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『天才的視座』 作者:恋羽 / ショート*2 ショート*2
全角3583.5文字
容量7167 bytes
原稿用紙約12.85枚



 埃っぽい暗い部屋。黴の臭いを微かに感じる。
 美しい澄み渡った外気が太陽の光を直接的に降り注がせているというのに、この部屋はまるで別世界のように淀み切った空気が満ちていた。

 そして、メモを取るインタビュアを目の前にして。

 天才は厳かに語りだした。







「小学生が描く絵は、時として抽象絵画に似ている。
 だがその絵を抽象絵画として見たら、その子供の成長はそこで止まってしまう。
 精巧な、緻密なデッサンや計算に基づいたアンバランスは芸術だが、それを小学生の絵に求めるのは明らかに成長を妨げる」


 天才は悲哀を込めた瞳で、窓の外に広がる複雑な青と白の空を見つめた。


「努力が正当に認められる人達は、生まれつき優れているものに反感を持つ。生まれつき優れているものが今までどれだけ踏み潰されて、比喩ではなく虐げられて、そうして今でも生きているのか。その感覚がわかるか?
 授業なんて聞かなくても。学校なんか行かなくても。勉強ができる劣等感がわかるか?
 努力しても努力しなくても結論は変わらないその辛さがわかるか?
 純朴な少年少女の努力は尊ばれ、それ以上伸びないように見える天才や、どうあがいても無駄に見える馬鹿の努力は否定されるのか?」


 天才の掌が無機質な黒い机の上で何十もの黒い影を作った。


「やればできるという言葉がある。これが凡人だ。
 やらないしできない者がいる。これも凡人だ。
 やってもできない者もいる。これが馬鹿と呼ばれる。
 やらなくてもできる者もいる。これが天才」


 真理を述べている天才の顔は精悍そのもので、人間らしさが逆に非人間的でもあった。


「簡単なことだ。凡人はひっくり返っても凡人であり、天才がひっくり返ると馬鹿。
 その残酷さがわかるか? 時代と相容れない天才は馬鹿と呼ばれ凡人に痛めつけられる。逆に時代に適した天才はその一身に羨望や尊敬の念を集める」


 その乱れ狂うような衝動を抑えつけるように、天才は極めて冷静に語った。


「何か例を挙げようか。
 正方形に並べられた無数のブロックを、対角線上に切り取って教師が「これはいくつですか」と尋ねると、ある一人の馬鹿が一瞬で答えを述べた。数を数える練習のつもりだったのに。
 彼のそのすさまじい計算の速さに周囲の人間は驚かされたが、彼にとっては普通のことを下までだった」


 熱っぽいセリフを爽やかさを含めて語る天才の口振りは聞く者を惹きつけた。


「このエピソードを天才ならばどう見るだろう。……簡単だ。ようするに彼は他の人間よりも基本的能力が劣っていたのだ。いつもいつも周囲の凡人にせかされることによって、ついには他の者達に追いつく方法を思いついた。それがたまたま思ったよりも速過ぎて逆に驚かれてしまった、というだけだ」


 知性に溢れた第一印象とは違い、単純な言葉で天才は全てを語りつくす気がした。


「曲解でもなんでもない。これが天才というものだ。思考回路は確かに複雑に見えるかもしれないが、それは周囲の人間と基本的な脳の構造が違っていたと言うだけの話だ。そして他の人間の理解を求めるということによって脳回路が確実に複雑化し、難解な思考経路を構築したに過ぎなかった」


 明るい日差しが降り注ぐ冬の日に、天才はまるで春を謳歌しているようだった。


「その上で、言いたい。仮初の天才を求めるならばあらゆる学問を楽しむことを強要しなさい。
 真の天才を求めるのであれば……、社会との交点が一切無い部屋でペンと紙をいくつも与えるだけの生活を強要しなさい」


 天才の表情は余りにもその姿を変えるので、彼に次第に支配される苛立ちを覚える。


「社会の多様化によって、人々は確実に退化した。本来自らの内にあるべきものを便利になった道具で代用し、容易に他人の理解を得られる環境によって孤高の存在という箔が存在しなくなった。様々なことが凡人的理解によって説明されることによって、天才とはただ単純に馬鹿と同じ社会不適合者でしかなくなった」


 天才のその非人間的な要素が、どこか人間染みていることに密かな喜びを覚える。


「成長とは壊すことによって訪れる」


 太陽がいくら微笑みかけたとしても、天才はそれに怒るだろう。


「童話か神話か忘れたが。
 人間は最初、一種類だった。彼らは金の種族だ。彼らは死ぬこともなく、考えるだけで相手と理解しあうことができる完璧な種族だったが、完璧であるが故に滅びてしまった。
 そこで神は銀の種族を作った。彼らは完璧ではなく死ぬこともあったし、相手の心を理解することができなかった。彼らは結局、争いを起こして滅びてしまった。
 そして、結果的に鉄の種族が作られた。現代の人間だ。理解することもできるし、一方でできない。争いは常にあるが、共生することもできる。理性、心、そういったものが与えられたからだ」


 宗教家のようなその言葉の羅列は、宗教家のそれとは大きく異なり、天才イコール神という絶対性を持っているように見える。


「ある国では誰かが非戦を唱えた日から、知性の乏しい人々の心は確実に捻じ曲げられて行った。彼らは争うことによってのみ自らの平静が保てる人種だと言うのに。
 とある男色のあった若い天才文人があるところで自害したとき、知性のある軟弱な存在が権力を握った」


 綺麗な顔立ちを捨てて、天才は顔をぐにゃぐにゃに曲げて語り続けた。


「時代は繰り返す、と知性あるものは語る。過去の過ちは誰もが深く心に刻み、誰もが平和的に協調し合わねばならないと。
 だが、私は知性を捨て去って言いたい。
 風化した過去の過ちはなんの教訓にもならない。その痛みを想像できない戦争を、心に受け止めろと言う教育には、正直何の魅力も感じない。
 過ちを繰り返さないことで人は成長する? 馬鹿なこと言うな。どこぞのじじいがどっかの国で人を殺したことを、何故私が反省しなければならない? 殺されることなど少しも恐れていない私が、何故殺されることを恐れる人間と協調しなければならない? そうすることによって一体何が私にもたらされる?」


 女性的な顔に生えた髭に神々しさを感じ、男性的な太い眉の下の眠そうな眦に愛らしさを感じる。


「だから言う。
 もう一度日本は戦争をするべきだ。強者に恭順するスネオみたいなトップの人間の生き方が、今の低迷を生んでいる。多大な利益を齎している交易を廃止し、全てを自給によって補うべきだ。それによって今の金持ちはほとんど見る影を失う。セレブ、どころか西武みたいになる」


 どこからか香る香水の香りは、まるで天才の体臭のように感じられた。


「盛者必衰。古い言葉だが、これ以上の真理は無い。
 今現在この国に生きているほとんどの人間がジャングルに置き去りにされたなら死ぬだろう。この国は危険になった危険になった、と老人は口をそろえて言うが、んなあほな。外国と比べてみなさい。どこの国なら、自動車よりも歩行者を保障しますか? どこの国でなら護身用に武器を持たずに歩けますか?
 あんたらが作り上げたぬるま湯に搾れるだけ汗を搾り取られた子供達が、陰湿なサディスティックなゲームや刺激的な表現力に憧れるのは、どう考えても当たり前のことだ。かといってぬるま湯的な法律によって縛られた枠の中で子供が実弾を射撃することもできやしないし、ましてやロケットランチャーで人間を吹き飛ばす恐怖を知ることも無い」


 何故神はこれほど完璧な存在を作り給うたのかと考え続けて、天才が神であると気付く。


「エンターテイメントであってはならないことがエンターテイメントとして居座り、本来尊ばれるべき精神が軽視される世では、決して成長は訪れない。
 川が流れ続けることの尊さを知ることができない者に人を愛することはできない。
 森の木々が水を吸い上げる音を心で感じられない者に星々の輝きは語れない。
 画一的な感性によってのみ人を理解することが理解できる者に、真の成長は訪れない。
 殴られることを恐れる者に、真の幸福は齎されない」


 天才は感慨深げに語り終えると、その眼に涙を浮かべた。















「ところで……」
『なんでしょう?』
 天才は涙を拭くと、真摯な眼差しでインタビュアを見つめた。











「お腹空いた。……なんかおいしいもの食べたいな」
『は?』
 インタビュアが唐突なその言葉の真意を捉えかねていると、天才は笑った。
 そして電話口に備え付けてあったデリバリーピザのチラシを手に、受話器を握った。
「えっと、とりあえずメニューの品全部で」
 天才がその後インタビュアの名前と出版社名を名乗ったのは言うまでも無い。
 インタビュアはピザの代金が経費で落ちることを願った。


     完
2005/03/20(Sun)13:12:25 公開 / 恋羽
■この作品の著作権は恋羽さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 御読了、ありがとうございました。『天才』シリーズ化したっぽいですね。
 それではご指摘ご感想など、よろしくお願いします。それでは。
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