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『あした草』 作者:つん / 恋愛小説
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 数時間前まで、彼女は手の届く位置に居た。
 言葉少なな俺についてきてくれる人。
 はにかみやの愛しい人。

 恋人らしい夜を過ごして、さぁ寝るかという時だった。
 同じベッドで寝転んで、TV好きな彼女が選んだ面白くもない深夜番組を見るともなく見ていた。
 ふいに、彼女が起き上がる。
 眠りの泥の中に沈みかけていた俺は、はっとして彼女の見やるTV画面に目を移した。
 とたん眠気が飛び、脳が冴え冴えとした。
 その光る箱の中によく知ってる男がいた。
 知っていると言っても、実際に会ったわけではない。
 向こうは俺の名前すら知らない。
 当たり前だ。やつは俺と同い年の、しかし立場の違うTVスター。
 彼女はやつのファンだ。
 整った顔立ち。巧みなトーク。セクシーな声。
 全国の女どもがやつにお熱らしい。
 あんな上辺だけの演技。なぜこんなのに夢中になれるんだろう。
 ちらと彼女を盗み見る。やつに釘付けのその姿を見てから、すこし後悔して俯いた。
 彼女はTV好きなわけじゃない。やつが好きなんだ。
 深く付き合っている俺なんかじゃなくて、ほんの上っ面しか知りえない、やつのことを。
「なぁ、いいかげんTV切れよ」
 言う代わりにその腰に手を回した。
 振り払われはしないものの、完全にシカトされてる。
 眼中にもないってか?
 正直言って腹が立った。
 彼女の腰から手を除けて、ベッドの反対側に降りる。
 リビングから寝室まで、点々と脱ぎ散らかされた衣服を拾い上げ、手を通した。
 この時間、外は寒い。上着も着ることにする。
 そのころになってやっと不審に思ったのか、振り向いた先で、彼女が肩越しにこちらの様子を窺っていた。
 よく見ればTVが消えている。時計の針を数えると……ああ、なんだもう終わったんだ、あの番組。
 やつがTVから消えたからこっちに気付いたんだろう。
 どうせ俺は二の次だ。
 そのまま玄関に向かおうとすると、ハスキーな声が追って来た。
「ねぇ、何処行くの? こんな時間に……タバコ?」
 残念。外れ。ただの散歩です。
「ちょっと外の空気をな」
 この苛立ちをうやむやにね。
 当り障りのない言葉を吐いて、靴を履きかける。
 すると今度は少し遅れて、
「……ケンちゃん、他に好きな人いるの?」
 不愉快極まりない夜に対する、それは止めだった。
 言葉の意味を理解するのに数瞬かかった。
 刹那、心臓が強く脈打ち、顔がみるみる赤くなる。
 羞恥や焦りのためではなく、怒りの為に。
 急遽履きかけた靴を脱ぎ捨て、大またに部屋へ引き返す。
 寝室には先ほどと同じ姿勢の彼女がいた。
 肩越しにじっと見上げてきている。
 その目の中に猜疑と軽蔑を嗅ぎ取って、俺の怒りは頂点に達した。
 男なら殴ってる。
「おまえ、今なんて言った?」
 押し殺した声で言う。
 他の野郎に目を奪われてるのはおまえの方だろう。
 それを、なんだって?
「だってケンちゃん、いつもどこかに行っちゃうじゃない! だから、他に誰か女の人を……」
 語尾が振るえている。完全にこちらを向いたその目から、大粒の雫が零れていた。
 ああ、違う。泣きたいのは俺の方だ。
 いつもいつも、やつが彼女を満たしているから。
 二人きりの時でも、その会話は殆どやつに関するものだったから。
 いたたまれなくなって、俺は部屋を後にするのに……。
 それを、
「おまえ全然わかってないんだな」
 俺のことなんてこれっぽっちも。
 やつのことなら何でも知ってる。なんて自慢するくせに。
「全然……わかってないんだな」
 後半は口の中で消え入った。
 もうムリだと思う。
 正直彼女には落胆していた。
 あんな上辺だけの野郎に惹かれる所とか、ご都合主義な所とか、馬鹿なくせに威張る所とか。
 それでも愛しいと感じていたのに。
 結婚するならこの女がいいとさえ思っていたのに。
「おまえの馬鹿さ加減にはうんざりだよ」
 口をついて出るのはいつもストレートな言葉ばかり。
 これも彼女を不安にさせる要因なのだろう。
 彼女はいまや号泣していた。
 冷たい俺の態度のせいだ。
 泣き喚く声がヒステリックに部屋中を満たしている。
 脳に響く音程。
 生理的な煩わしさを耳に感じた。
 そしてまた、口をついて出た言葉。
「おまえとはこれっきりだ。今すぐ帰れ。もう来るな。」
 空気が凍った。
 あわてて口元を押さえかけたがもう遅い。
 彼女の目には深淵を覗き込んだような深い絶望と諦めが宿っていた。
 先ほどまでの泣き声はなんだったのか。
 部屋はびっくりするほど静まりかえり、彼女は蒼白になっている。
 そして、俺も彼女に劣らぬくらい白くなっていた。

 彼女は別れの言葉を受け入れた。
 もう引き返せない。
 訂正がきかない。
 張り裂けるほどの沈黙が恐ろしかった。
 俺は踵を返すと玄関まで一直線に向かった。
 引き止める声はかからなかった。

 それが今後の人生に深い断裂を生じさせる、数時間前の、あっけなさ過ぎる、そして辛過ぎる決裂だった。


 (つづく)
2005/05/21(Sat)16:17:40 公開 / つん
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■作者からのメッセージ
続き物です。
現代小説ですが、内容がのびのびにならないように気をつけます。
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