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『夕日』 作者:maji / 未分類 未分類
全角1740文字
容量3480 bytes
原稿用紙約5.05枚
 これは昔みたことのある風景。懐かしい気持ちにつつまれる場所。
「ユウ君、私今日の夕方に遠くへ引っ越すの」
この人は僕の学校の先生だった人で、いつも放課後の教室で夕方までピアノを教えてくれた。昔の僕からすれば先生はあこがれであり、頼れる唯一の存在だった。一緒にいると不思議と安らかな気持ちになれた。だからまったく興味のなかったピアノをやりたいなんて言ったのだ。
「え…それじゃあピアノは」
「うん、ごめんね。いつか逢いにくるからそのときにまた教えてあげる」
悲しさを隠しきれない僕を先生が申し訳なさそうな顔で見つめていた。すると僕が何かを思いついたのだろうか、いきなり明るい表情に変わった。
「待ってて! 先生の好きなユリを見つけてくるから! そしたら先生にあげるね」
「見つけてくるって言ってもここらへんに花屋さんはないよ? 山まで探しに行ってたら私もういないかもしれないし…だからやめようよ、ね?」
先生はできるだけ僕といてくれるために言ったのだろう。だけどこのときの僕は先生が行ってしまう前に何かをあげたい気持ちでいっぱいだったのだ。
「大丈夫だよ。先生が行っちゃう前には帰ってくるから!」
そう大きな声で答えて教室を飛び出して行ってしまった。
「ユウ君…」
 古びた学校の校門を出て、いかにも田舎の雰囲気が漂っている街を抜け、田んぼ道を通り過ぎ、僕は山の中に来ていた。夏の終わりで木々は少し寂しそうな感じがした。ユリの開花は夏なので今はもう咲いていないことは僕にはわかっていなかっただろう。だから必死で探したんだ。あると信じ、早く見つけて先生にあげることしか考えていなかった。山道から外れて自分よりも背の高い草をかき分け、顔や手に傷をつくりながら奥へと進んで行く。今の僕ならそんな無茶なことはしないだろう。あの頃は損得なんか考えず、純粋な心をいつも持って不可能なことにも躊躇もせずに挑んでいたからその時の僕にはあんな不思議なことが起きたんだと思う。僕は半ば泣きそうになりながらまだあきらめずにユリを探していた。もう日も落ち夕日が顔をのぞかせていた。それでもまだ探す。先生に絶対にユリをあげるために。
「わっ!」
僕は足を木の根っこに引っ掛けて転んでしまった。運悪くそこは急な坂道になっている場所でそのまま転がり落ちてしまった。どのくらい落ちたのかなんてわからない。気がつくと僕は仰向けになって寝ていた。空はもう薄いオレンジ色でとてもキレイだった。しかしその時の僕にとっては夕日の色がとても悲しく思え、先生との別れの合図に見えた。すると目の前を蝶が飛んで行った。その蝶につられるように僕は体を起こし初めて自分のいる場所を確認する。そこは一面色とりどりの花で埋め尽くされた花畑のような所だった。また目の前を蝶が飛んで行く。僕はなぜかその蝶を追っていた。ちょっと歩いたところで小高い丘になっている場所にたどり着き、蝶は空高く舞い上がって行ってしまった。
「あ…」
僕は少し残念そうな顔をして視線を落とす。
「あ!」
突然大きな声をあげた。その理由は足下に一輪だけ咲いていたユリを見つけたからだ。それは他の花達とは別世界にあるようにぽつんと丘の上で輝いていた。僕は優しくユリの花を摘んで少し微笑んだ後、急いで走りだす。外はもう薄暗い。帰りの山道はなぜか迷わずにすぐ降りることが出来た。
「先生…待っててね…」
 嫌な夢を見ていた気がする。それはどこかで見たことがあるような、懐かしい気持ちになる、嫌だけど温かい夢だ。僕の目からはなぜか涙があふれていた。
「なんで泣いてるんだ?」
僕は涙を腕で拭い、時計を見る。
「もうこんな時間か。そろそろ行かないと。」
ジーパンと半袖のシャツを着て一息ついた後、僕は外へ出た。目的の場所に行く前に近所の花屋に寄り、そこで用事を済ませて僕は今墓地に来ている。
「先生、今日は遅れなかったよ。」
そう言ってユリの花を先生の前に置いた。しばらく先生と話をして僕は、ふと空を見上げた。その見上げた空は薄いオレンジ色をしていた。とても綺麗で、どこかで見たことのある空だった。なぜか僕の目からまた大粒の涙があふれてくる。
「先生…ゴメンね…」
あふれてくる涙はしばらく止まらなかった。
2005/03/12(Sat)01:02:22 公開 / maji
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■作者からのメッセージ
盛り上がりがないきがします(笑
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