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『Eccentric Van』 作者:勿桍筑ィ / 未分類 未分類
全角9289文字
容量18578 bytes
原稿用紙約30.7枚


   プロローグ


 時計を見るとすでに夜七時を回っていた。外はもうすっかり暗くなっている。月は、少し雲に隠れているが、よく見える。
「今日は、満月か――」
 車に乗って何時間経っただろうか。出発するとき満タンだったガソリンがそろそろ底をつきそうだ。どこかで入れなければと思うのだが、それらしき所がない。
「どうすっかなぁ?」
 もうそんなに持たないと分かっておきながら、寄り道をしようと思う。
 寄り道? ――そういえば、どこに向かっていたのか。なぜこんなに長く車に乗っているのか。
 そんなことより、現在いる場所が分からない。周りを見渡せば、森ばっかりのようだし、民家というものも見ていない。
 メーターの部分が赤く灯った。警告を知らせるサインだ。ガソリンもそうだが、バッテリーもそろそろやばい。どこかで、朝まで待てる場所を見つけなければ。朝になれば、ここにも車が通るだろう。
 すると、目の前に人が歩いているのが分かった。こんな時間に、しかもこんな何もないところを歩いているなんて。なんだか気味が悪い。良くテレビなんかで、言っている恐怖体験とかはこういうシナリオだ。まさに、今のはそれだ。
 まずい……。こんなことを考えてしまった。考えてしまうと、もう怖くて仕方がない。
 思わずさっとスピードを上げてしまった。
「ん!? ……げっ!」
 バックミラーを見ると、ずっと前に追い抜いたはずの人がどんどん近づいてくる。それに、こっちを見ているではないか。
「やべー! 怖いよー!」
 思わず恐怖で、誰もいない車内で声を張り上げてしまった。しかし、それが逆効果だった。自分の声がなぜか良く響く。自分の声が怖い。
「……あの〜?」
 女の声。このほっそりとしていて、少し高めの声。男ではないはず。
「あの〜?」
 やばい!怖い、怖すぎる。シナリオ通りだ。車はまだ動いているはずなのに。
 恐怖で、無我夢中でアクセルを踏んだ。しかし、女の声はまだ近くにある。
 もう、運転していることさえ忘れて、ハンドルを握っていた手で両耳を押さえていた。
「あの〜!」
 声が大きくなった。やばい呪われる。

(しかし気になる。なぜこの女俺にこんなに訴えかけているんだ?)
 ――よし! よし! 見るぞ! 見るぞ! 自分にそういい聞かせて、この女の顔を見ることを決意した。
 まずは、メーターから。少しずつ目を開けていく。ん!? あれ? エンジンが……。
 エンジンが止まっている。どういうことだ。ガソリンはまだ、あっ、あの時スピードを一気に上げたから、バッテリーが切れたんだ。じゃあもうこの車は動かないってこと? そりゃまずい。ここから逃げられないじゃないか。
 あぁぁぁ! もういい! さっ、次こそ女だ。よし! 見るぞー! 見る! 見る! 見る!
「あの〜! すいません」
 わぁぁぁ! ――恐怖でまた目をつぶってしまった。
 でも待てよ、‘すみません?’だ!?
「どうやってここに入ったんですか!」
 え! ぱっと目を見開いてみると、そこには一人の女性が立っていた。もう恐怖はない。
 いや、一人だけでない。それどころか、周りにはなぜか大勢の人が。
「えぇぇ! な、何なんですか?」
 思わず女性に聞いた。しかし女性は答えない。答えようとしない。
 もう一度、周りを見てみよう。
 ――――。 
「こ、ここは!」
 

 今まで尋ねていた女性は、警察の方だった。
 
 なんと、ここは‘墓地’であった。しかも、墓石が隙間無く並べてある密集地。そこに、車があったのだから驚き。そこは、車どころか、自転車がやっと入るくらいの場所。車があったのは、その中でも一番奥の一番広い場所。
 なんでこんな所にいるのかというより、どうやって入ったのかと言うことの方がみんな気になっていた。
 結局、警察では、証拠不十分で釈放されたが、なんで捕まったのかも、なんであんなの所にいたかも自分では全く分からない。それに、証拠不十分? 何の証拠だ?
 
 その後車は、クレーン車で撤去され、一時警察に持ってかれた後、戻ってきた。
 車の方は、何の異常もなく、バッテリー・ガソリンは満タンの状態で今ある








   一


 壊れた。車が。しかもあれからすぐに。何故だ? 警察は修理したのではないのか? 意味が分からない。
 そこで、警察の方に確認を取ることにした。少し、緊張と躊躇があったが――。

 プルルルル。プルルルル。
 ――ガチャッ。
「ハイ! こちら警察の者ですが!? なに!? 用件は?」
 なっ! なんなんだ!? この対応は。ふつう、もっと丁重に対応するだろう。
「あっ! ど、どうも、この、この間、お世話になった者ですが……」
 最初から、怒ったような口調で答えられたので、どもってしまった。やっぱり警察って怖いとこなんだっと思って、「何でもないです。間違えました」と言って切ろうかと思ったが、そんなことをしたら、何かしでかしたかと思われてしまう。
「は!? だれ?」
 誰?って。この間、さんざんいじめてくれたでしょ。
「あ、いや、その、この間の……」
「は!? 聞こえねーな? この間? この間って言われてもなぁ!?」
 えぇぇ!? やっぱり怒ってるよょょ。でもなんで、怒られなきゃいけないんだよょょ。
 あっ! そうか、担当者が違うのか。

 きっとそうだと思い、電話の向こうの相手に担当者の名前を伝えた。
 すると、相手が、「分かった、少し待ってろ!」っと言って、保留音がなった。
(ふぅ〜。良かった。このままでは一時はどうなることかと思った)
 一時的に、安堵感を味わっていた。しかし、次の瞬間にその安堵感が、恐怖に変わった。
「ばっか! やろー! もう二度と掛けてくるな!」
 二度とって、今回が初めてなんだけど。
「まったく! こっちは忙しいんだよ! ふざけやがって!」
 ふざけてない! こっちは真剣だよ。
 受話器の向こうで、何もしてないのに怒る警察に、恐怖が増してきて、何もしてないけど少し泣きたくなってきた。
「このやろー! もう二度と掛けてくんじゃねーぞ! なぎさわ!」
「な、なぎさわ? なぎさわって?」
「ん!? あんた、なぎさわじゃないんか?」
 警察は、間違えていたと謝罪の言葉を掛けてきた。
「何で泣いてんですか?」
 あんたが泣かしたんでしょ! はぁーでも良かったぁ。
 やっと本題に入れるよー。
「んで、何? 質問って」
「あっいや、僕の車なんですが――」
 また態度が変わりそうだったので、緊張して喋ることにした。
「あーあんたの車がどうしたって?」
「あっいや、修理してくれたんですよね。なんか動かないんですよ」
「あーーん、確かに修理しましたよ。……まさか! あんた、信用してないんじゃ!」
 やばい、態度が変わりそうだ。
「あぁぁっいや信用はしてますよ。でも……」
「貴様! 信用してねぇじゃねぇか! おらぁ!」
 あぁぁ。態度が。どうしよう。
 ここから、警察官と俺の受話器での短いが短く感じない、壮絶のやり取りが始まってしまった。
 
「いや、そんなことは……どんでもない!」
「はぁ!? とんでもないだぁ!? さっき信用してないって言ったじゃねぇか!?」
 言ってないぃ! おかしいよ。 
「いやそんなことは……」
「あぁ!? なんだって!? それとな……」
 なんで怒るんだよ!?
「…………」
 ん!? 返事がない。どうしたんだ?
「ばっか! やろー! もう二度と掛けてくるな!」
 あぁっ!
 ――ガチャッン!! ツー。ツー。ツー。


 だから二度とって……。
 一瞬の出来事だったかのように、その時は言葉を失った。ただ、なんで急に返事が無くて、こんなことを言ってきたのか分からない。そして、今は電話を切った後の音が、虚しく耳に残っていた。

 そのまま、そこに立ちすくんでしまった。
 しょうがないから、もう一度車を修理に出すことにした。買いなおそうとも思ったが、そんな金はない。
 虚しい。直ったかと思った車を、結局自分で直すなんて。



  ――三日後――
 
 そのまま、何も起こらないで三日も過ぎてしまった。
 ――プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル!
 電話? 何だ? 誰からだろう?
「はい? もしもし」
 ん? 応答がないなぁ。間違い電話かなぁ?
「もしもしっ! あんたんとこの車、どっこも壊れて無いじゃないか! こんな車、うちに寄越しやがって! さっさと取りに来てよねっ!」
 ――ガチャッン! ツー。ツー。ツー。ツー。

 は……また。
 二度目だったので、言葉までもは失わなかったが、さすがに意味が分からなかった。それにまたもや、あの音、すなわち‘ツー、ツー’、この音が虚しく耳の奥底に残った。 
 店員の怒りの声に、押されてしまった。そして、耳の奥では電話を切った後のあの音が、虚しく響いていた。
 なんで? 壊れてない。え? 確かに壊れていたはず。
 カーショップから車を戻し、その車で家まで帰ってきた。
 文字通り、車は壊れてはいなかった。
 カーショップの店員には、なぜかこっぴどく怒られた。
 そのことも苛ついたが、もっと苛ついたことが修理もして無くて、ただ見ただけなのに、金を請求されたのだ。しかもその金が高い。五万ちょっと。払わないと言ってみたものの、「それじゃ訴える!」っときっぱり言われてしまい、度胸がないからすぐに払ってしまった。

 偶然動かなかったのかなぁ? 不思議だ。
 三日前は、どんなにキーを入れても動かなかったこの車。なんだか、人間みたいだ。
 調子のいい日と悪い日がある。そんな感じだ。
「くそっ! この車のおかげでこの一週間災難だ。この、ポンコツ自動車め!」
 たまっていた鬱憤が、まず言葉に出てしまった。周りには人もいる。しかしそんなのどうでもよかった。そして、さらに自分の車を思いっきり蹴ってしまった。これにはさすがにまずいと思った。傷が付くとまた金がかかる。それに痛い。しかし、なんてということか、傷一つついていなかった。思いっきり蹴ったはずなのに……。弱かったかなぁ。
 こんどこそ、周りの目が気になってきた。周りの目を避けるべく、この壊れていなかった車で立ち去ろうと思い、悔しいが車に乗り込んだ。

「さぁ! 動いてくれよー!」
 ――グッグッグッ! グッグッグッ!
 あれ? 動かない。
 ―グッグッグッ! グッグッ……。
 止まった。
 ――――。







   二


 止まってしまったが、あれから数分後に動いた。
 何かおかしい。何故、急に壊れたりそして急に直ったりするのだろう。この車――心があるのでは? いやいや気持ち悪い。何考えてんだ。吐き気がする。でも……。いや、そんなことはない。でも……。
 そんなことを考えていつの間にかに、数時間経っていた。
 だが、結論はでなかった。それどろか、不思議なことに、いつのまにか勝手にエンジンがついていた。壊れてはいなかった。だが不思議だ。

「おいっ! 動いたか?」
 ん? 誰だ?
「心があるのじゃよ。お主の御車様は、な!」
 お、オクルマサマ? な、なんなんだ? この人は。しかもこのしゃべり方。今どき……。
 俺は気になって、車から降りて見ることにした。
「――あんた! じじい!」
 隣のじじいだった。こいつは、毎日夜になると何故かわからないが、うめき声を上げる、つまりトラブルじじいだ。俺はこいつを、変態トラブルじじいと呼んでいる。
「よ! お侍さん!」
 え? 侍?
 変じいが元気に挨拶してきた。
「何してんですか? へんた、いや、じいさん」
「何って、そりゃあ御車様を大事にしてるか見に来たのじゃよ」
「大事にって?」
「大事にだよ。おみゃと御車様がちゃんとうまくいってるかってことじゃよ」
 御車様……。おみゃ……。なんだか、頭がおかしくなりそうだ。
 ここから、立ち去ろう。そう決めた。しかし、いつの間にかあの変じいが、俺の車の車内にいた。
「げっ! いつのまに。音もしなかったのに」
 じじい! 俺の車からはよ降りろ!
 変じいは、ハンドルを握った。
「良い! 良い! この御車様は!」
 変じい! 早く降りろー!
「じゃあ! ちょっと出かけてくるね」
 はぁ!? 出かけるって。こいつ運転できんのかぁ!? いやいやどうでもいい。そんなことより、早く降りろって!
 ――ブゥゥゥン! ボハァッ!

 う、動いた。なんで?
 じじいなのに。
 ――――。







   三


 ボハァッ!
「あぁぁ! 良かったわい! この御車様の乗り心地は最高じゃ。また乗らすんじゃよ!」
 じじい〜! 勝手に乗りやがって。このやろー!
「おい! じいさん。勝手に乗らないでくれよ!」
 一応目上の人なので、‘じじい’はまずかと思い、‘さん’を付けて話した。
「おぉぉ! いたか〜! ガキんちょ。おみゃではこの御車様は乗りこなせんよ」
 なっ! ガ、ガキんちょ!? このクソじじいがー!
「それより、じじい! ガソリン代返せ!」
「……それじゃ! 御車様、またお会いしましょう」
 かっ。シ・カ・ト。このやろー!
「ちょっと! うるさいよー!」 
「しずかにしろー!」 
「死ねー!」
 怒りと悔しさで、叫んだところ、他の住民から罵声の声がとんできて、更に落ち込んでしまった。
 なんで、俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ。何も悪いことはしてないのに。俺が何したって言うんだよ。
 ここで、何を言っても始まらないので、まずは家に戻ることにした。

「ただいまー」
 誰もいない部屋に部屋に呼びかけると、更に虚しくなってしまう。
 靴を脱ぎ、廊下を歩いて、リビングの電気を付けようとしたときにあることに気が付いた。それは、部屋の窓が開いていたこと。――出かけるときは、確かに窓は閉まっていた。それどころか、ここに引っ越してきて、一年間通して一度も窓なんて開けたことはない。何故開けないかというと、空気洗浄機は持っているし、エアコンも一年中付けていられるからである。
 実は、俺の実家は、街でも有名な大豪邸なのだ。――祖父は、有名な政治家、父は、祖父とは職種が全く違う医者、叔母も医者、母は、若い頃看護婦をしていた。そんな祖父母、両親を持つので、言うまでもないが金持ちである。だから、一年中エアコンなどを付けていられるのである。
 自慢になってしまうかな?
 なのに、何故、窓が開いているのだ? まさか、空き巣にでも入られたかもしれない。
 俺は急いで部屋に駆け込み、窓のあるところに向かった。電気を付けることも忘れて。
「よっ!」
「わぁぁ!!」
 やはり空き巣に入られた。しかも、まだ犯人はいた。これは捕まえなければと思い、空き巣野郎の服のような物を掴んだ。
「おい! 止してくれ……」
 空き巣は抵抗したが、構わず押さえつけた。そして、部屋の電気を付けた。
「わぁぁ!!」
 情けない声を上げてしまった。なんと、俺が捕まえた空き巣は、衰えた鬼婆だった。
「お、鬼ばばあ!」
「鬼ばばあ!? 失礼だねぃ」
 はぁ!? 恐る恐るだが、よーくこの鬼婆を見てみると、「なーんだー」、ただの隣の変じじいの連れ添いの汚ばばあだ。
 こいつの‘汚ばばあ’のネームは、この婆ちゃんは、数週間風呂に入らないのだ。それ故、体が臭い、頭が臭い、家の前を通るだけで悪臭がする、こんなことで、この辺にいる子供達が付けたのだ。婆ちゃんにとっては、ものすごい汚名であるが、そんなに気にはしていないようだ。
 それよりも、何故俺の部屋にいるのだ。そういえば、いつもより臭い感じがした。たとえて言うなら、魚が腐った臭い、生ゴミ? とにかく臭い。
「何やってんだよ!」
「何って、この部屋臭いから、窓開けに来たんだよ」
 臭いのはあんただよ。あんたが臭いんだよ。
「あ〜臭い! とにかく早く帰れ!」
「ひどいねー。親切にしてやってんのに。年寄りには親切にするもんだよ若いの。それにあたしのハニーにも暴言吐いたんだって。ひどい、ひどいよあんたは!」
 あ〜うるさい! なんなんだよ! 勝手に人ん家に入って、愚痴言いやがって。
「こっちは迷惑なんだよ。帰れ! ……ん、あれ? いない」
「じゃあね、また来るからね」
 勝手に入って、勝手に帰っていった。自分がバカみたいだ。こんなことで声を上げて。それより、早く空気洗浄をしなければ。とてつもなく、臭い。
 
 臭い――。




   四


 あの汚ばばあが帰ってからが大変だった。まずは、空気洗浄機でこの臭さを、綺麗になくそうと思い奮闘した。しかし、いくら長い時間をかけても、臭いは消えなかった。一体何をしたらこんなに臭くなるのだろう。そう思いながらも、風呂に入ってないからだろうと、自分で疑問を投げかけて、自分で結論を出していた。
「空気洗浄機がだめなら……」
 次の、案を考えることにして、いったん外に出ることにした。こんな魚の腐った臭いのする部屋で考えことなんてしたら、気を失うか、あるいは死んでしまうかもしれない。死ぬのは嫌だ。――しかし、外の廊下に出ても、まだ腐った臭いが立ちこめてくる。
「くさっ!」
 思わず、口に出てしまった。
「何見てんだよ!」
 今の発言をしたところを、ちょうど外に出てきた、隣の変じいよりもうるさい、大阪でよく見るようなオバハン、‘オバン’がじっと見ていた。凝視している。頭には、まだセットし終わってないのだろう、カーラーが巻き付いている。しかも、パーマだ。いや、別にパーマが悪いとは思っていないが、典型的な形である。見られているっと感じると考えられなくなるので、目をそらした。
「……視線を感じる」
 いくら考えようとしても、異様な視線を感じた。一度ちらっと見てみることにした。
 凝視。今気付いたが、手には生ゴミが。臭い。部屋の臭いほどではないが。っでなんで、こんなに見つめるんだよ。気持ち悪いなぁ。もう一回ちらっと。――凝視。もう我慢できない。ここらで、一発入れとくか。
「おい! ばばあ! じっと見てんじゃねぇよ! うせろ!」
 ――無駄な抵抗だったようだ。凝視。全然動こうとしない。これじゃ何もできない。すこし沈黙が続いた。仕方ないから、こっちがいなくならんといけないな。そう思い、すぐにそこを去ろうと階段に向かった。

 下に降り、駐車場に出て、もう一度後ろを振り返ってみた。まだいる。凝視。こっちを見ていた。もうやだ、なんだか家にいながら、監視官にいつも監視されているような感じだった。でも、いくらたとえでも監視してるのが、オバンじゃあ。
 オバンの視線を避けるには、自分の車――変じい曰く、御車様――に乗ってどこかに行くしかなかった。でも怖かった。自分の車に乗るのが怖かった。また、さっきみたいに乗った瞬間動かなくなるかもしれないからである。あの車には、やっぱり……。いや、考えたくない。
 そして、車に乗り込んだ。まだ見ている。ちらちら見ている。なんだか気味が悪い。ウェ……。胃液が口の奥まで上ってきた。
「酸っぱいなぁ……」
 
 グッグッグッ! グッグッグッ!
 ブハァ〜! ボハァ〜!

 動いたな。勢い良くアクセルを踏もうとしたが、なんかさっきのオバンが気になってしまった。吐き気までしたのに。だから、車の中から、上を見上げた。
「もう、入ったか――」
 なんかずっと見られてたのに、急に見られなくなると変な寂しさがある。だが、もういなくなったから、ここから立ち去る理由が無くなった。車から降りるとするか。
「ぅおおお!!」
 車から降りたところ、目の前にさっきまで上にいたあのオバンがこっちを凝視していた。
「う、ウェ……」
 吐き気がしてきた。喉までどころか、もう崩壊寸前だった。
「や、ウェ……」
 口を押さえて、ここから立ち去ろうとしたが、遅かった。このオバンの真ん前で、大量に吐いてしまった。実は、前日から何も食べていなかったので、胃液だけのようだ。喉の奥が酸っぱく、熱い。そして、痛い。
 オバンは、この俺の無惨な姿まで、凝視している。何なんだ? こいつは。そんなに俺の姿を見て面白いか。この無惨な姿を。胃液を吐きながら、けなされているような感じがした。いわゆる、被害妄想だろうか。妄想? いや、自分で分かっているのならもう妄想じゃないかもな。
 口からの胃液はいつの間にかにとまっていた。俺は口を、持っていたティシューで拭き、近くに公園があり、そこの水道でうがいをしようと思い、オバンの前から立ち去ろうとしようとしたところ、突然オバンが、口を開いた。
「ちょっと待ちな!」
「ぇ?」
「ここ。ここきれいにして行きな!」
「うがいしてから……」
「うさい! さっさときれいにしておゆき!」
 な、何なんだ。ずっと見ていた次は、自分勝手な発言かい。なんて自己中心的なんだ。このオバンは。
 俺は、気にせずに、うがいしに公園に走った。――その間も、オバンはグチャグチャ何かをこっちに向かって喋り続けていた。何で俺は、さっき寂しいなんて思っていたのだろう。なんか、また吐き気が。だが、今度は吐き気だけで、全然反応はしなかった。胃液を使い果たしたみたい。
「あっ……!」
 オバンから、少し目を離し、水道の水を止めようとしたとき、とても鈍い音が辺りに響き渡った。
 
 バッンッ!
 
 前を向いてみると、さっきまでグチャグチャ喋っていたオバンが、後ろからバックしてきた車に追突されていた。しかも、追突は、俺の車によって最小限に抑えられてもいた。何故最小限か分かるかというと、追突した車が俺の車に突っ込み、車が少しつぶれていたからだ。追突して一旦は止まったが、タイヤはまだまだ動いている。これは、どうゆうことか。そんなに強く追突したわけでもないのに、俺の車が、追突した車の下に入り、持ち上げているように見える。動いているタイヤは、持ち上がって車は動かない。
 おっとと。そんなことより、オバン、いやいやおばさんは?
「おばさん! 大丈夫かい?」
 俺は、走って事故現場まで見に行った。
 すると、おばさんは、なんと後ろから不意をつかれて追突したのにも関わらず、何もなかったかのように、走ってきた俺を、起きあがってすぐに睨み付けた。
「痛いわねぇ!」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫? そんなことより、早くきれいにしなさいよ!」
 は……。なんだよ、心配した意味がなかった。
 この人、死なないな。一生オバンだわ。
「ちょっと! ねぇ、あんた! 聞いてんの?」
 呆れた。早く警察と救急車呼んで消えましょ。追突した方の車の運転手は、「痛い! 痛い!」っと足を押さえながら言っているので、おそらく、骨折でもしたのだろう。こっちにも呆れた。
「はぁ〜」
 みんな自分勝手な。あーあ。呆れた。呆れた。




2006/02/03(Fri)22:01:57 公開 / 勿桍筑ィ
■この作品の著作権は勿桍筑ィ さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
どうも、今回の更新は、いつもよりは早くできました。勿桍筑ィ (ブロンディ)です。

今回の話は、前回登場した汚ばばあを引き継いで、オバンが登場しました。なんて、見りゃわかりますよね。 実のところでは、良く知られていて、最近まで使われていた。オバ●リ●ンを使いたかったのですが、著作権が気になり、自分で作りました。まぁどうでも良いですね。
なかなか、御車様と主人公のシーンに持っていけない。いっつも、別のキャラが邪魔してきまいして。次回は、大丈夫だと思います。

それでは、感想・指摘ありましたら、願います。
では、失礼いたします。
この作品に対する感想 - 昇順
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