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『非日常のぼくらの日常 長ーい長ーい序章完』 作者:磔宮罪 / 未分類 未分類
全角17921文字
容量35842 bytes
原稿用紙約56.15枚
                序章

                開演

                1

 高校二年になって二日が経った。一年生のときのような初々しさも無く。三年生のような進学のことについて切羽詰ってもいない中途半端な学年。皆さんは、そのような中途半端ライフをどうお過ごしですか?又はどんな風に過ごしていましたか?

 ぼくは、元気にいじめられています。

昼休み、ぼくは学食に通じる廊下を歩いていた。理由としては人間として最低限の栄養を摂るためだ。そんな時、不意に肩を叩かれた。ぼくは、何かと後ろを振り向いた瞬間、衝撃がぼくの右のほほに襲い掛かかり、ぼくは仰向けに倒れた。眼鏡が飛んでいく。その後、衝撃を受けた部分に走る痛みでそのときになって初めてぼくは殴られたことに気づく。口の中を切ったらしい。かすかに鉄の味がする。
 「へへへへへ」
 ぼくを殴った張本人だろう。優越感に満ちた目でぼくを見下している。
 「さすがノブくん!」
 周りにいた数人が『ノブ君』鈴木信瑛をはやしている。多分鈴木の手下みたいなものだろう。その声に当の本人大変ご満悦の様子で、それに応えるようにぼくに罵声を浴びせてきた。
 「おまえさ〜マジでむかつくんだよね。ガッコにももう来ないでくれる?というか、どっか違うとこにでも転校でもしてくれよ。」
 「そうだそうだ。俺らの前から消えろよ!」
 「マジうぜえんだよ!」
 また無茶のことを言う。こいつらは、ぼくに命令してもいい権限が何もないのになんでこんなにえらそうにぼくに命令しているんだ?こいつらは、命令すればぼくは何でもするとでも思っているのか?
 「それが嫌ならさぁ、」
 まだ、なんか言う気か?少々うんざりしてきた。
 「一生、俺らの奴隷な!」
 「ぎゃははははは。」
 ・・・・・・
『呆れてものも言えない』というのはこういうことを言うのだろう。きっと彼らの先祖は、奴隷商人かなんかなのだろう。考えが幼稚すぎる。こっちはもうポカーンだ。彼らはというと裁判に勝った弁護士みたいに勝ち誇った顔をしている。まあ、この場はどうにか彼らを怒らさずに断ることにしよう。そうしないと、このくだらないことが延々続きそうだ。それだけは、ごめんこうむりたい。
「悪いけど、どっちもやだな。転校する理由もないし、だからといって君らの奴隷になる理由も見つからないよ。というわけなんで、せっかくのお誘いだけど今回はお断りします。」
うん。我ながら、完璧な対処法だと思う。でも、あちら側はそうとは思ってないらしい。
「てめぇなめてんのか!」
そんな、ゴツゴツしている岩石みたいな肌をなめる趣味はぼくにはない。でも、口に出しては言わない。
「自分の立場が分かってねぇのか?こいつ。」
僕自身、君らより劣っているとは思っていないが。
「まだ、殴られたんない様だな。」
いや、もう十分です。
「死ね!」
 腹にブローを一発。残念だけど、これではぼくは死ねない。でも結構効いた。ぼくは廊下にひざを着いた。
 「いいや、もうお前死んでくれよ。」
 また、わけの分からないこと言い出したよ。どうにかしてくれ。
 「てめぇなんか死んでも誰も悲しがらないぜ。」
 鈴木の言ったことに手下たちの笑い声がこだまする。
 それに応えるように、続けざまに顔に蹴り。これは痛い。また、口の中を切れたらしい。収まりかけた出血が再発した。
 というか、そんな出血のことなんかはどうでもいい。それよりさっきの発言、カチンときた。ぼくみたいな誰からも愛されるような寛大な人物に対してなんとも失礼な発言だ。ちょっと睨んでみるか。

       ギョロ

 多分この目がぼくにちょっかいいれようと思った原因だろ。ぼくは生まれつき目つきが悪いから。みんなからよく誤解される。いらないトラブルにもよく巻き込まれる。でも、僕自身は案外気に入っているのだけれどね。
 「な、なんだよ。その目は!」
 ぼくが睨んだら鈴木は多少怯んだようだ。たいていの人間なら、ぼくが睨めば大体怯える。そんなの自慢にならない。さっきのこととは矛盾するけどそのせいで女性はもちろん同性さえぼくに近づこうとしないし。それについて案外傷ついていますぼく。
 「その目がむかつくんだよ!」
 と、言いつつ彼は懐からナイフを取り出した。やっぱりいつもと同じ理由か。
 「いいか。」
 彼は、多少引きつった不細工な笑みを作りぼくの胸倉をつかみ自分の顔のほうに近づけめいいっぱいドスをきかせて言った。彼の顔が間近にあってすごい不快感。
 「今度なめたことしたらただじゃおかねぇぞ。何なら一生もんの傷をつけて分からしてもいいんだぞ!なんだったら、その気に食わない目ん玉今からこれでえぐってやろうか?」
 ぼくの頬にナイフをペタペタ叩きつけた。ひんやりしたナイフの刃が気持ちいい。こういう時ってなんて言えばこの状況を回避できるのだろう?そんなこと考えてたら思わぬところから救いの手が差し伸べられてきた。
 「おい、何しているんだ?」
 「あぁ?」
 ぼくは、鈴木の顔が今よりもさらに歪むのを見た。彼の見ている方向には二人の人物がいた。
「何をしているんだ?」
 「てめぇらには関係ねえだろ。消えろ!」
 「そうともいかんだろ?校内の暴力を見逃すほどぼ私はお人よしじゃないんでね。」
 「そうそう。」
 男が一人、女が一人。しかもどちらも見覚えがある。
 「しかも、身内がやられてているとなればそれを見ないふりして通り過ぎる阿呆はいないだろ。」
 何故か男の手にはいつの間にか真剣が握られていた。いつ抜いたんだか分からなかった。というか、校内に持込んでもいいのか?刀って。
 「菊一文字頼政。よく切れるぞ。こいつの錆になりたくなければ今すぐ消えろ。」
 鈴木と手下たちは男が刀を出した瞬間にビビリまくりだ。所詮チンピラか、弱いもの(または、異端の者か)にしか集団で向かえない最高の人間失格集団。
 弱いもの。
 ぼく?
 ・・・・・・あっそ。
 「チッ」
 鈴木は小さく舌打ちをし今までつかんでいたぼくの胸倉を放した。あーあシャツがぐしゃぐしゃ。
 「行くぞ。興ざめだ。」
 「あれ?行っちゃうの〜残念。お話とかしたかったのに〜きゃはははは!」
 女の方がやらなくていいのに彼らをからかう。
 「うるせぇ!このアマが!『サムライ』と一緒だからっていい気になんなよ!」
 「あれ〜怒っちゃった〜?ごめんなさ〜い。」
 「ミミ、いい加減にしろ。」
 「は〜いミミ音声OFF〜。」
 「ちっ、おい。」
 今までの会話を寝ながら聞いていたぼくに鈴木が声をかけてきた。
 「これから、夜道歩くときは気をつけな。」
 ニヤニヤしながらやくざみたいなことを平気で言う。恥ずかしくないのだろうか?
 「あとそれと。」
 用件は一度に言って欲しい。
 「明日までに、二十万用意しとけ。できなかったらお前、死刑な。」
 ぼくを、某赤ジャケットを着た大泥棒と間違えてないか?
 「ゼッテェ用意しろよな?」
 「ゲヒヒヒヒヒヒヒ」
 「用意できなかったら、即殺しな!」
 後ろから、鈴木の脅迫を煽る声や、下品な笑い声が聞こえてくる。もう捨て台詞としか聞こえない。それを言ったあと、彼らはそこで何も無かったように去っていった。

            2

 食堂にて、ぼくは、焼き魚定食を注文。今日は、土曜で四時間目が終われば授業は終了なのだが、学食自体は二時まで開放されている。ここで三人で仲良く昼食。
「大丈夫か?」
 「全然大丈夫。」
 「雪くん、なんか日本語おかしいよ。ひょっとして脳やられた?」
 「いいんだよ。通じれば。というか、さり気非道いね君。まあ、助けてくれてありがとう。」
 「私もお前の、言葉遣いは多少気になるところがあるが・・・今はいいだろう。まあ、気にするな。それより、あれよりエスカレートしていたらお前よりあちら側の安否のほうが心配だったからな。」
 「ミミもそっちのほうがしんぱ〜い。だって〜この前だって・・・」
 「いいよ、言わなくてあれは反省してるんだから。それに今回は最後まで我慢しようと思ってたし。」
 「ホンとかな〜?」
 「ホンとだよ。ぼくは友人には嘘はつかない。」
 「じゃ、信じる!」
 「ありがと。」
 「それはそうと白雪、何でお前はいじめられていたのだ?」
 「たぶんこれのせいだと思う。」
 そういいながら、ぼくは自分の目を指さした。
 「あ〜。」
 「納得すんなよ・・・」
 力強くうなずく彼、脱兎にツッコんだ。
 剣原脱兎。ぼくのクラスメイト。痩せ過ぎのくせして背が高く、まるで夕方にできた影みたいな外見の人物。天然の白に近い灰色の髪を、目を覆い隠すほど伸ばしていてとても健康や強そうなどのイメージはとはほど遠い(むしろ、病弱、軟弱といったほうが的を射ている)がこいつは曽祖父の曽祖父、(『ひい』がなんこつくんだ?)剣腹錆輔(故)の開発(開発?)した剣原流剣術の後継者だったりする。しかも、歴代の剣腹一族の中でも最強と謳われているらしい。正直そういう風には見えない。本人には悪いが。
だがそのため、当たり前のことだが剣の腕はやたらめっぽう強い。だが剣道部には入らずに家庭科同好会に所属する変わり者。否、変人。
 何で入らないのか理由を聞けば。「あんな、礼儀や作法を重んじる堅苦しくてその上弱いやつらとなんかとは剣を交えたくない。」だ、そうだ。納得。剣原流剣術は礼儀や作法を重んじない。強ければいいのだそうだ。そこは、すこし違う気がする。
特技は、剣技はもちろん、セーターのような編み物からお菓子も作れるある意味文武両道の人物。でもやっぱり変人。趣味は、編み物、菓子作り、読書、絵画鑑賞と、乙女チックな趣味も持ち合わす剣豪。
 「だって、今にも目の前の人、殺しそうだもん。雪君の目って。」
 「ショックだな〜案外気にいっているんだけどね。この目。」
 案外非道いことを気持ちいいほどサラッという子だ。
 燈河美々子。同じくぼくのクラスメイト。いまどきの高校生に珍しく髪は染めずに自前の美しい黒髪を背中の辺りまで流している。体型としては、華奢だが出るところは出ていて、引っ込んでいるところは引っ込んでいるという女性にとってはとても羨ましいプロポーションの持ち主。
だが、欠点を挙げるとしたら彼女にはとにかく集中力が無い。(その割には試験では優秀な成績を取っている。謎)それに、人を喰ったような発言(悪く言えば毒舌)が多いから彼女の性格を知らない人をよく怒らす。だが、それらを踏まえてもそこはご愛嬌ということで許されている。理由としては彼女がかわいいからだ。ぼくは彼女を見ていると人間って平等じゃないんだなと思う。いろんな痛いとこもあるけどそこも彼女のかわいさで消滅してしまう。あの華奢な感じとあのロリーな感じがかわいさの秘訣なのだろうぼくはそう思う。彼女は自分のことをもっと大人っぽく見せたいらしいが、頭にピンクのリボンつけている時点でロリーキャラ決定だ。
 特技は一部を除いてほとんど不明。趣味は、彼女曰く「興味を示したものは全部」だそうだ。
 二人とも、中学からの付き合いだ。ぼくの周り、ろくなやつがいねえ。ぼくも人のこと言えた立場じゃないが。
 「ところで、なんでおまえあいつらに何も抵抗をしなかったのだ?私たちが別に仲裁に入らなくてもあんな輩なんぞお前なら『あれ』を使わなくても半殺しぐらいにはできただろうに。」
 と、カツ丼を不味そうに食べながら脱兎が言う。
 「まあね、社会勉強みたいなものさ。いじめっ子の蛆虫がたかりそうな腐った心理を前から知りたかったんだよね。」
 ぼくはずれかけた眼鏡を直しながら言った。別にあんなやつらにやれるほどぼくは弱くは無い。ただね・・・
 「また、お前のくだらない研究意欲か。」
 脱兎が心底呆れたような感じに言う。
 「くだらないというな。ただ単に・・・」
 「暇なんだよね〜」
 ミミがスパゲティカルボナーラを食べながらぼくのせりふを奪う。たしかに、ぼくは暇をもてあましている。何をやっても充実した気持ちになれない。脱兎のように、多彩な趣味は無いし。何か趣味を作ろうとしてもミミのように何に対しても興味が湧かない。そんなぼくって生きてていいのでしょうか?
 「趣味でも作ればいいじゃないか。」
 ぼくに向かってそんな質問するかね。
 「できないから困っているの。」
 「興味を示すこととか無いの?」
 と、ミミ。
 「最近は・・・うーん無いな。興味を示したもの。」
 「もっと探せば生活不適合者の雪君だって、絶対興味を示すものが見つかるよ。」
 またもや、さらっと非道いこと言われた。もしかしてぼく、嫌われています?
 「・・・まあね。そうかもしれない。」
 気長に探していこう。死ぬまでにはなにか見つかるだろ。
 「で、どうするのよ。」
 「何が?」
 「お前には記憶力はあるのかね?」
 この二人、ぼくのことほんとは嫌いなのではないでしょうか?
 「二十万だよ。」
 「ああ。」
 「ああ。じゃ無いでしょ〜用意しなかったら、死刑なんでしょ〜」
 と、ミミ。言動とは裏腹に目は楽しそうだった。それにしても二十万とは中途半端な額だ。あいつらにとってラッキーナンバーなのか?二十って。
 「そうなんだけどさ。別に用意するつもりは無いんだよね。」
 「じゃあ、どうするんだ。大体予想は付くが。」
 「そうだね、案外殴られたからね。それに・・・」
 「おい、白雪たちがいるぜ。」
 「のんきに飯なんか食ってんじゃねぇよ!」
 なんで、会っちまうんだよ。ぼくは、顔を手で覆った。
 例の蛆虫どもがぼくらの前に現れた。あーあ、せっかくの楽しい昼食が台無し。
 「おい白雪、明日までに用意しとけよな!」
 「できなかったら、分かっているだろうな?」
 うるさいな〜
 蛆虫どもは、ぼくらを散々罵った後(性格にはぼくだけだが)、満足した様子で、下品な笑い声を残して出口へと消えてった。
 「で、話の続きは?」
 「あ、そうだったね。」
 ぼくは、一拍置いて言った。
 「帰りながら、話そうか。」
 「期待させといてそれも無いだろ。」
 脱兎が、わざとらしくずっこけた。

        3

 学校から帰る途中に、ミミにせがまれ学校から近いショッピングモールで、買い物を付き合っていたらすっかり遅くなってしまった。学校が終わってからゆうに二時間は経ってる。ったく、なんでXX染色体の人間って、こんなにも買い物好きなんでしょう。永遠の謎だ。
 「ごめんね〜こんなに遅くまで付き合ってもらって。」
 「いいよ、ひ・・・」
 「暇だからな、お前は。」
 だからぼくの台詞をとるなよ・・・
 「別に、今日はお前の家に泊まる予定だったから私はいくら遅くともいいのだがな。家にも連絡したし。」
 「ああ、今日お前泊まるのか・・・って今初めて聞いたぞ。」
 「別にいいではないか。何もせんよ。」
 してもらっては困る。ぼくには、そんな趣味は無い。あ、それって勘違い?
 「別にいいけどね。だけど、妹には手を出すなよ。」
 「分かっているよ。お兄ちゃん。」
 「・・・・・・」
 「じゃあさ、私も泊まっていい?」
 「・・・好きにしろ・・・」
 「やった〜!」
 何で、ぼくの周りにはこんな変なやつらが集まるんだ。そう思いながらぼくは、手のひらで顔を覆った。ぼくには、そういう人間を集めてしまうオーラでも出しているのだろうか?
でも、何故だろう、ぼくはこのときが一番素の自分でいられる気がする。そのことにぼくは幸せだと感じている。ぼくはこの時間がずっと続けばいいと思っているのかもしれない。ぼくのことを、受け入れてくれる人たちがいるこの平穏がいつまでも続けば・・・
 「ねぇーちょーっといいですか〜?」
 ぼくは、その気持ち悪い声により現実に強制的に連れ帰された。そこには、いかにも柄の悪い男女が数人原付バイクに乗ったり地べたに座ったりしてたむろしていた。話に夢中になりすぎて、道を誤ってしまい、どうやらぼくたちは彼らの溜まり場に足を運んでしまったらしい。
 「何でしょうか?」
 脱兎が相手を刺激しないように返答した。こういうときだけこいつは礼儀正しい。
 「ぼくたちお金が無いんです〜なんで〜あなたたちお金持ってそうだから〜恵んで欲しいな〜なんておもってるの〜」
 後ろの男女は、ニヤニヤしながらバタフライナイフなどを音を立てて手の中で遊んでいる。これは、いわゆるかつあげというやつだろう。もう少し、脱兎にこいつらを任せて観察していよう。
 「ね〜あなたたち、なんか遊んでそうだからお金とかいっぱい持ってるでしょう?それを少しぼくたちに分けてくれないかな〜?」
 後ろのやつらは、脱兎に絡んでいる男の言動が面白いのだろう。げらげら笑っている。
 「ほらさ〜親に言われなかった?『人には親切にしろ』って。今それを実践しようよ〜それにさ〜ぼくたちお腹へってて〜そのせいでさ〜仲間の中には怒りっぽくなってるやつもいるからさ〜素直に出したほうがいいと思うな〜」
 ここで脅しに入ったか。普通の人ならここでビビって金を出すと思うが、さて、脱兎はどうするか。
 「働け。そうすれば金が入る。私からのアドバイスだ。でわ、この辺で。」
 そうきたか・・・
 「おい、ふざけてんじゃねぇよ!」
 さっきまで気持ち悪い声だったやつがいきなりドスのきいた声になり、それが合図だったように後ろのやつらが男の周りに集まってきた。いや、というかふざけていたのはお前だろ。
 「白雪。」
 突然ぼくの名前を脱兎が呼んだ。
 「ん?」
 「どうする?」
 「お前一人で大丈夫だろ?」
 「ああ。」
 「任す。」
 「承知。」
 それを聞いて脱兎は口元を三日月形に曲げ、笑っているのが分った。
 「何ゴチャゴチャ言ってんだよ!てめぇら今から金を素直に出せばよかったって後悔させてやんよ。」
 「まあ、待て。」
 「んだよ。今になって金出しても遅えぞ。」
 「いや、そうじゃなくて。ミーティングの結果私がお前ら全員面倒見ることになった。よろしく。」
 「んだと、おもしれぇじゃねえか。おい、袋だ!」
 男が叫んだのが決戦のゴングとなった。ぼくとミミは観戦。
 脱兎は男が叫んだと同時に、背中にしまってあった愛刀を手に持つ。
 「おい、あいつ刀なんか持ってるぜ。」
 「どうせ、こけおどしのレプリカだよ。」
 「そうだな。かまうこたぁねぇ。やっちまえ!」
 やつらは、脱兎の刀に一瞬怯んだがすぐにそれを偽物だと思い脱兎に向かっていった。
 「死ね!」
 一人の男がバタフライナイフを脱兎に狙いを定め飛び掛ってきた。しかし、脱兎は紙一重、否、余裕で男の横に避け、勢いでバランスを崩してがら空きになった後頭部めがけて刀の刃の裏、峰の部分で横にフルスイングした。ただそれだけの行為。だが、それだけの行為が相手に確実に致命傷を与えられる。剣原流剣術の技の一つ『砕岩』グシャッ。インパクトの瞬間、嫌な音がした。それを受けた男は、顔面から地面にうつぶせに倒れドス黒い血を流しピクリとも動かなくなってしまった。
 「まだ、病院に連れて行けば助かるぞ。」
 「てめぇ!」
 男が二人叫んだ後、脱兎に突っ込んでいった。
 「学習能力が無いな。」
 そういいながら、脱兎は二人も最初の男たちと同じ末路を歩ませた。
 「もう一度言うよ。」
 脱兎は、男たちにもう一度言った。
 「今なら、病院に連れて行けばこいつらは助かるぞ。」
 「お前を殺した後につれていくよぉぉぉおおお!」
 「ホント、頭の悪いやつらだな。」
 そう言いながら、続いて向かってきた男の鉄パイプの一撃を刀で受け止めた。接点で火花が散る。
 「ね〜雪君。」
 「なに?」
 「いつ頃、終わるかな〜?」
 「つまんないのか?」
 「だって、結果なんて戦隊ものの最後見るより明らかだよ。だっくん(*注、脱兎のことです)が負けるなんてありえないよ。それに、こんなのただの弱いものイジメ見ているようなものだよ。つまんない。あと、もうねむいし・・・」
 「まあね。でも、仕掛けたのはあっちだし、しょうがないんじゃない?」
 「だね。」
 「じゃあ、脱兎に十分ぐらいで終わらせてもらうか。」
 「うん。」
 「脱兎。」
 「なんだ?」
 「制限時間十分。」
 「承知。」
 「ざけんなぁぁぁぁぁぁ!」
 その会話にキレたのか、鉄パイプの男は勢いよく鉄パイプを振り回した。しかし、どれも刀で流されてしまう。
 「死ねええぇぇぇ!」
 男は、大きく振りかぶり脱兎めがけて思いっきり振り落とした。しかし、そんな甲斐なく脱兎にはあたるはずも無く空しく空を切り地面を叩くだけで終わった。
 その瞬間の隙を脱兎は見逃さなかった。男の前に立ちはだかり、刃先を目にも留まらぬ速さで男の顔面を走らせた。顔の輪郭にそり円を描き、顔に切れ目を入れた。周りのやつらはもちろん、本人さえも何をされたか分からずにいたが次の瞬間、今、何をされたかを嫌でも分からせられることになる。
脱兎がそいつの額の辺りから何のためらいも無く、まるでみかんの皮をむく様に顔の皮を剥ぎ始めたのだ。『顔盗り』。名前のとおり相手の顔の皮を剥いでしまうグロテクスな高等技術だ。
 ビリビリビリビリ・・・・・・
「ぎ、ぎゃあああああああああああ!」
皮が筋肉から剥がれる音、そこから溢れてくる血、響き渡る男の阿鼻叫喚。だが、そんなことには気にも触れず。脱兎は口笛でも吹きそうな気軽さで男の顔面の皮膚を剥いでゆく。
「ぎゃああああああ!痛てぇええええよおおおおおおお!」
顔面の皮膚をはがされた男は、地面をのたうち回って叫んでいる。
「こういうのをなんていうか知ってるかい?」
脱兎が、絶対零度の視線で男に言った。
「自業自得というんだよ。」

                4

 「ぎゃあああああ!痛ぇよおおおおお!顔が、顔が痛ぇええええよおおおおお!」
 男は顔に走る激痛のため地面に悶えのた打ち回る。それを、脱兎は絶対零度の眼差しで見下ろしている。
 ただ見下ろしている。見下してはいない。ただ見下ろしているだけ。何の感情も抱かず、ただ見下ろす。自分がやったことへの罪悪感を微塵にも感じず、ただ自分がやったことへの結果をただ見るだけ、見つめるだけ、見届けるだけ。まるで実験の結果をメモする研究者のように。
 「うるさいな。」
 脱兎はさっきまで男の顔についていた皮膚を投げ捨て、地面でまだ呻いている男に言った。
 「男だろ。我慢しろよ。」
 「また無茶なことを言いやがる。」
 お前のせいでこうなったのだろ。と、その後に続けて言おうと思ったがめんどくさいから言わない。ぼくの言葉を無視し、男に留めの一発を喰らわせて黙らせた。
脱兎は、目の前の惨状のショックに呆然としていた男たちの方を振り向き、話しかけはじめた。
 「自業自得もいいところだ。最初に一人だけしか向かわなかったのは、そうだな、不意打ちを狙ってたんだろ?最初のやつと私が一戦交えてる間にもう一人のやつが後ろから攻撃する予定だったんじゃないのか?それで、私が怯んだ隙に全員で総攻撃。」
 男たちは、脱兎の言ったことが図星だったのか黙っていた。脱兎はその反応に満足したように続ける。
 「はっ、まさに卑怯の極みだなあ、おい。卑怯卑怯。卑怯な手を使わなければ私みたいなひ弱な男さえ満足に相手できないのか。ん?まあ、結果的にその不意打ちも失敗に終わったしな。最初から全員でかかればよかったのになぁ。そうすれば、私を倒せたかもしれないのに・・・変に卑怯な手を使うからこんな風に中途半端な結果で終わるんだよ。まさに自業自得。お前たちはあれか?卑怯と自業自得が看板芸のサーカス集団か?いやあ、傑作だよ。お前たちは。」

自業自得・・・ね。

今まで、顔を青ざめて脱兎の話を黙って聞いていたやつらだったが、徐々に顔を赤くしていくのが分かった。脱兎の発言に怒っているようだ。人間誰しも自分の痛いところをつかれるのは嫌なもんだからな。失った戦意を取り戻し再び、鉄パイプやバタフライナイフなど各々武器、凶器を構えなおした。
「おや、まだやる気かい?しがないピエロ君たち。やめといたほうがいいんじゃないのかな?」
「うるせぇぇえぇ、お前のアドバイスどおり全員でお前を殺してやるよおおぉぉぉぉおおお!」
どうやら残りの・・・ひい、ふう、みい・・・男女合わせて9人の戦闘意欲は衰えていないようだ。制限時間あと三分。
「脱兎―あと三分。」
「御意御意。」
御意は一回。
やつらは、脱兎を囲み全員でゆっくりにじり寄っていった。まあ、そんなこんなで後半戦スタートといったところで、ここでちょっと息抜きにぼくの今まで見た感想をワンワードで言おうと思う。

『無意味』

正に無意味。不毛な戦いだ・・・意味違うかな。まあいいや。力の差は最初の三人でわかりきっていることなのに、どんなことでも諦めない精神とか、仲間の仇と言えば聞こえはいいがあいつらはそんなことは考えてはいないだろ。ただ単に脱兎がムカつくだけなんだろうな。相手の力量も分からないのに何も策を練らずにただ突っ込むのはただの

『無謀』

なだけだ。そういうやつらは死んでくれ。目障りだ。

そんな妄想にふけっていたけどそろそろ現実に戻ろう。


脱兎主催の殺戮パーティーの始まりだ。

         5

「あ、ちょっと待ってくれ。」
そう言って脱兎はかばんの中からMDウォークマンと大型のヘッドフォンを取り出した。それを装着しMDを再生させる。(曲は脱兎お気に入りのフランスのバンドのアルバムらしい)かすかにヘッドフォンからシャカシャカ音が漏れている。この距離から聞こえるということはかなりの爆音で聴いてるな。
「準備完了。」
そう言いながら愛用の刀、菊一文字頼政を構えた。
「さあいいぞ、かかって来い。ピエロ君たち。」
「そんな余裕をこいてるのは今のうちだけだぜ。・・・やれ!」
リーダー格のやつが号令をかけるのと同時ぐらいに周りのやつらが脱兎に飛び掛ってきた。いくら脱兎でも9人はきついかも・・・そう思っているのがぼくの顔に出たのか今まで半分夢の世界に出発(のぞみ100系)しやがっていたミミにも伝わったらしい。
「ねえ、だっくん大丈夫かな。」
「何が?」
ぼくはわざととぼけてみせちゃったりする。
「もう、分かっているでしょ。だっくんってワンオアワンなら無敵だけど、対複数戦はあまり得意じゃなかったはずだよ。」
「そうだったね。でもそれってぼくらが知り合ってすぐのときだったからね。あの時はみんな未熟だったから、あれからもう二年も経つんだぜそのへんは克服しているよ。」
「そうだよね。ミミの心配のし過ぎか!」
「まあ、もし克服できてなかったら・・・」
「克服できてなかったら?」
「殺されるだろうな。」
「なんで、雪君ってそういう考えしかできないのでシカ?」
「・・・・・・・・・」
まあ、そんなこんなで会話し終わったときにはすでに三人倒していた。(三人とも砕岩で虫の息)要らぬ心配だった見たいだな。と思った矢先、後ろから原付バイクに跳ねられた。文字通り跳ねられた。突然のことに脱兎も対応し切れなかったらしい。
脱兎の飛ぶ軌道を目で追うぼくら。そして、落下。それを見て、会心の笑みを浮かべる男たち。だがその顔はすぐに青いペンキで塗りつぶされることになる。
「痛いな・・・」
まるで他人事のようにそうつぶやき、朝、目が覚めてベッドから起き上がるように上半身だけムックリと起き上げた。
「今のは、少し効いた。」
「なんで・・・何で死なねぇぇええんだよ!?人間なら死んどけよ!」
「人が死のうが生きようが勝手だろ。お前たちが口を出すことじゃない。ていうか今のはちょっとやりすぎじゃないか?まさか、バイクをぶつけてくるとは・・・なかなかやるじゃないかピエロ君たち。弱いものを侮辱することぐらいしか使えないノミより小さい脳みそでよく考えたものだ。えらいよ、君たちは。」
男たちは再び顔を蒼白にし、まるで化け物を見るように怯えた目で脱兎のことを凝視している。
脱兎は言葉を続ける。
「いやそれにしても、今ので私もちょっとカチンと来た。全員五体満足で帰れると思うなよ。」
「やべえよミッチャン!あいつ、化けもんだ。逃げよう!」
「う、うるせえ!人数はこっちのほうが勝ってるんだ。負けるはずがねえ!」
ミッチャンと呼ばれた男は弱気になった仲間を叱咤した。
「別に逃がさないけどね。」
脱兎はヘッドフォンをはずして男たちにそう言った。
「言っただろう?五体満足では返さないって。」
脱兎はそう言っておもむろに頼政の収まっていた鞘を手に持ちビュッと振った。ぼくたちにもその行動の意味は分からなかったが。次の瞬間その行動の意味を知った。
鞘の先端のほうから新たに一振りの刀が現れたのだ。鞘は柄の短い薙刀のような形になった。
「!」(ミッチャン一同)
「!」(ぼく)
「・・・」(眠そうなミミ)
「菊一文字時頼、この刀の名前だ。こいつはいざというときにしか使わないんだが今日は、どうもただお前たちを普通にぶちのめすだけでは少々腹の虫が収まらんのでな、特別に使うことにした。そんでもって次にこの二つをこうする」
そう言って今度は今まで持っていた頼政のほうの鍔から下の部分を取り外し刀身のみとなった頼政を鞘の刀の収納口に時頼の刃の向きと逆向きに組み立てた。それにより鞘は二振りの刀が一本ずつ両端についている巨大な棍のようになった。ぼくらも初めて見る形だ。
「菊一文字影風。これが、この二本の刀の本当の姿だ。そしてこれを出したとき、それは私の本気を意味する。それがどういうことか分かるかい?」
もう、男たちには生気さえ感じられない。
「お前らの死刑宣告を意味するんだよ。」

言うねぇ。

「に、逃げろおおおおおお!」
男たちの一人が叫んだのを機にまるで蜘蛛の子を散らすように逃げていった。しかしその中でも一人だけ逃げない男がいた。ミッチャンだ。
「お、おい、まてよてめぇら!」
やはりリーダーとして最後まで(いや、最期か。)威厳を保つために仲間たちをまとめようとするのは立派だと思うが、恐怖に駆られた人間をまとめるのは君みたいなチンピラではだめだと思うよ。うん。
「大丈夫だよ。一人も逃がしやしない。」
そう言って脱兎はヘッドフォンを着けなおし、ぼくらの視界から消えた。喩えじゃなく、文字どおり消えた。
正確に言えば、人間の動体視力がついていけない程のスピードで疾走、否、爆走しているのだ。剣原流剣術番外体術『神速』。人間が生きいるうちに使わない部分の脳、筋肉を総動員させた時に初めて出せる速度だそうで脱兎でさえ習得するまでに三年かかったらしい(それが長いのか短いのか分からないが)。

―まずは三人・・・―

どこからか姿は見えないが脱兎の声だけが路地に響いた。

ザシュ。

「ギャアアアアア!」

ザク。

「グウエ」

ブス。

「イギャアアアア!」

音と絶叫の説明をいたします。
一人目、背中からわき腹にかけて一閃。軽く内臓出てます。
二人目、顔に縦一文字に切りつけ。あごのほうは勢い余って骨まで割れました。
三人目、初の女被害者。腹部に一突き。しかもブス。ブスにブス(笑)。
と、こんな感じ。
―ふう・・・疲れた。―
キキキキ―――――・・・・・・キュッ
「あんま使うもんじゃないな、すこぶる疲れる。」
そこには、あれほどの惨劇を生み出した主催者には返り血一つ浴びずに、きれいな姿で再びぼくらの前に現れた。
「剣原流剣術秘技、『鎌鼬』。」
「お前、そんなすごい隠し玉があったのか?」
「まあな。とっておきというのは味方にも黙っとくものだ。」
「だっくんかっこいい!」
「ありがとう。ほめ言葉として受け取っておく。」
「てめぇ女に手ぇだしていいのかよ!」
二人いた女のもう一人のほうが脱兎に向かって叫んだ。
「男女平等。あと、これだけ狂言、妄言、暴言を連発して私を殺そうとしていたのにあわや、立場が逆転して自分の身の危険を感じたとしても女だから自分だけは助かると思うその考えは、ちょーっとばっかし虫が良すぎるのではないか?それに、」
そこまで言って脱兎はまた視界から消え、現れた時にはその女の横に立っていた。
「お前たちみたいなケバくてブスなやつを私は女と認めない。」
そう言って、脱兎は女に『顔盗り』を執行した。
ベリベリベリベリベリ・・・
何度聞いてもあの音だけは不快極まりない。
「イ、イヤアアアアアアア!」
「整形手術台は私からのサービスだ。」
女は、地面に倒れた伏した後ビクッビクッと痙攣を起こし、失禁をし、失神した。
「あと二人。」
そう呟いた脱兎を見て、世の中にはすごい荒治療をする整形外科医もいたもんだ。と、そう思った時、前方から原付バイクをふかす音がした。性懲りも無くまたバイクを脱兎にぶつけようとする気だろう。脱兎もそう思っているらしく。
「あの時は、私が油断していたからモロに喰らったが、今やっても無駄骨に終わると思うぞ。」
「うるせぇぇぇぇ!しぃぃぃぃねぇぇぇぇぇぇ!」
そう言って男たちは猛スピードで脱兎に向けて突進してきた。さてどうなるか、見物だ。
結果は、当然当たりはしない。脱兎は余裕でバイクを避けそして、運転していた男の襟首をつかみ勢いよくバイクから引きずり落とした。
「ぐうえ。」
地面に背中から叩き落とされた男は蛙がつぶされたときの鳴き声のような声を出して仰向けに倒れた。
「さてと。」
そう言いながら脱兎はすかさず男ののどに刀で切れ目をいれた。正確に言うとのどの奥にある声帯の部分を破壊したのだ。『音無くし』という技だ。
「―――――!!!!」
「これで、不快な声を聞かずに作業に取り掛かれる。」
「もともとお前、ヘッドフォンしてるから音楽以外聞こえないだろ。」
脱兎に言ったつもりではなく独り言のようにぼくは呟いたつもりだったのだが。
「いや、それが私は一度に複数の音を聞き取れる特技があるんだ。」
脱兎から返事が返ってきた。
「・・・・・・」
お前は、聖徳太子か。
まあ、そんなことはともかく脱兎はのどを押さえながらもがいている今さっき声を失った男に近づき言った。
「そういえば、最初のバイクをぶつけたのもお前だったよな?覚えてるよ。私にとって久しぶりの『痛み』だったからな。だからお前には敬意を表して・・・」
そう言いながら、脱兎は影風を振り下ろし足首を切ってしまった。
「―――――!!!」
「最上級の痛みをプレゼントするよ。」
言い終えたと同時に脱兎は風影を何回も目にも留まらぬ速さで振り続けた。終わったときと最初では何も変わってないように思えた。脱兎にやられている男も何が起きたのか分らずにいた。だが、脱兎が指を鳴らしたとき何をしたのかが全て分った。男の舌、両目、両手首、鼻、両耳が全て切られるか、削ぎ落とされてしまったのだ。
「最初のを味覚と数えて、視覚、聴覚、嗅覚そして、両手両足首を触覚と数えて全部で五感。全て殺す。これぞ剣原流剣術奥義の一つ、『五殺』。これから生きていって何も感じず、何も分らず生きていけ、死ぬより辛い苦痛の人生を生きていけ。」
「――――――――!!!!!!!!!!!!」
男は声にならない叫びを放ち失禁して崩れ落ちた。
「さて最後は、」
もう逃げることさえ、脳が拒否している程の恐怖を感じているためだろう歯はかみ合わず、股間を濡らしている。立っているのがやっとのようだ。
「お前だよ、ミッチャン。」

               6

「お、お願だ。た、助けてくれ。」
ミッチャンは頭をこすり付けるぐらい低く土下座をして懇願した。
「この通りだ。何でもするから!頼む、助けてくれ。」
「うっとしいよ。」
脱兎が絶対零度の視線を向けて言った。
「お前は、こいつらのリーダーだろ?なら、部下がやられたのに自分だけ見逃してもらおうと思うのは虫が良いこれに極まりだな。最低の人間だよお前は。こいつらが私にやられたのはお前の責任だ。死をもって責任を全うしろ。
「え、え、え、え、そんな、お願いします。誰にも言いませんから助けてください。何でも言うこと聞きますから。お願いです。たすけてください!」
「却下。」
脱兎は言い終わると、影風を自分の身体の周りを∞記号のように振り始めた。
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン・・・・・・
「ひ・・・ひぃぃぃぃぃぃ!」
さっきまでグループの頭だった男はもう威厳も強さも無く、ただ、自分に向かう凶刃に恐怖で身体を震わすただのちっぽけな人間でしかなかった。
もう、逃げることもできず立ちすくみ刃が己に向かってくるのを見ることしかできなかった。
「しっ。」
脱兎が一言言葉を放ち、ミッチャンに向かって突撃していった。そして、刃がミッチャンの身体を削っていく。
ザシュザシュザシュザシュ・・・・・・
「ギャア・・・ガ・・ゲ・・・ギ・・・・・・・・・・ヒュウヒュウ・・・・」
最初に腹部を削り次に顔をかばっていた手、顔、そして全身の順にそして、次にその中にある骨までも削っていった。今までミッチャンの身体を構成していたものが脱兎によりミンチ、否、紅い塵と化していった。身体の肉という肉を、骨という骨を、臓物という臓物を全て塵にした後、脱兎の周りには赤い霧がたちこめていた。
「剣原流剣術奥義その二、『血塵風車』。」
それが、その技の名前だった。
一人の人間を全て塵にしたあと脱兎は、虫の息と化している男たちに向かって言った。
「まあ、君たちはチンピラの中ではよくやったほうだよ。」
多分、聞こえている者はいないだろう。だけど脱兎は続ける。
「ただ、いかんせん相手が悪かった。その力の差が分らなかったのはやはり自業自得というべきかな。まあ、お疲れ。」
それが脱兎からの労いの言葉だった。

             7

「おちかれ。」
ぼくは、脱兎に労いの言葉をかけた。
「ああ。」
脱兎は、素直にぼくの言葉を受け取りぼくたちのいるほうにと歩を向かわせた。
「だがな、脱兎。」
「何だ?」
ぼくは時計に内蔵されているストップオッチの時間を見せた。そこには、三分三十秒と記されていた。
「タイ―ムオーバー!」
「げっ。」
「罰として、『頃頃庵』のコロッケな。」
「・・・分ったよ。」
「しょうがないだろ。お前が時間守らないからミミは夢の中に小旅行に行ってしまったよ。おい、起きろよミミ。」
そう言ってミミの頬を軽く打つ。
「にゅ?あ、だっ君おはよう。」
「夜だけど、おはよう。」
「終わったの?」
「見ての通り。」
脱兎の指で示したほうには、合計十三人(多いな、やはり弱いもの同士群れるのかな。)の骸が横渡っていた。どいつもこいつも、完璧までに破壊されている。これは・・・明日の新聞に載るな。
「おつかれ〜」
「別に疲れてはいないけどね。」
「そんなこと言うなよ。じゃあ、『頃頃庵』のコロッケ買って帰ろうか。脱兎が奢ってくれるらしいぞ。」
「ホント!やったーじゃ早くいこ!」
「別に奢るとは言ってないが・・・致し方ないか・・・」
「じゃあ行こうか。」
「うん。」
「そうだな。」
こうして、ぼくらはぼくの家へ向かう道を歩いていった。
その時だった。
「ふぁてふぇめぇら!」(多分「待ててめぇら!」)
奇怪な声のほうを一同振り向くと、そこには、脱兎によって顔の皮をはがされた男が小型のナイフを持って立っていた。意識を取り戻したらしい。
「脱兎、爪が甘かったな。」
「そうらしいな。まだまだ私も修練が必要らしい。」
「ひね!」(多分「死ね!」)
そういいながら顔の筋肉をむき出しにされた男はぼくたちめがけて突っ込んできた。
「やれやれ・・・」
そう言いながら脱兎は頼政を抜いた。だが、そこでぼくはそれを制した。
「?どうした。」
「いいよ、後始末ぐらいぼくがやるよ。お前が手を出すまでも無いよ。あいつなら弱いぼくでも倒せる。」
はっと脱兎は鼻で笑い頼政を鞘に収め、皮肉気に言った。
「謙虚だな。ん?それともただの私たちへの嫌がらせか?『キリングマジシャン』。」

懐かしい名前だ。

「・・・両方だよ。」
「喰えない男だ。」
そんな脱兎の言葉を無視して、顔の無い者の方に向き直った。さてと、どうしようかな。
「ふがあああぁあああぁああ!」
聞きがたい奇声を上げながら男は、ぼくの方にナイフを振り上げながら向かってきた。
「哀れだよ。何で、分らないのかな?ぼくたちと君たちの力の差は絶対的なのに向かって来るんだ?結果は火を見るより明らかだろ。少しは考えろよ。その、蛆虫がたかりそうな腐乱した脳みそでさ。」
そう言ってぼくは、まるで指揮者がタクトで指揮するように指を動かした。その一刹那後、男は宙で走る形で動かなくなった。『仕掛け』にまんまと引っかかってくれたようだ。
男は、自分の身に何が起こったのか分らず、混乱しているようだ。
「何されたか、教えてあげようか。」
 ぼくは、出来る限りやさしい声で男に向かって話しかけた。何でそうするのか、それは男の人生という物語の結末を第三者のぼくが消滅させることへの贖罪とただ単にそれがぼくの『仕事』だからだ。
 男の目には、誰がどう見ても怯えとしか言いようのない目をしていた。そんな彼を見ながらぼくはゆっくり話し出した。
 「今きみの体には、強くて、軽くて、硬くて、細くて、よく切れる鋼線が体中に絡まっている。よーく目を凝らして見てごらん。光の反射で少しは見えるんじゃないかな。で、そのすべての糸の端はぼくの手の中にある。あ、あまり動かないほうがいいよ。少し動いただけでも腕なんかすぐに切断できるから。」
 男の顔が怯えから恐怖に変わるのがよくわかった。
 「で、その糸をぼくが軽く弾くじゃない。すると、どうなると思う?」
 そう言い終わってぼくは、それを実際にやってみた。

    ピ――――ン

          ブツッ                  ボトッ

「ひぎゃああああああああ!!!」
 腕が、切断される音、それが地面に落ちる音、男の断末魔の不協和音。

 「と、いう風になるわけ。どう、分かった?これ以上痛い思いをしたくなかったらもう悪さをしないと誓うこと。そうすれば逃がしてあげるよ。どうする?」
 男はまるで、「勉強が終わったらお菓子をあげますよ。」と言われた子供のような顔をして何回も頭を下げた。
 「もう一回聞くよ?本当にもう悪さをしない?」
 コクコクコクコクコク・・・・・・・
 「ウソつけ。」


    ピャ――――――――――ン

 ブツブツブツブツブツ・・・・・    
                    ボトボトボトボトボト・・・・・・・・
 今度は悲鳴は聞こえなかった。

 腕が、手が、指が、脚が、腿が、足首が、尻が、腹が、胸が、首が、頭が今まで人間を構成していたものが、すべて輪切りになっていく。もう、これが人間だったと誰が信じるだろうか。
 「死んで反省してくれ。」
 君は(君たちは)、『死んだほうがいい人間』だったんだよ。
 ぼくは、それだけを言い残し、思い残し、後ろで待っている二人の友人の方へと歩を進ませながらこう思った。

     妹の待つ家でみんなでコロッケを食べよう。
             と。

              * 
 
 さて、私はこの、『物語の外』から傍観するものでございます。以後お見知りおきを。
 まあ、一応物語でいうなればここで、序章が終わりました。これから、この三人を中心に物語はどのような方向に向かっていくのでしょうか。それはこれから読んでいけばわかることでしょう。
 と、まあ、傍観者があまり喋るものではございません。私はこの辺で口を閉じるといたしましょう。
 またの機会がありましたならお会いできることを楽しみにしております。では、また。

                                  序章 完
2004/06/25(Fri)12:05:14 公開 / 磔宮罪
■この作品の著作権は磔宮罪さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
話がまだ、続きな時に登竜門が閉鎖してしまったのでもう一度投稿させてもらうことにしました。
よかったら読んでください。
でも序章がこんなながかったら後先苦労するなあ・・・まっいっか!(投げやり)
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