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『世界の終わる場所へ』 作者:パクパク / 未分類 未分類
全角2121文字
容量4242 bytes
原稿用紙約5.7枚



  僕は名も無い小説家で今年で39歳を迎えようとしていた。僕は名も無いマンションに住んでいて名も無い本棚にあった名も無い出版社の名も無い小説家の名も無い小説を持って名も無い車に乗って名も無いコンビに寄ってから名も無いおにぎりを買って名も無い海岸にある名も無いベンチに座っていた。僕には名も無い妻と名も無い娘と名も無い息子がいた。僕には何も無い。昔は何かあったような気がするが何があったんだろう。それも忘れてしまった。どうして忘れてしまったんだろう。たぶん、歳月という魔法が僕の大切なものを消してしまったのだと思うが今となってはそれも分からない。
 活字から目を離すと薄赤色の光が目に入ってきて僕は僅かに顔をしかめた。燃え盛る太陽が地平線に姿を隠そうとしていた。薄赤色に薄青色が混じって出来たような不思議な空であり、まるで命の灯火が徐々に消えていくようなそんな悲しい光景でもあった。
 名も無い海岸は昼とは違い人が疎らであった。いるのは白い犬を連れてさっきから何度も往復を繰り返してる老人とサッカーボールの蹴り合いをしている子供二人、そして夕日をバックに肩を抱き合いながら喋っているまるで三流ドラマ出てきそうなカップルが一組。ここにいる人達は何を想いこの場所に来たのだろうか。暇潰し?気分転換?ロマンチックだから?そう言う僕は何の為にここに来たのだろう。家にいると妻が五月蝿いから?静かな場所を求めて?ロマンチックな風景が見たいから?どれも違うし、どれも当てはまる。僕は何を考えているんだろう。何でそんな事を考えているんだろう。
 再び活字に視線を戻し、ビニール袋に入っている名も無いおにぎりを頬張った。潮の匂いとそれに伴って口に広がる海苔の味。そしてその味を邪魔する梅干の甘酸っぱい味。何だろう、ここは?何処なんだろう、ここは?その瞬間、曖昧な世界に僕は放り出された。不完全なこの世界は僕の気持ちを不安にさせ、掻き乱す。ある人が言った、この世界は絶えず変化し時間と共に変わっていく、と。僕は違うと思う。変化するのでは無い、ただただ消えていくだけだ。世界は変化の連続では無く綺麗に統一されている。人はそれを知らなくて勘違いしているだけだ。消えていく事に対する恐怖が無意識のうちに「変化する」と改変しているだけに過ぎない。だってそうだろう?もし千冊以上もの本が本棚の中に入れてあってある日、一冊の突然無くなっていてもそんな本は最初から無かったのではないか、きっとそうだと思い込んでしまうだろう。それは自らのアイデンティティーが揺るがないようにする為の一種の防衛本能であり元から無かったのだと決め付けることで自分の失敗や喪失を否定しようとしているのだ。だから今の僕には昔、確かに存在していた筈の沢山の大切なものが限りなく少なくなっている。このまま行くと僕の大切なものは無くなってしまうだろう。でも、それでもいいんだ。もう、そんな事も気にならなくなってしまった。昔は失うことが怖かったけどこの長い歳月の中で失うことが多すぎて麻痺してしまったようだ。
 彼女との思いでも僕の中ではもう使い果たしてしまった。彼女が死んだ日から僕はずっとメソメソしていたような気がする。それは嘘では無く紛れも無い事実だ。現に彼女の事を愛していたし、僕は愛する人が死んだ時以外、滅多に泣かなかったからだ。だけど今は涙も枯れてしまった。あるのは忌々しい、目くそだけだ。何であの時、もっと泣いておかなかったんだろう。今となってはそれも分からない。彼女がこの世界からいなくなった日、世界は終わりを告げた。面白くも無く、悲しくも無いただただ、単調な毎日がそこに存在した。そしてその単調な毎日の先にあるのは緩やかな死。それだけだ。
 太陽が沈み夜が訪れようとしていた。名も無い海岸にいた人達は何時の間にか何処かに去って行ってしまった。僕の愛する人々も気づかない内に僕の世界から消えて行ってしまった。光が闇の中に溶けていき最後は闇だけが残る。そこには絶望だけが存在する。しかし、よく考えてみたら夜空に浮かぶ星達はその絶望の先にある希望だ。彼女はその唯一の希望だった。だけど、彼女も僕の愛する人々と同じように僕の世界から消えてしまった。
 世界の終わる場所へ私を連れて行って―――彼女は無邪気に笑って僕に言った。僕は彼女が何を言っているのか分からなかった。けど今なら分かる気がする。彼女は絶望の先にある希望を僕と一緒に見たかったのだ。だが、彼女はその絶望の先にある希望を見ずに死んでしまった。
 だから、僕は彼女の代わりに彼女が見たがっていた絶望の先にある希望を見に来た。もう、僕には絶望しか見れないのかもしれない。だけど彼女のことを考えるとその先にある希望を見てみたいと思った。僕は名も無いベンチから立って海の方に歩き始めた。ジャンバーのポケットの中に彼女から貰った名も無い出版社の名も無い作者の名も無い小説を入れた。近づいていくと波の穏やかな音が聞こえてきた。夜空には数多の名前の無い星達と巨大な名も無い満月が浮かんでいた。      
 
2005/03/20(Sun)16:04:10 公開 / パクパク
■この作品の著作権はパクパクさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
え〜と以前、投稿した事があるパクパクです。まだまだ荒削りな部分がありますがよろしくお願いします。後、感想・指摘お待ちしております。
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