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『お報せ』 作者:シヅ岡 なな / 未分類 未分類
全角2167文字
容量4334 bytes
原稿用紙約9.1枚

ふわんふわん。
浮き沈み。
ピンク色の柔らかさの中で、包み込まれてあたし幸せ。
夢見たことが現実で、現実に起こってることが夢。
四方八方、あたし達、ピンク色、あたし達、ピンク色、あたし達肌色。
不思議。
何度も何度も可愛いねって誰かが言ってくれる。
その度にあたし、何回も何回も、ふるる、と震える。
好き、って、震える。









いつもたいてい1時間も経たない内に目が覚めてしまう。
下品なピンク。妙にくっきりと裸体を映す、鏡鏡鏡。
ずーずーいびきに近い寝息をまだたてている男におかまいなしに、あたしは乱暴に起き上がってせかせかと服を着る。気づいた男が「え、なに、帰るの?」、ヴィトンのお財布から諭吉一人抜き取って「うんごめんね急に用事思い出しちゃったぁ」、ベッド脇のテーブルに置いて、上から灰皿で重石。
風の通らないこの部屋で、重石がなくても諭吉は飛んで行かない。
「ほんっとごめんね」バタン。
ベッドの上テーブルの上、一人ずつ男残して、あたしイライラして大通りまで先の尖った7センチのミュールで一人で競歩。こんな靴ばっか履いてるあたし、近い将来きっと外反母趾になる。

「可愛いよ」「好きだな」「愛してる」
言われた瞬間あたし嬉しさのあまり発狂。
発情期の猫みたいにいやらしくニャァニャァ鳴いて、壊れて止れなくなった玩具の自動車みたいに盲スピードで電池が切れるまで走り続ける。
生暖かい季節の間、繁殖という目的を達成してしまえば、猫はおとなしくなる。
電池切れの自動車は、止れなくても、もう、徐行すら出来ない。


はぁぜぇはぁ。
タクシー捕まえたら女の運転手だった、行き先告げて目を閉じてため息。
深夜から明日の早朝にかけて雨が降るらしい。
高温多湿。
今日という日。
夏。
タクシーのシートの固い座り心地に、たった一つのバックミラーに、安堵。
丁寧に巻いていた髪は今はもう、だらしないゆるいうねりになって、汗で湿った額と首まわりにまとわりつく。
ホテルのボディソープの人工的なバラの匂いが、ぷんと鼻につく。
少し、吐きそうになる。

夏が、嫌い。
匂いが、良くない。
汗で体がべたつくのは、その次に良くない。
髪かきあげて考える。
夏、悪くないもの。
扇風機の前で小刻みになる声。
ほんとうは果物になれなかった縞模様の瓜。
それぐらい。

ハンドタオルで汗ぬぐいながら「すいませんクーラーもう少し強めてもらえませんか?暑くって」、お願い早くあたしの体を乾かしてあたしは今どうしてもクーラーのすえたほこりっぽい匂いが嗅ぎたいの。



死んじゃってもいいかなって、あたしいつだってまるでそのぐらいの勢いで誰かと一緒にいる。
心の底から本気。
全身全霊のあたしの気持ち。
それなのにいつだって、まるで電波が悪くていきなり切れちゃう電話みたいにぷつり、つーつーつーつーつー。
あたしから、切っちゃう。
可愛がられることに好かれることに愛されることに、応えることが絶対で、それがあたしにとって一番幸せなことだって、強く強くそう思うのに、良くも悪くもただそれだけしか見えなくなるのに、ふと気づけばいつだって、あたしは何も見ていない。あたしの隣には、だぁれもいない。

無駄だと分かっていても山のようにつのらせてしまう想いをしょったり、どろどろぬかるんだ嫉妬の海で必死で息をすること、視界が狭くなるほど目を泣き腫らして、寂しさに耐えきれず思わず入れちゃった自分の中指が情けなくて。
色んなこと考えて色んなこと思いながら、時には相手や自分自身すら疑って、苦しい。けど、そっちのほうが、あたしもしかしたら幸せなんじゃないかなって、本当はうっすらと気づいてるあたし。ごちゃごちゃ理由をつけて言い訳し、やっぱり失敗だと気づいてその失敗を何回も何回も繰り返す、阿呆で馬鹿な女、あたし。






トントントン「お客さんつきましたよお客さん。着きましたよ」はっと目覚めて眠っていたことに気づく。
「すいません、えっと」料金のメーター見てヴィトンのお財布から「三千円ね、三千円」まさかと思いながら小銭入れを見て、そのまさか、千円足りない。
お財布じっと見つめても足りない千円が出てくるはずもなく、女運転手の視線が刺さって、顔上げて「すいませんあの」言いかけた時、お財布持つ手にはめた腕時計が十二時十分で、確か今日は八月三十一日だったなと思った。
知らない間に、今日が昨日に変身していた。
だから、今は、九月。
「すいませんあの、お金、足りなくって」
女運転手露骨に嫌そうな顔。
でもあたし、なんだかあんまり焦る気もしなくて、こういう場合はどうしたらいいんだろうか、とぼんやりと思った。
そしたらいきなり雨の音。
いきなりざあぁと降ってきた。

女運転手はぁぁと嫌そうにため息。

クーラーは効き過ぎていて、少し寒くて、あたしの体はさらさらに乾いていて、髪も、パサパサとしている。
髪をかきあげると、
デニムのミニスカから出た太股の内側で、「寒い寒いよー」と声が聞こえた気がして、あぁあたしまだ寝ぼけてんのかなぁと思って、おかしくて笑ってしまった。
「あのこういう時ってどうすればいいんですかねぇ」
笑いながらたずねたから、女運転手はきっと気を悪くしたと思う。




































































2004/08/22(Sun)00:45:44 公開 / シヅ岡 なな
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■作者からのメッセージ
あたしも夏は嫌いだな。
かき氷は、真冬でも食べられますとも。
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