オリジナル小説 投稿掲示板『登竜門』へようこそ! ... 創作小説投稿/小説掲示板

 誤動作・不具合に気付いた際には管理板『バグ報告スレッド』へご一報お願い致します。

 システム拡張変更予定(感想書き込みできませんが、作品探したり読むのは早いかと)。
 全作品から原稿枚数順表示や、 評価(ポイント)合計順コメント数順ができます。
 利用者の方々に支えられて開設から10年、これまでで5400件以上の作品。作品の為にもシステムメンテ等して参ります。

 縦書きビューワがNoto Serif JP対応になりました(Androidスマホ対応)。是非「[縦] 」から読んでください。by 運営者:紅堂幹人(@MikitoKudow) Facebook

-20031231 -20040229 -20040430 -20040530 -20040731
-20040930 -20041130 -20050115 -20050315 -20050430
-20050615 -20050731 -20050915 -20051115 -20060120
-20060331 -20060430 -20060630 -20061231 -20070615
-20071031 -20080130 -20080730 -20081130 -20091031
-20100301 -20100831 -20110331 -20120331 -girls_compilation
-completed_01 -completed_02 -completed_03 -completed_04 -incomp_01
-incomp_02 -現行ログ
メニュー
お知らせ・概要など
必読【利用規約】
クッキー環境設定
RSS 1.0 feed
Atom 1.0 feed
リレー小説板β
雑談掲示板
討論・管理掲示板
サポートツール

『賊の賊による賊のための戦争 一・二話』 作者:スマイル / 未分類 未分類
全角11582.5文字
容量23165 bytes
原稿用紙約33.75枚
              プロローグ

 済央州。そこは貧富の差が世界でもっとも高いとされる州の一つである。
 この州では簡単に大きく三つの種類の人間に分けることが出来る。
 1つ目は、巨万の富を手にし、人の上に立つもの。富上人(とじょうじん)と呼ばれる。これに当てはまる者たちは大抵が人を人と思いはしない。お金こそがすべてという寂しい心を持った人間である。
 2つ目は、まともに生活をするのにも困難で、富を持つ者にまるで虫けらのように扱われる存在である。落下人(らくげにん)と呼ばれる。しかし、この者たちは団結力があり、貧困極める状態の中でお互いに助け合って生きていけるたくましい者たちである。そういった面では富を手にした者達よりは、はるかに人として生きている。
 そして、最後の3つ目。それは、賊になった者達である。これらの者は2つ目の者達に大部分は同じである。
 ただ、大きく違うのは、富を手にし人としてあるまじき行為をする者達から堪え忍ぶのではなく、戦う決意を持った人間達なのである。賊。と一口に言っても普段耳にしているような、略奪、虐殺をくりかえしている物とはまるで違う。
 自分たちの領地、つまり、なわばり内の『人であり、行いは人ではない者』達から者を奪い、それを収入源とし生きてきているのである。
 時に獲物にありつけなかった盟約を結んだ賊仲間と分け合ったりして彼らもまたたくましく生きている。しかし、彼らは賊ではない『困難な生活をしている者達』に奪った物を分け与えようとはしない。彼らは戦っていることに誇りを持っているからである。
 だから、戦いもせずただ黙々と団結のみをして、ただ生きているだけの連中が嫌いなのである。
 互いに助け合ったりもしている賊の中にもルールという物がある。
 それは至極簡単な物で、賊による賊の支配である。正々堂々戦ってもよし。奇襲をかけてもよし。ただ勝てばよい。勝てば倒した賊団を吸収し、その賊団が所有していたなわばりを手にすることが出来るのである。
 そうして州の中で戦い合い、なわばりを広げていき一つの州全てを縄張りにすることが出来ればその賊団は支配者となれるのである。支配した賊団には十日に一度配下賊団から貢ぎ物が送られるのである。
 しかし、それは強制ではない。全ては自分の賊団を打ち負かした賊団への敬服心からきているものなのである。支配者になるとほとんど富を手にした者達と同じような生活を送ることが出来る。しかし、支配者には当然のことながらそれ相応の力が必要とされてくる。それ相応とは軽く小さな城ならば軽く叩きつぶせる、といったものである。それほどのしからを手にした賊団は近年さっぱりと無くなってしまった。しかし、現在。支配者になれるのではないかと噂高い賊団がある。
 名を『蛾芳賊(がほうぞく)』
 蛾芳賊が略奪し過ぎ去った後には、まるで蛾が鱗粉をまき散らしたかのように人が倒れていることからこの名が付いた。蛾芳賊では顔に獅子や虎といった動物の刺青をするのがしきたりとなっていた。一度の戦いでより大きな戦果を挙げた者には、より大きな刺青を入れることが頭から許され、刺青の大きさは同時に強さの証でもあった。近頃は顔に刺青のある人を見ただけで蛾芳賊と勘違いをして投降する賊団も出てきているという。
 蛾芳賊は済央州に数多く存在する賊の中でも歴史の古い方で、現在の頭は十七代目である。
 今の頭になってから蛾芳賊はいっきに急成長を遂げた。蛾芳賊の人数は、創始した一代目頭の時に手下が三十人と、この頃の賊達では小さい方であったが、少数精鋭で数多くの獲物を捕らえてきた。
 そして、八代目が全盛期であり、同時に『済央州に蛾芳賊あり』と噂された最後の代であった。八代目がいたころの時代は、『済央州賊団大戦代』と呼ばれた時代であった。当時済央州は三つの賊団が互いに奪い合っていて、北に『市漢賊(しかんぞく)』南西に『華望賊(かぼうぞく)』そして、南東に蛾芳賊がそれぞれなわばりを置いていた。
 この時代はどこの賊も現頭が歴代最強といわれていて、これなら勝てると次々と戦いが巻き起こり、そして数多の名賊団が潰されていった。そんな中、次々と賊団を潰して生き残ってきたのがこれら三つの賊団なのである。三つの賊団の力は恐ろしいほどに均衡していて、蛾芳賊が北の市漢族に攻め入れば南西から華望賊が攻めてきて、逆に華望賊が市漢族に攻め入れば南東の蛾芳賊が攻めてくるという三竦み状態となっていたのである。
 そんな状態が一年もたち、最初にしびれを切らしたのが蛾芳賊である。蛾芳賊はどちらか片方に攻め入るなんてことはせず、三つのなわばりがぶつかり合う済央州のど真ん中に兵を進めたのである。ならば、と残りの二つの賊団も済央州の中央に兵を進めた。その結果。済央州の中央で歴代最強の頭を率いる三つの賊団の大決戦となったのである。その戦いは昼夜問わず行われ兵法ももはや関係無しに力づくの正面衝突となった。そして、戦いは丸五日続いた。三つの賊団全てが力を使い果たし、三人の頭は命を落し相打ちという形で決着がついた。これが後に語り継がれる『済央州賊団大決戦』である。
 現頭十七代目頭はその、八代目を超えるのではないかと言われているのだ。頭の名は『焔罪 柳千(えんざいりゅうせん)』年は十六と頭にしては若がしらと呼んだ方がふさわしい。現に仲間からは若頭と呼ばれている。柳千は薙刀の名手で、そこいらで手に入れることが出来るなまくらで鉄をも一刀両断することが出来るのである。弘法筆を選ばずとは正にこのこと。人望は厚く現在の手下の数は歴代最高の約三百八十人となっている。容姿はすこしやんちゃな顔で、わずかながら幼さを残す。髪の毛がこれまたものすごい剛毛でバンダナで止めなくとも針山のようにたっているのである。刺青は左頬に大きな龍が二匹からみついて天に昇るような感じであごから額にかけて彫ってある。実はこの柳千。八代目頭のひひ孫にあたる。といっても本人は最強と唱われた八代目と比べられるのをかなり嫌っていて、ひひ孫様なんて呼ぼう者なら迷わず殴り飛ばされる。
 
 物語は柳千が本気で支配を始めようとするところから始まる……。

  第一話 蛾芳賊

「そろそろ支配でも始めようかねぇ」
 済央州最南端にあるアジト(ただの小屋)に狩り(略奪)から戻った柳千は椅子に座るやいなやにつぶやいた。その数メートルにしか聞こえないようなつぶやきを側近である『汰剛 遊羅(たごうゆうら)』が聞き取った。
 現在アジトでは手下達が今日の戦利品を広げ誰が一番戦果を挙げたかを競っていた。その騒がしい中で柳千のつぶやきを聞き取った汰剛は流石と言えよう。ちなみに、アジトには入れる者は柳千の許した三十名のみである(入りきらないから)その三十名は刺青の大きさも抜きんでており、それなりの強さを持った者達である。その三十人の中でもさらに抜きんでているのが側近の汰剛である。汰剛の刺青は顔全体に彫られ、虎の毛の模様だ。
「なにをいきなり言い出すんでさぁ。若頭」
 汰剛にしか聞こえなかったので当然なのだが、頭のつぶやきに答える者が汰剛以外にいなかったので仕方なしに汰剛が答える。
「いやな。今日富上人を狩ってて思ったんだけどなぁ。このままただ生きるためにちまちま富上人を潰してたんじゃぁ、落下人と同じになっちまうなぁっておもってよぉ」
 ……今頃気づいたのかこの人は……。鈍いなぁ。
 と、思いつつもそう思ってしまった自分に心の中で罰を与えた。曲がりなりとも自分の慕ってきた頭だ。悪口など口が裂けても言えない。
「今頃気づいたんすかぁ? 若頭」
「ん。まぁな…………うっし! 決めた!」
 椅子を後ろに傾け足を机の上に放り出した状態から急に立ち上がった。
「うおぉ! びっくりさせんでくださいよぉ!」
 驚いたとしても、柳千の突発的な行動は毎度のことなのですっかり慣れてしまい、すぐにもとの表情に戻れる様になっていた。
「明日だ」
「ハァ?」
 流石に突発すぎて何のことだかさっぱりわからない汰剛は思わず聞き返してしまった。
「明日から狙いを賊団を対象とし、戦い、奪い合う! そしてこの、済央州の支配者になる!」
 最後の言葉だけが騒がしかったアジトにも聞こえたらしく一斉に静まりかえった。嵐の前の静けさとはこのことを言うのだろう。次の瞬間大歓声が巻き起こった。
「やぁっと決断してくれたか、若頭ぁ!」
「さすがは俺たちの頭!」
「でも決断力は低いけどな」
「ああ、低いな」
「そこが欠点だな」
 などと、どさくさに紛れて言いたい放題の部下達を側近幹部である汰剛がまとめた。
「兎に角だ! やぁっと若頭が決断してくれたんだ! 存分に暴れてやろうじゃねぇか!」

「「「おおおおおおおお!」」」

 アジトのガラスが漫画の様にひび割れるかと思うほどの凄まじい叫び声だった。いくら何でも三十人でそこまでの声になるわけがない。今の騒ぎをアジトの外にいた配下達が聞きつけアジトを囲んで叫んだのだ。三八十人もの群集があらん限りの大声で叫んだのだ。通常想像できるようなレベルではない。恐らく、今この場で爆発が起きたとしても誰一人気づきはしないだろう。それほどの声だった。

・・・・・・・・・・・・・
「う、うわぁ! なんだぁ!?」
 早朝。疎斗等賊(そとらぞく)という少数賊団の見張り台。見張り台の男は早朝の異変に仰向けに寝転がった状態から飛び上がった。この、見張り台の男。最近疎斗等賊は戦いをしておらず、周りの賊団のおこぼれにあずかっていたため、平和ぼけして夜の間中寝ていたのだ。それはこの男に限らず、疎斗等賊全員が平和ぼけしている。
 富上人等の制度こそ変わっていないものの、時代そのものはすっかり平和になり、賊団同士の戦いなど相当荒っぽい賊団以外行わなかったのだ。
 そんな平和の中、見張り台の男が飛び起きた理由は二つある。一つ目、遠くの方で地響きが聞こえたのである。普段ならどうせたいしたこと無いであろうと放っておくのだが、飛び上がったのはもう一つの理由にある。それは、地響きがだんだんとものすごいスピードで近づいてくるのである。疎斗等賊が所有しているなわばり一体は乾いた砂の荒野が広がっていて、馬を走らせると、黄色い砂埃が巻き起こる。一匹では大した量は出ないのだが、今は違った。上空五メートル近くにあるこの見張り台まで砂埃が届いてきているのだ。これはいくらなんでも不審に思った見張り台の男は、あわてて見張り台から身を乗り出す。
 見張り台から見える景色は、いつもは遠いところにボンヤリと千メートル級の山が黒い影となって見えるのだが、現在は何も見えない。いや、正確には砂埃以外見えない。いつもは見える山も、今は遠くに見える黒い固まりから発せられる砂埃で何も見えなくなっている。しかも、あろうことか、その黒い影は先ほどの音の通りだんだんと近づいてくるのだ。
 さくがに身の危険を感じだ見張り台の男はあわてて警鐘を鳴らした。
 ――が。仲間達は誰一人出てこようとはしなかった。皆、どうせ暇をもてあました見張りの暇つぶしだろうと決め込んでいた。それどころか、現在は早朝である。寝ていて警鐘に気づかない者がほとんどであったのだ。しかし、こんな早朝から警鐘を鳴らす暇人がどこにいようか?
 いくら暇人とはいえ、わざわざ早起きして暇を作ることもない。そこで考えられることは一つ。“その警鐘は本物である”ということ。だが、平和ぼけしたこの者達にそこまで頭が回るわけもなく誰一人出てくる気配はなかった。
 黒い固まりを見つめながら無我夢中で鳴らし続けた見張り台の男も、誰一人出てこないことに気がついた。それならと、力の限り、警鐘の形が変わるほどに叩き続けた。
 ――と、ここで、見張り台の男は黒い固まりを鮮明にとらえることが出来た。これでやっと黒い固まりがなんだかわからない恐怖から逃れられると思った。頭の中では獣の群れの大移動であってほしいと願っていた。しかし、鮮明にとらえた物は‘見えない恐怖’から‘正体がわかってしまった恐怖’へと一瞬にして変わった。黒い固まりは獣ではなく、人間だった。馬に乗った推定三百人近くの人間だった。そして、ある物を見た見張り台の男の恐怖は絶頂を迎える。それは、近くなってくるにつれわかる男達の顔にある物。

 刺青

 それを見た瞬間、座り込んでしまった。体が動かない。仲間に知らせなければ。「あそこ」とは盟約を結んでいない。否、「あそこ」どことも盟約を結んでいないはずだ。どこを襲おうとおかしくはない。「ここ」も襲われたってなんらおかしくはない。知らせなければ。仲間が皆殺しにされてしまう。見張り台の男は勇敢であった昔の自分を思い出し、力を振り絞る。そして、倒れ込んだ状態で板の上を這いアジト側を向き、声を発した。――ハズだった。
「が――ほ――――だ――」
 声が出ない。恐怖のあまり声帯が麻痺しているのだ。出てくるのはかすれた声のみ。見張り台の男が声を出そうと必死になっている今も「あれ」は近づいてくる。
 声を、出さなければ――!
 その一心で声帯を震わせる。「あれ」はもはや真後ろに迫っているだろう。そんな思いも、確実に見張り台の男の、声を出そう、という意識を蝕んでいた。
 出ろ! 出ろ! 声!
 思いはようやっと脳から声帯へと通じた。
「蛾芳賊だァァァ! みんなァァァ! 逃げろォォォ!!!」
 その声と蛾芳賊が疎斗等賊アジトにつっこんでくるのはほぼ同時であった。
 先頭が通りかかると同時に見張り台も一瞬にして倒れ、波の中に飲まれていった。
 本来なら聞こえるはずの抵抗の雄叫びは聞こえなかった。聞こえるのは寝込みを襲われ、必死に生き延びようとしたところを一瞬にして切られた男の断末魔と、馬と人の塊が過ぎ去る地響きのみであった。蛾芳賊は一刻たりとも止まりはしなかった。まさに、通りがかりに切り捨てる。といった感じで、馬が一匹でも通った後には人間はそこにはなく、ただの肉塊と化していた。もっとも凄まじかったのは、やはりと言おうか、柳千だった。柳千が薙刀を一回払うだけで、柱の数本が消え去り、同時に五人ほどまとめて一つの肉塊が二つになるのだ。この男が先頭切っていたために後方隊は何もせず、ただ過ぎ去るだけとなった。

 
 疎斗等賊の全員が肉塊と化すまで五分とかからなかった。見張り台の男が必死の限りの声を上げてから数分後には、元疎斗等賊アジトは荒野の一部となっていた。


 疎斗等賊をいとも簡単に潰した蛾芳賊は、このままの勢いに乗って済央州を北上し片っ端から支配してしまおうと考えたのである。
 荒野を軽快に過ぎ去りながら、隊の一番後ろにいた汰剛が前に出てきた。
「っへへ! 圧勝もいいとこでしたねぇ! 若頭ぁ!」
「あぁ! あいつら全員平和ぼけしてたろうからなぁ!」
「若頭ぁ! 次はどこ狙うんで?」
「そうだなぁ! 次は二手に分かれてガシガシ雑魚団潰していこうか!」
 この地響きの中では大声を張り上げないと聞こえないので、お互い叫ぶ形になっている。
「二手かぁ! いいねぇ! んじゃ別れっかぁ!」
「あぁ! へますんじゃねぇぞ!」
「まぁかしてくださいよぉ! オラァ! てめぇら! 俺について来る奴ぁ付いてこい!」
 そう後方隊に声をかけると右手へ別れていった。汰剛について行ったのは約百五十名。つまり、蛾芳賊の約半数が汰剛について行ったことになる。この汰剛の人望は側近幹部として流石としか言いようがない。汰剛について行った人数を目だけで数えると軽く簡単の口笛を吹いた。
「こりゃ、気ぃ抜くとあいつに乗っ取られそうだな。うっし、いっちょ気張ってみっかぁ! 行くぞぉ! 野郎ども! 済央州に蛾芳賊あり! この名を全州に轟かせるぞぉ!」

「「「うおおおお!!」」」



 総勢三百八十名の歴史ある賊、蛾芳賊が十一代ぶりに名乗りを上げる。



 第二話 華望賊

 済央州南西に広がる裂冬山脈(れっとうさんみゃく)。冬になると、あまりの寒さに皮膚が凍って瞬時にしてひび割れてしまうことからこの名が付いた山脈。
 その大きさは実に広大で、その広さは現代で言う北アメリカなみの面積の済央州の十%おも占め、隣の州まで広がっている。隣の州にかかっている分を足すと済央州の実に二十%にもなるのだ。
  裂冬山脈済央側のほぼ中央に位置する山。蒼連山(そうれんざん)。蒼連山は緩やかな斜面が続く裂冬山脈の中でも別格で、山頂の高さは裂冬山脈の中で一番高く五千メートルにもなる高山で険しい切り立った崖が多くある。
 その山頂に大きな建物がある。その大きさは三十人しか入ることの出来ない蛾芳賊のアジトとは比べものにならないほどだ。壁は木では出来ていなく、コンクリート仕立てである。冬になるととんでもなく寒くなる蒼連山に置いて、木造建築の中に住むなどほぼ自殺行為であるからだ。
 その建物の外壁は異様に高く、広さだけでなく高さもあるその建物は刑務所を彷彿させる。
 その異様な建築物の所有者は、済央州賊団大戦に置いて名をはせた華望賊である。
 華望賊の頭は現在十三代目である。蛾芳賊とほぼ同時代に出来た賊団だが、頭となる水罰(すいばつ)一族は代々長寿の一族で、通常の人が平均寿命六十〜七十歳のなかで、水罰一族は平均寿命九十〜百歳とかなり長生きするのである。
 そんなわけで、蛾芳賊が十七代目の時に、華望賊は十三代目となるのである。
 十三代目頭の名は『水罰 称尉(しょうい)』年はこれまた若く、二十三である。人望にも暑く、部下は五百人にもなる。やはり、若すぎる蛾芳賊頭、柳千より、経験もそこそこ積んでいる称尉の方が信頼も厚いと見えよう。

 称尉は今アジト内自室で読書をしていた。愛読書は“授けよう、兵法の一手”である。内容は題名の通り兵法についてぐだぐだと書きつづられた物である。華望賊のモットーは『兵法こそ攻防一体である』なので、称尉もそれに従い兵法を勉強しているのである。
 そんな時、称尉の部屋にノックをする音が響いた。
「誰だ? 俺は今読書中だ」
 称尉は読書の邪魔をされるのが嫌いで、邪魔をされると不機嫌になるのだ。
「ああ。スマン。俺だ。崩だ」
「……入れ」
 崩とは称尉の側近幹部である。名を『填 崩(てんほう)』年は称尉と同じ二十三で、填一族は代々水罰賊の側近をやっているこれまた歴史深い一族である。
「読書中にすまねぇな。だが、それに見合う知らせだ」
「……なんだ? 嘘だったらたたき出すぞ」
「蛾芳賊が動いた」
「ほぅ。確かに、この俺の読書を邪魔しただけある情報だな。それで?」
「先刻、疎斗等賊が潰された。瞬時にして皆殺しだそうだ」
「疎斗等賊? フン。あんなクソみたいな奴ら皆殺しで当然だな。あんな奴ら取り込んだら実力が半分以下になるわ。まぁ、我が族団の前では蛾芳賊など雑魚も同然な訳だが……現頭になってから急激に勢力を増したらしいな。現頭は支配にやる気無しの奴だったはずだが、急にやる気を出したか……早めに潰しておくのが上策か……。奴らはどこへ向かった?」
「二手に分かれてあちこち潰し回ろうとしているらしい。本隊に二百三十。側近幹部が引き連れた分隊が百五十。本隊は疎斗等賊を潰した後そのまま北上。分隊は北東に向かったらしい。どうする?」
「二百人出撃させろ。本隊を南側から迂回して分隊をねらえ。薙刀の名手の頭がいなけりゃ、お前で十分だろ。背後から一気に蹴散らしてやれ」
「了解」
 策を聞くと崩はすぐさま出て行った。
「蛾芳賊か。現頭は八代目を凌ぐ強さと聞くが……。そして、もう一人気をつけねばならん奴が側近幹部の汰剛だな。頭とほぼ同じ人望をもつというが……奴を殺せば蛾芳賊の士気は一気に下がるだろうな。そこを俺が本隊を率いて潰してくれるわ。ククク……」
 称尉の自室にしばらく低い笑いが響いた。


 本隊と別れた汰剛は、まるで住宅街のようにわらわらと群がる雑魚族団の集団を潰すべく済央州東部へと進軍していた。東部一帯は山も丘も何もない草原で、見渡す限り地平線が見える。その草原の中を一つの生き物のように馬の塊が突き進んでいた。
「頭がやっとやる気を出したんだ。この俺もやる気を出さにゃぁならんな。おい! 晋(しん)はいるか!」
 なにを思い立ったか、後方にいる蛾芳賊幹部である『晋 壇作(しんだんさ)』を呼んだ。
 すると、すぐさま駆け上がってきた。
「お呼びで? 汰剛さん」
 晋は見る限り豪傑で、腕は常人の太ももぐらいの太さがある。刺青は額に髑髏。本人は死の象徴だ、と大いに喜んでいた。
「お前にも指揮を執らせてやる。必要に応じて隊を動かせ」
「了解でさぁ! 汰剛さん!」
「お? 見えてきたな。雑魚集団め。野郎ども! 今まで我慢してた分、全力で暴れてやれい!」
「「「おおおおお!」」」
 草原に総勢百五十名の叫び声が響き渡った。その声は当然のごとく、汰剛曰く雑魚集団の耳にも届いた――だが、それと同時に、華望族という凶賊の耳にも届いた。

 称尉の側近幹部である崩が兵二百人を引き連れて草原にさしかかったところだった。
 華望賊のアジトがある蒼連山と、蛾芳賊に潰された疎斗等賊アジトとはさほど離れているわけではない。さらに、蛾芳賊が二手に分かれ分隊が東部に向かいだしてすぐに出発したのですぐに追いつくことが出来た。もっといえば、普段蒼連山の険しい崖などを通っている華望賊の馬にとって、草原をただ走るなど楽もいいとこなのだ。
「フッ。馬鹿な奴らだ。声を張り上げ敵に居場所を知らしめるなど。全軍、蛾芳賊が集団とぶつかると同時に突っ込め」
 崩の言葉に返事は無かった。このことに崩はまた細く微笑んだ。
「華望賊に伝わる兵法を見せてやろう。蛾芳賊どもよ」              
「突っ込めぇぇぇ!」
 崩がほそく微笑んだ同時刻。蛾芳賊と雑魚集団がぶつかりあった。汰剛は両手に持った斧を振り回し次々と敵の首をはねていく。
「こんな奴ら、もはや居ないも同然! とっとと通りすぎるぞ!」
 汰剛がそう後ろに叫んだときだった。
 後方にいたハズの晋が前方に出てきたのだ。
「汰剛さん! 華望賊でさぁ! 華望賊が兵を引き連れてやってきやがった! 相当な数でさぁ! 二百人弱はいますぜ!」
 この知らせに汰剛は目を全開に見開いて驚いた。
「か、華望賊だとぉ! チィ! たかが雑魚を倒している時になぜだ……。こんな奴らが華望賊と盟約を結んでいるわけが……」
 急に黙り込んだ汰剛に晋はせかすように訪ねた。
「どうしたんでさぁ!? 汰剛さん! 早く号令を! このままじゃ雑魚集団といえども挟み撃ちには違げぇね! 全滅ですぜ!」
「そうか……“たかが雑魚を倒している時”だからなんじゃねぇ! “雑魚を倒しているとき”だからこそなんだ! 雑魚を相手に気が緩んでる時を狙って来やがった! クソッ! 策賊華望賊は健在か!」
「汰剛さん! 話してる場合じゃねぇ!」
 晋がそういった時だった。汰剛の首めがけて雑魚集団が斬りかかってきたのだ。雑魚集団は華望賊が蛾芳賊を狙っていると知って逆襲して来たのだ。
 士気が大いに下がった蛾芳賊分隊と、華望賊が来たことにより士気が大いに上昇した雑魚集団。
 ここまで来るともはや雑魚集団ではなく、敵襲団である。
「オラァ!」
 来かかってきた敵は汰剛の気合いの一降りで全員吹き飛んだ。
「全員、突き進め! 集団を抜けて華望賊から離れろ!」
 そういった瞬間、隣で蛾芳賊の一人が馬からたたき落とされた。落ちたが最後、彼は敵襲団の波にのまれ消えていった。
「クソッ! 急げぇ!」
「汰剛さん!」
 汰剛に斬りかかってきた敵を晋の剣がしとめた。
「すまねぇ、晋」
 そのときだった。敵襲団と華望賊、蛾芳賊が混戦して入れ混じるなかで、隙間からある人物の人影が見えた。
「……そうかよ。華望賊も全力で来たってわけだ」
 汰剛が見たのは華望賊の側近幹部である崩の姿だった。
「……敵を倒すには頭からってな」
「は? なんすか? 汰剛さん」
 言葉は普通ながらも晋も苦戦しているらしかった。晋の体のあちこちから血が流れ出している。その姿を見て汰剛はいっそう心を決めた。
「この蛾芳賊分隊。お前に預ける。頭から預かった大事な兵達だ。少しでも多く残せ」
「な、なに言ってるんすか?」
 晋の言葉に汰剛はにやりと笑って答えた。
 笑った直後。気合いの雄叫びとともにより激しい戦いが繰り広げられている場所へと突っ込んでいった。
 その先にいるのは華望賊分隊大将、崩である。汰剛は崩を殺せばあるいは勝機が見えると判断したのだ。
「汰剛さぁぁん!」
 晋の叫び声は戦いの音にかき消された。

 ・・・・・・・・・・・・・・

 数時間後。疎斗等賊アジトから北に五十キロ進んだところの荒野のど真ん中。柳千率いる蛾芳賊本隊は巨大な岩によって出来る影で馬たちを休ませていた。疎斗等賊アジトから五十キロも来たとはいえ、まだ裂冬山脈が西に広がっている。寒さに関してはまだまだ気を抜けない。
 柳千はたき火をし、その周りに四角く枯れ丸太を置き、それに座り幹部達で囲い暖をとっていたときだった。
 柳千は胸の底に違和感を感じた。いわゆる、胸騒ぎというものだ。
「……? なんだ?」
 しばらくしてもなお、胸騒ぎが消えることはない。あまりの違和感に何かをせずに入られずに枯れ丸太から立ち上がったときだった。
「お頭ぁぁぁ!」
 声がする方を見ると、汰剛について行った一人だった。ずっとかけてきたのか馬は潰れかけ、顔は汗まみれ。さらに、右腕が無くなっていた。ここまでかけてきたのが奇跡に近かった。
「誰かあいつを介抱しろ!」
 柳千のその一声に何人もの兵達が駆け寄った。
 三人がかりで馬を強制的に止め、四人がかりで彼をおろした。
 そして、おろされるなり彼は声も絶え絶えに言った。
「が……お……ガハッゴホッ」
「無理をするな! 死ぬぞ!」
 駆け寄った一人、『哉丁 鹿志(やていかし)』が無理に叫ぼうとする彼を制した。
「どうしたんだよ! 汰剛さん達が行ったのは雑魚つぶしだろ? 何でこんな深手負ってるんだよ!?」
 しかし、気が逸ったのか、まだ若い幹部『欄 慈媒(らんじばい)』が無理にでも問いただそうとした。
「やめろ! 無理に聞こうとするな! こいつの回復を待とう!」
「何言ってんだ! 下手したら汰剛さん達が危ねぇかもしれないってことだろ! 救援を頼みに来たかもしれないじゃねぇか!」
「んだとコラ! てめぇ! 汰剛さんがやられるとでも思ってんのかよ!」

「やめねぇかてめぇら!」

 これぞ鶴の一声と言おうか、喧嘩していた二人が一瞬にして静まった。
「慈媒! 危ねぇかもしれねぇって解ってんのに喧嘩なんかしてんじゃねぇ! 鹿志! てめぇもだ! こいつの身を案じてるなら騒がしくしてんじゃねぇ!」
 そう叫び倒すと、ゆっくり彼の方へと歩み寄った。
「ゆっくりでいい、話せ」
 優しく問う柳千に、息も絶え絶えに言った。
「我が……分……隊は……後……方より……華……望ぞ……く……の……奇襲…………を受け……壊……滅……状態……」
 必死に言葉を紡ぐ彼の言葉に柳千は目を見開いた。
「華望賊だと? まさか。もう動いたと言うのか?」
「華望……賊……本た……い……では……な……く。側近……幹部……崩……率……い……る……分隊……でした……。か……しら。我ら……の仇を……と……て……くだ……せ…………」
 最後の力を振り絞り、息を吐ききると彼はがくりと力尽きた。
「!! おい! しっかりしろ! 汰剛は? 汰剛はどうした!?」
 柳千の問いにも全く反応はない。揺すってみるが、これも全く反応がない。
「……お頭?」
 しばらく黙りこくっている柳千を案じたのか、先ほどまで喧嘩していた慈媒が話しかけた。頭である柳千がこんな感じでは、他の者達は黙っているほか無かった。しばらくあたりに気まずい雰囲気が流れていた。
 蛾芳賊の実に半分を一気に失い、さらに、柳千の右腕である汰剛を失った。柳千の痛みなど誰も知るよしはなかった。
 柳千はしばらくしてすくっと立ち上がり、小声で一言「アジトへ帰るぞ
」と言うと馬にまたがり、ゆっくりと馬の自由なペースで歩んでいった。


 物語はさらに急速に進行する。
2005/04/23(Sat)23:55:57 公開 / スマイル
■この作品の著作権はスマイルさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
ちょっと時間かかってしまい話の内容を忘れられてしまったのでは?と、心配になることもしばしば、のスマイルです。お初の方は初めまして。読んでくださってありがとうございます。
ゅぇさん、甘木さん、影舞踊さん。はこんにちは(こんばんは?)です。感想and指摘どうもです。今度は会話を説明っぽくしてみたら今度は描写が難しくなってしまいました。ホントにFT小説とは難しい物で。でもでも、やっぱり、内脳みそを全開まで振り絞って書きました。一話から感想を書いてくれた方はこれからも、二話から書いてくださる方もこれからも、どうか見捨てないでやってください!
この作品に対する感想 - 昇順
[簡易感想]注釈の欲しい用語があって戸惑いました。
2017/02/16(Thu)13:48:170点Coralyn
合計0点
名前 E-Mail 文章感想 簡易感想
簡易感想をラジオボタンで選択した場合、コメント欄の本文は無視され、選んだ定型文(0pt)が投稿されます。

この作品の投稿者 及び 運営スタッフ用編集口
スタッフ用:
投稿者用: 編集 削除