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『無犠牲無血の趣味』 作者:学 / 未分類 未分類
全角7909文字
容量15818 bytes
原稿用紙約26.5枚

 狭いよ暗いよ怖いよ、と叫ぶ奴が壁ごしから聞こえてきたこともあるが、断言する、そっちの方が
どれほど気が楽なことか。
 確かに最初は、目覚めた途端に夢も未来もへったくれもない場所に放りこまれて、自分こそが最も
 不幸であるように生まれてきた存在だとか、何で自分ばかりと、大変青臭い考えを持っていたもの
 だが、壁越しから物音しかしないということは、逆に誰かに何かをされるわけでもない、閉鎖的ながらも
最も安全な場所だということに気付いた時、世の中を恨むのをやめたのは何日前のことだったか。
 真っ暗ではあったが、確かに何かの気配はするもので、思いっきり声をかけてみたところ、まるで
 眠っていたところに水を頭から被せられたように、様々な場所で「誰かいるのか?」と、台詞は多少
違えど意味は統一された返事がやってきたことは鮮明に覚えている。
 本当に真っ暗だったが、更に何日かが経過すると共に目が慣れてきた。ざっと見渡したところ、ここは
何処かの牢屋みたいな場所であるらしい、完全な密室状態だった。
 だが、そんなことよりも感心を寄せられるものを発見することが出来た。真っ暗でよく分からなかった
 のだが、この空間の中全体を覆うようにあるパイプのような部分に、パネルのようなものが間近に
溶接されていたのだ。
 目を凝らすと、そこには「十二」と書かれていた。近辺にいる何者かに声をかけ、パネルのことを
 話すと、どうやらそれが自分たちの名前だからそう名乗りなさい、ということらしい。根拠もへったくれ
も無い場所に名づけられた名前などクソ食らえ、と行きたいところだったが、名前が思い出せない。
 記憶障害か何かだろうと思ったのだが、そういった事実の一かけらに手を出すことすらも出来なかった。
 自分に過去はあるのかと、ここにぶち込まれる以前の記憶など本当にあったのかと、またしても頭を抱
える毎日を過ごすことになったが、ある日のこと、十三と名乗る誰かが唐突に声をかけてきたのだ。
「どうしたの? ボク。何か悩みでもあるの?」
 女だった。だが、照れは微塵も生まれず、十二は思わず声を荒げて、
「何でもない」
 突っぱねるように言ったはずなのだが、おかしなことに女は更に面白がるかのように笑みをこぼす。
「あら、悩みでもあるの? よし、お姉さんに何でも相談してごらんなさいな、さぁ」
 思わず焦る。どうして見知らずの他人にここまでして無防備な誘惑を仕掛けることが出来るのか、十二
 は到底理解しようもない考察に入る。十三は更に続ける。
「もしかして、この環境に慣れていないの?」
 それは自己解決した。環境など、無理矢理良いところを見つければ何処に行っても住む場所はここが
一番、と決め付けることが出来る。
 それにしても、
 十三は一体何者なのだろう。声色から察して自分よりも早く生まれたことは確かだ。年齢すらも思い出せ
 ないが、多分それは断言出来る。弱みでも握って何か悪さに利用しようという魂胆があるのではないのか
 とも思ったが、どう足掻いても「動けない」環境であることに気付く。意識しなければ空気を吸っている
 ことを忘れるのと同じで、この場から動くことが出来無いという事実にも、次第に受け入れてしまって
いたようだ。これでは、活動的なことは出来ない。そう思うと何だかほっとしてくる。
 十二はため息をこぼす。
「いえ、環境には慣れたんすよ。ただ、自分が誰なのか分からなくて、それが恐ろしいんです」
 それを聞いた途端、十三は受け流すわけでも、放り投げるような返答を下すこともなく、何かが
 はちきれたように、心底ツボにハマったようなギャグを目前でやられたかのような笑いをケタケタとこ
 ぼし始める。
「あーあー、私に似てるわね〜、というか十五も同じようなこと言ってきたわ。今じゃすっかり元気
だけどね。でもまぁ気持ちは分かるな、私だってそうだし」
 半ば痺れていた十二の思考が活性化する。
「本当なんですか?」
「本当も本当。私も昔は自分って何なのか、に悩んでいたものよ〜」
 解決には繋がってはいないが、仲間がいた。それだけで十二は何か救われた気持ちになる。
そして、十二は同時に気付いた。ここにいる人達は皆、自分と同じ環境なのだろうということに。
 こんなことなら積極的に声をかけてみれば良かった。他人はどうせ自分の気持ちなんて、と拗ねて
 いた過去が馬鹿らしく思える。
「でも、過去があるって大切なことなのかしら」
 やはり暗みは濃い。だが、十二は今も笑っていることは分かる。
「私だってさ、記憶は無いけれど今の生活いいと思うよ? 腹も空かないし体も壊さない。何より暇な
時にはみんなが色々話しかけてくれる、私も話す。なんかさぁ、壁越しでは戦争だの殺人だの言ってる
ようじゃない? それ聞くと、私達はなんて最も安全で、なおかつ天国のような場所にいるんだろうなぁ
と思うのよ」
 そう、壁越しからはよく話し声が聞こえてくる。何故そうなっているのかは分からないが、戦争や
 殺人という単語の意味は分かっている。時々、何か良いことがあったと話していることもあるのだが
 大半は外の世界は荒れている、そんな風にして読み取れることばかりが壁に透き通るようにして聞こえ
 てくるのだ。もしかしたら、ここは新人類を保存する為のような場所のようなものであり、怪我をしない
 ように丁重に「保管」されているのではないか。だから何かを食べなくても生きていけるし、空気を
吸わなくても、実は大丈夫だったりもする。
 根拠の無い妄想だったが、勝手に自分のネガティブで自滅するよりはマシだと思う。
「そうかもしれませんね」
 十二は安心しきったような笑みをこぼし、
「そうでしょ? いっそのこと、外なんて忘れてここでぐうたら過ごすのも悪く無いかもねぇ」
 それは名案だ。十二はうんうんと頷く。
「まあ、外が正直どうなってるかは聞きたいんだけれどもね。見ての通り拘束されちゃってるし」
 拘束と言われると、何だか動けないことが不憫に思えてきた。そんな心中を察したのか、十二は
 慌てるように、
「あ、いやいやいや、外を見ても絶望するっていうパーセンツは高いと思うからやっぱいいや」
 攻め気質の女性がこういうことを言うという姿に、思わずぷっと笑いがこぼれる。最初は、あなたの
 ことは何でも知っているのよ、と知ったふうに考えた胡散臭い奴かと思っていたが、何だかんだ
十三と同じ境遇ではあるし、考えていることも十三そのものだ。この人も色々と苦労してきたのだろう。
 そして、十二はどうも落ちこんだ空気を見かけるとどうにかお節介を仕掛けたくなるタイプのようだ。
 しかも、自分のせいで他人が傷ついたら年上であることも忘れ必死になる、筋金入りのムードメーカー
らしかった。
 このまま黙っていて十二の慌てぶりを観察したかったが、そんなことをしては男がすたる。十二は
 助け舟を出すことにする。
「まあまあ、動けないのは事実なんですし、あなたのお陰で何だか外、外、過去、過去とうめくのが
馬鹿らしく思えてきましたよ。ここで一生暮らすのもありなんじゃないかな、とも思います」
 さぞかし電球が光ったような笑顔を見せたに違いない。
「でしょでしょ!? ここも悪く無いわよ〜、話し相手は限定されるけど、みんないい人ばかり。十七
は外の世界について真面目に考察してるんだけど、結構聞いてて面白いし」
 へえ、と十二は返事をする。しかし、考察というと年を取ったような声で専門用語ばかりを飛ばし
て長ったらしく話す演説のような印象が付きまとっているので、聞くのは御免だったりもする。壁から
 時折聞こえてくる時は、あえて眠ろうとするのが日課だ。
「まあ、別に眠気も覚えないしさ、ここにいてもいいじゃない。誰だろうね、外に出て遊べ、引きこもる
ことは許さない、なんて言った人は」
 人が変わったかのように、途端に冷たい口調になる。先程のノリで気楽に返答したら、袋叩きに
 されるかもしれない。いい人だと思うが、十三にはそんな二面性があるように見える。
「ああいうのは思考がマッチョなんでしょうね、環境に恵まれたから他人だって同じだろっていう、保険
がまるでない大口。ああいうのを聞くとむかつくのよ、私」
「何か、あったんですか?」
 ふん、と荒い鼻息を上げ、
「いえ、別に。ただ、外の世界の空気に触れたせいで、別の現実を探した結果があれだというのに、んまぁ
頭のいい人は外ばかりを神聖視するわね。外ばかり見てきたせいで権力とか戦争とか起こすんでしょうに。
密閉空間を現実世界にした奴は何か悪いことしたっけ? むしろ、外の世界にしか依存していない奴が
色々面倒なことを起こすんじゃない、壁からそういった報告が耳に届くしさ。何でみんなは外の世界に
出るべきだ、と推奨するんでしょ。犯罪だらけ痴漢上等窃盗当たり前血まみれハレルヤだってのに」
 過去のことを多少ながら覚えているのだろうか。それとも、この人は濁った空気を見ると拒絶反応
 を示してしまうから、そこに行けとせかす奴が気に食わないのだろうか。
「ま、そんな世界だから、ここがなおさら好きなのよね」
 手のひらを返しただけなのか、またしてもの心を読んだのか、急に十三の声が和らぐ。
「あんまりさ、無いものねだりするのはよくないよ? 寂しい時はお姉さんが甘えさせてあげるし」
 あっけに取られていた十二の意識が再び逆戻りする。
「ちょっ、なっ!? 動けないじゃないっすか俺! そもそも何!? 好感度もフラグも立っちゃ
いないってのに!」
 もう少し気の利いたことが言えないのか、たまらず自分を殴りたくなったが、手も足も出せない。
 だが、十三はそんな十二の姿を、待ってましたとばかりに再びケラケラと笑う。
「あははー、冗談じゃないから気にしないで」
 やっぱりか。
 そんな気は薄々感じてはいたが、やはり目の前であっさりとこういうことを言われると、男の器が足りて
 いなかったのかと多少ながら自己嫌悪を覚えてしまう。本気でやられた時のことなど全く考えちゃ
いないくせに、男というのは本当に女からおだてられることに快感を覚える生き物だな、と思う。
 まだがきんちょの自分ですら、女性にああいう言葉をかけられると高揚するし、
ちょっと待て。
 今、何と言った? 拙い脳味噌をフル回転させる。こういう場面でのああいった言葉は、いやいや
 難しく考える必要は無い。少年に対して年上の女性が、気を匂わせる発言の締めの言葉は「冗談よ」で
あるはずだ。そうでなくてはならないのだ。
 よく考えろ、過去ログを検索する。違う、それはセーブデータ画面のボタンだ。本当に操作になれて
いないとこういう間違いをしてしまうよな。あった、過去ログだ。
 十二はたまらず声を上げた。
「はぁ!? 冗談、じゃない!? あんた否定してどうするんですか!? 誤字じゃないっすか!?」
 うわはははははは、と十三は本当に楽しそうに笑い声を上げる。
「ま、成長したら本気で考えてあげる!」
 結局は否定していないじゃないか。何だか、最初から最後までいいように遊ばれた気がするが、悪い
 気分ではない、むしろ高揚していた。こんなことは、外の世界に無理して出る必要性など全く無い
と、自己解決した時以来だ。
 今度からは、テレや距離などで他人は他人と決めつける青さにすがるのはやめよう。
 それがいい、うん。


 外の世界などからきし見えない日常が続けば良かったのだ。
 外の世界など、自分たちの話のネタであれば良かったのだ。
 ある日、突如として覆い被さっていた闇が消え、光が射し込まれた。光などいらないと皆が皆、そう
言っていたくせに、脈絡も無く突如として渇望の対象がこうやってきてしまっては、言葉すら無い。
 誰もが平等に、わけ隔たり無く光を浴びている。驚愕でも歓喜でもない、十二が光に対して真っ先
抱いた感想が、それだった。
 数年経った後に、忘れられた頃に解放されると、それどころか一生このままだと思っていたが、こうして
 光のある世界を見せられると、逆に現実味が沸かない。十三の方を見るが、同じ心境なのか、押し
黙っている。
 そして、何か大きなもので摘まれると、数秒もしないうちに何処かの台にへと移動された。元いた世界が
離れていく光景は二度と忘れまい。あそこが無ければ、自分は今のようにはなれなかったはずだ。
 しかし、こうして外の世界を見ると、確かにあのあそこより何十倍もの開放感を覚えることが出来る。
 自分がいる場所など、極々一部でしかあるまい。そうでなくては、外への世界の、隠し切れなかった憧れ
が無駄になってしまう。
 こんな場所に連れてこられたら、あんな独房のような場所になど二度と戻れるはずが無いではないか。
 自分は良いが、十三はどう思っているのだろう。あれ以来激怒した十三の姿は見たことは無いが、あれ
 こそが十三の本性に違いない。唯一本音を晒す対象が外であるなら、外に対する、十二程度には到底
理解のしきれない恨みが体の中に詰まっているはずだ。
「十三、」
 表情を窺い知ることが出来ない。だが、十三の中では本人にしか分からない感情的な演算処理が
なされているはずである。それを、他人の言葉で手助けすることは出来無いだろう。
 十二は黙って、十三を見つめ続ける。
長い、実に長い間だった。誰しもがざわめきを隠せない中、十三だけが外の世界を冷静に見渡している。
 ただ、黙っているので、本当にそうなのかは分からない。もしかしたら、感情が暴発しきっているせい
 で、口にまで余裕がいかないのかもしれない。
やがて、
「や、やったぁ―――――――――――ッ!!」
 驚く前にコケそうになった。張り詰めていたせいか、不意打ちを受けたせいで意識が完全に破壊された。
「やったわ! 出ちゃったのよ私達! やった! やった! やったぁッ!!」
 赤ん坊が泣きじゃくるように、十三はものの見事に舞いながらやったを連呼していた。
 何だ、結局はあんな世界に理由無く閉じ込められていたことを根に持っていたんじゃん、危うく
 口に出そうになったが、結局は自分もそうなのだ。醒めた気になって、十三と同じく黙っていた
 が、実のところ、今までに無い静かな驚愕と、ふつふつと沸き立ってくる歓喜に頭がもっていかれ
そうだったのだ。
 今は素直になった方がいい、俺は違う、と場をしらけさせるなんて磔間違い無しだ。
「やりましたね! 本当に、やったんですね!」
「ええ、本当に! うーんっ! これから何をしようかなぁッ!」
 言いたいことは山ほどあったし、やりたいことはマシンガンの弾薬ばりに多い。まずは固定状態を
 どうにかして欲しかったが、外に出されたのだ。きっと、すぐに動けるように処理を施してくれる
 はずである。
「いやー、全く持って何をしていいのか分かりませんが、解放された時に考えましょう!」
「OKッ!」
 どっちが大人なのか分からなくなって、思わず笑ってしまう。
だが、今はここでいい。
 十三はそれが正しいと思えてならなかった。

 そして、歓喜に混ざって悲鳴が聞こえてきた。
「何だ!?」
 誰かが叫ぶ。歓喜一色だった雰囲気が、氷柱に貫かれたように静寂を覚える。
 悲鳴のした方に視線を向けると、そこには確かに仲間だったものがアームで無理矢理ねじり取られている
 光景が、何者にも規制されることなく映し出されていた。
「あー全く、中々上手く取れんなぁ」
 仲間よりも一際大きいアームが仲間を摘み、ぐりぐりと回しては拘束具から解放している。
 それは、誰もが求めた光景だった。
 それは、誰もが求めた自由だった。
 そして、仲間は自由をくれたものに殺された。
 全員、理解した。拘束具から放たれると、死んでしまうということに。現に、自由になったはずの
仲間の一人は、喜ぶことも無く、ただ沈黙を保っているだけで、残ったのはその身のみだ。
 全員の脳味噌が一つの結論に達した。これから、自分たちは自由を与えられ、死なされるのだと。
「うわぁぁ―――――ッ! 助けてくれぇッ!」
「どうして、どうして自由が無いの!?」
「遊ばれていたのか!? 俺達はッ!?」
 泣く者、怒る者、迷う者と、歓喜の色など粉ほど残ってもいない。あるのは、目前にある、自由なんか
よりもよっぽど現実味がある、巨大な殺人アームのみだった。
 自分たちが何をしたのか、問い詰めたかった。アームに声をかけようとする者もいたが、ちっぽけな
声など気にもしないのか、聞こえないのか、あるいは言葉が通じないのか、あるいは楽しんでいるのか、
 どっちにしろ、皆が死ぬことには変わりが無いらしい。こんなことなら、一生あの場所にいた方が
 よっぽどマシだった。だが、そう思っていても、アームが果たしてあそこにずっと放置させて
おくのかと思うと、怪しいものだ。
「ねえ、指でちぎるよりもニッパー使った方がいいんじゃない?」
「あー、面倒臭くて使ってなかったわ。そうしてみる」
 ニッパーって何だ、ニッパーって。その正体を掴むまで、数分もかからなかった。
ハサミだった。驚愕は一瞬だけ収まり、誰かがつばを飲んだと同時に、また恐慌が起こった。
 誰もが安易に想像出来た、あれで拘束具を切られるのだということに。
案の定、ニッパーで拘束具を切っては、仲間に断末魔を上げさせることも無く楽にさせていた。
 すぐに楽になれるのだろうか。だとしたら、今度は生まれ変わりたかった。もしこの時の記憶を
 持っていたならば、あのアームをぶち壊すほどの凄い奴になって、自由奔放に外の世界を普通に
闊歩出来るような存在になりたかった。
 呪いでもかかっているんじゃないかと思う。理性が絶え絶えの状態で十三の方を見るが、まるで
子供のように、声を上げて泣いていた、二度と言葉が喋れなくなるというくらい、大声で泣いていた。
 どうして、自由を求めたら死ななければならないのだろう。結局、自分とは何だったのだろう?
 考える気すら起きない、世界のことを考えても、存在意義に疑問を持っても、あのアームが何の役割を
示すのかを考察しても、お前らが知る必要は無いとばかりに考え自体が否定されるに決まっているからだ。
 十三の泣き声が止まった。ニッパーで、拘束具が外されていた。十三は自由になったのだ。
 声で埋め尽くされていたはずの雰囲気は、何時の間にか静けさを取り戻そうとしている。どうやら、十二
以外の仲間は全て、掘り尽くされてしまったらしい。
 最後が自分だとは、何の因縁か、嫌味なのか。そんなことも、きっと分からないまま死ぬのだろう。
 そして、十二めがけニッパーが飛んでくる。十二自身には傷をつけないように、丁寧な手つきで拘束具を
切り取る。
 脳味噌を抜き取られたように、視線がぼやけていく。わずかに、何かが見えた。
 そこにはかつての仲間が一つに固められていたが、何故そうなっているのかすらも、やはり分からない
ままなのだろう。
 狭いよ暗いよ怖いよ、と叫ぶ奴が壁ごしから聞こえてきたこともあるが、断言する、そっちの方が
どれほど気が楽なことか。
 そして、十二は寒気を瞬時に覚えながら、意識を閉ざした。


「やったわね! お姉さん感激! これで仲間入りよ!」
「ああ、三ヶ月放置していたけど、これで俺もモデラーだ!」



2005/01/26(Wed)02:28:43 公開 /
■この作品の著作権は学さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めまして、学といいます。
皆様の文章を見ていたら、よし、じゃあ自分も負けないぞ、という妙な対抗心から書いた文章です。

面白い、救いようがある、どうなってんじゃこりゃあ? という人、大歓迎です。
評価、批評なり、どしどし受け付けてます。
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