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『其処は記憶の森 第一話』 作者:Seren / 未分類
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 此処は、私の部屋のようだ。
 けれども、様々なものの配置が微妙に違う。
 そして、私の髪はこんなにも長かっただろうか。
 全てに違和感を感じる。

 部屋の扉がノックされた。多分、お兄ちゃんだろう。お兄ちゃんなら、この違和感の答えを教えてくれるはず。きっと、お兄ちゃんなら。
「紗枝?入るぞ」
 ノックの答えも聞かずに、お兄ちゃんは入ってきた。まぁ、別にかまわないのだけれども。
「お兄ちゃん、なんか部屋に違和感を感じるんだけど…」
 お兄ちゃんは答えた。
「あぁ、それもそうだろう。今日は平成十七年五月六日だからな」
 お兄ちゃんの口にした日付がおかしい。今日は、平成十六年七月二十四日のはずなのだから。けれども、お兄ちゃんはこんな冗談を言う人ではない。というか、まったく冗談など言わないはずなのに。
「紗枝、混乱するなよ。お前は記憶喪失なんだ。平成十六年七月二十四日までの記憶はあるが、それよりも後の記憶はないのだよ。お前の記憶はあの日から、丁度一ヶ月しか持たなくなってしまったのだから」
 何を言っているの?
 理解が、できなかった。わからない、わからないと呟きながら頭を抱え首を横に振った。これは夢ではないらしい。まぎれもない現実でこんな事実を突きつけられて混乱しない人間がいるだろうか?目覚めたら部屋にも自分にも違和感があって、お前は記憶喪失なんだ、だなんて言われたってわからない。認めたくない。第一、何故私は記憶喪失になったのだろうか。それなりの理由があるはずだ。
「ねぇ、お兄ちゃん。私はどうして記憶喪失になったの?」
 お兄ちゃんは目を伏せた。そして、さっきの私のように首を横に振りながら
「…言えない」
 そう、一言私に返しただけだった。
 そしてお兄ちゃん、その後無言で私の部屋を去った。私の心には疑問と、何かよくわからない感情が残った。

 次の日もお兄ちゃんに同じ質問をぶつけたが、お兄ちゃんは答えてはくれなかった。そして、私は笑わなくなった。いくら楽しい想い出を作ってもどうせ忘れてしまう。ならば元々ないほうがいいのではないか、そう感じ始めたからだ。家族は私を心配して気を使ってくれたけど、私は「どうせ、忘れちゃうんだから何もしてくれなくていい」と家族の優しさを拒絶した。平成十六年七月二十四日以前ならば、私は家族の優しさを当然のごとく受け入れただろう。けれども、今はできないのだ。理由は、わからない。
 お兄ちゃんは五月六日からずっと私のそばにいてくれた。でも、私はそれが嫌だった。きっと、もうすぐ私の記憶は途切れるからそのときに「忘れたくない」という想いを抱くのが嫌だった。
 家にいるとお兄ちゃんが話しかけてくるから、私は散歩に出かけた。記憶喪失といっても、昔の記憶はあるのだから迷子になる心配はない。
 見慣れているはずの風景。けれども、感じてしまう違和感。そんなのも嫌になって、私はいつも誰もいない川原へと走った。
 川原には誰もいないと思っていたが、一人の男がぼんやりと座っていた。浮浪者だろうか?もしもそうなら、近づかないほうがいい。でも、男は結構綺麗な身なりをしていた。キチンと自分の家があり、毎日お風呂に入り、毎朝清潔な服に着替えているようだ。きっと、そばに行っても大丈夫なはず。私は男から二十メートルほど離れた所に腰掛けた。今は夏。冷たい風と綺麗な流れの川が、とても涼しげに感じられた。この時は、自分の記憶が一ヶ月しか持たないこと等も忘れられた。なんとも気持ちがいい。あまりの心地よさに私に睡魔がやってきた。そして、私が睡魔に負けそうになったその時だった。
「風が、気持ちいいですね」
 私の二十メートルほど隣に座っている男だった。
 キョトン顔をしてると、男がニッと笑いかけた。私と同じくらいの年齢らしい。
「もう少し、こっちに来たほうが風が気持ちいいですよ」
 一瞬、戸惑った。得体の知れない男に接近してよいものなのか、と。変質者という分けれではなさそうだけれども…。
「あぁ、すいません。戸惑いますよね。得体の知れない男にもうすこしこっちにきたら?なんか言われたら」
 ええ、その通りです、と心の中で答えた。
 なんとなく気味が悪くなった私は、男と目を合わせないようにして家に帰ることにした。
「あぁ、もう帰るんですか」
 男が少し寂しげに言った。そしてやっぱり、二ッと笑う。
「明日も来ますね」

 家に帰ると、リビングから話し声が聞こえる。
「ねぇ、紗枝は混乱して発狂したりしないかしら」
 お母さんの心配げな声が聞こえた。
「そんな事、言わないでくれよ。母さん」
 お兄ちゃんの声だ。
「だって…あの子の腕の傷を見た?リストカットの跡よ…。私はもう心配で心配で。あの子がいつ、自殺しようとするかって」
 リストカット?
 自分の腕を見てみると、確かに血管を切ろうとした切り傷があった。私は確かに、リストカットをしようとしたらしい。また、いつか私がリストカットをするとお母さんは思っている。なんとなく、これ以上話を聞いてはいけないような気がして、部屋に戻った。
 私はリストカットを繰り返した。
 自分が記憶喪失ということ積み重なって、大きな負担が私にのしかかる。しばらくベットに突っ伏していた。そのうちに、眠ってしまった。
 私が目を覚ますと、隣の部屋から声が聞こえた。お母さんとお父さんの声だ。こんどこそは、全て聞こうと私は息を殺して耳を澄ました。
「ねぇ、あの子に保険金ってかけてたかしら」
 お母さんの声だった。私は確かにお母さんの口から発せられたその言葉に混乱をいだいた。お母さんは私の死を願っているのだろうか?
「あぁ、かけてあるよ」
 お父さんの声だ。
「よかった。これで、いつあの子が死んでもいいわね」
 私の予想は的中したらしい。お母さんは私の死を願っている。ほぼ、確実に。ならば、私はお母さんの願いを叶えてやることにした。
2005/05/27(Fri)17:00:50 公開 / Seren
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 まだまだ、続く予定なので続きもぜひ読んでいただけるとうれしいです。
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