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『Zero 【読みきり】』 作者:流浪人 / 未分類 未分類
全角2024.5文字
容量4049 bytes
原稿用紙約5.85枚
 先ほどから、雲ひとつない空を何度も見上げ、その度に僕は思う。なぜもっと上手くなれないのか。なぜチームに貢献できないのか。サッカー選手になるという僕の目標には、厚い雲が、かかっている。

「おい、ハジメ。お前明日スタメンだ、わかったな」
 それは突然の出来事だった。今まで途中交代で試合に出たことは何度かあるが、スターティングメンバーは初めてだった。
「わかりました!」
 威勢良く返事をしたまでは良かったが、帰宅してからとても不安になった。不安を打ち消すため、サッカーボールをエナメルバッグに放り込んで近くの小学校へ向かった。
 この小学校は、僕の母校であり、僕のサッカー人生のスタート地点でもある。僕がサッカーを始めたのは、小学校三年生の時だった。父親に勧められてサッカー少年団に入部してから、どんどんのめり込んでいった。僕のポジションはミッドフィルダーと呼ばれ、フィールドの中盤あたりを動き回るものだ。ミッドフィルダーの中にも攻撃的か守備的かなどで区別があり、僕は攻撃的なミッドフィルダーである。
 誰も居ないグランドを見て、今日は金曜日なのでサッカー少年団は休みだ、と気づいた。胸に熱く迫るものがあった。あの頃も、僕はスタメンではなかった。だけど他の誰にも負けないくらい必死に練習していた、と胸を張って言える。
 ゴールネットに向けてではなく、壁に向けてボールを蹴り始めた。一人で練習するときは壁に向かって蹴らなければ、ボールを取りに行く手間がかかるのだ。
 そういえば――
 そういえば高校に入ってからは、一度もここで練習してないな、と思った。中学校の時は、たまにここに練習をしに来ていた。なのに僕はいつのまにか、一人で練習するということを忘れてしまっていた。今まで一度もスタメンに選ばれたことは無く、半ば諦めていたということもある。だが、それほど強くない今の高校のチームなら、ずっと個人練習を続けていればもっと早くスタメンに選ばれたのではないか――
 ボールを蹴る強さが、だんだん強くなる。考えれば考えるほど、明日の試合では結果を出さなければ、と思ってしまう。明日の試合は、僕たちの高校生活最後の試合だ。だから監督は、三年生を優先的に使ってくれるんだと思う。でなきゃ僕がスタメンに選ばれることなど、ありえないのだ。それはわかってる。だけど――
 僕は何のために、ずっとサッカーを続けてきたんだ。叶わぬ夢を追い続け、なぜ必死に練習してきたんだ。それは全て、きっと夢は叶うと信じていたからではないのか。なのに僕はなぜ、個人練習をいつの間にかやめ、今の環境になれてしまったんだ・・・・・・
 今までの自分が、とても悔やまれた。だけどどんなに悔やんでも、過去に戻ることなんかできなかった。

「ハジメ。緊張するなよ。精一杯やってこい!」
 監督に励まされ、僕は他のスタメンと共にフィールドに足を踏み入れた。いつものフィールドじゃない。それはもちろん、これが僕の最後の試合で、これが最初で最後のスタメンだからだろう。
 だが僕は期待を裏切り、前半の四十分間、ミスを連発した。中盤の選手がミスをすれば、チーム全体が機能しない。僕のせいで、チームは0対1で、相手にリードを許して前半を終えた。
 ハーフタイムの控え室で、僕は思っていたことをぶちまけた。
「みんな、僕のせいだ。僕がミスを連発したからだ。やっぱり僕には無理なんだよ。みんなと違ってスタメンは初めてだし、とてもじゃないけどチームに貢献できるとは思えない。監督、もう満足しました。引退試合だからってわざわざスタメンに使っていただいて、ありがとうございました」
 僕の想像とは逆に、チームメイトは怒っていなかった。
「何言ってんだよ、ハジメ。頑張ろうぜ。誰だってミスはするよ」
「今まで一緒に頑張ってきたじゃないか!」
「僕は・・・・・・僕は頑張ってなんかいなかったんだ。スタメンに選ばれるために、出来る限りのことをやらなかったんだよ。個人練習もいつの間にかやめていたし、本当にスタメンになりたかったのかさえ、今じゃ不安だ。僕の名前は一(ハジメ)だけど、本当はゼロなんだ。ゼロはあっても無くても変わらない。いや、むしろマイナスって読んだほうがいいかもしれない」
 苦笑した僕を見て、監督は怒りをあらわにした。
「何言ってるんだハジメ! 俺はお前を引退試合だからって使ったわけじゃない。お前の実力を評価したんだ。お前は精一杯、自分のやれることをやればいいんだよ」
 そしてキャプテンの笠松が、僕の肩をぽんと軽くたたき、言った。
「ほら、行くぞ。ハジメが居なきゃ始まんねーだろ」
「笠松・・・・・・」
「お前の練習の熱心さは、みんな知ってる。個人練習なんかしなくたって、お前はやれることやってきたと思うぜ。さぁ、ラスト四十分、気合入れていこーや」

 試合を終えて、僕たちのゼロというスコアは変わらなかったけど、僕の中のゼロは、一へと変わった。

2004/10/28(Thu)19:06:35 公開 / 流浪人
■この作品の著作権は流浪人さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
うーん、何を伝えたかったんでしょうかね。汗
ほんと、自分の中でしかわからなかったようなまま終わりました・・・・・・
けどもし、何か伝わるものがあったなら、感謝感謝です!
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