り飛ぶ。軍兵はざっと20人程はいた。ルキナとロベルを取り囲むように、それぞれの武器を構えて。ロベルは何が何だかわからないと言いたげな顔をしていたが、ルキナだけは…
「…ふーん、既に追っ手来てたか。だけど、そんな腕で私を倒そうって無駄」
彼女は微笑を浮かべた、刹那…いつの間にか気が付けば軍兵の群れの中へと紛れ、
「やっぱ、もう少しレベル上の奴が来た方が良かったんじゃない?すぐに場を簡単に取らせちゃうなんてさ」
剣を振るうと共に、流石にその反撃に対応できず軍兵は驚きの色を隠せなかったようだった。ロベルは唖然としていた、彼女にそのような技量があるとは思ってもいなかったからだ。彼がその戦いに魅入られてる時、周囲に居た軍兵が急に攻撃を仕掛けてきた。
「くっ、やっぱ僕も戦わなきゃいけないのかよ」
そう言いながら、一閃をかわし自分の剣を抜く。がら空きな背後を狙い、剣を振る。軍兵も喰らわまいと、素早く身を反転させ剣を薙ぎ払う。だが相手は罠にかかった。さっきの一閃はおとりであり、剣を払うと隙が出来とっさに防御しにくい腹部。そこを狙い蹴りを入れる、真に受けた軍兵は木に叩きつけられ倒れ込む。
「…こんなもんか」
「くっ、俺は聞いてねぇぞ! 此奴等がこんなに強いなんて!」
軍兵達は焦りを隠せずにいた。それもそのはず、二十歳も行かない少年少女がいとも簡単に鍛錬を重ねてきた軍兵を倒して除けるのだ。既にルキナは半数もの軍兵を倒していた。このまま行けば、ロベル達の勝ちかと思われた時…
「…お前等、こんな子供に手間取ってたのかよ」
「サ…サイフェル隊長?!」
サイフェルと呼ばれた者を見るや、ルキナの表情が一瞬にして驚きの色へと変わった。そして、何かを呟きつつも軍兵の中を抜けるようにしてサイフェルへ向け剣を構え地を蹴る。
「なんで…なんであんたが此処に居るっ!!」
そして辿りつくと同時に、剣を思いっきり振るった。
ガッ!…キィィィン
金属特有の音を立て、ルキナの剣とサイフェルの武器と思われる銃がぶつかり合う。サイフェルは受け流すと素早く反転、それと共にルキナも後ろへ跳ねる。そして睨み合うような形で、動きが止まる。
「…久しぶりの再会だというのに、つれないもんだな」
「久しぶりとかどうとかの問題じゃない、昔は確かに仲間だったかもしれない。だけど、もう私は軍から抜けたのよ。だからあんた達とはもう仲間でもない」
「…しょうがない、暫く黙って貰うか」
「黙るのはあんたの方さ」
一瞬の沈黙、サイフェルが動くと共にルキナも地を蹴った。その戦いを見ていたロベル、軍人達はただ唖然とするしかなかった。彼等は見た事がなかったのだろう、このような戦いを。軍兵はサイフェルと大体同レベルの戦いを繰り広げるルキナに、ロベルはサイフェルの強さに。ただ見ることしかできなかった。その時、ロベルは周囲に何か違和感を感じた。何か…結界のような、自然には有り得ない違和感を。まさか…! ロベルは感づき、行動を取ろうとしたが時既に遅かった。
『ル・フィレストール』
何処からか聞こえた声と共に、術が発動。ロベルは術にはまってしまい、身動きができず、声も出ない。ルキナがその異変に気付き、一瞬行動を鈍らせてしまう。その隙を、サイフェルが見逃すはずもなかった。
「しまっ…!」
「戦いの最中によそ見をするのは、よっぽどの自信家だな…まだ甘いな」
サイフェルが銃でルキナの剣を払い除け、そして蹴りを喰らわせる。素早く受け身を取ろうとしたが、間に合わず真に受ける。その衝撃で木に叩きつけられ…ルキナは倒れ込む。だが、サイフェルは別の場を見…喋り出す。
「…ラフェル、お前は手出しするなと言ったはずだが?」
「別に良いじゃないー、結果的にオッケなんだしさ」
ラフェルと呼ばれた女が、近くの茂みの中から現れる。何処か異国風の雰囲気を漂わせる紅の衣服を纏い、その色にも負けず鮮やかな赤色の髪と目を持つ女。そして、妖艶な雰囲気を漂わせるその女は、周囲を見ながら言う。
「ふーん、中々の腕前じゃないの。弱くとも、軍の一員である兵を倒すなんてさ」
そしてラフェルはロベルの前に来ると、何か少々小声で唱えつつ一差し指を立てる。詠唱らしきものが終わったのか、彼女は笑みを浮かべ…
「悪いけどー…、君には少々眠ってて貰うわね。『また』会いましょうね〜」
その指を横に払った瞬間、ロベルの意識は途切れた。ロベルが意識を失う前、こんな事が聞こえたような気がした。
「はぁ、あたし達もう悪者決定かもねー」
「しょうがないだろ、こうしなければならなかったんだからよ…」
    
    +        +

…此処は何処なんだろうか?意識が朦朧とし、視界もはっきりとしない。思うに、長い時間眠らされていたのだろうか…ただ単に体が疲れていたせいで寝てただけかもしれないが。ロベルは清涼としないままの意識で、思い出そうとした。眠らされてしまう前に何があったか。確か…軍兵がいきなり僕等に襲いかかってきて、それをルキナが次々と倒して、僕がラフェルとかいう女の術にはまってしまい…そしてルキナはサイフェルとかいう奴にやられて…はぁ。僕はどうして役に立てなかった?ただほとんどは見てただけにすぎない。記憶が徐々に戻ってきた頃、視界も物をはっきりと捉えられる程までに回復していた。ロベルの視界に入ってきた物は、深紅の絨毯が敷かれており、所々にはアンティークなのだろうか?独特の金装飾を施した額縁に飾られた高位者の似顔絵らしき物、額縁と同じような装飾がより一層飾られている花を華やかに彩る花瓶。何処か外国風の雰囲気を醸し出しているテーブルなど…多分数百、いや数千万はくだらない価値のある物ばかりだった。見る限り、かなり上級の者や金持ちが使うような部屋だった。普通、このような部屋を見ると豪華な感じや、とても自分では入ることのできない高貴な部屋と感じ取ることができただろう。だが、所々にある軍の紋章が入った盾・剣・旗などを見ると部屋全体がものものしく感じられた。ふと、手首辺りに感じられる違和感に彼は気付く。その違和感の原因を確かめようと手を動かそうとするが…縛られていた。それを見、彼は確信した。“軍に捕まった“と。だが彼はわからなかった、というか理解できなかった。何故僕が軍に捕まらなければいけないのだろうか?以前の記憶がなかったために、軍に捕まる理由など一つも検討もつかなかった。軍に捕まったこともわからなかったが、何故こんな場所に連れてこられたのだろうか?どっちにしろ、わからなかった。妙に静まりかえった部屋に居心地悪さを感じ、思わず思ったことを口に出した。
「なぁ、何で僕まで捕まるはめに…ルキナ?」
彼は唯一自由な頭を動かしながら部屋を見渡した。だが、部屋の何処にも彼女…ルキナの姿が見当たらなかった。ということは…今はこの部屋に僕一人?そう思いこんでいたが…
「彼奴は別の場所だ。安心しろ…殺してはいない」
「っ?! お前は…」
何時現れたのだろうか?漆黒の軍服に身を包み、あまり鮮やかとも言えない緑色の髪と目を持った男…サイフェルは入り口の扉に寄りかかりながら息を潜めつつ。ロベルは彼の気配に全く気が付くことができなかった。やはり彼は只者では…そういやあの時、軍兵に隊長と呼ばれていたから多分魔術・技術・権力どれも上級の方であろう。彼は何故か、周囲の気配などを気にしているようだった。何故なんだろうか?彼は軍に所属しており、何も此処に居ても問題などないはずなのに。そのような事を考えていたら、サイフェルが口を開く。
「確かお前…ロベルといったな。お前何故ルキナと一緒に行動してたんだ?彼奴とは何処で知り合った?」
「…何で僕の名前を知っているんだ?」
「…事前調査というか、早く解りやすく言うとだな『盗み聞き』というやつだ。本当はこうゆう事あまりしたくなかったんだがな」
そう言うと彼はポケットから煙草を取り出し口に含むと、人差し指と親指を弾き軽く火花を散らす。煙草独特の煙が、部屋に充満する。
「つまりつけてたって事か。僕は倒れていたらしく、気が付いたら小屋に寝かされてて、負傷していた僕をルキナが手当してくれてたらしい。そして、僕が唯一覚えていた事を話したら…ルキナが手伝うと言ってくれた。だから共に行動していただけだよ」
ロベルの話を聞き、何か納得したかのように口から煙草の煙を吐き出しながら軽く頷いた。
「成る程な…、彼奴らしい。と言うことはロベル、お前はルキナを狙っている組織の一員ではないという事だな?」
「あいつ…狙われているのか?」
その問い掛けに、サイフェルは再び頷き少々懐かしそうに…天井を仰ぎつつ語り出す。
「彼奴はな、昔この軍に所属していた。俺とラフェル、そしてルキナは元パートナー同士だった。そこまでは別に何もルキナが狙われる理由などない、彼奴がこの軍を抜けて姿を消したのはある事件がきっかけだった」
「…ある事件?」
「ああ、だがその事件の説明は後だ。手早く言うとな、ルキナはこのアイベルの法に触れることをし、監禁された。だが脱走をしたために、今のように追われるはめになった。それでルキナを捕まえろという命令が出て、俺等が出たってわけだ」
「あまり良くわからないんだが…」
「今はこれぐらいで勘弁してくれ、それで…単刀直入に聞く」
急にサイフェルは声を尖らせたかと思うと、腰に収めていた銃を素早く抜き…冷徹な目でロベルの丁度こめかみ辺りを狙い突きつけた。あまりの急な出来事に、ロベルは驚愕。だが、サイフェルはそんな様子も気にも止めずに冷徹な声で…聞いた。
「お前は軍人ではないだろうな?」
ロベルは先ほどの事を引きずっており、一瞬反応が遅れてしまった。だが、自分の記憶には確信はできなかったが…軍人だった覚えもないし、自分が軍人とは思えなかったために、意志をしっかり伝わるように彼の目を真っ直ぐに見…言う。
「…少なくとも以前軍人だった覚えはないな…記憶ないから絶対とも言えないが」
「…そうか」
そう言うと彼は表情を元に戻し、銃を下ろした。その後入り口の扉を見、視線は扉の方へ向けたままロベルに言う。
「一応今は信用しておこう、だが万が一変な行動起こしたら…覚悟はしておけ」
ロベルは少々、戸惑いながらも答える。
「ああ、その代わりお前等も裏切らないでくれよ?」
「…ふ、了解」
そう言うとサイフェルは下ろしていた銃を入り口へ向け…素早く引き金を引いた。その瞬間周囲のマナが集められ…光の筋が拡散。ロベルは少々危険を感じ、簡易魔術の一つであるファイレストを唱え腕の自由を奪っていた縄を焼き切り、素早く立ち上がる。それと共に、軍施設を一つの衝撃と轟音が襲った。


「…ということだから、もう信じてくれたってイイじゃない」
じめじめとした地下独特の空気を感じつつ、ラフェルとルキナは話していた。彼女等が今居る所は地下牢のある場所であり、すぐ上には軍施設がある。ルキナは牢の柵に寄りかかり、ラフェルはせわしなく周囲を見渡しながら。地下牢に入る場所の扉付近には、軍兵が二人倒れていた。多分、ラフェルが倒したのであろう。死んでこそいないが、力なくぐったりと倒れている。その軍兵の様子をちらちら見つつも、ルキナはラフェルの話を聞いていた。だが、信じきれるはずもなかった。自分は脱走犯であり、彼女は未だに軍所属。何時裏切られるか、それとも裏切ってしまうか…定かではなかったからだった。だからこそ、ラフェル等はルキナ達を助けるために軍を裏切るまでして助けだそうとしていたのだった。だが疑い深い彼女は…中々信用してくれないようだった。数分、沈黙。その後ルキナが口を開く。
「…信じても良いけど、どうやって此処から出るつもり?まさか皆して脱走犯になるつもりじゃ…」
「そう、そのまさかよ。もうそろそろサイフェル達も出る頃だと思うわ」
ラフェルがそう言った瞬間、建物全体を震わす衝撃と音。彼女等が居たのは建物の地下であったため、それほどの衝撃はこなかったがかなり大きな衝撃だったようだ。古い地下牢だからか、先ほどの衝撃でぱらぱらと天井の隙間から埃と煉瓦の欠片が落ちてくる。それが収まる頃に、ラフェルが音のした方を向き…呟く。
「時間か…、ルキナ。さっさと出るわよ」
「出る?どうやって出るのさ、サイフェルみたいにやるの?」
「そうした方が敵の注意を引きつけ安いじゃない。さて…離れてた方が良いわよ」
そう言うと彼女は天井へ両手を翳した。そしてす…と目を細め、凛とした声で詠唱を始めた。

  我が誓いし契約は 時を逆らう神の契約
  時 力 心 各時と共に薄れし
  だが我は誓う
  決して裏切らぬ 永久の神との誓いを
  彼の者達に神の裁きと悪魔の祝福を与えん
 『アクレル・ラクトリグ』…

昔…、戦争があった。魔族と人間が起こした戦争。この時、魔族達は自分達の力を使い人間を倒すことが出来た。だが、彼等の中には力に驚く者、嘆く者、そしてある者はその力に溺れてしまった。彼等魔族は神々の力を利用し自分の糧にすることができるのだ。だから、街一つさえ簡単に消し去る事が出来る術も生まれてしまった。ラフェル…彼女が使った術も、魔族が恐れて封印した種の一つであった。術の威力は凄まじかった。唱え終わると同時に、ラフェルの立っている場に青白い魔法陣が浮かぶ。そしてラフェルが翳していた両手を下ろすと同時に、発動。瞬時にして凄まじい衝撃波が生まれ、いとも簡単に地下の天井、周りにあった物さえ瓦礫と化した。ルキナはとっさに防御壁を張っていたために、被害はなかったが…。あのような術を生身の体で受けると、ただでは済まないだろう。舞い上がった土埃が治まった頃、ラフェルがルキナの方を向く。
「さ、行こうか。無事に抜けられるとイイね」
そう言い、壊れた建物の瓦礫の中を抜けラフェルは先に出ていった。だがルキナはすぐには後を追わなかった。彼女は魔術に対して、恐れていたのだ。昔の事を思い出し…。ルキナは心を落ち着かせようとする、だが昔の記憶が思考を無惨にも抉る。孤独・不安・恐怖・殺意・憎悪…。昔の事が今起こった出来事のように目に鮮明に映る。だが彼女は誓った。『決して何があっても負けない』と…。だから彼女は込み上げてきた感情を押し殺し、走り出す。やっと見つけた『手掛かり』の元へ―――

=二章終幕=
2005/05/29(Sun)20:12:04 公開 / 結衣華
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■作者からのメッセージ
初めまして、結衣華(ユイカ)と申す者です。
この作品は、とあるサイト様や自分のHPでも公開しているものなのですが、
もっと皆様の意見などを聞きたいと思い投稿しました。
最近、様々な作業もあるために更新は遅れてしまう時もあるかもしれません;
未熟者ですが頑張って書いて行こうと思いますのでよろしくお願いしますw

追記:もうすでにネタが危うし状態(爆)
描写の勉強もせねばアカンな(;´▽`A``
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