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『箱庭に舞う雪』 作者:明太子 / 未分類 未分類
全角5529.5文字
容量11059 bytes
原稿用紙約15.7枚
 数式や年号を覚えることを、その場その場の時間つぶしだと思えば全く苦にならないという、おそらく極めて稀有な資質を俺は生まれながらにして備えていて、それは人生における大きなアドバンテージだと自負している。あと少しなのだ。あと少し妥協すれば届く。
 しかし思い通りの人生には、あと少しで永久に届かないのかもしれない。
 人間の三大欲には明らかな仲間はずれが一つ混ざっている。単に生理的現象として、人間誰しも避けて通ることができないというだけの理由でこんな括り方にされているのだろうが、性欲というのは本来その性質上、酒やタバコや麻薬なんかと同じ「中毒」に分類されるべきものだろう。食欲や睡眠欲は、ある一定の時間を置かないと再び目を覚ますことはないが、何せ性欲君ときたらそれを処理したあとの虚無感などほんの一瞬に過ぎず、ほぼ四六時中活発に暴れまわってくれるのだ。

 要するに何が言いたいのかというと、とても腕力の強い友達にそそのかされてアキに告白したら、その告白のセリフを言い終わらないうちに「ごめんなさい」という答えが返ってきたんですよ、ということだ。半笑いで。

 ふられたからといって強がるわけでは決してないが、俺はアキのことが嫌いだった。
 確かにアキは明るくて運動が得意で性格もアグレッシブで、勉強は苦手だがそんなこと人生には全く影響ないというような芯の強さも併せ持っていて、何より「えふかっぷ」という強力な武器を所有していた。
 それでも俺がアキを嫌いなのは、俺が告白したらアキは断る、ということを事前に知っていたからだ。そして断られた後、彼女の残像が脳内でどんどん膨らんで俺の生活を大いに邪魔してくれることもわかっていたからだ。
 アキにふられた日の夜、俺は受験勉強することを諦め、色々なことを頭に巡らせながら床に就いた。「色々なこと」といってももちろんアキにまつわる色々なことだ。普通は目がさえて眠れなくなるところだが、あまりに思考が詰まりすぎてやがて全く巡らなくなり、日ごろの疲れと相俟ってすぐに寝ついてしまった。
 寝ている間に外では初雪が降った。
 次の日の朝玄関を出ると、マンションの家の前の塀の手すりに雪が積もっていた。もちろんその先は一面の銀世界だ。
 俺はなんとなく、素手でその雪をかき集めて小さな雪だるまを作り、玄関の扉の脇にそれを置いた。そしてなんとなく、その雪だるまに大きな乳房を二つくっつけてから登校した。
 真面目に授業を聞いた、という以外に出来事を説明しようのない学校での時間が終わると塾に直行した。塾には親に無理やり通わされていて、「俺には何の才能もないから仕方なく学校で勉強をしている。だから塾なんか行かなくても点数だけは取るから心配するな」という、世の“勉強します宣言”の中でこれ以上の説得力を持つものはないと確信していた決めゼリフも効果なく、長いものに巻かれたがる親を説得するには至らなかった。ならばせめてもの楽しみにと、事前リサーチによって知ったアキと同じ塾を選んでいた。告白した後となってはそれが裏目に出てしまったわけだが、その日も塾でのアキはいつもと全く変わらない様子で、女子高生好きのエロそうな先生や友達とバカ笑いしていた。
 悔しかった。しかし傍目には俺もいつもと全く変わらなかったはず、という自信が幾らかの気休めにはなった。俺がいつもと変わらない振る舞いをするのは至極簡単なことだ。
 雪が積もったその日は、外に設置された灰皿に薄く張った消火用の水が凍るほどの寒波が一日中街を支配していた。塾を出ると外はもう真っ暗で寒さはその威力を増し、俺は体を丸めて、闇に映えた大量の白い息を後方に流しながら小走りで帰路についた。
 大過なく一日をやり過ごした充足感に包まれながらマンションのエレベーターを上がって外廊下に出ると、ちょうどうちの扉の脇あたりの壁に寄りかかっている女の子の姿が見えた。
 ウチの学校の制服を着ているから最初はてっきりアキが先回りして俺の家へたどり着き、前言撤回やっぱ付き合おうか、なんてことを言いに来たに違いないと思って、さすが巨乳だけあって俺様の地中奥深くに隠れた資質を見抜く眼力も備えていたかさもありなん、と己を納得させる準備をしたが、遠目に見てもわかるその子の全く手を入れていない漆黒の黒髪と透き通るような白い肌は、アキのそれとは対照的だった。その女を“アキではないただの一女子高生”という認識に格下げしながら近づいていくと、俺の目に飛び込んできたのは彼女の胸の膨らみだった。
「ごきげんよう」
 全く知らないその女は、それぞれの手で反対の肘を抱えるようにして腕を組み、涼しげな眼をこちらに向けた。その姿勢は重い乳房を持ち上げているようでもあった。
「……あの、どなたですか?」
「寒いわね、今日は」
 彼女は、俺の質問などこの世にはじめから存在していないと言わんばかりに老人臭い時候の挨拶で返す。
「まあ、寒いですね」
 俺は仕方なく彼女の話に乗った。
「また降るわよ」
「雪が、ですか?」
「決まってるじゃない」
 涼しげな表情とは裏腹になかなか気の強そうな女だ。
「あの……お名前伺ってもよろしいですか?」
 俺は彼女の胸に釘付けになりながら尋ねた。アキより確実にデカい。
「ユキ」
「……紛らわしいですね」
「『アキ』と『ユキ』が?」
「え?」
 心の中に留めておこうと思っていた感想を口に出したことにも大いに問題ありだが、それよりユキの口から自然とアキの名前が出てきたことに戸惑ってしまい、俺はバツが悪くなって彼女の様子をうかがった。彼女は嫌味のない微笑を作っている。
「まあいいわ。じゃあ、ちょっくら仕事してきますわ」
 彼女はそう言って、俺は使ったことがないが今クラスでプチ流行している「ちょっくら」を見事に使いこなし、そのまま塀を飛び越えた。
 妙に堅苦しい言葉遣いに挟まれた「ちょっくら」が時間差で輝きを放った。
 女の子がひらりと軽快に塀を飛び越える仕草は素敵だ。俺には到底できない芸当だし、スカートはふわりと風になびくし、アキを彷彿させる身のこなしでもある。しかしそれに見惚れると同時に、旭丘三丁目の四の十一番の八〇六号室というウチの住所がぼんやりと頭に浮かんできた。
 八○六。
 八。
 ということはここはどう考えても八階だから塀を飛び越えたら着地までに結構時間がかかってその間に重力の負荷は倍々ゲームで増幅していって最終的にはおそらく手足が変な方向に曲がって脳漿をあたりにぶちまけて昇天、とバカ丁寧に思考をひとつひとつ進めていった末に辿り着いた結論に驚愕する間もなく、彼女はその途中段階を全て省略してハナから昇天している。
 彼女のその姿を捉えて咄嗟に浮かんだのは「こいつは何者なのだ」などという常識的な疑問ではなくてとりあえず下からパンツが覗けないかということであり、上空へ浮遊していく彼女を心配するふりをして彼女の下半身だけに焦点を絞って凝視してみたのだが、残念ながらスカートの中は見えなかった。そしてすぐに彼女の姿自体が暗闇に溶けて見えなくなってしまった。
 きっとあれは、たまたま見えない角度だったとか、ましてやパンツをはいていなかったということではなくて、おそらく彼女には「パンツ」という概念が存在しない、ということなんだろうと思った。つまり、彼女には重力という概念すら存在しないのに、いわんやパンツをや、ということである。
 俺はユキの姿が見えなくなったあともしばらく身を乗り出して真っ暗な空を見上げていた。何秒も経たぬうちに、額の中心にひんやりしたものが当たった。
 それが何であるかを認識するまでもなく、すぐに大粒のボタン雪が空一面に舞い始めた。
 ふと、彼女がさっきまで立っていた玄関の扉脇の足元に目をやると、雪だるまはなくなっていた。
 「ユキ」と「雪」。ギャグとしてはあんまりだが俺はその何もない空間に満足した。

 翌日は大雪で学校が休みになった。
 しかし当たり前のことだが、その恩恵を受けたのは俺一人ではなくて全校生徒だ。

 その冬は、海沿いの平野にしては記録的な雪が降り続いた。雪が降る日は部屋が冷え込み、脳がスッキリして勉強がはかどるのは良いのだが、雪が降る直前に必ずユキが俺の前に姿を現すのには往生した。胸以外は清楚なその容貌と言葉遣いとは裏腹に、深夜に及ぶ勉強を終えて布団にもぐり、ようやくレム睡眠に入ろうかというようなタイミングでもお構いなく、俺の部屋のカーテンの向こうから強烈な気配を放ってくる。あまりの鬱陶しさに仕方なくカーテンを開けると、窓の向こうの彼女は嬉しそうに親指を突き立ててクイクイと上空を指差し、口の形で「ちょっくら」とだけ伝えて微笑みかけ、ふわふわと空に舞う。その間俺は八割がた彼女の、ABCの歌なら第三小節に達していようかというカップの胸を拝んでいるわけだが、深夜に乱暴に起こされる見返りとしてはあまりにも安すぎてちっとも嬉しくない。百歩譲って俺が気象予報士だったとしても、数秒前にしか予告されないのでは予報している間に結果が出てしまうので何の益にもならない。
 ただ、占いもジンクスも全くのデタラメだと思っている俺のような人間でさえも、こうも頻繁にユキが現れると何かあるのではと期待してしまうのが性というものだ。しかし、例えばアキが翻意するというような兆候も全くないし、ただひたすら雪ばかりが降る。
 そうなると、結局ユキ本人が俺に構ってもらいたいのだ、という結論でしかこの状況に納得できなくなった。

 でも俺はユキのことを好きにはなれなかった。
 なぜなら、雪は俺のためだけに降らないから。

 大学の合格発表の帰り、マンションの下で再びユキが待っていた。
 その日、俺は志望の大学に合格して少し調子に乗っていたかもしれない。
「そろそろ暖かくなってくるわね」
「そうですね」
「たぶん今年最後になるわ。今日は祝福の雪を降らせてあげる」
「そうですか」
 俺は努めて無関心を装った。
「なによそれ。もうちょっと寂しさとか嬉しさとかないの?」
「いやまあ……僕ももう雪合戦とかする歳でもないし、だいたいこんな住宅地で雪が積もっても……その……どっちかっていうと迷惑っていうか……」
「あなた私に何を期待しているの? 私は雪を降らせる以外に何もできないのに」
「それは何となくわかってきたんですけど……」
「あっそ。もういいわよ。てかあんたさあ、同い年の女の子に対して敬語使っちゃって何なのよ。だから彼女どころか友達もいないんでしょ」
 表情を消しての静かな口調だったが言葉は激しかった。というか最後のは完全な言いがかりだ。というか同い年だったのか。
 それは雪にはおよそ似つかわしくない情熱だった。
 彼女はぷいとそっぽを向いて、いつもより速度を上げて空に消えていった。
 パンツはやはり見えなかった。
 そしてその直後、雪ではなく雹が降った。
 ふられたからと言ってメソメソ泣く女よりは、物でも投げて怒りをあらわにする女のほうが気概を感じられて好感が持てる。そしてそれを正面から受け止めなければ男ではない。俺はそのまま突っ立って全身をさらした。しかし、すぐに額の中心に小石のような硬い雹が直撃して激痛が走ったことで男としての決意は一瞬にして崩れ去り、殺されてはかなわんと俺は額を押さえながらそそくさとマンション内へ避難した。
 家に入ってからあまりに痛いので鏡をのぞきこんでみると、ちょうど雹が直撃した額にぼんやり白い痣が浮かび上がっていた。

 これでもう雪は降らないだろうと思っていたが、ユキの予告通りではなかった。
 四月になり、俺は志望の大学に無事入学して桜並木に祝福された。念願の独り暮らしもはじめた。そして「この冬の記録的な雪」という話題は、テレビのニュースからも巷の世間話からも、そして俺の中からも消えかけていた。
 そして今、異常気象が最後っ屁をかますかのような大雪が降っている。
 まだ引越し荷物が片付ききらないアパートの部屋の窓から大粒の雪を眺める。ユキは再び世間を賑わせているわけだが、今日は事前に俺の前には姿を現さなかった。
 それに、なんで今さら降らせているのだろう。だって今日はもう……
 四月二十七日。
 俺はそれを数字にして思い浮かべて、ようやく気づいた――いや、気づかされたのだ。
 愛情表現にはバリエーションがないくせに怒りの表現はやたらと多彩なのがなんだか可笑しかった。今時小学生でも活用を避けそうな語呂合わせだ。
 仮に俺がユキの気持ちを受け入れていたとしよう。一体どうなっていただろうか。街が雪に埋もれていただけかもしれないし、それだけではなかったかもしれない。ユキに手を引かれて共に昇天するというのも正直魅力を感じないではなかったが、その場合、ユキに手を掴まれた瞬間に全身凍結、あるいはそのまま一旦は浮遊しても彼女が俺の重みを支えきれなくなって手が離れ、落下して手足が変な方向に曲がって脳ショ……というのが予想しうる最も現実的なシナリオであり、どっちみちハッピーな結末なんて一つも思いつかないから後悔なんてしていない。
 額の痣は今も鏡越しに俺の目にはっきりと映る。これは俺が女をふったという勲章であるから、消えなくても一向に構わない。
 この痣について誰かに質問されて、もし本当のことを話したら頭がおかしいと思われるだろうから「天に選ばれし者だけに与えられた刻印」と答えることにしよう。

 さて、肝心の質問者は誰にしようか。



<了>
2005/02/27(Sun)13:57:00 公開 / 明太子
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久方ぶりに投稿させていただきます明太子と申します。
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