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『信号無視(ショート)』 作者:樂大和 / 未分類 未分類
全角1173文字
容量2346 bytes
原稿用紙約3.7枚
 ひとりの男が交差点で信号を無視して捕まった。酷く気弱そうな男性で、ひたすら謝り続け、見逃して欲しいと泣きつき中々取り調べが進まない。取調べを担当していた警察官は困り果てて男に言った。
「だから、今、アンタはそこの信号、無視して交差点に突っ込んで来たでしょ?」
男は今にも泣きそうな顔で答えた。
「すいません…自分のやった事が悪い事だとは十分理解してます、ええ、してますとも!ですが、私は今回、切符切られたら免停なんですよぉ…お願いです、見逃してくださいよぉ」
 警察官はため息をつき持ってるペンで頭を掻くと
「いや、あのね法律だからね。ホ・ウ・リ・ツ。分かる?悪いことは取り締まるのが僕等の仕事なの。自分でも悪いことって思うんでしょ?それなら、その罰くらい正々堂々と受けなさいよ」
「困るんです…」
 男は唇を震わせて呟いた。
「何?聞こえないよ?もうちょっと大きな声だして…」
 警察官は目を細め、眉間にしわを寄せ聞き返した。男は震える唇から声を絞り出すかのように呟いた。
「免許が無くちゃ、仕事が出来ません。いいや、クビだって有り得る…ただでさえ、薄給なのに…借金だってまだまだ、残ってるんです、家内だって真面目にパートして頑張ってるです」
 男はうっすら涙すら浮かべている。しかし警察官は動じる事無く
「泣き落とししたって、駄目なものは駄目なの!!今回は周りに人や車が無かったからいいものを…もし居たら大惨事が起きたかもしれないんだよ?」
 男は口を噤んだまま警察官を睨みつけている。やれやれ…と思い警察官は
「早く、免許証出して!」
と語気を強めて言い放った。男は、警察官を睨んだまま
「嫌です!」
と負けじと声を上ずらせて言う。さすがの警察官もムッとし
「そんなに、抵抗するなら、公務執行妨害になりますよ!あんたは信号を無視した。これは立派な道交法違反なの!わっかんないかなぁ…もう!」
と脅してみる。しかし、男も上ずった声のまま言い返す
「人間、誰だって信号の一つや二つ見落とすことくらいありますよ!私だって人間だ!急いでたら見落としだってするんだ!」
もはや男の顔は別人のようである。
 次第に熱を上げる男に警察官は呆れて、腰に手を当て大きくため息をつくと、一気に言い放つ
「だーかーらっ!運転を急いですること自体、間違いなの!教習所で習わなかったの?アンタは?『運転は心にゆとりを持って』って習わなかったの!?」
「ゆとり…?」
男の顔が見る見るうちに真っ赤に染まる。本当に耳の穴から蒸気でも噴出さんばかりの顔だ。

 男は警察官の胸座を掴んで引き寄せると目を吊り上げありったけの声で叫んだ。

「ゆとり!?ハッ?ゆとりなんてあるわけないでしょうに!そこの先の直線で人を撥ねたばっかりの人間に!!それとも、なにかい?あんたは人をはねたことあるってのかい?」
2004/10/15(Fri)15:28:43 公開 / 樂大和
■この作品の著作権は樂大和さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
奇跡のリベンジみたいな作品ななっちゃいました。一応、前作より書き込んでみたつもりなんですけど…酷評、感想ありましたらお願いします。
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