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『止まった時間』 作者:無明行人 / 未分類 未分類
全角1626.5文字
容量3253 bytes
原稿用紙約5.55枚
「メインシステム出力低下」
「神経パルス切断出来ません」
 悲鳴のような報告が上がってくる。
 何故? 何度も予備実験を繰り返し、安全性を十分高めたはずなのに……
「大丈夫! きっと迎えに行くから……もう少しだけ待ってて」


午前六時四十五分
 漸く朝日が昇り始めたビルの屋上で俺は吸っていた煙草を捨てた。
(煙草の煙は目に悪いわよ)
 何度も聞いたその台詞を聞かなくなってからもうどれくらいたつだろう。
「さあ仕事の時間だ」
 少しでも嫌な気分を吹き払うようにそう口に出してみた。
それにしてもたかが高校生を一人消すためだけにわざわざ戦場帰りの狙撃兵を雇うとは……
 気に入らない。
 どう考えてもこの仕事は不自然だ。
 とはいえこの不景気では仕事の選り好みをする余裕はない。
「ふっ」
一つ息をついて俺は愛用の狙撃銃を構えた。「せめて痛みを感じないように一発で逝かせてやるよ」
心の中で短い祈りを捧げ俺は静かに引き金を引いた……
「なっ、弾が」
 あり得ない。分解整備して調整したばかりのこの銃が不発?
 そんなことは今まで一度もなかったのに。
「貴方にはもう銃は撃てないよ」
「何、誰だ」
 俺は手に持った役立たずの銃を投げ捨て、ナイフの柄に手を掛け振り向いたまま―― 動けなかった。
 白い影の居る場所
 確かに誰もいなかったはずなのに……
「もうかなり前に貴方の時間は終わっているの。さあ、早く元の時間に戻りなさい」
 こいつは何を言っているのだ?
 しかしその言葉に納得する自分が居て愕然とする……
 優しいその声を聞きながら久しぶりに穏やかな気持ちで俺は目を閉じた。
「そうか、俺はもう……」


「状況終了」
「脳波、脈拍、呼吸ともに正常値」
「被験者の意識戻ります」
 遠くの歓声を聞きながら、俺はゆっくりと瞳を開けた。
「お目覚めですか、少尉?」
 白衣を着た女性がゆっくり近づいてくる。
「お気分は如何ですか?
何処か痛いところは?
記憶の混乱はありますか?」
 矢継ぎ早の質問に答えずにいると、
「どこかに障害が……
私のことは分かりますか?」
白衣の女性は少し焦ったように聞いてくる。「大丈夫だ、舞……天城博士。
少し頭が重いみたいだが意識はハッキリしている、何も問題ない」

長期間の宇宙旅行中、乗組員の心理的諸問題に対処するため人の意識を疑似空間に転送し、架空の生活を行うシステムが研究されている。
 俺は、その最終実験の被験者だ。
 このBTシステム(因みにこのBTとはベストトリップの略だそうだが一説にはこの一号機の実験では、被験者はあまりの頭痛と吐き気に悩まされ、バットトリップだと叫んだためだとされているようだ)
今回の三号機では十分改良させたと聞いていたが……実際、自分で体験してみないと人の言うことは当てにならないものだ。

「実は……今回の実験中に予期せぬトラブルが発生し、本来なら体感時間一週間の筈が……体感時間二十四年、実際時間三日という結果になりました。大変申し訳御座いません。
心より謝罪します」
 おいおい、御陰で俺は掃きだめのような人生二度やることになっちまったじゃねーか。
「今回のトラブルの責任は全て私にあります」 なおも説明を続ける白衣の女性に軽く手を振って、これ以上の謝罪は不要だと告げる。
「問題が解決したのなら別に気にすることはない。
それに……約束通りちゃんと迎えに来てくれたしな」
「そういって頂けると助かります。
それでは今回の実験はこれで終了です。
尚、医療班は引き続き少尉の治療をお願いします」
 ここまで言って彼女は満面の笑顔で俺の方に両手を伸ばした。
「お帰りなさい、ユゥくん」
 こういう人生なら悪くない。
 白衣の女性――舞を抱きしめながら、俺はふとそう思った。                         
                       FIN
2005/01/24(Mon)21:17:43 公開 / 無明行人
■この作品の著作権は無明行人さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
皆さん、初めまして。
宜しくお願いします。
不備だらけの話ですが
もしお付き合い頂ければ幸甚です。
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