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『覚えの無い不幸』 作者:茂吉 / ショート*2
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 気が付けばN子はまた一人になっていた。
 仲良しグループと他のグループから言われ羨ましがられているB子ちゃんのグループにN子は入っていながらも、最近自分自身でも解らないうちにこうして仲間はずれにされることが多くなっていたのである。

 「今回はわたし、みんなに何をしてしまったのだろう?」
 理由がわからないから余計に不安になり、気が付けば気持ちの悪いドス黒くもやもやとした霧のようなものが心の中に湧き上がってきてN子は吐き気を覚えた。
 思えばN子は最近トコトン運に見放されていた。
 雨の日には走ってきたトラックに泥水を被せられ、濡れ草に足を捕られては転び…。曇りの日には用心で持ってきた傘が運転する自転車に絡まって大破、横転。危うく道路に投げ出されるところだった。晴れの日は晴れの日で待ち合わせに向かう道の太陽の逆光がいつも以上に目に染みて気が付けば下水道に足を突っ込んでしまっていた。お気に入りの卸して間もない靴が駄目になり、待ち合わせにも遅刻。いつもなら待っててくれている友人がその日に限って待っていてくれなかったのが更に気持ちの追い討ちに拍車を掛けた。
 だめだだめだ、こんなに暗くなっていたらみんなに謝ることも出来ないじゃない
 そう思い何とか気持ちを奮い立たせようとするN子だったが、今度こそグループから外されるかもしれないという不安感、そして外された後の自分がどうなってしまうのかを考えてしまう度に気持ちが、真っ暗で出口の無い冷たい場所にすぅーっと吸い込まれてしまいそうな錯覚を覚えていた。
 もしそうなってしまったら、死んでしまいたいとN子の中に黒い感情がふつふつと湧いていた。

 「あのー…もしもし?」
 「はい?」
 突然真横から声を掛けられN子はハッと顔を上げた。
 横を見ると目と鼻の先にみすぼらしい格好をした初老の男性が立っていた。
 「ああっ!良かったー。お嬢さんが壊れてなくて」 
 男性は格好こそみすぼらしいものの温かみの有る声と目で安心したようにN子が自分の声に反応したのを見て呟いた。
 「だ…誰ですか!?初対面でいきなり変な…不吉なことを言わないで下さい!」
 温かい声に一瞬言葉に詰まったもののN子は男性がみすぼらしい格好をしているのに気が付き2.3歩後ずさりした。
 男はN子に不信な目で見られていることに気が付き、不思議そうに自分の服装を一瞥した。そして納得したように大きく1つ頷くとN子の方に向き直った。
 「なるほど!今お嬢さんには私はこういう風に映って見えているのですね。いやー、こう見えているって事は私にも嬉しいことです。やはりお嬢さんで間違いなかった。自分の見る目は正しかったようです。…あ、申し遅れました私こういった者でございます。この度は本当にお世話になりました。」
 感無量といった声で男はひとしきり感動の表現を演じた後、より一層気味の悪そうな目で自分を見ているN子に気付き慌てて懐から1枚の名刺を取り出し手渡した。

 二級疫病神 アブゲ・ボンガ

 白い名刺には簡潔に、しかし現在では有り得ない職業が記されていた。
 「に…二級やくびょう…が…み?」
 この男は何を言っているのだろう?N子はホトホト自分の不運を呪った。今度は精神的におかしくなっている変な男に捕まってしまった。しかも自分のことを疫病神などと名乗る変人だ。顔はどう見ても日本人顔なのに「アブゲ・ボンガ」とかトンチンカンな名前を語る変人だ。
 危ない、逃げよう…とN子は思ったが、「疫病神」という単語が彼女の足を止めた。
 そうだ、私は実際最近全然良い事が無いじゃない。目の前に居る変な男は知ってか知らずか、そんな自分の前に「疫病神」を名乗って立っている。…ちょうど良いじゃない。この変な男に私の不満や怒りをぶつけても。構わないわよね、だってこの人は「疫病神」なんですから。
 「へぇ…じゃあ、最近私に運が無かったのはあなたのせいだったって事ですか?あなたは知らないかも知れませんが、私最近本当にろくな事が無いんですよ!冗談で言っていたとしても悪質で許せませんからね!」
 「いやー…本当、その点については私も規定より遥かに多いノルマをお嬢さんに課してしまい申し訳ない事をしたと思っております。憤慨なさられるのも当然のことだとは重々承知してはおりますが、なにぶん自分の期限も目前だった訳で…」
男は浮かれた表情を引き締め、N子に対して本当に申し訳無さそうな顔をして言った。
 「ノルマ?期限?意味のわからないことを言ってないで説明してください!」
ああ、この人は本当におかしな人だと内心N子は思ったのだが、このおかしな人の思い込みをもう少し聞いてみたい衝動を覚えた。
 「ええ、ノルマとはつまり…あ、その前にお嬢さんは「疫病神」って何をもたらすものとお思いでしょうか?」
 「え?そりゃ、「疫病神」って言うくらいだから、人にとり憑いてその人を不幸にするものじゃないのですか?」
 N子が答えると男は「やっぱり」と少し残念そうな顔をした。
 「そうですか、やはり我々の仕事は名前のお陰で誤解されてしまうことの方が多いですよね。実はお嬢さんの答えは少し違うのですよ。確かに我々は人に不幸を肩代わりしていただく事を生業として活動しております。だが、それは私たちが嫌がらせでやっているのではなく、こういった浮遊霊を成仏させるため仕方なくやっていることなのですね。」
 男はそう言うと右手になにやら薄っすらと光る半透明の物体を乗せているのを見せた。N子がまじまじとその物体を覗いて見るとそれは傷ついた猫のような形をとった。
 「ひっ!」
 N子は背筋の凍る感触を覚え短く悲鳴を上げた。
 と、その次の瞬間には半透明の物体はふわふわと男の手を離れ飛んでいってしまった。
 「私たちも一応「神」を名乗るものですからこういった迷えるものの手助けをすることが自分の神格を上げる大切な仕事になっているのですね。お嬢さんも私の姿をご覧になられている間はこのような浮遊霊を見ることが出来ますよ。ほら、見渡すだけでたくさんの霊が飛び交っているでしょう?」
N子は男の言われるままに自分の周りの景色を見回してみた。
 「うわー…綺麗…」
 そこは映る景色全てに大小色とりどりに光る物体が飛び交っていた。いつも見慣れた景色が無数の光にデコレーションされ幻想的な雰囲気を醸し出していたのである。
 「綺麗…ですか」
 男はN子の素直な声に苦笑いした。
 「でも、この浮遊霊全てが何かしら現世で罪を犯して成仏できていないのですよ」
 「罪?」
 「はい、罪です。お陰で彼らは天に登ることが出来ずこうして現世をさまよっている。そこで、その成仏を手助けすることを課せられたのが先ほどにも言いましたが我々「疫病神」なのです。しかし、我々は浮遊霊を直接成仏させる力はありません。出来てさっきのように触れることと、その霊の罪の深さを感じ取るくらいです」
 男はそこで一旦話を区切り、にっこりとN子の方を見た。
 N子は嫌な予感を感じた。そして、その予感が当たっている確信も感じていた。
 「つまり…そこで私がその浮遊霊達の罪を肩代わりして成仏させてきたって事ですか?」
 「はい、お察しの通りですお嬢さん。私たちが霊たちの罪の重さを量り、適当であると判断された人間の方々に送ります。そしてそれら選ばれた人々に霊たちの罪を何らかの形で払っていただき成仏させていただくことになっております」
 「何らかの形って?」
 「大抵の場合は「頭を何処かにぶつける」みたいな直接的な不幸が多いですね。風評被害等の間接被害もたまにですが起こる可能性もあります。それは、霊の罪の重さ次第なのですけど…」
 N子は男の話を聞くうちに今まであった不幸な出来事を思い出していた。最近だけで10回…いや20回はあった筈だ。それがこの男の言う通り「疫病神」が仕向けた浮遊霊の所以だったとしたら。
 「ちょっと!じゃあ、私は何も関係も無い霊の罪の肩代わりの為に友達から無視されたり、遠ざけられたり、道で転んだり…挙句の果てには自殺しようかと考えさせられたっていうの!?冗談じゃないわよ!」
 こんなの理不尽だわ、「疫病神」に選ばれちゃったら人間は逃れる術が無いじゃない。そもそもなんで関係ない罪を背負わなくちゃいけないの?
 言い知れぬ怒りが急激にN子の内側に湧いてきた。今までの不思議な現象からこの男が言っていることは本当だろうと確信していた。しかしそれが余計に理不尽さと「何でわたしが?」という感情に火を点けたのだ。
 「大体おかしいじゃない!なんで神様は何もしないのよ?こんなにたくさんの浮遊霊を救うこともせずにのさばらせておいて私たち人間が負担するなんて職務怠慢もいいところよ!許せないんだから!呼んできなさいよ!説教してやるわ!」
 噴出した怒りのあまり肩で息をしながらN子は一気に男に捲し立てた。
 「わわ、お…お嬢さん落ち着いてください!今から順に説明いたしますので怒りを静めて下さい。」
 先程まで穏やかに話を聞いてくれていたN子が突然烈火の如く怒り出したので、男は狼狽して必死になだめようとしたのだが、その行為が逆に火に油を注いでしまった。
 「落ち着けるわけ無いでしょ!私がどんな思いで…どんなに苦しい思いをしたかわからないでしょ!みんなに無視されて、理由が解らなくて自分自身を何度も追い詰めて心の奥が押しつぶされたようになった事がある?苦しくて理由も無く何度も何度も吐き気が襲ってきた事がある?気持ちの切り替えをしようと頑張ってもジワジワと覆ってくる不安感に結局は負けて何も手がつかなくなった事がある?苦しくて、苦しくてこんなんだったら死んだ方が良いって思ったことがある?本当に、本当に…本当に辛かったんだからー!」
 言っているうちに今までずっと我慢して抑えていた感情が一気に溢れ出したのか、N子は涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにしながら男にむかって力一杯怒鳴りつけた。

 ―と、ありったけの感情をぶつけたN子は背中から何かが抜け出ていく感触を覚えた。
 慌てて辺りを見回してみると、頭上に周りと比べてひときわ明るく輝く物体があるのを見つけた。
 その物体は、N子の頭上を何度も何度も廻りながら飛んでいたが、暫くすると空に向かって昇りはじめ、どんどんその形が薄くなっていき…すぅーっと消えてしまった。
 「あ…」
 物体を見送ったとたん言い知れぬ脱力感と満足感を感じN子は思わず声を漏らしてしまった。
 なんだろう…気持ちがすっきりして体が軽くなった気がする…。
 先程までの激しい怒りの炎が忽然と姿を消してしまったことに自分でも驚きながらN子が男の方に向きなおすと、そこには白い民族衣装のような服を着た褐色の老人がN子に向かって深々と頭を下げていた。
 「え…あれ?…あの人は?」
 今まで居たはずの男の姿が無く、見知らぬ異国の老人が自分に頭を下げている状態にN子はとまどいを感じながらも老人に尋ねた。
 「わたくしですよお嬢さん。本当にありがとうございます。たった今お嬢さんのノルマは完全に達成されました。そして…これでやっと私も元の神格に戻ることが出来ました。重ね重ね感謝させていただきます。」
 頭を上げた老人は人の良さそうな顔に満面の笑みを浮かべてN子の問いに答えた。
 それでも戸惑った表情をしているN子に苦笑いしながら老人は頭を掻いた。
 「えー、私のこの姿は先程も申し上げましたが在って無いようなものです。ただ姿を見せた時に相手の目に映る形は神格によって左右されるので、…例えば今までお嬢さんが見られていた私の姿は疫病神の姿でみすぼらしかったはずです。そして現在の私はお嬢さんのノルマ達成と共に昇格し守護神としての姿になっているはずなのですね、こうキリッと。そうそう!ほら、姿だけではなく受け取る印象も違いませんか?」
 言われてN子はまじまじと老人の姿を見てみた。
 老人の人の良さそうな顔から絶大な温かさと安心感が溢れ出していた。近くに居て貰えるだけで何でも上手く行く。そんな自信さえ持てそうな存在感をN子は肌で感じた。
 「確かに…なんだか温かい…安心する感じがします」
 「そう言って頂けると私としても嬉しいものです。そんなお嬢さんだからこそ私はこうして名前を教えてもいいと思い、その為にノルマまで多くしてしまったのですが…」
 言いかけて老人は少しバツの悪そうな顔をした。
 「私に入っていた浮遊霊ってそんなに多かったのですか?」
 N子は老人が出会った時から自分に謝っている「ノルマ」がどれ位だったのか恐る恐る聞いてみた。どんなに凄い数だったのだろうかと少し興味が湧いてきたのもあった。
 「完全に終わりましたから言いますけど…また怒らないで下さいよ?」
 「ええ、大丈夫です。私、今なんだかすっきりとしていて、とても身体が軽いんです。あなたから出ている安心感も「今の私は大丈夫」って自信を与えてくれているので大抵のことじゃ怒りませんよ」
 N子は柔らかい笑顔をうかべながら老人に向かって言った。実際そんな気持ちだった。怒りという感情がどうやったら湧いてくるのか判らなくなっているくらい今の自分は気持ちが晴れ晴れとしているのを感じていたのだ。
 「ありがとうございます。そう言って頂けると安心してお答えできます。では!お教えしますが、お嬢さんの肩代わりした罪の数はざっと68回になります。霊の数で言うと36体もの数をお嬢さんの内側に入れていたことになります」
 ピキッ
 どこからか引きつった音が聞こえた。
 「へ…へえー…36体もの霊が寄ってたかって私を不幸にして自分達の罪肩代わりして貰って天国にいったんですかー。それは大変ですねー。36体も…」
 怒る感情を忘れたはずのN子の額に青筋が浮かんでいた。
 ふーっとN子は深呼吸をした後、感情を抑えた低い声を老人に向かって突き刺した。
 「どうしてそんなことしたのか教えていただけます?アブゲ・ブンガさん」
 「怒らないって言ったじゃないですかぁー。あと私の名前はアブゲ・ボンガです!」
 老人は情けない声を上げたのだがN子は無表情のまま無言で説明を催促した。
 「はい!理由はですね…簡単に言うと私がお嬢さんを守護したかったからです!」
 「守護?ああ、確かに今アブゲ・ボンガさんは守護神になったのですよね」
 「そうです、そうです。でも、私がお嬢さんを守護しようにもその時の私の神格は「2級疫病神」でした。守護にまで神格を上げるにはまだまだ多くの罪を開放することを必要としました。なんせ1級を飛び越しての2階級昇進しなくてはいけませんから」
 「別にそんなに急ぐ必要は無かったのじゃないのですか?あなたが私を守護をしたいって言ってくれる気持ちは嬉しいのですが、結局それが「大きなお世話」になって…必要以上に大変な目に遭わされたような気がするんですけどー」
 そう言い終わるとN子はじーっと非難する目で老人を見つめた。
 「た…確かに出来ることならそうしたかったのですが、お嬢さんがこのまま放っておくと非常に危険だと感じたからなんですよ」
 N子の非難の目にしどろもどろになりながらも、老人はそう言ってN子をまっすぐに見た。
 「え?…危険?どうして?」
 思いもしなかった言葉を聞きN子は素っ頓狂な声を上げてしまった。
 「お嬢さんは浮遊霊の罪は疫病神が持ってくるものだけと御思いのようですが其れは勘違いです。浮遊霊の中には早く楽になりたい一心で隙の有る人間を見つけると自分から潜り込んで悪さをするものも居るのです。そして、困ったことにそんな悪さをする浮遊霊は大抵の場合罪が重いものばかりなのです。そのような霊…私たちは「悪霊」と呼んでいますが…に捕り憑かれた人間は非常に危険な目に遭う確率が高く…最悪な場合精神の崩壊や、死に至ることまであるのです」
 老人はここで一旦言葉を止めてN子を見つめ反応を待った。

 「私は…その隙があったって事ですか?」
 暫くしてN子が搾り出すような声で尋ねると老人は深く頷いた。
 「はい。お嬢さんは人に対しても霊に対しても人が良すぎるオーラが出ていました。往々に世間からすれば素晴らしい人柄であろうとは思いますが、その人柄が災いしてか如何せん無意識にいろいろなものを呼び込んでしまっていたのですね。私がお嬢さんに気がついたとき既にお嬢さんは背中にたくさんの罪を呼び込み背負っていらっしゃった。このままではお嬢さんの器で収まりきらない不幸が襲い壊れてしまうかもしれない…そう思った私はお嬢さんの中にある罪を測り必要以上に浮遊霊が入り込まないように見張っていたのです」
 「そ…んな…」
 「しかし、私が規定以上の罪をお嬢さんに背負わせてしまっていたのもまた事実です。実際お嬢さんは私の想像以上に苦しまれ、危険な状態に陥ってしまったのですから…これは自分の裁量不足からなってしまった不手際です。焦るあまりに目的と手段がぐちゃぐちゃになってしまう本当に情けない事をしてしまい大変申し訳ございませんでした」
 老人は言い終わると共にこれ以上ないくらい深々とN子に対して頭を下げた。
 N子は自分自身が不幸になる色々な要素をもっていたという説明にショックを受けていたのだが、このやたらと腰の低い老人のなんだか憎めない行動を見ているうちに自然と笑みが零れてきた。
 「そんなに頭を何度もさげないで下さいよ。結果としては何とかなりましたし、これからはあなたが…こちらとしては逆に畏れ多いことですが、守ってくださるのでしょ?じゃあ、いろいろムカムカすることは実際いっぱいありますけど目を瞑れるように頑張りますよ!今までを引きずるより、これからを楽しみにすることのが大切ですからね!」
 自分で言っているうちに「ああ、そのとおりだな」とN子は思った。
 過去に対して何かを思ってもそれは思うだけしか出来ない。反省をする事でこれからをどうするかを考えるなら兎も角、感情に任せて振り回されたら余計に周りが見えなくなるだけなんだ。大切なのは今これからをどうしていくかなんだよね。
 「本当に、今までの多大なご迷惑を許して下さるのでしょうか?」
 老人はまだ頭を下げたままだった。
 「はい、許します。だって私にとって一番大切なのは「みんなと仲直りする」事や「楽しく笑う」事みたいな事が出来る「未来」が有るって事なのですから。「過去」が物凄く苦しくても、乗り越えられたのならそれは私にとって貴重な体験ですよ。だから寧ろ私が感謝しなくちゃいけないくらいです!ですからアブゲ・ボンガさん、頭を上げてください。なんだかそんなに頭を下げられるとこっちが困っちゃいますよ」
 老人の近くに寄り、N子は聴かせるように柔らかい口調で答えた。
 「ああ…本当にお嬢さんが無事で良かった」
 頭を上げた老人は涙を流していた。感極まったという表現がピタリと当てはまるくらいの号泣だった。
 「正直に言いますと私は不安でした。自分のしてしまったことが本当に正しかったのかと…。いくら理由があろうとも、何も理由が解らずに苦しまれ、不安定になっていくお嬢さんを見るたびに胸が張り裂けそうな気持ちになりました。背負わせるだけの一方通行な自分の神格を呪いもしました。あまりにも自分が不甲斐なくて…不甲斐なくて…」
 老人は泣きじゃくっていた。N子はそんな老人の背中をさすりながらウンウンと静かに頷いていた。
 「お会いした時私は道化を演じ、どんな糾弾をも受けるつもりで居ました。私は恨まれて仕方のないことをしてきたのですから…」
 老人も溜め込んだものがあったのだろうか、嗚咽のたびに身体が大きく上下していた。
 N子は老人のその姿があまりにも人間に近くて、いや人間そのものであったのが嬉しかった。
 「いいんですよ、私はあなたも同じように苦しんでいてくださった事がわかったことだけでも凄く嬉しいです。私は神様ってなんだか我関せずって感じで、感情なんて無いイメージが強かったのですが、違っていたのですね。逆に安心しちゃいました。…あ、不謹慎な事言っちゃってごめんなさい」
 「ははは…そうですね、私たちもほとんど変わりませんよ。嬉しかったり、苦しかったりのような感情もありますし、なんら人間と変わりませんよ」
 涙を拭い、老人はN子に向かって微笑みながら答え、すっと背筋伸ばした。
 「見苦しいところをお見せしてしまって申し訳ありませんでした。いやはや、歳はとりたくないですね。…ま、私の場合は見た目がそうなだけですが。本当は白馬に乗った王子様みたいな格好良い姿なんですよ。そりゃもうお嬢さんが惚れちゃうくらいにね」
 ついさっきまで嗚咽を漏らしていた老人が、直ぐに切り替えて茶目っ気たっぷりな冗談を笑顔で飛ばしてきたのに、N子はこみ上げてくる笑いを抑えきれなかった。
 「あははははは」
 「はははははは」
 二人はひとしきりお互いを見合いながら笑いあった。
 和やかな空間を久しぶりに感じ、N子は安心と温かさを満喫していた。

 「それでは…」
 暫くすると老人はすっと表情を引き締めN子を見つめた。
 「はい」
 「これから、お嬢さんの守護をさせていただく事になりました、アブゲ・ボンガと申します。日本での守護格になるのは初めてで、まだまだ至らないところは御座いましょうが、一生懸命努めていきますので私の名前を忘れずに、どうぞこれからも宜しくお願いします。…それでは私の名前を言ってください」
 「こちらこそ、身に余る光栄です。これから宜しくお願いします。アブゲ・ボンガさん」
 催促されるがままにN子がお辞儀をしながら老人の名前を告げ、頭を上げると…老人の姿が無くなっていた。
 「え?あれ?」
 慌てて辺りを見回すと先程まで色とりどりの光を放ち彷徨っていた浮遊霊達の姿も見えなくなっていた。
 …N子の目に映るのは、見慣れたいつもの道といつもの風景だけだった。

 「あ」
 急に現実に戻されたような感覚にN子は軽く目眩を感じた。
 先程のことがまるで「何もなかった」ような感覚。夢だったのか、錯覚だったのか…自分で自覚しなければすぐに消し飛んでしまうようなあやふやな気分だった。
 「アブゲ・ボンガ…」
 先程まで目の前にいたはずの老人の名前をN子は呟いてみた。
 確かにN子は老人の名前を記憶していた。
 さっきまでの絵空事のような出来事は絶対あったんだ。
 N子は自信を持って大きくウンと一つ頷くと、自分の家に向かって歩き出した。
 見上げると空には宵の明星が一際鮮やかに輝いていた。

 「明日からきっと上手く行く。たくさんの不幸が私を気付かせてくれた。…でもこれからはちゃんと守ってくださいね、守護神さん。失敗したら許さないんだから」
 帰り道N子は誰かに語りかけるように呟いた。
 すぐ側に自信無さそうに頷いている老人が居るような気がしてN子は笑ってしまった。
2005/05/27(Fri)11:11:52 公開 / 茂吉
■この作品の著作権は茂吉さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
皆さま、初めまして茂吉と申します。読むのが好きなら書いてもみようとチャレンジしてみました。表現のつなぎ方や、描写の難しさを味わいましたが、これからも試行錯誤して頑張っていきたいと思っています。多くのアドバイスが頂けたら嬉しいです。
最後に、読んで下さって本当にありがとうございました。これからも宜しくお願いします。
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