オリジナル小説 投稿掲示板『登竜門』へようこそ! ... 創作小説投稿/小説掲示板

 誤動作・不具合に気付いた際には管理板『バグ報告スレッド』へご一報お願い致します。

 システム拡張変更予定(感想書き込みできませんが、作品探したり読むのは早いかと)。
 全作品から原稿枚数順表示や、 評価(ポイント)合計順コメント数順ができます。
 利用者の方々に支えられて開設から10年、これまでで5400件以上の作品。作品の為にもシステムメンテ等して参ります。

 縦書きビューワがNoto Serif JP対応になりました(Androidスマホ対応)。是非「[縦] 」から読んでください。by 運営者:紅堂幹人(@MikitoKudow) Facebook

-20031231 -20040229 -20040430 -20040530 -20040731
-20040930 -20041130 -20050115 -20050315 -20050430
-20050615 -20050731 -20050915 -20051115 -20060120
-20060331 -20060430 -20060630 -20061231 -20070615
-20071031 -20080130 -20080730 -20081130 -20091031
-20100301 -20100831 -20110331 -20120331 -girls_compilation
-completed_01 -completed_02 -completed_03 -completed_04 -incomp_01
-incomp_02 -現行ログ
メニュー
お知らせ・概要など
必読【利用規約】
クッキー環境設定
RSS 1.0 feed
Atom 1.0 feed
リレー小説板β
雑談掲示板
討論・管理掲示板
サポートツール

『西日 ある男とその女の対話 【完結】』 作者:つん / 未分類 未分類
全角2139.5文字
容量4279 bytes
原稿用紙約7.8枚

「ねぇ春木、私のこと一応でも愛してるわけ?」
 突然の問い。
 寝転がった姿勢のままで……その意図がつかめず青年は眉をひそめた。
 目の前には立ちはだかるコイビト。
「もちろん! 世界で一番愛してるよ!」
 というような軽口を叩く場面ではない、その事は問うた口の真一文字が語っている。
「……なに、突然」
 結局こんな科白を吐きながら、春木はよっと姿勢を正した。
 ガラス越しの冷たい西日が髪を透かす。そんな午後。
「いいから、答えて」
 震える声に余裕はない。
 噛み締められた口元はわなわなと震えていた。
 自分の行いを一つ一つ検索にかけながら、春木はがりがりと頭を掻いて、
「なんだよ、言いてぇ事があんなら言ってみ?」
 するとさっきの勢いはどこへやら、言えというのにコイビトはおしの様に黙り込む。
 しかしその目は探るように眇められ、底では焔が踊っていた。
「おい、なんだって? だから……」 
 それでもコイビトは口を開かぬ……つもりだったのだろうが、堪えきれなくなったように叫んだ。
「私、愛されてないんでしょ! だって、少しでもそういう気持ちがあるんなら、あんな酷いことしないはずよ!」

 はて

 俺はなにをしたのか。
 とりあえず思い当たる節のない。
 春木はちらとコイビトを見たが、涙で濡れた顔に突破口は見当たらない。
「だから、ちゃんと言わねぇと解んねって……」
 春木が予想していた反応と、彼女の態度は少し違った。
 怒るどころか、少し眉尻を下げ、悲しそうに……それでも真っ直ぐこちらを視る。
 好きそうな下唇が、零れた言葉にさらに赤く、夕暮れの色に染まった。


「留学するつもりなんでしょ……?」

 
「あ……」
 
「ナオから聞いたの、なんで……言ってくれなかったの?」
 しまった。
 思わず顔を覆いたくなったが、それすらも許されそうにない張り詰めた空気に、春木はうつむくしかなかった。
 こうなることが解っていたから言わないでいたのに……、

「なぁ、聞いてくれよ。俺ァ留学すんのが夢だったんだ。ガキん頃からの……
 で、よう……お前に言ったら悲しむだろ、んでもって止めるだろ?
 それが辛いから、ギリギリまで黙っていようと思って……よ」
 
 一気に捲し立てた。
 気まずいどころの騒ぎではない。
 顔を上げるのが恐くて、明暗の格差の激しい室内の、どうでもいい一点を見詰めていた。

「離ればなれになるの、私たち」

 ぞっとするような声音だった。
 思わず顔を上げかけて、春木は再度うつむいた。
 威圧するような声ではない、ただ耐え切れない程の「おぞけ」がする。
 顔を上げて目を合わせたら全てが終わる気がした。 

「それは……いちようには」
「嘘よ!」

 ダンと迫った女に、春木は思わず飛び上がりかけた。
「私なんて忘れてしまう! 春木は忘れる!」
「ちょっ、待てって!」
 抱き寄るというよりは締め上げる。
「いや! 春木! 何処にもいかないでよ!
 私はもう春木しかいないのに!」
 逞しい胸に長髪を押し付け慟哭する。
 煩わしいほどに甲高い。
 哀願するコイビトの後頭部を眺めるうちに、春木の中にある思いが生まれた。

 彼は決心した。

 ぽん、と優しく手を置かれ、彼女は赤くはれ上がった目線を上げた。
 逆光に阻まれその表情は明確でなかった……が、
「悪かったな……辛い思いさしちまったみてぇだ……」
 声は誠実みと愛情に溢れていた。
「春木ぃ……」
 彼のその声に、彼女は一層深く顔を埋めた。
 胸一杯にコイビトの臭いを吸い込む。
 落ち着いてきたと見て、春木はそっと抱き起こしてやった。
「もうどこにもいかねぇからよ」
「……うん」
 彼女はゆっくりと体を離すと、ひとつ頷いた。
「ごめんね、いまコーヒー入れる」
「おぅ」
 台所に消えた後姿を見送り、春木は安堵のため息をついた。
 タバコを取り出し、火をともす。
 何かを見計らうようにじっと、動かない。
 いくらかして、突然立ち上がると、そっと台所の様子をうかがう。
 熱しかけたヤカンを前にした彼女はまだ戻りそうにない。
 そう確認すると、家に一台の電話のもとへ向かい、手帳も見ずに一定量の番号を入力した。

「俺だ、ナオか、何で言いやがった。ちくしょう。お陰で奴を殺さねぇとイケなくなった」 
 受話器の向こうに立つ人物はいかなる言葉を返したか、
「……まぁいい、だが…… どうやらてめぇと一緒だってことはバレてねぇみてぇだが、奴相当……」
 そこで声が途切れた。

『春木?』 

 受話器の向こうに呼びかける声すらも失い、たちすくむ。
 背に冷たい重みを感じる。
 そういえば、随分たつのにコーヒーの香りは届いて来なかった。
 振り返らねば、そう思う。
 取り落とした有線の受話器が、限界まで引き伸ばされた西日に照らされ、左右にぶれる。

『ねぇ、春木! 聞いてる? あたしあのコにちゃんと言ったわよ?
 あんたの留学にあたしも着いて行くって……春木! ちょっと!』

 背後から手が伸びきて――……
 五月蝿く喚く受話器を取り、“切り”の点滅を押し隠す。
 外界とこの部屋を隔離したその指先を見ながら、春木はゆっくりと振り向いた。

 そして夕闇が……


 fin 
2005/02/02(Wed)00:06:16 公開 / つん
■この作品の著作権はつんさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
シリアス〜に纏めてみましたがどうでしょうか?
解りにくかった方のために相互関係を説明すると
春木はナオと恋人(浮気)で
春木は本当のコイビトに黙って
浮気相手と留年しようとしていたんです。

これでも解り難いですね、すみません!
感想評価をおまちしております。
この作品に対する感想 - 昇順
感想記事の投稿は現在ありません。
名前 E-Mail 文章感想 簡易感想
簡易感想をラジオボタンで選択した場合、コメント欄の本文は無視され、選んだ定型文(0pt)が投稿されます。

この作品の投稿者 及び 運営スタッフ用編集口
スタッフ用:
投稿者用: 編集 削除