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『鈴の声<読みきり>』 作者:千夏 / 未分類 未分類
全角1504文字
容量3008 bytes
原稿用紙約4.8枚
いつでも、どこにいても聞こえてくる、
リンリンリン。
寝る前は聞こえないのに、起きたらすぐに、リンリンリン。
これは、あいつの声なのだ。小川朝香の…。

「奥田」
小さな小さな、今にも消え入りそうな声で俺に問いかけるのが分かった。目をゆっくりと開けると、奥田、奥田と問いかける小川の白い顔が見えた。同時に鈴の音も聞こえる。視線を少し上に向けると、小川の薄茶のサラサラの髪が見えた。俺は、この髪が好きだった。まるで、女神の様だったから。
段々、笑いが込み上げてくる。もう我慢できない。
「あははははははっ!」
笑いの正体は小川が俺の足の裏をくすぐっていたこと。
「やめろよな小川!」
小川は良かった、奥田、死んじゃったのかと思った、と本当に安心したように表情を穏やかにさせた。なぜ俺が死ぬんだ?と疑問に思いつつ、俺は小川に突っ込んだ。
「だからって足の裏くすぐることないだろう」
真顔で言った。小川はくすくすと上品に笑ってみせた。まさに、山の手のお嬢様である。
「ごめんね、奥田の足の裏、葉っぱついてたの」
なんだそれ、と一気に力が抜けた。小川はとても変な奴だ。妙に男っぽいところがあるし、でも身なりはそこらの女子とは比べ物にならないくらい綺麗。ほかにも、笑いのツボが人と違う、いつも鈴を身につけている、声が小さい。
「まあいいや。小川、一緒に帰ろう」
にこりと笑う小川の手を、力が入らないように握った。細い手だったから、俺にはとても脆く見えたのだ。

普段は悪ガキの俺も、きっと小川の前では違う。いくらか優しくしているつもりだ。
「奥田、あたし、奥田のこと、好きだよ」
小さな声で言った。いつもより少し大きめの声だった。いきなりすぎて、俺は目を大きくする。
「いま…なんて?」
小川はあれ、いつもより大きめの声にしたつもりだったんだけどな、と、見当違いな独り言を呟いている。俺は、今度は耳を澄ませた。
「あたし、奥田のことが好きなの」
それは、俺の心にスーッと沁みこんでいった。まるで、いつでも聞く準備ができていたとでも言うように。鈴の音が、リンリンと鳴る。
「お…俺も…小川のこと、好きだよ」
少し下を向いて言った。小川の顔は見れなかった。きっと、白い顔が赤くなっているんだろうなあなんて思いながら、俺の赤い顔を下に向けた。ゆっくり小川の顔へ目を向けると、小川は今まで見た中で一番綺麗な笑顔を見せた。
「うれしい、ありがとう」
その言葉と、鈴の音が、妙にマッチしていた。俺が聞いた小川の最後の言葉はそれだった。

次の日、小川はざわめいたクラスには姿を現さなかった。
チャイムギリギリで登校する俺には情報が遅くに届いたのだ。
「おい、奥田!小川今日死んだんだってよ!」
いつもは口数少ない中屋が血相変えて俺に言ってきた。小川が死んだなんて最悪な冗談だな、とか思いながら席に着いた。俺の胸はどんどん高鳴っていった。ドキドキドキドキ、ドキドキドキドキ、ドキドキ…。破裂しそうだった。最悪な冗談と思ったのは聞いたその一瞬だけで、このクラスを見れば本当なんだってことぐらいすぐ分かった。
眩暈がした。

「奥田?」
ショートカットで黒い髪を耳にかけながら、俺を呼ぶ声がした。ゆっくり目を開けると、俺に聞こえるように大きな声で奥田、と呼ぶ南の姿が見えた。肩を摩る。
「いってえな!なんだよ南!」
寝ないでよ、と突き飛ばすように南は言った。

今でも俺の心の中では小川が問いかけてくる。奥田、奥田と。とても小さな声なので、たまに聞き取れないことがあるが、俺はなるべく耳を澄ます。小川の声が鈴と一緒に聞こえてくるのだ。
リンリンリン。奥田、大好きだよ。
(END)
2005/01/13(Thu)18:22:55 公開 / 千夏
■この作品の著作権は千夏さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
コンニチワ♪千夏ですッ♪♪♪
今回はとってもスラスラ書けました!!
手が勝手に動くみたいに、頭の中でどんどん整理されていく感じにv
最近こういう話ばっかり書いてますが、個人的にこの話が一番好きです。
どこよりも雰囲気だけは負けないぞ、といった感じで…(ぉぃ。
それでは、感想など待ってます♪
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