オリジナル小説 投稿掲示板『登竜門』へようこそ! ... 創作小説投稿/小説掲示板

 誤動作・不具合に気付いた際には管理板『バグ報告スレッド』へご一報お願い致します。

 システム拡張変更予定(感想書き込みできませんが、作品探したり読むのは早いかと)。
 全作品から原稿枚数順表示や、 評価(ポイント)合計順コメント数順ができます。
 利用者の方々に支えられて開設から10年、これまでで5400件以上の作品。作品の為にもシステムメンテ等して参ります。

 縦書きビューワがNoto Serif JP対応になりました(Androidスマホ対応)。是非「[縦] 」から読んでください。by 運営者:紅堂幹人(@MikitoKudow) Facebook

-20031231 -20040229 -20040430 -20040530 -20040731
-20040930 -20041130 -20050115 -20050315 -20050430
-20050615 -20050731 -20050915 -20051115 -20060120
-20060331 -20060430 -20060630 -20061231 -20070615
-20071031 -20080130 -20080730 -20081130 -20091031
-20100301 -20100831 -20110331 -20120331 -girls_compilation
-completed_01 -completed_02 -completed_03 -completed_04 -incomp_01
-incomp_02 -現行ログ
メニュー
お知らせ・概要など
必読【利用規約】
クッキー環境設定
RSS 1.0 feed
Atom 1.0 feed
リレー小説板β
雑談掲示板
討論・管理掲示板
サポートツール

『理想と現実の地図』 作者:ティア / 未分類 未分類
全角8296文字
容量16592 bytes
原稿用紙約25.65枚
 昔々小さな村に、理想を求める男が一人、現実を見つめる男が一人いました。
 幼い頃から二人は、同じように生まれ同じように育ちましたが、なぜか大きく意見があわない事ばかりなのでした。
 この二人に名前はありませんでしたが、あまりに極端な思想の違いに周りが勝手に、理想主義な優男を「李僧」。現実主義な頑固者を「源実」と名づけてしまいました。
 もちろん深く考えられた名前でもなく単なる当て字です。酷すぎますが本人たちは気にしてないようだったのでそれで通ってしまい、いつしかお互いその名前で呼び合うようになりました。

「なあ、源実」
「ん?」

 話を持ち出したのは李僧。ほぼ毎日は李僧から話を持ち出します。そして気の無い返事をするのは源実の、いわば務めでした。
「あのカモメはなんて気持ち良さそうなんだ。私たちにも羽があれば良かったのにな」
 大空を見上げ、ばあっと手を広げる李僧を見るなり、あきれた顔で手を降る源実。
「ばっかだなあ。鳥になってもいいことなんか無いんだぜ」
「誰も鳥になりたいとは言っていないだろう源実よ。羽があれば、と言っているのだ」
 すると源実は大きく笑い飛ばします。
「ぶっはっは。お前に羽なんかついたら本格的に変人じゃねえか」
「なにを言う! 本格的とはどういう意味だ!」
 と、体育座りをしていた李僧は、ぷんぷんと頭に血が上って勢い良く立ち上がりました。
 そして毎日の日課の一つ、喧嘩の始まりです。
「おいおい、やめておけ。ヒョロいお前じゃ俺にはかてねえ。戦績も俺の999勝0敗0分けだしな」
 よく覚えているものだ、と李僧は一瞬関心しましたが、すぐに自分の怒りっ気を取り戻します。
「ふん、分からないぞ。いつかは奇跡もおこるものだ。それに今日の戦いは記念すべき1000戦目。記念すべきこの戦いは私に勝利の女神が微笑んでくれるであろう」
 では今まではお前に悪霊か何かでもついていたのか? と源実は突っ込みたくなりましたが、ここで突っ込めば火に油を注ぐようなものなのでこらえます。
「まったく……夢みすぎだぜ、しょうがない相手をしてやるか」
 と源実は立ち上がりファイティングポーズできめ、迎え撃ちます。

 と、まぁこのように、李僧と源実とが言い合えば必ず喧嘩になるのは、もはや一種の定めでした。
 当然言い争いで決着はついたことがなく、周りから見ればその言い合いはコントのようにも見え、娯楽として見られるようになってきました。
 ちなみに当たり前なんですが、結果は源実の1000勝で終わりました。

 それからしばらく、源実の戦績が1421勝になった頃、二人の住む村でとある事件がおきました。
「てぇへんだ〜てぇへんだ〜」と親分にでも報告するように走り出していたのは普通の顔をした布津兎(ふつう)さんです。
 李僧と源実はその声を聞きつけて、布津兎さんに尋ねました。
「何が大変なんだ?」
「へぇ、道端にこんなものが!」
 ゴソゴソとポケットから取り出されたのは、なんと宝の地図と上に書かれた宝の地図でした。
 しかも宝のありかを示す印は二つもあり、それは宝が2つ存在しているということを教えていました。
 李僧はそれを見た途端に大きく跳ね上がりました。
「これはまさか宝の地図なのか!」
 源実は冷めた口調で
「ああ、まぁ……そう書いてあるし宝の地図には間違いはねぇだろうが」
 でもな、と源実が言う前に李僧が叫びを上げます。
「ああ、神様ありがとう! やっと私に微笑みかけてくれたのですね! 絶対に必ずこれに記された宝を見つけ出して見せましょう! 目指せ、グランド……」
 おい、ちょいと待て、といわんばかりに源実は自分の世界に入っている李僧の肩を掴み、無理矢理振り向かせます。
「言いか、李僧。突っ込みどころは嫌と言うほどあるが、とりあえず世の中、道端に転がってる宝の地図があると思うか?」
「ふっ、愚かだな源実、ちゃんと話を聞いてなかったのか? 正直だけがとりえであとは平凡な布津兎さんが道端に落ちているといったのだから、世の中には道端にも宝の地図が転がるということだよ」
「いや、だから俺が言いたいのは、それ明らかに偽者の地図だろって事だよ」
「なぜだ、証拠があるとでもいうのかね?」
「いや、別にねぇけど」
「じゃあ本物なのだよ!」
「………………」
 再び自分の世界に入り込む李僧、もう呆れてものも言えない源実、そしてさりげなく李僧に侮辱された布津兎さん。
 絶妙な沈黙を破るように布津兎さんが、李僧に語りかける。
「あの、李僧さん。すいませんが、そろそろ地図を返してくれませんかね?」
 と、李僧が我に返る。
 すると、李僧は疑問に満ち溢れたような顔で情けなく「え?」とつぶやく。
「いや、だってそれ私が拾った宝の地図ですし、所有権は私にあると考えますよね?」
 三人とも正論だと思った。この三人の頭の中には既に、役人に届けるという選択肢など無いというわけだ。
 そして、李僧は困った顔をする。どうしても手放したくない宝の地図、吹っ切るように李僧は言う。
「そういう風には考えたくないな……」
 源実は、考えろよ! と喉元まででかかった言葉を飲み込む。
「お、おいおい李僧、布津兎さんの言ってることは最もだし返してやれよ」
 源実がそう言ったところで、李僧は逆切れさながらに叫びます。
「げ、源実までなんだ! 私は宝を手に入れなければならない理由があるのだ!」
 一呼吸おいて源実が問いかける。
「なんだよ、理由って……?」
「私の……私の母上のためだ。そうだ、この宝さえあれば病気だって」
 李僧は真剣な顔で源実を見つめながらそう言った。
 源実も李僧の母親の事は知っていたので励まそうとはしたが、いつもの現実的なクセが自然に出てしまいます。
「おいおい、だからそれは宝の地図じゃねえって言ってるだろうが」
 感情変化の激しい李僧は今度は顔を真っ赤にして言い放ちます。
「何を! もし本物の宝の地図ならどうするのだ! たとえそこに宝のある確立が限りなく少ないとしても0ではない、そして私が動かなければ母上を救える可能性は0なのだぞ!」
 そんな激論を聞くやいなや源実の方もつられて口調は荒々しくなります。
「チッ、バカが! 言わせてもらうけどな、仮にそれが本物の宝の地図だとしてもな、お前のお袋の病気は絶対に治らないと医者から何度も言われてるだろうが! 金はあっても病気はなおらん、動かなければ可能性は0とかいう問題じゃない、既に可能性は0なんだよ!」
「……きっ、貴様ぁ!」
 と、李僧は涙目になりながら源実に飛び掛ります。
 また喧嘩が始まりましたが、いつもと違いそれはお互い気迫に満ちた本物の戦いでした。
「自分の意見が正しい」とお互い自分自身に言い続けそれを貫くために戦い続けたのです。
 戦いの中でも言い争い、ついに今までお互いが口にしなかった言葉を李僧は口にします。
――――もう、お前とは絶交だ!――――
 源実はその言葉で一瞬ひるみ、そのスキに李僧が強烈なアッパー。しかし負けじと源実の方もカウンターパンチ。
 その一撃で勝負あり。
 結果はなんと李僧始めての快挙となります。いいえ、勝利したわけではありませんが二人ともその場に倒れこみ「引き分け」という結果となりました。

 しかし李僧は引き分けと言う初めての結果で喜ぶよりも、頭の中には後悔という文字が浮かんでいました。
 いくら頭にきてたからといって「絶交」なんて事、口にしてしまうとは、と……。
 でも、自分から言ってしまった矢先「仲直りしてくれ」なんていえるはずも無く、意地張って憎たらしい「ケッ」と捨て台詞を源実に浴びせます。
 倒れながらもそれを聞いた源実は荒れる呼吸の中、こう言ってしまいます。
「ああ、いいぞ……てめえとはもう絶交だ……」


 そしてそれから3日。
 その間は、本当に絶交したように毎日一緒にいた二人は顔を会わせようともしませんでした。
 そして、その3日間で李僧は着々と旅の準備をしていました。
 そうです。李僧は自分の思い描いた理想の目的地へと旅立とうとしているのです。
 思い描いたのは宝の山と、どんな病気でも治る不思議な薬、そして全世界の人が仲良く暮らせる魔法の鐘。
 恐らく最後の理想は、源実と仲直りしたいために思い描いたのだろうし、昔から優しい男だった李僧だからこそ、思い描くは私利私欲だけでは無かったということでしょう。
 そしていよいよ旅立とうとしたその時、李僧の家に訪問者が。
 ノックされた扉を開ければそこには、なんと荷物をどっさりと持った源実の姿がありました。
 驚いた李僧をよそに源実は冷たく言い放ちます。
「確か、宝のありかは2箇所あったよな?」
「え、あ、ああ……」
 すると源実は口元に笑みを浮かべました。それはどこか今までに無い不気味なものだと李僧は思いました。
「ならばその地図を半分にちぎって片方、俺によこせ」
 その言葉に李僧は激しく反発します。
「な、なぜだ!」
「誰かが隠した宝なら普通一箇所に隠すだろう。つまりその2箇所のうちどちらかが偽者でどちらかが本物と考えるのが現実的だろう」
 源実は淡々と自分の考えを述べる。それは李僧にもうなづけることだった。
「し、しかし、お前は宝なんて夢物語は信じないのになぜ今になって信じるのだ……?」
「ばあか、俺が宝を信じてると思うか? 簡単に言えば絶交したお前と当分顔をあわせたくないから俺は旅に出るんだよ。要はその宝の地図の目的地はついでだ。旅路も行く当てもないしな」
 それを聞いて「仲直りしたい」と切に願っていた李僧の考えは消え去った。
 李僧は苦し紛れに不適に笑い出しこう言いました。
「ぷっくっく。こんな奴と絶交して正解だったようだな」
 源実は言葉を返さないで一方的に睨みつけます。
「よかろう、半分にちぎってくれてやろうぞ。宝を見つけて理想の大切さと素晴らしさを知るがいいさ」
「ふん、そっちも宝の無い現実の厳しさと辛さを少しは知るといいさ」

 「ふん!」とお互い顔を逸らしたまま旅立ちの時は近づきます。
 李僧が目指す宝のありかは南の広大なる海の先にある大陸。そこにある洞窟が目的地だ。
 源実が目指す宝のありかは北の偉大なる山の先にある半島。そこにある洞窟が目的地だ。
 お互いが背中で向き合った。結局最後の最後まで仲直りはしないまま二人同時に、旅の始めの一歩を踏み出します。
 お互い本当は、心の中で仲直りを強く願っていたのに……。
 村人に涙ながらに見送られ、二人はそれぞれの思い描いた形を、自分の考えが正しい事を確かめるため、歩き、姿を消す。


 そして、それからあっという間に半年がたちました。
 二人とも相変わらずの旅を続けていますが、旅の始まりの笑顔と自信は二人ともにありません。

 李僧は泣いています。ついに旅路の果てしなさと自分の限界を悟ったのです。
 港町についたとき、李僧は困った。お金がなくて船にも乗れず海を越えられないのだ。
 そこで初めて現実の厳しさを李僧は感じたのです。
 だが何を負けじと、自分でコツコツと木を切っては加工し決して立派とはいえないまでも、自分自身で船を作り上げたます。
 しかし街の人々は「死ぬぞ、やめておけ」「海をなめるな、決してそんな船じゃ越えられん」と口々に現実的な言葉を言い放ちます。
 その言葉の一つ一つを聞くたび李僧の頭に源実の顔が浮かびましたが、彼は同時に「負けるか!」と自分の信念を貫くため無謀ともいえる出航をしました。
 御伽暦999年の彼の出航は後に伝説的なものとなりますが、これはまた別のお話です。
 出航の前に彼は自分に言い聞かせました。「宝は必ずある」「私は間違ってはいない」
 そして海上で空腹や嵐にあったときは何度もつぶやきます。「信じるものは救われる」「希望は決して捨てない!」と。

 しかし、食料も残り少なく、魚も釣れず、何も無い海の上で、李僧は一人希望がじわじわと削り取られていきます。
 李僧は青空を見上げ、今は遠き源実の顔を思い浮かべました。
 絶交したはずなのに、大ッ嫌いなのに、と口の上でウソをつぶやきましたが、心の中では涙を流していました。
 会いたい、もう一度だけでもいいから会いたい。せめて、私が悪かった、と仲直りしたい、と。
 私の考えが間違っていたのだから……。
 そして李僧は震える手で、ペンと紙をとり何かを書き上げました。
 それは、源実宛ての手紙です。
 内容はこうです。
『久しぶりだ、源実。どうやら私の方が正しかったらしい、理想というのは間違いじゃなかったんだ。ついに今日宝を手に入れたんだ。莫大なる宝だ。しかし、源実、君が仲直りしてくれここまで会いに来てくれるなら、この宝物を分けてあげても良いだろう』
 こう書かれていますが、もちろん李僧は宝など手に入れてはいません。
 つまり李僧は源実に、もう一度だけ会いたいために精一杯の強がりでこんな手紙を書いたのです。
 この手紙には他にもこんなことが書かれています。
『しかし、困難な道だった。荒れ狂う海はまるで大怪獣のようだった。何も考えず夢と希望だけを持っていたら、食料なんてすぐに無くなってしまうし毎日がとても辛いんだ……。君の言う現実の厳しさがよくわかったよ』 と。

 一方こちらは源実のことです。
 源実もまた泣く毎日でした。頑固者の彼は生まれて初めて涙を流したのです。
 山奥の村にたどり着いたとき源実は目を疑いました。村人のほとんどが死んだような顔をして苦しそうに寝付いて、かろうじて動けるものが源実に助けを求めました。
「お願い、病気から助けてください」と。まだ源実の腰にも及ばぬ背丈のやせ細った少女の言葉でした。
 その村は病魔に侵されていました。それも絶対に治らないとされている病気なのです。
 源実は悩みました。「先を急ぐたびだ」「いや、むしろこんな危ない村はさっさと出発するべきだ」「それに俺が何かをしてやれるわけじゃない」
 このとき源実は改めて自分はなんて冷たい人間なんだろう、と感じました。同時に「李僧ならば迷わずこの村を助けるだろうな」とも思いました。
 しかし少女のお願いは必死なものだったので、源実は仕方なくその村に3日間だけ居座る事にしました。
 源実が看病をするものの村人達の病気は一向に治りません。それどころか日々悪化していきました。
 気がつけば最初に決めた3日を超え、滞在から5日目の朝日を迎えてました。
 そしてその日のうちに、あの助けを求めた少女のお母さんが、源実の必死の看病にも関わらず亡くなってしまいました。
 少女は一日中大泣きしました。源実はかける言葉が見つかりません。
 やっとの事で少女を慰めようと言った言葉がこれでした。
「仕方がなかったんだ。俺だって助けるよう頑張った。でも世の中そんなに甘くは無いんだよ」
 それを聞いて源実の半分の大きさも無い少女が激怒して源実の膝元に殴りかかります。
 そんな事無い、そんな事無い! と少女は泣きながら叫びました。
「お母さんはいつか絶対助かるって言ったもん! そしたら私とまた遊んでくれるって言ったもん!」
 その少女の言葉は確実に源実の心に突き刺さりました。そしてその言葉で一つの大きなことに気づきました。
 死の直前、少女のお母さんは最後の最後まで笑って見せていた。
 源実は絶対助かるわけ無いのになぜ毎日笑ってられるのだろう、とても苦しいはずなのになぜ笑っていられるんだろう。
 その謎は崩れ落ちるように解けました。
 そのお母さんには自分の死など見てなかった。病気が治ってまた再びこの子と遊べる日しか見ていなかったんだと。
 それそのものが大きな現実と理想の差でした。
 ここにきてようやく源実は理想という光の大切さ、更に言えば生きる希望すら与える理想というものの、素晴らしさを痛感しました。
 そして次の日には少女自身が母親の死と共に力が無くなったように、病に伏せました。
 源実は涙を流して少女に昨日の事を謝りましたが、もはや少女は返事すらできないほど弱りきっていました。
 そんな少女を見て源実は身を奮い立たせて決心します。絶対にこの子だけは救ってみせる! と。
 更に次の日には源実は疲れ果てていました。無理もありません、一日中走り続けたのです。
 ふもとに下りて医学書や薬を買ったり薬草を拾い集めるのに必死でした。彼をそこまで動かしたのは並々ならぬ強い意志。それを貫き通すためでした。
 二度と悲しい涙をあの村に流させてたまるか! 理想の大切さを知ったからこそ彼は止まることは無いのです。

 そしてとうとう彼は、絶対に治らない病気をも治す薬を自分自身の手で作り上げました。
 村人は少しずつ回復していき、一つの小さな村が源実の手によって救われたのです。
 あの少女も無事助かり、源実に心から笑顔で「ありがとう」と、そう言ったのです。
 昔の源実はありがとうなんて何の足しにもならない言葉と思っていましたが、言われてみればとても気持ちの良い言葉だと思いました。
 
 しかし、皮肉なことに薬が尽きた途端、病魔は源実の体にとりついてしまいます。
 苦しい毎日に源実は一つ思うことがありました。
 今は遠き親友の李僧に謝りたいと。自分自身が病気になってみれば、現実から目を逸らしっぱなしで理想ばかりを見ている。
 そうだ、自分の考えが間違っていたのだ……。
 これほどの頑固者が友達に会いたいと強く願い続けたのです。
 源実はこの村で始めて理想の大切さと素晴らしさを知った。心の底から李僧に謝りたいと思いましたが、弱ったこの体では何もできませんでした。

 そしてある日、源実に一通の手紙が届きます、それは李僧からのあの手紙でした。
 床に伏せたまま一通り読み通し、源実は久しぶりに笑みを浮かべます。
「バカだなあ……そんなウソ俺に通じるかよ」
 ふやけた声で源実はそうつぶやきました。突然の手紙に驚き、泣き疲れ、滲んだ眼でその手紙を読み終えます。
 しかし源実はそんな李僧のウソを信じました。宝物なんて持ってないだろうと源実は読みきっていてもそれを信じてみたのです。
 それが例えウソのような空想だとしても信じてみるのも面白い。源実はここにきて夢やら希望やらの大切さを知ったからこそ、そんな風に思えたのです。
 彼の書いた返事はこんなものでした。
『ごめんそれじゃあ会う事はできない』と、始まっていました。
 もちろんそれには理由があり、淡々と書かれています。
『俺は今でも現実を強く見ている。だからきっと今、莫大な宝を持ったお前の元へ行けば欲で目がくらんでお前を殺してまで奪ってしまうかもしれない。そんな考えが浮かんでしまった。』
 決して絶交を切り出した彼を許していないわけではなく、とことんまで自分の性格と人間という生き物を現実的に見た彼なりの答えでした。
 しかしこんなことも書かれていました。
『だが、安心してくれ。俺はお前に謝りたい、仲直りしたい。ここ数ヶ月で俺もお前の言う夢と希望という、とても大切なものだと気づいたんだ。現実よりも、ずっと理想を持った方が良いと身をもってわかったよ』

 すぐに伝鳥カモメさんが、返事を李僧に届けます。
 それを読んで李僧の目は、涙でいっぱいになります。
 今更気づいた。二人は互いの考えを認めなかったわけじゃない。互いが互いを助け合ってきたから考える必要なんて無かったんだ、と。
 そしてウソと知りながら、仲直りを自らしてくれた源実に彼は涙を流した。
 こんなに遠い場所、こんなに違う位置にいるにも関わらず二人は確実に仲直りをし、またお互いの現実と理想の主張を理解したのです。

 そしてそれから二人は更に歳を幾つも重ね、厳しく辛い毎日を乗り越えて、ふるさとへと同時に二人は帰ってきます。
 再会を果たした二人は笑って驚きました。なぜならお互いが同じ宝物を持っていたのです。
 もちろん、その宝は源実が旅の始まりに言ったような「どちらかが偽者、どちらかが本物」だなんて事はありません。
 紛れも無く二つとも本物で世界一の宝物であり、お互いの心の中のど真ん中に同じように大切にしまってあります。
 それは、理想の中にあっても現実の中にあっても決して色あせず変わることの無い、
 『友情』という名の宝物なのです。



おしまい
2004/08/21(Sat)12:45:01 公開 / ティア
http://2.csx.jp/users/teia/
■この作品の著作権はティアさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
昔挫折したものを書き直しました。書き始めた当時は『小説』を書くというより『絵本』を書く気持ちだったので物語り調です。
読んでると明らかだったと思いますが前半のギャグ路線からどんどんシリアスになっていきます(語り手までなんか雰囲気変わってるかも 汗)

題名の通り理想と現実がテーマですが、僕が書くには少し難しくて重いテーマだったかもしれません…。
でも色々と伝えたい事も詰まってるので終わってみれば、書いてある間は楽しかったと思えます。

最後に読んでくださった方に大感謝です、それでは。

8/21 微修正。
読み直してみたら確かに「、」が少なすぎました(苦笑)
ご指摘に感謝。
この作品に対する感想 - 昇順
感想記事の投稿は現在ありません。
名前 E-Mail 文章感想 簡易感想
簡易感想をラジオボタンで選択した場合、コメント欄の本文は無視され、選んだ定型文(0pt)が投稿されます。

この作品の投稿者 及び 運営スタッフ用編集口
スタッフ用:
投稿者用: 編集 削除