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『表月 〜偽りの仮面〜 第一章 第二章』 作者:名も無き詩人 / 未分類 未分類
全角39665文字
容量79330 bytes
原稿用紙約132.55枚
※注意事項※
この作品をお読みになる前に以上の点にお気を付けください。この作品のジャンルは推理ミステリーです。
また、一部グロイ(性的、暴力的)表現が含まれておりますのでそれらが嫌な人はあまりお読みにならないでください。
この作品は以前投稿した『表月 〜偽りの仮面〜 第一章 第二章』を再編集したものです。
それでは、本編の程をごゆっくりとお読み下さい。

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第一章 高校生誘拐殺人事件

 第一話 偽りの日常

目の前に何か荒い息を立てる者がいる。それを注意深く見ると人だった。
目隠しをされた人。それも女の子だ。

女の子は声を出そうとするが、口に咥えられている。
ピンポン球に穴のあいたヤツをつけられているため声を出せない。
もし出せたとしても、うなり声であり、とても外には聞こえないだろう。

少女の手足には太い荒縄が食い込んでおり。皮膚が赤くなっている。
その光景はとても目を背けたくなるようなものだった。

だけども、俺はその光景を見つづける。少女の格好は制服であり、赤いリボンと白いシャツ。
そして、グレーのスカートをはいていた。そのスカートからはみ出る太ももはとてもいやらしく見えた。

少女の目から涙があふれる。そして、気づいたら床がぬれているのに気が付いた。
どうやらあまりの恐怖に失禁をしたみたいだ。だけども、そんなことはどうでもいい。

俺は右手に何かを握る。それは銀色に輝く冷たくて硬いものだった。
そして、それをいともたやすく彼女の腹部に刺す。心地よい肉の感触が手に伝わる。
ナイフを抜くと大量の血が降り注いだ。彼女はもう何を言っているのか分からないほど叫ぶ。
けれども、口に猿轡をしているので、外に聞こえはしなかった。俺はもう一度ナイフを彼女に突きつけた。
今度はしっかりとそしてより深く。俺は掴んでいたナイフをねじり込み、彼女の腹を抉った。
そして、彼女は絶命した。彼女の瞳からは一滴の涙がこぼれた。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


『ぴぴぴぴぴぴ』

けたたましいアラーム音が部屋に響き渡る。俺はアラームを止めようとして何かやわらかいものを掴む。
それは弾力がありまるでプリンのようにやわらかい。俺はとりあえずそれがなんなのかを確かめるため布団から顔を出す。
そして、そこにいたのは妹の美奈子だった。俺はもう一度胸を揉む。そうすると美奈子も卑猥な声を出す。

「あっ、あん。お兄ちゃんダメだよ」

「おい!何その気になってんだ!」

俺は美奈子の頭をはたく。

「いた!もう何するのよ。お兄ちゃん」

「何ってナニじゃない。お前は直ぐにそういうことをする。そんな娘に育ってお兄ちゃんは悲しいよ」

「じ〜」

「大体、お前は貞操を守るべきだ。まだ高校二年だろ。お兄ちゃんはそういうのはまだ早すぎると思う。
いや、別にお前のことが嫌いというわけじゃないぞ。ただな、っておい。俺の話を聞いているのか」

美奈子は俺の話も聞かずにじっと、俺の下半身を凝視する。
そこには、朝の生理現象のため大きなテントをはった俺の分身の姿だった。俺は慌ててそれを隠す。

「わかった。その話はあとだ。とりあえず、俺は着替えるからお前は出て行け」

「は〜い♪」

美奈子は嬉しそうに部屋を出て行った。まったく困った妹だ。こいつは俺の妹の朽木美奈子。
そして、俺は兄の朽木恭助。今両親が海外に出張しているので、二人暮らしをしている。
おっと紹介はここまで、俺は急いで着替えを済ませる。

リビングに着くといつもの献立が並んでいる。パンに目玉焼きにミルク。
典型的な洋食だ。俺はとりあえず、コップにミルクを注ぎそれを一口で飲み干す。

「さてと、いただきますか」

「はい、召し上がれ」

俺がそういうと、美奈子はニコニコ顔で俺を覗き込む。

「・・・どうかな?」

「七十五点。俺は半熟の方が好みだかから。まあ、そうじゃなくてもなかなかいけてるよ」

俺がそういうと美奈子はにっこりと笑う。そして、自分も食べ始めた。

しっかし、美奈子の料理の才能もめきめきと上達してきたな。
はじめはとても食えたものじゃないものができたが、今ではそこそこおいしい料理もできるくらいに成長している。

俺は日課の朝のニュースを見ることにした。
今日の朝のニュースは殺人事件から始まる。

レポーターがマイクを片手になにやら廃工場跡地で事件の内容を話している。

『二日前に誘拐された和田真理子(18)がこの工場で無残な姿で発見されました。
腹部には数箇所の鋭利な刃物での刺し傷があり、なんとも無残な姿だったようです。
和田さんは二日未明に行方がわからなくなり。警察の捜索願いも出ておりましたが、
悲しいことにこういう結果に終わりました。
警察では対策委員を立ち上げてこの高校生誘拐殺人事件の解明を急いでいるとのことです』

俺はそのニュースを聞いて嫌な気分になり、テレビを消そうとする。

「あっ、消しちゃうの私、次の占いコーナーが見たかったのに」

「あっ、悪い」

俺はそういってもう一度テレビをつけた。

『今日の占いコーナー』

どうやら丁度始まったらしい。美奈子はテレビにくぎ付けになる。
俺はとりあえず、そんな美奈子を置いておいて、今日の準備をした。
今日は確か体育がある日だった。俺は急いで体操服を用意する。

「あっ、そうそう大事なものを忘れていた」

俺は思い出したように一冊の本を手にする。
それは先週図書館で借りた本でタイトルは『月の魔力』というタイトルだ。
文字通り月についての色々なことが書かれており、結構おもしろかった。

「さてと、準備はこれまでとして、行くか」

俺はそう思って一階に下りる。美奈子も準備が終わったようで、すでに玄関にいた。

「じゃあ、お兄ちゃん。行こうか」

「ああ」

俺と美奈子は玄関出る。そして、朝の日差しが俺の目を照らす。今日は清々しい朝だ。
空は澄み渡った青。まるで俺の心のようだ。俺と美奈子は学校へと向かう。
学校への道のりはそんなには遠くなく。歩いて15分ほどで丘の上にある学校だ。

「う〜っす。今日も元気に抜いてるか?」

急に下品な言葉を吐くバカがやって来た。朝っぱらからこんな下品な事を言うのはあいつしかいない。

「なにバカ言ってるんだ。晴夫」

「あっ、晴夫先輩おはようございます」

「美奈子、こいつに先輩を付けなくてもいいぞ。バカがうつる」

「酷いな我が親友」

「誰が親友じゃボケ」

朝の恒例行事が始まる。全くこいつはいつもバカばかりやっている。
だが憎めないのがこいつの人徳というものか。我ながら甘いな俺も。

「おい!聞いてるのか!恭助」

「あっ、悪い」

俺は素直に謝る。

「まあいい。さてと、ふたりともよく聞いてくれ。
今日の俺の情報によると、今日は内海の機嫌が悪いと見た」

「げっ、今日、俺一時間目体育でマラソンだよ。鬼の内海のしごきがあるのか」

俺はため息をつく。

「何でも昨日付き合っていた彼女に振られたんだとよ。そのふられ方がもう最高でさ。
『あなたのそのセンスについていけないの。はっきり言ってダサイわ』だってよ。笑えるよな」

俺は顔を青くして美奈子の手を握り、すたすたと校門を抜けようとする。

「おい。ちょっと待てよ。ここからがおもしろいところでさ」

「何がおもしろいって。海月!」

「何がって」

晴夫は後ろを振り向くと、そこには顔を真っ赤にした内海が立っていた。

「安らかに眠れ・・・・晴夫」

俺は心の中で晴夫を冥福した。



俺と美奈子は昇降口で別れそれぞれの教室へと向かう。

俺は二年三組。美奈子は一年四組。一年生と二年生の教室は離れている。
俺はとりあえず自分の教室へと向かった。その途中に二人組の女子と会う。

「おはようございます。月菜先輩、静菜先輩」

俺はしっかりと挨拶をする。

「あら、おはよう。今日は早いのね」

月菜先輩がそう言うと静菜先輩もこくりと頷く。
この二人の先輩は双子で俺の部活の先輩に当たるんだ。
月菜先輩は文武両道で凄く校内一の美人で、静菜先輩はその可愛らしい天使の笑顔で人気急上昇。
この二人は校内きっての美人しまいなんだ。

こんな二人とお近づきに慣れる俺も幸せ者だ。
俺はちょっと顔をゆるませる。

「じゃあ、私たちは日直だからもう行くわね」

月菜先輩はそう言って通り過ぎる。俺もとりあえず教室に向かうことにした。

教室に入るとがやがやとした雰囲気がしてくる。俺はとっとと自分の机に座る。
さてと、俺は教科書を机に入れようとすると、中に一枚の封筒が入っていた。

俺はそれをさっとポケットにしまい、時間を確認する。ホームルームまでまだ時間がある。
俺は急いでトイレへに入り個室に入った。ポケットに入れた手紙をそっと確かめる。
中には一枚の紙が入っていた。一時間目の授業中に屋上に来てください。

「これはひょっとしてラブレター?」

俺はそれを見て真っ先にそう思った。

ああ、これこそ高校生の青春ライフ。俺にも遂に彼女ができる。

にやけ顔になる俺はとりあえず。教室に戻る。
担任の教師、藤堂由紀子が教室に入ってくる。
どうやら、もうホームルームの時間らしい。

「は〜い〜。み〜な〜さ〜ん。お〜は〜よ〜う」

何とも間の抜けた声を出すのが内の担任藤堂由希子先生。
専門教科は国語。あの間の抜けた声で授業中は眠りに落ちるものが続出中。
大体、あの胸は反則だよ。藤堂先生の服は胸によって今にもはち切れそうだ。
こんなのが教師として成り立つのだろうか。まあ、俺が心配してもしょうがない。
ホームルームは今日のお知らせだけで終わった。

みんなは一時間目の体育のため、更衣室へと向かうが俺だけは屋上へと向かった。
屋上の扉の前まで来ると、屋上から人の声がした。俺はとりあえず聞き耳を立てた。

「おっ、可愛い顔した嬢ちゃんだな。あまり見ない顔だな」

「・・・・・・」

「あ、兄貴。何かよからぬことを考えちゃいませんか」

「おっ、分かるか兄弟。ぐふふふふ。こんな天気の良い日には俺の分身も元気なんだよな」

「兄貴それ下品ッスよ」

「うっ、せいな。だまってないで、この嬢ちゃんを押さえろよ。お前にも分け前はやるからよ」

「そうですか。わっかりました」

どうやらこの扉の向こうでは今まさに少女が男ふたりに襲われる雰囲気のようだ。
俺はもう少し様子をみることにした。

「いいね。久しぶりのごちそうだぞ。ぐひひひひひひ」

いかにも下品そうな声が響く。

「これはやばいな」

かなりヤバイ状態に俺はとりあえず扉を開けた。

『ぎいぎぎぎいぎぎぎい』

金属音のきしむ音がする。
俺が見た光景は両手両足を拘束された長い銀色の髪の少女だった。
その瞳はどこか冷たく。何者をも寄せ付けない強い意志があった。

ただ、その制服は乱れており、足にはずり落ちたショーツが足に引っかかっている。
どうやらまじでレイプまがいなことをこの二人は野郎としていたみたいだ。全くしょうがない先輩達だ。

「先輩方。ここで聞いたことは他言しませんから消えて貰えませんか」

「なっ、誰に向かってものを言ってるんだ」

「・・・・兄貴。あいつ確か例の一年生の時、うちらの番長をボコボコにしたヤツですよ」

「そうなのか?」

「ええ、だからとりあえず。ここは穏便にしましょう」

「わかった。とういわけで、俺たちはずらかる。だが、いい気になるなよ」

男達は屋上から去っていった。

「全く困った先輩だよ」

俺はとりあえず笑うが、少女はじっと俺のことを見つめる。

「君、見かけない生徒だね。一年生?」

「・・・・・・」

少女は黙ったまま俺の顔をじっと観察し、一通り見終わると俺の横を通り過ぎ、屋上を出て行った。

「何だあいつは?」

俺はちょっとむっとした。助けてやったんだからお礼ぐらい言っても罰が当たらないのに。
まあいいさ、あとちょっとで俺の青春ライフがやってくる。俺はここに来た目的を思い出して顔がにやける。

それから一時間が経過した。一時限目の終了の鐘が鳴るが屋上には誰も来なかった。
そして、あらためて自分がダマされたことをしった。

「ああそうだよな。こんなおいしい話しが有るわけないし。
それに今のご時世にラブレターは古いよな。俺はなんてバカなんだ」

俺は大きな声で自分を罵倒する。それがむなしくなり教室へ戻った。


 第二話 銀色の月が昇るとき

俺が一時間目をさぼり教室に入ると、晴夫がいきなり俺に声をかけてきた。

「あっ、お前。体育の授業サボったな。ずっけ〜の。言ってくれれば俺も付き合ったのに」

「ああ、わりい。ちょっと屋上に用があってな」

俺はがっくりと肩を落とす。それが何を意味するのかを晴夫は瞬時に判断し、にやりと笑う。

「そうかそうか。まあ、元気出せよ!」

「お前に慰められるとは俺も落ちたな」

俺は更に肩を落とし、自分の席に着く。

「まあ、気にすんなよ。そんな君に俺からとっておきの情報を提供しよう♪」

晴夫は俺の向かいの席に座る。

「実はな。今日転校生が来るはずだったんだが、その子がちょっと遅れて来てな。
次の2時間目の国語の授業に来るらしいぜ。それもなんと、転校生は女の子。なっ、これで元気出たよな?」

晴夫はにやにやと笑う。そうだなあんまりくよくよしても仕方がない。
俺はとりあえず、その転校生に興味を持った。

「で、どんな転校生なんだよ」

「・・・さあ?」

「なんだ。それだけかよ」

「・・・・ゴホン。まあ、そう言うわけだ」

晴夫は言うことを言うだけ言って、自分の席に帰る。丁度その時、2時間目のチャイムが鳴った。
廊下に出ていた生徒達も教室に入り、次の授業の準備を始める。俺も教科書を机に出す。
そして、教室の扉が開く。

『がらがらがらがら』

教室に入ってきたのは藤堂先生ともう一人。あれは今朝屋上で会ったあの銀色の髪の少女だった。
その瞳は相変わらず冷たそうで、誰もを寄せ付けないオーラを漂わせていた。
ただ、俺を見たときだけは、瞳の中にかすかな光が見えた気がする。

藤堂先生が教壇に立ち、彼女の紹介をする。

「彼女は今日〜うちのクラスに転校してきた〜、月原朋美さん。え〜っと、自己紹介してくれる〜」

藤堂先生はちょっと遠慮深そうに言う。どうやら、先生も転校生をどう扱ったら良いか戸惑っているみたいだ。
それを知ってか少女は黒板に自分の名前を書く。そして、みんなの顔を見渡して言う。

「月原朋美。親の都合で海外から日本に来た。よろしく頼む」

何だか殺伐とした紹介だが、彼女はそれだけを言うと、小さくお辞儀をする。

「えっと、それじゃあ。月原さんの席は・・・そうね。朽木君の隣にしましょうか」

俺はぎょっとする。いつの間か俺の隣の席が空いてるのだ。月原はすたすたと歩いて、言われた席に座る。
月原が席に座ると授業が始まった。こうして、いつもの授業が始まる。

俺はそっと隣の席の月原を覗く。顔立ちは綺麗で鼻がスラッとしている。
銀色の髪の毛がどこかのお姫様の雰囲気を出しているが、その冷たい瞳がそれら全てを崩している。
ちょっと、もったいない気がした。笑えば可愛いのにと思った。

俺は急に眠気に襲われる。
そして、いつの間にか夢の世界へと誘われた。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


ここはどこかのアパートの一室。真っ暗な部屋で俺は目を開けて、立ち上がり。
水道の蛇口をひねった。勢いよく水が上から下へと流れる。俺はコップを手に取りその水を注ぐ。

コップに水があふれるまで水を注ぐ。俺は水を止める。コップの水は今にもあふれ出しそうなぐらいになる。
けれども、その水はこぼれることはなかった。俺はその水を飲み干すとが喉の渇きは収まらない。

やはり、この渇きはあれでしか満たせぬか。俺は自分の部屋に戻り、夜が来るのを待った。
夜が来れば俺は自由だ。俺だけの時間。俺は待ち遠しかったあの銀色に輝く月が俺を照らす姿を。

俺の股間が暴れ出す。だが、俺はあえてそれを無視した。
まあ、待てもうすぐ楽にしてやるからな。
それまで我慢しろ。俺は自分に言い聞かせて、時を待った。そして、俺は再び闇の中へと潜り込んだ。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「おい!起きろよ。恭助」

俺を揺り動かす。俺は嫌な汗を拭い去り、目を開ける。目の前には晴夫の姿があった。

「おっ、やっと目覚めたか。お前、爆睡だったぞ」

「そうか。今何時間目だ」

「もうお昼だぞ。お昼」

俺はそれを聞いて時計を見る。

「ホントだ。何かよく寝たなっと思ったらそんなに寝ていたか。まあいいや、メシ行くか」

「お前、本当にマイペースだな」

「そうか?」

「あ、そうそう。藤堂先生が放課後、職員室に来なさいだとよ」

「・・・・分かった」

俺らはとりあえず、学食へと向かう。
学食に着くとそこは人でいっぱいだった。

「いっぱいだな」

「ああ、いっぱいだ」

俺らは学食を諦めて、近くの購買でパンを買う事にした。
購買も学食よりは少ないものの人がいっぱいだったが、俺たちのパンは何とか獲得できた。

俺はあんパンとカツサンド。晴夫はレモンラスクとツナサンド、それにコロッケパン。

俺らはとりあえず中庭でそれらを食べることにした。
中庭は温かい日差しに包まれており、弁当日よりだった。
俺らは丁度良く空いている原っぱに座る。

「さてと、やっとメシにありつけるぜ」

晴夫はそう言うとむしゃむしゃとパンを食べ始めた。俺もとりあえずカツサンドをがぶりと食いついた。
ここの購買部のパンもなかなかいけるのだが、やっぱり学食の方がおいしい。
俺はそう思いながらも黙々とパンを食べて、あっという間に食べ尽くした。

「そう言えば、今日は美奈子ちゃん。うちらの教室に来なかったな」

「ああ、あいつ。今日は放課後の部活の準備って言ってた」

「そうか。今日、吹奏楽部の発表会だものな。頑張ってるね、美奈子ちゃん」

「まあな」

俺はそう言うとある一点に目がいった。何故かそこだけは別の空間のように見えたからだ。

そこだけ不思議な世界に取り残された見たいな場所。

ある意味、驚くような人物がそこにいた。

その人物の髪は銀色でサラサラした長い髪が、太陽の光で更に銀色に輝いている。
それはとても綺麗で誰の目から見てもそう思うだろう。
そして、俺は見た彼女の頭と肩に小鳥がのっかている事に。

小鳥は警戒心を解き、無邪気に『ピィーチクパァーチク』と鳴いている。
まるで、小鳥に戯れる女神のように。俺ばかりか、まわりのみんながそう思っているに違いない。
だけども、そんな時間はあっという間に過ぎる。昼休みの終わりの鐘が鳴り。

彼女はぱちりと目を開けて、立ち上がり校舎へと入っていった。
小鳥はパタパタと飛び上がり空へと帰っていった。

「教室に戻るぞ」

晴夫はそう言うとすたすたと俺を置いて校舎へと消える。
俺も慌ててその後を追っかけたが晴夫の姿はなく。

俺は階段を駆け上り、廊下を曲がろうとした時、突然目の前に誰かが飛びだし、ぶつかった。
そして、俺は何とか踏ん張り倒れなかったが、どうやら俺に激突したヤツは尻餅をついたらしい。
俺は慌てて倒れたヤツを起き上がらせる。そして、その顔に見覚えがあった。

「朋子」

「あ、恭助」

二人は目が合うがすぐに目をそらした。何だか気まずい雰囲気が二人の間に流れる。

「ごめん。私、急いでるから」

朋子はそれだけを言うと、俺の横を通り抜け階段を下りていった。
俺は小さくため息をつく。俺もあいつもまだあのことを引きずっている。
俺は思い出しかけた記憶を無理矢理心の奥へとしまい込み、教室へと戻った。


午後の授業は程なく終わり、放課後へとうつる。
俺は藤堂先生に呼び出しされたので、職員室へと向かった。

職員室の扉を開けて、藤堂先生の机の前に立つ。
そこには、のんびりとお茶をすする藤堂先生がいた。
何ともじじくさい先生だ。

先生の話の内容はやっぱりと言って良いほど授業中の居眠りのことだった。

「両親が仕事で留守なのは仕方がないわ〜。そのせいで家の仕事も大変なのも分かるわ〜。
でもね、授業をおろそかにしちゃダメよ〜」

何とも間の抜けた声で先生は叱る。
俺はとりあえず、居眠りの件は謝り職員室を後にした。

「あの子は?」

急に声をかけられた藤堂は声のした方が振り向く。

「月原先生は新任でしたね〜。彼が一年生の時に、
一人でこの学校の番長をボコボコにしたっていう生徒ですよ」

「それは凄い」

「何が凄いもんですか〜。暴力事は校則では停学問題なんですよ〜。
ただ、彼の場合、番長の方が深く反省していたし、彼自体は何も悪いことはしてませんからね。
二人とも停学は避けましたが〜。何とも不思議な少年ですよ彼は〜」

「へえ〜。そうなんですか」

月原は感心したように頷く。そして、一瞬だけクスリっと笑みを浮かべるがすぐに真顔に戻る。

「さてと、やることもないし。そろそろ帰るか」

俺は鞄を取りに行くために教室に戻る。

誰もいない教室だと思ったが一人だけ、ぽつりと窓のそばに立っている者がいた。
そいつの顔は夕陽のせいで陰っていたが、銀色の髪を見てすぐにあの子だと分かった。

俺は自分の机の上の鞄を担ぎ上げて、教室を出ようとしたが、月原が呼び止める。
そして、一言こういった。

「銀色の月に気をつけなさい」

彼女はそれだけを言うと、窓の外を見始める。
俺はその意味がどういう事なのかよく判らなかったが、心の片隅に置いておいた。

「じゃあな。月原」

俺はそう言って教室を出て階段を下りる。

「あ、そう言えば本返すの忘れたな・・・・まだ時間はあるな」

俺は図書室で借りた本の事を思い出して、慌てて返しに行く。

「確か図書室は二階だったよな」

俺は急ぎ足で廊下を歩く。さすがにこの時間なので廊下にはほとんど人がいない。

俺は図書室の扉を開けた。中に入ると本の独特の臭いがして、俺の好奇心を刺激する。
いっちゃなんだが、俺は無類の本好き。
もちろん、マンガも好きだがこういった自分を刺激する本も好きなのだ。

俺はとりあえず本を返すためカウンターへと向かう。
そこには眼鏡をかけて三つ編みの典型的な委員長タイプの少女が座っていた。
手に持っている本は文学集で、俺にはよく分からなかった。
俺はとりあえず、本をカウンターに出す。

「えっと、返却でお願いします」

俺がそう言うと眼鏡の女の子は俺の顔をじっと見回す。
そして、ずり落ちた眼鏡を戻し、返却を確認した。

「はい、確認しましたよ」

その子はそう言って再び、手元の本に目を戻す。
どうやら、彼女も無類の本好きらしい。

俺は少し彼女に興味を持った。
とりあえず、適当な本を探してきて借りる。彼女は事務的に対応して本の貸し出しをした。
なるほど、とても真面目なんだ。おじゃましたら、悪いから帰るか。
俺はそう思い。帰ろうとするところで、突然彼女が呼び止めた。

「あなた、朽木恭助君でしょ」

突然名前を呼ばれてビックリする。まさか、眼鏡美人に名前を覚えられているとは。
俺は少し感激するが彼女の次の一言で、その感激は一気にしぼむ。

「あなた、どうして朋子を避けるの。あなた達、ホントは仲良しの幼なじみでしょ」

「・・・・あんたが朋子の親友か何かかは知らないが、その事に介入するな!!いいな絶対にだ」

俺は凄みのある声で怒鳴り、図書室のドアを開けて思いっきり閉めた。
後ろの方で大きな音がするが俺は構ってはいられなかった。

俺の心に嫌な記憶が蘇る。だけども、それを思い出すのは嫌だった。
だから、その事をすぐに記憶の隅に追いやった。

俺は息を切らせながら昇降口まで来た。昇降口を出ると真っ赤な夕陽が校庭を染めていた。
まるで、真っ赤な血が大地にべっとりと張り付いた感覚。
いやな記憶が俺の頭を駆けめぐる。

血、血、血、血、血、血、血、血、血、俺の目にははっきりと血の痕が見えた。
俺の手に服にたっぷりと付いた血を見て俺は絶叫を上げようとする。

その時、不意に後ろから声をかけられた。

「下校時刻はとっくに過ぎたよ。部活が無いなら早く帰りなさい。おや、顔色が悪いね」

その男が俺に近づいてこようとしたが俺は制した。

「いや、もう大丈夫です。帰ります」

俺はそう言って学校を出た。
朽木をじっと見つめていたその男は鼻で笑う。

「今宵は銀の月か」

男はため息をつくと静かに校舎へと帰っていった。


第三話 狂気の宴

「遅くなっちゃった」

学校帰りの一人の少女、朽木美奈子が急ぎ足で帰路につく。部活の発表会で帰りが遅くなってしまったのだ。
周りはもう真っ暗。たった一つの明かりは、電灯の小さな明かりと雲の隙間からさす月の光だけだった。

少女は背筋に詰めたいものを感じひとりでに早歩きになる。何だか後ろから誰かが付いてきている感じがした。
美奈子は後ろを振り返るがそこには誰もいない。

「・・・・・・」

美奈子は気味が悪くなり無言のまま走り出した。自分の家はあとちょっと、あの角を曲がればすぐだ。
美奈子は角を曲がり安堵のため息を吐く。けれども、突然大きな手に自分の口を押さえ付けれた。
一瞬の事なので美奈子は気が動転する。暴れようとするが相手の力が強くほどく事は出来なかった。そして、意識は失われた。

『キャアアアアアァァァァァァ!!!』

突然悲鳴がする。悲鳴を上げたのは眼鏡をかけた三つ編みの女の子だった。
太い手がその女の子の腹を殴り気絶させる。
それは鮮やかなものだった。太い腕は二人を楽々抱えて、暗い夜道を走り去る。
その瞳は血の様に赤く見え、空には銀色の月が昇っていた。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


『ジリジリジリジリジリジリ』

突然時計のベルが鳴り出す。俺は慌てて音を止める。時刻を見るともう夜の七時を回っていた。
俺はいつの間にか寝ていたようで、制服のままの格好であった。とりあえず、私服に着替え、リビングへと向かう。
そこには電気が付けられておらず。あたりは闇に包まれていた。

「あれ、美奈子はまだ帰っていないのか」

俺は頭を掻き、冷蔵庫の中の麦茶をラッパ飲み干して渇いた喉を潤して、テレビを付けた。
テレビは何かのバラエティ番組がやっていたが、俺にはおもしろく感じず、すぐにテレビを消してしまった。

俺は美奈子の事が少し心配になった。確か今日は部活で遅くなる様な事を言っていたがここまで遅くなるとは思えない。
学校からここまではそんなに距離はないし、どこかで寄り道をするなら必ず電話をするはずだ。

俺は嫌な感じがした、今朝のテレビのニュースの事だ。俺はすぐさま美奈子の部活友達に電話をした。
連絡網は壁に貼ってあり、その中の小和田恵美と書かれている電話番号を確認する。
恵美ちゃんは俺の後輩で美奈子の親友。だから、恵美が帰ったか知っていると思う。

俺は間違えないように番号をプッシュし、電話を耳に当てた。一回コールの後に良く澄んだ声で電話が繋がる。

「もしもし、小和田ですが」

「あの、夜分遅くにすみません。朽木美奈子の兄の恭助ですが」

「恭助先輩?どうしたんですか?」

「あ、恵美ちゃんか。実は美奈子がまだ帰ってきてないんだけど、恵美ちゃんは美奈子のこと知らない?」

「えっ、美奈子まだ帰っていないんですか?部活はもうとっくに終わってますよ」

俺の嫌な予感は的中した。

「そうか、分かった」

俺はそう言って慌てて受話器を置く。

「くそ、こうなるんだったら美奈子を待って一緒に帰るんだった」

俺は後悔するがすぐに頭を切り換えて考える。今は行動するのが先だ。俺は再びプッシュホンを押し。
晴夫の携帯に電話をした。たぶん、やつならば何かしらの情報を持っているに違いない。
今はそれだけが頼りの綱だ。しかし、晴夫には連絡はつかなかった。

俺は外に出る。外は真っ暗闇で周りがよく見えない。俺はとりあえず、通学路を通ってみた。
そして、電柱の所に見慣れた鞄を発見した。それは美奈子の鞄だった。
その証拠に鞄の縁に可愛いウサギのぬいぐるみが付けてあった。俺はそれを握りしめて夜の街へと駆け出した。


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私はうっすらと目を覚ました。どこからか女の人のうめき声が聞こえたからだ。
私はとりあえず、自分の状況を確認する。私の手と足には太い荒縄がきっちりと縛られていた。
たぶん、力ずくでほどくことは出来ないだろう。
それと、口にはピンポン玉くらいの大きさの玉が私の口をふさいでおり、かろうじて穴が開いているので呼吸は出来た。

周りにはいくつものがらくたが置かれており、プラモデルの残骸やアニメのポスター、
はたまた人形みたいなものがバラバラの状態で無造作に置かれていた。

私は何とか這いずり回り、明かりがするドアの方へと進む。
どうやら、少しだけドアが開いているようだ。

私はその隙間から中の様子を伺う。そして、私は目を見開いた。そこにはとんでもない光景だったのだ。

男と女の絡み合う光景。淫乱で不快を帯びるその光景の主は獣の様に腰を振る。
女はそれに呼吸しあえぎ声をあげていた。そう、先ほどのうめき声は彼女が発していたのだ。
その顔は快楽におぼれ、だらしなく舌を出し、よだれを垂らしまくっている。
男がうめき声を上げると女の腰が急に跳ね上がった。

ここからでは、男の顔が分からないが男は腰を振り続けている。女はぐったりとしるが男は構わずにその行為を続けた。

私はその光景に圧倒される。そして、何故だから分からないが胸が高まり、自分の指が下半身のうずきに触れる。
そのことを知り自分は驚く。だけれども、そのうずきを止められなかった。私は快楽におぼれる。

明かりがついていたドアがゆっくりと開かれた。
私の顔は恐怖にゆがむが快感だけは止めどなくあふれてきた。
そして、顔のない男がゆっくりと私の腕を掴んだ。


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俺は走り続ける。さっきから嫌な胸騒ぎが高鳴る。俺は最悪の事態を思い浮かべて首をふるう。
とりあえず、今の現状を把握する。たぶん、美奈子は誘拐犯に捕まったと考えるのが普通だろう。
鞄が落ちていた事から考えるとあまり、時間は経っていないと考えられる。

俺は今朝のニュースを思い出す。犯人は確か工場で殺人を犯した筈。
ならば、このあたりにある廃工場に身を隠しているかも知れない。
俺は考えるこの辺で廃工場といえば作山工場しかない。俺は全速力でその場所へと向かう。
空には銀色の月が昇っていた。


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ここは警察署のある部屋で一人の青年が慌てた様子で入ってくる。

「警部!鑑識の結果がでました。それで少し妙な点がありまして」

「妙な点?」

「はい。被害者の死因は出欠多量なのですが、現場に残っていた血の量と明らかに一致しないんですよ」

「というと何か?犯人は被害者の血を持っていったと言うのか」

「はい。現時点ではそう考える方が自然かと。それと、被害者の子宮から何者かの精子が発見されたのですが」

「ふむ。犯人のものか?」

「いえ違うと思います。その体液をDNA鑑定したところ。この精子は人間のものでは無いようです。
詳しいことは検査待ちですがどうやら何かの動物のものだと推測されます」

「なるほどな。この事件は一筋縄ではいきそうないな。それにワシらでは解決が難しそうだ」

「では、どうします」

「しかたがない。あいつを捜査に加えよう」

「あいつ?」

「ああ、お前はまだ新人だったから知らないかもしれないが、こういうげてもの関係を調査する部署が存在するのさ。
捜査員は一人しかいないんだがね。変態の部類に入るのでな。みんな煙たがっているよ。
まあ、ワシはあいつのことが結構気に入っているんだがな」

「それはお褒めにあずかり光栄ですね」

ドアを開けて一人の青年が入ってくる。

「おお、君か。ちょうど君を呼びにいくところだったんだ」

「ええ、大体お話しは聞かせて貰いました。例の事件の事ですね。私もあの事件は何かくさいと思いましたよ。
どうやら、私のカンは当たったみたいですね。では、早速調査しましょうか」

青年が部屋を出た後、一人の男が駆け込んでくる。

「ここにいましたか警部。たった今電話がありまして『高校生誘拐事件の犯人が作山工場にいる』
っとのたれ込みが入ったんです」

「作山工場か」

「ええ、確か現場からもそんなに遠く無いし、今は廃工場のはずです」

「なるほど。で、電話をして来た人物は?」

「それが女の声でしたが名前を言わなかったんです。でも、嘘をいっている様には聞こえませんでしたが」

「そうか。わかった。今いる捜査員を作山工場へと向かわせろ。ワシらもいくぞ」

『はい!』

三人は慌ててその部屋を出ていった。


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「これでいい」

一人の少女が電話ボックスから出てくる。
その髪は銀色をしており、暗闇なのにハッキリと輝いていた。
一人の男がその少女に近づく。

「いいのかい?そんなことをして」

少女は振り向きその冷たい視線で男を睨む。

「おお怖い。怒らない怒らない。まあ、君のやろうとしていることには口を出さないさ。今はね」

男は無邪気な笑顔をするがその態度は明らかにバカにしている。
だが少女はそんなことには無関心でその男の横を通り抜ける。
その髪は月明かりでさらに銀色に輝いていた。

「さてと、お腹が空いたからラーメンでも食べにいきますか」

男はそう言うと、その場を後にした。


第四話 そして、月は満ち始める

俺は息を切らせながら走る。そして、暗闇の中をそびえ立つ、廃工場の前にたどり着いた。

廃工場は荒れ果てており、弱々しい月の光により、その不気味な姿をさらしていた。
工場の窓ガラスは割れており、まわりにはいくつものドラム缶が並べてある。
そして、その横にはドラム缶を運ぶためのさび付いた機械が沈黙していた。

俺はとりあえず、入口を探す。案の定入口はすぐに見つかった。
工場のドアには鍵がかかっていなかったのだ。俺はゆっくりとドアを開けて中の様子をうかがう。
中は外と同様、荒れ果てており、彼方こちらにホコリがたまっている。

俺は慎重に奥へと進み、当たりを警戒する。
一番始めに入った部屋はどうやら事務所みたいなところで、
奥の方にはまだまだ部屋があったがどの部屋も美奈子の姿はなく。人の気配はしなかった。

やはり、この工場にはいないのか俺がそう思い始めた時、ちらりと明かりみたいの見えた。
俺は急いでそこに駆けつけたが、そこには何もない単なる壁があるだけ、俺は落胆しその壁を思いっきり殴りつけた。
その時、その壁から妙な音がした。俺は壁を叩きながらその音を確認する。

どうやら、この奥に隠し部屋があるみたいだな。
その壁を思いっきり蹴り飛ばした。壁は案外脆く、易々と崩れ穴が空く。
俺はその穴をくぐる抜ける。

その隠し部屋にはプラモデルの残骸やアニメのポスター。
それに人形みたいなものがバラバラにされた状態で地面に散らばっていた。

そして、その奥には明かりのついた部屋があり、そこに一人の少女が倒れていた。
俺はすぐさま近づき確認する。その顔は美奈子だった。美奈子はどうやら無事のようだ。
俺はほっとしたと同時にあることに気が付いた。

目の前に何やらサッカーボールぐらいの大きさのものが転がっていたことに。
そして、そのボールには黒々とした毛みたいなものが生えていた。俺は数秒間それが何かを理解できなかった。
そして、理解したときには俺の血が逆流した。目の前にあるのはサッカーボールじゃない、あれは人の頭だ。

俺はその頭から目を背ける。そして、別のものが目に飛び込んできた。それは、人の手だった。
初めはマネキンの手かとも思ったが、間違いなく人間の手、そして、その隣には人の足が転がっている。

俺ののど元に何かがせり上がってくる。俺は必死でそれを押さえ、美奈子をこの部屋から運び出し、隣の部屋に移動した。
俺は一刻も早くこの工場を出ようとしたが、俺の何かが警告音を発していた。

もう一度、俺は死体のあった部屋に入る。できるだけ死体を見ないように俺は奥へと進む。
そして、驚くべき人が倒れているのに気が付いた。

倒れていたのはあの図書室にいた朋子の知り合いの三つ編み眼鏡少女だったのだ。
その子は裸でその場に倒れており、眼鏡と全身に白くてドロドロとした液体でベトベトで気を失っている。

俺はその姿を見て妙に血がざわめいた。異常に呼吸が速くなり、頭の中が真っ白になる。
そして、俺の股間がふくらみ始めた。俺は慌てて首を振り、欲望をふりほどく。

いくら七月だってあんな格好では風邪をひいてしまう。俺はそう思い着ていた服を彼女にかぶせた。
そして、あらためてバラバラになった死体を見つめた。
何故かこの時は冷静さが戻っていて死体を見ても動じなかった。

俺はじっと死体の切り口を見る、そして一つ妙な点を発見した。その切り口が妙に綺麗ですっぱりと切れている。
それに死体の切り口からは何故か血が出ていなく、地面にも壁にも血の後がない。
こんなことは人間ができるのか?
俺は妙な胸騒ぎを感じた。それと同時に、外でパトカーのサイレンがした。
俺はそのサイレンの音を耳にすると、言い寄れぬ不安を感じる。
そして、俺の意識は何故かその時点で途切れるのであった。


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「しっかし、驚きましたね。まさか、工場に着いてみると子どもが三人も気絶しているではないですか。
そして、その傍らには死体があるというんだから驚きですよ」

何故か興奮気味の青年が言う。

「ああ、確かに驚いたな。で、あの身元不明の死体の結果は?」

「え〜。死体の身元は深山勝治。年齢25歳。職業はフリーターとなっていますが今は無職。
現在は月岡アパートに住んでいるようで、友人は少ないようです。
ただ、大家さんの話では最近はほとんど見かけなくなったとか。報告は以上ですかね」

「なるほど、それとあの工場で見つかった子供達についてはどうなんだ」

「えっと、まずは男の方ですが、名前は朽木恭助。年齢は17歳。月ヶ丘高校二年生。
両親は現在海外に出張中で妹と二人暮らしをしているみたいです。
それから、女の子二人の方ですが一人は朽木恭助の妹、朽木美奈子。年齢16歳。同じく月ヶ丘高校一年生。
そして、もう一人は同じく月ヶ丘高校二年生。相原つぐみ。年齢17歳。家は酒屋を経営しているようです」

「ということは、全員同じ高校出身か」

「ええ」

「・・・・その三人とは面会できるのか?」

「たぶん、大丈夫でしょう。ただ、相原さんだけは精神面に異常があるので、まだ面会の許可が取れてないです」

「そうか、じゃあまずは朽木兄妹から調べていこう」

「分かりました警部」


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俺はボーとした焦点を合わせて、まわりを見回す。そこには白いシーツとベッドが見える。

最初どこにいるのか分からなかったがすぐにここが病院の中だと気付く。
何故ならば、病院独自のにおいと言うか雰囲気がしたからだ。

俺の隣のベッドには美奈子がすやすやと眠っている。どうやら、無事に俺たちはあの工場を出られたんだ。
安堵のため息を吐くと、ドアがいきなり開き、男が二人入ってきた。

一人は小柄で白髪頭の男性、たぶん歳は三十代の後半くらいだろう。
もう一人の男は二十代の前半くらいで、妙に若々しかった。

二人の男が俺が目覚めているのを知るとこういいだした。

「私、本庁の警部で現在『高校生誘拐殺人事件』の調査をしている山田ともうします」

白髪の男がそう言った。そして、もう一人の若い男が続けて自分の名前を名乗る。

「自分は鶴木といいます」

「お疲れの所申し訳ないのですが、何故あの現場にあなた達がいたのか話していただけませんか?」

白髪の男が俺の顔をのぞき込みいった。俺はあの工場に行った経緯を話した。
妹の帰りが遅く、もしかしたら何かしらの事件に巻き込まれたと思い、
テレビで見た高校生誘拐殺人事件のことを思い出し、
ひょっとしたらあの工場にいるかと思ったのでその現場に行ったこと。

そして、その現場で二人を発見し、バラバラになった死体を見たことを話した。
警察の人はそれを聞き顎に手を当てる。そして、二人はこそこそと話し始めると俺の顔を見て言う。

「そうですか。分かりました。それと、妹さんにも事情を聞きたいのですが・・・」

ちょっと遠慮深そうに白髪の男が言うと、俺は少し嫌な顔をしていった。

「分かりました。目が覚めたら連絡します」

それを聞いて、二人は安堵し病室を出ようとする。そこで、俺はあることを聞いてみた。

「あの死体は犯人のものだったんですか?」

俺がそう聞くと二人は少し考えて言う。

「たぶん、あの死体が例の高校生誘拐殺人事件の犯人だと思われます。
事件の時の凶器のナイフがあの現場で発見され、ナイフに付着した指紋と死体の指紋が一致している。
ただ、妙に気にくわないところがある。犯人は誰によってバラバラにされたか?
そもそも、どうやったらあんな殺され方をするのか。こっちとしても皆目検討が付かない」

「あんな殺され方?」

俺がそう聞くと二人は押し黙る。

「いや、その事は君たち一般人には話せない。聞きたいことはそれだけかい?」

「いえ、あともう二点ほど。何故警察はあの場所が分かったんですか?」

「我々があの場所に向かったのは、ある女の子からのたれ込みであの場所に向かったのさ」

「女の子?」

「ただ、その女の子がどこの誰だかは分かっていない」

俺はその点に疑問を感じたが最後の質問をする。

「最後に犯人が死んだと言うことはこの事件はこれで終わったんですか」

「・・・・・・さあな」

白髪の男がそう言うと病室を出ていった。そして、若い男もそれに続いていて出ていく。

俺たちは結局一日病院に入院して、それから家に帰った。
妹の美奈子の方は特に外傷はなく、精神的にも異常は無かった。

ただ、あの事件のことに関することだけが記憶から抜け落ちており、事件についての真相は闇の中へと消えた。

一体あの時何が起こったのか。俺には想像できない。一つだけ分かったことがある。
確かにあの時、あの場所には銀色の月が昇っていた・・・・ただそれだけは確かなことで。
妙にそれだけはハッキリとしていた。

俺たちはいつもの様に朝を迎え、当たり前の様に学校へと向かう。それは、何気ない日常。
だけども、あの事件を切っ掛けに俺の周りでは数々の事件が起こる。

それはどれも奇妙でしかもおぞましい出来事で。
たぶん、あの事件が俺に取ってはターニングポイントだったのかもしれない。

俺がそれを思い知るのはまだまだ先の事になる。

そして、俺の日常は静かに音をたてながら崩れていったことを俺はまだ知らない。
そんなことも知らずに俺は俺の日常を生き続けていく。それが例え偽りであったとしても。


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第二章 月ヶ丘高校殺人事件

 第五話 月に踊る人形達

時は少しだけ遡る。恭助があの工場で死体を発見した次の日の出来事まで戻るわけで。
つまり、恭助達が一日病院にいた日の出来事である。


暗い部屋に一筋の明かりが灯る。淡い光は壁を照らし、不気味な影を生み出す。

壁や地面には異様なものがあった。壁には無数の写真。その中には女子高生の写真や格好いい男の人の写真。
中には年老いた老人のものもあり、種類はバラバラであったが、何よりも不気味なのが地面に転がる無数の腕。

もちろん、本物の手ではなくマネキンのものだが。数が100体にも及ぶので、その不気味さは地獄絵図にも似ている。
その手の中に一人の人物が眠っていた。その人物はマネキンの頭を抱き枕にして、すやすやと安らかに眠っている。

その人物の眉がぴくりとして、その目が静かに開いた。
そして、何事も無かったようにもう一度眠ろうとしたとき、どこからともなく甲高い声がした。

「マスター、マスター。もうそろそろ学校に行かないと遅刻でっせ」

その声の主は、マネキンの中からはい出して、マスターと呼ばれる人物、河口柚江の肩を揺り動かす。

「ちぃ〜ちゃん。あと五分」

「あかんで、マスター。そないなこといっとるとまた、遅刻でっせ。
確か今月に入って五回目。さすがに藤堂先生でも、やばいでっせ」

さらに柚江の肩を揺するがなかなか起きようとはしない。

「ふむ、マスターにも困ったものだ。仕方がない、これだけは使いたくなかったが主君を起こすためだ。
マスターの蕾を刺激させて頂きます。お覚悟を」

何に覚悟なのかは分からないが、ちぃちゃんと呼ばれた主はいきなり、柚江の服に潜り込む。
そして、柚江の顔が朱色にそまり、淫靡な声が口から飛び出す。

柚江はガバッと起きて、服の中のその物体を取り出す。
それは、人形でしかも腹話術専用のちょっとアホっぽい顔のカエルだった。

柚江はそのカエルの首をねじ切り、どこか遠くへと投げつける。その頭が壁に当たり、地面に落下した。

「チクリス。あんた何あたしの服に入っているのよ」

柚江は急に怒り出すが、時計の時刻を見て驚く。

「・・・・きゃ〜〜!!遅刻、遅刻」

柚江はいきなり服を脱ぎだして、マネキンの手にかかっている制服を着始める。
上は白いシャツに赤いリボン、舌は紺のスカートを履き、真っ白い靴下を履く。

その間の着替えた時間はわずか15秒強。
たぶん、自己新記録更新中だろう。

慌てて部屋を出ようとするが、思い出したように地面に落ちたカエルの頭を持ち上げる。

「今度やったらこれだけじゃすまないわよ。チクリス」

柚江はそう言ってその頭を胸ポケットに押し込み玄関を出た。

外の天気は晴れ晴れとしており、いい天気であり。白い雲がスーと一本筋をたてていた。

「も〜う。チクリスがちゃんと起こしてくれないからこうなるのよ」

「それは違いますぞ。マスター」

チクリスと呼ばれた頭だけのカエルの人形は、胸ポケットの中から抗議しようとするが柚江のにらみで抗議をやめた。
どうやら、柚江には頭が上がらないらしい。カエルの人形は少し泣いている様にも見えた。

「あそこの角を曲がれば学校だ。時間は・・・まだ間に合う」

柚江は全力疾走でその角を曲がり、いきなり誰かと衝突した。
柚江は尻餅をつき、胸ポケットに入っていたカエル人形(チクリス)の頭が中を舞う。
悲しいことか、前を走っていた車がカエルの頭を踏みつぶした。

「きゃ〜。チクリス。大丈夫!」

柚江は慌ててカエルの頭を持ち上げた。

「はぁ、死ぬかと思った」

チクリスはため息を吐く。(実際ため息は吐いていない)

「どうやら無事みたいね」

柚江もとりあえず安心したが、カエルの頭から白い綿がはみ出していた。

「チクリス!あんたの頭から白い脳みそが!!」

柚江は急に慌て出すが、チクリスは静かにいった。

「マスター。あっしをもっと大事に扱ってくださいよ。そりゃあ、あっしはカエルですがあんな事はもうこりごりですよ」

カエルはそれだけを言うと静かになる。

「チクリス。あんたまさか!」

「いえ、死んでませんって。もうそろそろ学校なんで人形に戻るだけですよ」

「何だ。心配して損しちゃった」

柚江はそう言って、後ろを振り向くといきなり驚いた。
後ろには銀色の髪をした少女がじっと見ていたのである。しかも、その目はどこか冷たくて、寒気がした。

「・・・・・見てた」

柚江はとりあえず、そう聞くがその少女は何事もなかった様に、すたすたと歩いていく。

「チクリス。あたし達見られたかな」

「たぶん、ばっちり見られちゃいましたね。マスター」

「どうしよう」

「いえ、大丈夫ですよ。たぶん、マスターは人形に話しかけるかなりあぶない変態爆乳娘として見られただけですから」

言うまでもなく柚江はカエルの脳みそ(白い綿)が飛び出るくらい強く握りつぶした。

「やめてくれ。マスター。あっしの綿が!」

チクリスは悲痛の叫びをあげる。そして、柚江は思い出したように時計を見てはっとした。

時間は容赦ない方向を向いて、柚江はカール・ルイスも真っ青の走りを見せて、何とかホームルームには間に合った。
教室に入るとまずは、にっこりと挨拶をしようとするが、いきなりの運動で息が上がってうまく挨拶出来なかった。

「はよはよ!柚江。今日もぎりぎりだね」

「お、おはよう。和美」

柚江は息を整えてにっこりと挨拶をした。

「あれ?柚江。何握ってるの」

和美が柚江が握っているものに興味を持つ。

「ああ、これね。来るとき、ちょっと壊れちゃって」

とっさに柚江は嘘を付く。本当は柚江が壊したのに、チクリスは恨めしそうに柚江を見つめる。

「それなら、私、裁縫道具持ってるから貸そうか?」

和美はそう言って裁縫道具を取り出す。チクリスの目が輝く。それは柚江にではなく和美に向けられていた。
ちょっと面白くなかったが、このままではチクリスも不便だろうし、頭の綿は少なくとも自分に責任があると思うし、

仕方なく和美に裁縫道具を借りた、チクリスの修繕を始めた。

「ところで和美。あの子だれ?」

私は前の方に座っている銀色の髪の少女を指していった。

「そういえば、柚江は昨日休みだったよね。彼女は昨日転校してきた月原朋美。
ちょっと取っつきにくいところはあるけど、悪い子じゃないと思うよ」

和美が彼女の説明をしている間、私はチクチクとカエルの頭を修繕する。
そして、みるみるうちに人形は元の姿に戻った。

「さすが柚江。もう元通りになってる」

和美は驚きとともに感心した。柚江は修繕したチクリスをスカートのポケットに押し込む。

「裁縫道具ありがとう」

柚江はそう言って和美に裁縫道具を返す。

「そう言えば、今日はあいつの姿を見かけないわね」

柚江がそう言うと和美の顔が暗くなる。

「そうなのよ。恭助君。今日は休みみたい。先生は何もいってなかったけども。ちょっと心配だな」

「心配なら家に押し入って、世話女房でもすればいいのに。あいつならきっと涙を流して喜ぶだろうな」

和美はそれを聞いて顔を真っ赤にしてうつむく。

「ありゃりゃ。赤くなっちゃたよ。純情だね和美は。こんな和美に惚れられたあのバカは本当にしあわせものだこと」

柚江のちゃかしに和美はさらに赤くなった。


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一時間目は体育。私たちは水泳のため、更衣室へと向かった。

「柚江ってプロポーションいいよね」

さっきの反撃のつもりか和美が私の胸を見て言う。

「男子、いつも柚江の胸見ているよね」

痛いところをつかれて、顔をしかめる柚江を見てちょっと罪悪感を感じたのか
和美はそれ以上は何もいってこなかった。着替え終わった私たちはプールサイドに立つ。

プールの水はきらきらと輝いており、熱い夏の始まりを予感させた。

『それじゃあ、各自、準備体操をしてから』

体躯の先生が号令を出す。生徒は準備体操をすませると次々に水の中に入った。

プールの授業はいってみれば生徒がもっとも楽しみな時間の一つであり。
二時間まるごと自由時間なので、ほとんどの人が水の中で遊んでいる。

まあ、その方が先生方も楽なのである。現在は水中騎馬戦の真っ最中で楽しそうな悲鳴などでいっぱいだった。

柚江と和美は騎馬戦にはあまり興味がなかったのでプールサイドで見学をしていた。
そして、あっという間に時間が過ぎ、みんな更衣室で制服に着替え始めるところで事件が起こった。

「あれ?わたしの制服がない」

一人の女子生徒がかごを見てそう言った。そして、また別の生徒は下着がなくなっていた。
案の定、柚江の制服も一式消えていた。柚江の顔が青くなり、続いていきなり怒りの形相に変わる。

「誰だか知らないけど、あたしの制服を盗むなんていい度胸ね」

柚江は不気味な笑い声をあげえ、とりあえず和美に教室からジャージを取ってきて貰う。
ちなみに、和美の制服は取られていなかった。

柚江はジャージに着替えすぐさま部屋を飛び出す。しかし、この時、柚江は気付いていなかった。
制服以外にももっと大切なものを取られていることに。そして、それに気付くのはもう少し先のことになる。


 第六話 血まみれの人形

「とりあえず、まずはあの時アリバイが無かったヤツを探さなくてわ」

柚江はとりあえず、職員室の藤堂先生の所に行った。

「ど〜おしたの〜」

間延びした先生の声が職員室に響く。

「先生。水泳の授業中にあたし達の制服が何者かに盗まれたのよ」

「あら〜。それは大変ね」

全然大変そうに見えない口調で藤堂先生は言う。

「何悠長に構えているんですか。制服泥棒ですよ。捕まえて縛り首にして、打ち首獄門の刑をなんですからね」

「あらあら」

何だか分からない事を言っているが、とにかく柚江は怒りにまかせて藤堂先生に詰め寄る。
だが、柚江は話しがこれ以上進展しないと判断し、職員室を後にする。

職員室を出るとそこには一人の男が立っていた。その顔はにやりと笑っている。

「お困りのようだね。柚江くん」

「お、お前は!」

「君のマイフレンド、新聞部の海月晴夫さ」

きらりとした歯が光る。

「・・・・・・」

柚江はそんな彼を無視してすたすたと廊下を歩き始める。

「まあ、そう無視しないでくれよ。柚江くん。君の知りたがっていた情報を提供するからさ」

その言葉で柚江は立ち止まり、振り向くと晴夫に詰め寄った。

「ホントか!」

「ああ、本当だとも。俺の情報を甘く見ないでくれよ」

晴夫は胸を張る。

「制服泥棒はたぶん、学校の生徒かもしくは学校関係者だろう。
この学校はセキュリティシステムだけは完璧だからな。部外者は入ってこられない」

柚江はうんうんと頷く。晴夫はそんな柚江を見て話しを続けた。

「で、だ、つまり一時間目と二時間目の間の時間に制服を取られたと考えるのが妥当かも知れないが、
俺の情報によるとある女子生徒がその時間更衣室に戻っている。
その女子生徒の証言によるとその時点では特に変わったところは無かったという。
まあ、もっともその女子生徒が嘘を言っている場合があるが。俺の判断では嘘を言っているとは思えない。
その女子生徒は信じてもいいと思う」

晴夫の情報に関心する柚江はじっと晴夫の話を聞く。

「つまりだ。二時間目の間に取られたと考えられる」

「・・・・・海月」

「何かね。柚江くん」

「海月、凄いな。はっきり言って感心したよ」

「ほほう。柚江くんが褒めてくれるとはめずらしいな」

ちょっと照れた調子で晴夫は話しを続ける。

「二時間目で犯行が可能だったものは、二時間目が美術でしかも校内写生だった。
三年C組しかあり得ない。その中で犯人と考えられるのは以下の6名だ」

「6名か。結構しぼり込めたね」

「まずは、容姿、成績、武道ともに優秀。まさに現代の大和撫子の月夜野月菜(つきよの つきな)。
そして、月菜先輩の双子の姉でいつも明るい笑顔を振りまく月夜野静菜(つきよの しずな)。
美術部員であり、美術コンクールでも数々の賞を取っている比尾井優衣(ひおい ゆい)。
同じく美術部員で美術コンクールの賞を取り逃すも、その作品はかなり光るモノがあり、
今注目されている咲間護(さくま まもる)。そして、もう一人は咲間護の双子の妹で咲間胱(さくま こう)。
最後は新任教師でありながら、美術部の顧問をしている月原月矢(つきはら つきや)。以上6名」

「この中に制服泥棒がいるということか」

「ああ、間違いない」

「じゃあ、まずはアリバイ確認から行きますか」

二人はまずアリバイの確認のため、三年C組の教室に向かった。
三年C組は三時間目の授業だったがどうやら自習中であり、教室の中は妙に騒がしかった。

この時期は進学などのことも考えなくてはいけない時期なので、
自主勉強もしている人がちらほらいたが、問題の月夜野姉妹と咲間兄妹は教室でおしゃべりをしていた。
とりあえず、柚江達は月夜野姉妹に話しを伺うことにしたのだが、向こうは柚江達の事に気づき近づいてきた。

「あら、あなた達何かようかしら」

月菜は柚江達に近づいてくる。

「えっとですね。失礼ですが月菜先輩は二時間目はどこにいらしてましたか」

月菜は柚江達の話しを聞いて目をつぶり、ちょっと考えてから言う。

「う〜ん。そうね。二時間目は美術であたしとお姉ちゃんは校庭に出て、風景画を描いていたわ。
お姉ちゃんはここから見える風景を。あたしは校庭の隅に立っているモミの木を書いていたわ」

「なるほど、お二人はいっしょに絵を描いていたと」

「ええ、そうよ。ただ、お姉ちゃんは途中トイレにいったけどね」

「わかりました。ありがとうございます」

柚江はそう言うと、咲間兄妹にも話しを伺うことにした。

「えっ、僕たちが美術の時間どこで絵を描いていたかって、
僕は屋上で山の風景を書いていたよ。胱は僕とは一緒じゃなかったけど」

「あっ、あたしは学校の校門で絵を描いていたけど」

「わかりました。お二人ともありがとうございます」

「あっ、それから比尾井先輩はどちらに」

その名前を聞いて護先輩の顔が険しくなる。

「ああ、あいつなら美術室さ」

妙に投げやりな言い方をする。柚江と晴夫は三年C組の教室を出ようとしたとき、月菜先輩に呼び止められる。

「あっ、ちょっと待って確かあなた達、恭助君のクラスメイトだったわよね」

月菜先輩から恭助の名前が出たことに柚江は驚く。

「恭助君、今日は休みみたいだから、もし明日あったら『また、手伝って欲しい』と伝言をお願いできますか」

柚江はとりあえず頷き教室を後にした。

「驚いたな。恭助が月菜先輩と知り合いだったとわ。
和美の恋も前途多難だな。そういえば、海月はこのことを知ってたの?」

「ふふふふふ。誰にものを言ってるんだい柚江くん。俺は新聞部だぞ。
その手の情報はすでに入手済み。まあ、こちらの切り札さ、切り札」

妙に胸を張る晴夫を無視して柚江は美術室に到着した。

美術室には明かりがついており、中には人の気配がした。二人はとりあえず、ノックをして中に入った。
そして、中にいたのは男の人が一人。熱心に絵を見て何かをブツブツと言っている。

二人はその男に近づき、背後に立つが男はこちらに気づいていない。柚江はちょっと遠慮深そうに声をかけた。
男はびくりとしたがすぐに生徒が入ってきたことに気が付き、柚江達の方を振り向く。

「おや、君たちは?」

「えっと。月原先生ですよね」

「ええ、そうですが」

「あの、先生は二時間目、美術の時間だったそうですがどこにいましたか?」

「何かアリバイを聞かれているみたいだね」

月原先生は苦笑して答える。

「えっと、確かその時間は生徒がどこで絵を描いているのかを確認し、
どんな絵を描いているのかを見て回っていましたよ。まあ、生徒全員は回れませんでしたがね」

「全員は、というと。回れなかった人がいるんですか?」

「ええ、確か静菜さんと胱さん。それに優衣さんとは会えませんでしたね」

「なるほど、分かりました。それと、比尾井先輩を見かけませんでした」

「彼女なら先ほどまでいたのですが。教室に戻ってませんでしたか?」

どうやら、入れ違いになってしまったようだ。二人は教室を出て、
すぐに三年C組に戻ったがそこには比尾井先輩の姿はなかった。

柚江と晴夫はとりあえず、自分たちの教室に戻る。
柚江達の教室も自習だったので、いままでの状況を確認した。

「何だかアリバイもあやふやだったね」

「確かに皆さんバラバラでしたが、これはなかなか難事件です」

晴夫は顎を机にのせて考えをまとめる。そんな二人に和美が入ってきた。

「どうだった。何か掴めたの?」

二人は首を振る。

「そうなの。あっ、そう言えば柚江のあの人形も一緒に消えちゃったね。折角直したのに」

和美の言葉であることを思いだして、慌てて教室を出た。

「すっかり、チクリスの事忘れてた。考えても見れば、スカートにチクリスを入れっぱなしだったよ。
失敗、失敗。初めからこうすれば制服泥棒も捕まえられたのよ」

柚江はチクリスの気配を辿り、一枚の扉までたどり着いた。その扉の表示は倉庫とされている。
柚江はその扉を開けようとしたが鍵がかかっていた。

そこで柚江は仕方なく職員室に行き、丁度いた藤堂先生に鍵を貸してもらうことにした。
藤堂先生も倉庫に教材を取りに行くつもりだったので、一緒に行くことになった。
倉庫の前にたどり着くと藤堂先生が鍵を開ける。

『ガチャ』

鍵が空いた音がする。藤堂先生は扉を開ける。中はカビくさくて、真っ暗だった。
柚江は扉の近くの蛍光灯のスイッチを入れる。そして、とんでもない光景が目に飛び込んできたのだ。

地面には赤い血の海が広がっている。
血の海の上には女子生徒がうつぶせの状態で倒れており、その背中には深々とナイフが刺さっていた。

藤堂先生はすぐに失神して後ろから倒れ、柚江は慌てて先生を抱き留めた。柚江はすぐさま叫ぶ。

「チクリス!チクリスどこ?」

柚江の声に反応して、死体のそばから声がした。

「マスター、マスター。あっしはここです。ここにいます」

その声は死体が履いているスカートのポケットからした。
柚江はすぐさま死体に近づき、スカートの中からチクリスを取り出す。

「ありゃ、マスター何故にジャージ姿?」

チクリスはすぐさま疑問に思うことをいったが柚江はそれを無視して、
ジャージのポケットにチクリスを押し込んだ。

「また押し込まれるの」

チクリスは悲痛な叫びを上げたがその言葉も無視して、柚江は迅速に動いた。

まずは、職員室に駆け込み救急車と警察を呼んでもらう。
それから、廊下にいた数人の生徒と先生を捕まえて、藤堂先生を保健室へと運んだ。
そうしている間に、救急車が来て死体を見ていった。

「これはもう手遅れですね」

救急隊員がそう言うと、警察の人が駆け込んできた。遺体状態を確認して言う。

「これは殺人事件だな」

一人の男が静かにそう言った。

こうして、制服泥棒を追いかけることから始まった事件は、
殺人事件という恐ろしい出来事までに発展したのであった。


第七話 箱の中の人形

事件の後はすべての授業は自習になり、先生達も驚きの色を隠せなかった。

警察は遺体を確認して貰うため、先生達に遺体を見て貰う。そして、その遺体が比尾井優衣のものであることが判明した。
警察は第一発見者の私と藤堂先生にその時の状況を聞かれた。私は倉庫に置き忘れたものを取りに来たと言って誤魔化した。

何せ、チクリスを取りに来たとは言えないからだ。言ってしまえばチクリスも重要な証拠として取り上げられる可能性がある。
それだけは避けなくてはならない。それから、藤堂先生は授業に使う教材を倉庫に取りに来たと話した。
その後、警察は倉庫の鍵は誰でも持ち出せるのですかと聞いてきた。

「鍵は鍵の保管場所に保管されていて、先生の許可がないと借りれない仕組みになっています」

藤堂先生がそう言うと警察は神妙な顔になり、職員室を出る。

警察は他の先生達から事情聴取を取り始める。
そして、私たち生徒は何も聞かせられないまま、一斉下校という形で家に帰された。

事の真相を知っているのは私くらいなものだ。
家に帰り着くと、私は早速ポケットに押し込んだチクリスを取り出して聞く。

「ぷは、やっと出られましたよ」

チクリスは安堵のため息を吐く。

「さてと、チクリス。あなた、制服が取られたあとどこにいたの。そして、なぜ死体のポケットに入っていたの」

「あっしがうとうとと眠りについた頃、いきなり服が誰かに捕まれたんですよ。
その時はマスターが帰ってきたと思ったんですがね。
どうやらマスターの気配とは違う感じがしたのでじっとしていたんですよ。
その後、誰かがマスターの服を着て移動し始めまして。
途中マスターの声が遠くから聞こえたんですが、こっちは動くわけにはいかなくて、声はどんどん小さくなっていきましたよ。
そして、暗い部屋に付くと何やらくぐもった声で、盗作がどうとかコンクールがどうとかと言う口論が聞こえてきたんです。
それが急に収まると何かのうめき声がしてドサッとマスターの服を着た誰かが倒れる音がしたんです。
その後、誰かが部屋を出ていく音がしてから、マスターが入ってきたんです」

「なるほど、だいたい掴めてきたわ。そうだ、チクリス。その出ていった誰かは扉を閉めて出ていったの」

「たしか、ドアは閉めていったと思います」

「鍵はどうだった?」

「鍵ですか?そう言えば、鍵を閉める音はしませんでしたね」

「入るときはどうだった。その私の制服を着た誰かは鍵を開けて入ったの?それとも鍵を開けずに入ったの?」

「鍵は開いていたみたいです」

「状況は大体掴めた。それじゃあ、夜になったら現場に行ってみますか」

「なんか、マスター。いやにやる気満々ですね」

「そりゃそうよ。あたしの制服が血まみれにされたんだから。
弁償代+私の心の傷を払って貰わなくてはあたしの怒りは収まらないわよ」

「さいですか」

チクリスは適当にそう答えた。

「さてと、夜まで寝ますか」

柚江はそう言って、マネキンの手だらけのベッドに入り、すやすやと寝息を立て始めた。

「マスター寝るの早!」

チクリスのそんな叫びをよそに柚江は眠りについた。


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午前零時をすぎた頃、柚江は瞼を開けて、服を着替え始める。さすがにジャージ姿で学校に進入するのは忍びない。
薄手の黒シャツとジーパンを履く。シャツは胸の大きさで膨らんでいた。

柚江はポシェットを手に取り、その中にチクリスを押し込んだ。チクリスはまだ寝てたのか。
小さい悲鳴を上げたが柚江はそれを無視して懐中電灯などを入れて準備をした。

夜の学校に着くと柚江はまず、周りに人がいないことを確認する。幸い周りには誰もいなかった。

柚江は校門を飛び越えたが着地したところに大きな穴があり、その穴に倒れる。
穴は校門の前に大きく掘られて、何かの作業中なのか青いシートが被さっていた。
そういえば、下校の時は校門ではなく裏門から帰らされたことを思い出した。

玄関の鍵は閉められており、中に入ることは出来なかったが、あらかじめ開けて置いた。
一階のトイレの窓は案の定開いていた。

廊下はひんやりとした空気が充満していて、夏になるというのに背筋が冷たくなる感触がする。
柚江はとりあえず、遺体が発見された倉庫に行くことにした。

倉庫にはがっちりと鍵がかけられており、中に入ることは出来なかった。
仕方なく職員室へと向かうことにする。その途中、空に昇る月の光で廊下が照らされた。
柚江はふと窓の外を見る。そして、屋上に人影が見えた気がした。
しかし、その人影はすぐに消えてしまったので、柚江は勘違いだろうと思い職員室へ向かうことにした。


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そのころ学校の屋上では一人の少女が夜空を見上げて何かをつぶやく。

「彼が覚醒しました」

少女はハッキリとそうつぶやき、夜空の月に頭を下げる。

「ただ、彼が私たちの同族なのかは現在調査中です」

「それと、彼以外にももう一人・・・・・いえ何でもありません」

「そうではありません。裏月に関しては以前調査中です。はい」

「月の眼に関しては彼次第です。ただ、まだ覚醒したばかりですので、
すぐには表面には現れないと思われます。はい」

「それと、月夜野姉妹についてですが、計画通り今は放置ということで、はい。その様にさせて頂きます」

その女性はそれだけを言うと、なびいた髪をかき上げる。
その髪の色は月の光に照らされて銀色に輝いていた。


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職員室には鍵がかかっておらずあっさりと進入できた。実に不用心だなと柚江は思ったが今はありがたかった。

鍵ボックスも開いており、中にはいくつもの鍵束がかかっている。
その中の倉庫と書かれた鍵を取り、倉庫へと向かった。

鍵を開けると中は相変わらず誇りだらけで、誇りが舞っている。
柚江はポシェットから懐中電灯を取り出すと、中を見回した。

中は現場検証のためのロープがはっており、数字の書かれたプレートがいくつも列んでいる。
柚江はとりあえず、死体があった場所をよく確認してみる。

そこにはロープで死体の形が残っていた。死体の頭の向きはどうやらドア側の方で、あの時はうつぶせで倒れていた。
しかも、背中にはナイフが刺さっていて、ドアには鍵がかかっていた。

ドアを開けるのには職員室から鍵を持ってこなくてはいけない。それにこの部屋には窓もない。
つまり、これは密室。いや待てよ。そう早合点するのはよくない。

もしも、チクリスが言っていることが本当ならば、そうだ。あの時、犯人はまだ中にいたのかも知れない。
このドアの鍵は外からは鍵でしか開かないが内側は鍵が無くても開け締め出来る。

柚江はもう一度内側のドアを見た。鍵の摘みに細い線みたいな後が付いている。
そして、柚江に事件の真相がひらめいた。

「そう言う事だったのか。でもなんであの人はすぐばれる嘘をついたんだろう。それに・・・・・」

柚江がそんな事をブツブツ言っていると、背後に人の気配がした。
そして、柚江の頭に強い衝撃がし、柚江はその場に倒れ、意識は失われた。

『何でこうなってしまったんだ。すべてあの女が悪い。そうあの女が。ああああ、今は冷静になれ、
この探偵かぶれの女をどこかに閉じこめておくしかない。今、始末するのはまずい。どこがいい、どこがいい。
そうだ。あの場所なら誰も来ないはず。そうだ。あの場所にしよう』

影の人物は地面に倒れた柚江を見上げて笑う。

『大丈夫、絶対うまくいく。うまくいくさ』

影の人物はまるで呪文の様に、自分に言い聞かせながら自分の肩を抱いた。


第八話 闇に笑う人形姫

俺が学校に着くと当たりが騒がしく、何故か警察の姿があった。嫌な胸騒ぎがする。
俺は急いで教室へ向かう。教室に入るとすぐに晴夫が俺に声をかけてきた。

「よっす!恭助。昨日はどうしたんだ?」

俺はその問いには答えず適当に挨拶をして、外の騒がしさと警察について聞いた。

「ああ、あれな。昨日、うちの学校で殺人事件が発生したのさ。
そして、今朝もどうやら別の誰かが殺されたらしい。それで、警察がうろうろしているのさ」

嫌な胸騒ぎは的中した。俺の血がざわめき始める。

「でもさ。昨日は驚いたよ。柚江君と制服泥棒を追いかけていたら殺人事件に遭遇するとは思っても見なかった。
そういえば、今日は柚江君の姿を見かけないな」

それを聞いて俺の血がまた騒ぎ始めた。何でこんなに血が騒ぐ。この感じ、どこか覚えがある。
そうあの時の感覚に。俺の頭に何かがうつりこむ。それは銀色に輝く月。
銀色の月が不気味な笑みを浮かべていた。一瞬銀色の髪の少女がにっこりと微笑んだ気がする。あれは誰だったのか。

「おい!大丈夫か恭助」

「あっ、ゴメンちょっとぼっとしてた」

「何だか今日の恭助はちょっと変だな。夏風邪か?」

「いや。大丈夫、何でもない」

「そうか」

一時間目のチャイムが鳴り、午前の授業が始まった。けれども、一時間目の授業は自習だった。

俺は窓の外に浮かぶ空を見上げて、呆けていた。どうしても消えない胸騒ぎが何かを警告している。
俺は立ち上がり、晴夫に昨日の事件と今朝の事件の事を聞いた。晴夫はにやりと笑い。事件の事を話してくれた。

「昨日の事件の事はそれぐらいかな。
今朝の事件はどうやら、元美術部の湖西先生が殺されたらしい。
警察の話しを立ち聞きしたんだが、滅多刺しだったみたいだぜ。
当たりは血まみれで、地面も壁にも血が飛び散っていたって話しだ。
そうそう、現場は今は使われていない旧校舎の教室だったらしい。
湖西先生、昨日はお休みだったって藤堂先生は話していたけど。
何であんな場所にいたのかは分かっていないらしいよ」

「なるほど、大体の事情は分かった。ちょっと俺職員室に行って来るよ」

俺はそう言って教室を出て、職員室に向かった。
職員室を向かう前、旧校舎の現場を見ようとしたが、旧校舎の前には警察官が立っており中には入れない。

仕方なく、外の窓から中に侵入した。旧校舎の鍵は壊れている所があるのだ。
現場を見て騒然とした。晴夫が言っていたとおり、壁にも床にも血の痕がくっきりとついている。
それがあまりにも派手で少し気になる。よっぽど恨みがあったのだろうか。

しかし、旧校舎ってかなり床がぼろいな。ミシミシときしむ音がした。もしかしたら床が抜けるかも知れない。
俺は現場を見終わると次に倉庫へと向かった。

倉庫には何故か鍵がかかっておらず、あっさりと中に入れた。
中に入ると俺の背筋がゾクゾクし始める。何か違和感があった。

俺は当たりを見回すが別におかしな所はない。けれども、何かがおかしい気配がした。
俺はとりあえず、部屋を出ると、最後に職員室に向かい藤堂先生に湖西先生について聞いてみた。

その話によると湖西先生はかなりのお歳で、今年が定年だったという。
そして、元美術部の顧問であり、昨年とある事件を起こして部の顧問を降りたことを聞かされた。
俺はそのある事件について詳しく聞くが藤堂先生は首を振った。

「ちょっと、私では分からないわね。月原先生にでも聞いてみなさい。
現美術部の顧問だから何か知っているかもしれませんよ」

俺は職員室を後にして、月原先生がいる美術室へと向かった。
美術室に入るとそこには一人の男が立っていて、こちらを振り向くとにこりと笑った。

「君は、朽木恭助君だね」

「どうして、俺の名前を?」

「ああ、妹が君の事を話してくれたからね」

「妹?」

「ああ、月原朋美は僕の妹なんだよ。朋美の事は知っているよね」

「ええ、まあ」

「そうか、朋美はちょっと怖いところはあるが根は優しい奴なんだ。だから、優しく接して欲しい」

月原先生は真剣に俺の顔を見るので、俺は頷く。

「まあ、いいですけど」

「ああ、良かった。ところで、僕に何かようかな?」

「ええっと、前の美術部の顧問がおこした事件について何か知っていたら教えて欲しいのですが」

「ふむ、それを聞いてどうするんだい?」

「今度の事件に何か関係があるような気がするんです」

「わかった。話そう」

月原先生は椅子に座り、過去の事件を話し始めた。

「あれは、僕がこの学校の新任になってこの美術部をまかされた時に、湖西先生が語った事なのだが。
うちの美術部で盗作の疑いをかけられたんだ。
そして、真相がはっきりするまでコンクールの出場停止ということになったらしく。
その時、疑いをかけられたのが比尾井優奈だったんだ。
彼女はすばらしい作品を出展し、数々の賞を取った才能ある少女だった。
盗作の疑いをかけられた比尾井優奈は、それを全面否定した。
しかし、結局は比尾井が盗作したという形で事件は解決した。
そして、比尾井優奈は二度と筆を握ることは無かったと言われている。
彼女がその後どうなったのかは僕は知らないが、かぜの噂では失踪して今は行方不明だと言われている。
けれども、彼女の才能はすばらしいモノだと僕は感じている。だから、彼女が盗作したとは今でもとても思えないよ。
ただ、湖西先生はこんな事も言っていた。
『才能を持つ者はその才能におぼれてはならない。おぼれると言うことはその才能に自分を潰されるということだ。
だから私は彼女を救いたかった。だが、その救いこそ私の過ちだったのかも知れない』」

「・・・・なるほどね。大体事件の全貌が見えてきた。
ところでその比尾井優奈さんはもしかしたら、亡くなった比尾井優衣さんのお姉さんですか」

「ああ、そうだよ。優衣さんも非常に良いものを持っていたのに残念だよ」

「月原先生。ありがとうございました」

俺は月原先生に頭を下げて、美術室を後にした。

「さてと、第2の事件の真相はわかった。だが、第1の事件の密室トリックが解けていない。
もう一度現場を見てみよう」

俺は再び倉庫の扉を確認する。扉の表は鍵穴式での開閉。
裏側はつまみでの開閉ができるようになっている。そのつまみの部分にはキズがついていた。

「そうか。もしかしたら、初めから扉には鍵がかかってはいなかったのかも知れない。
これで密室トリックは解けた。でも、証拠がない。明らかに決定的な証拠がないんだ。
こりゃあ、いっちょカマかけるしかないか」

俺は考えをまとめて倉庫を後にした。


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「ここは?」

柚江は目を覚ますとそこは暗い部屋の中だった。柚江は予備の懐中電灯をつけ、あたりを見回す。
周りは窓も無く扉もない。どこからここへ放り込まれたのかを柚江は考えた。

地面は土でできており、天井はかなり高い。周りの壁はコンクリートで固められていた。
柚江は手探りでポシェットのチャックを開けて、チクリスを取り出す。

「よっす!マスター。頭は平気か」

「ああ、大丈夫よ。しっかし、いきなり頭を殴られるとは、正直ビックリしたわよ。ただ、犯人の顔は見たわ。
あの人が犯人なのね。早速ここを脱出して、あの人に私の慰謝料を払ってもらわなくては。
もちろんあたしの頭を殴ったお金も払ってもらうわよ。恐怖という利子を付けてね」

柚江の顔が不気味に微笑む。

「犯人のやろうも恐ろしい人を相手にしたもんだね。あっしはマスターが本気で怒る姿を見るのは久しぶりだぜ。
こりゃ、その犯人とやらは死ぬかも知れないな。まあ、あっしには関係はないがな」

「あれ、足下に何か転がっている」

柚江は足下に転がっているモノを手に持った。

「マスター、それ人間のドクロでは?」

「そうね。でも、何でこんなところにドクロが?あっ、壁に何か文字が」

柚江は壁に近づき、その文字を読んだ。

「この名字は!何だか事件が複雑になってきたわね」

柚江は一通り考えて、答えを出した。

「さてと、犯人が誰なのかは分かったことだし。早速、ここを脱出しましょうか」

「で、マスターどうやってここからでるん」

「まあ、見てなさいよ。チクリス」

柚江は片目をつぶってウィンクした。


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俺は事情を警察に話して、事件に関わる人物を旧校舎に呼んでもらった。
教室には以下の人物が顔をそろえている。

月夜野月菜、月夜野静菜、咲間護、咲間胱、月原月矢、藤堂由紀子、海月晴夫。

皆は何故自分たちが呼ばれたのか。よく分かってはいなかった。
そして、俺は教室に入り、皆を見て言った。

「皆に集まってもらったのは他でもない。俺がこの血塗られた殺人事件の真相を暴いてみせる。
そう、殺人犯はこの中にいる!!」


第九話 真実の中の真実

俺の言葉に皆は驚く。俺は続けて次にこう言った。

「まず、この事件の最初に起こった事件。そう、制服泥棒は誰か。そして、どういう目的で盗んだのか」

「おい、待てよ。制服泥棒と今回の事件は何か関係があるのか」

晴夫は俺に聞いた。

「ああ、制服を盗んだヤツこそ。この事件のキーポイントでもあるのさ」

「さて、話しを戻そう。制服が盗まれた後、今度は比尾井優衣が倉庫で殺された。
しかも、扉は鍵がかかっていた。そうですよね。藤堂先生」

「ええ、そうよ。確かに鍵はかかっていたわ」

「ということはこの事件は密室となるが、実はここで見落としている事がある。
鍵は本当にかかっていたのか。人は無意識に鍵つきの扉を見ると鍵がかかっていると思う。
つまり、鍵は最初から開いていたということも考えられる」

「でも、鍵を開けたときには確かに鍵を開ける音がしたわ」

「それは、内側のつまみの部分に何か挟む物をつけて、いかにも鍵を開けた感覚がするだけさ。
つまり、ドアは最初から開いていたのさ」

「でも、そんな仕掛けがあったら警察が気づいているのでわ?」

月菜が疑問に思ったことを口に出す。

「たぶん、それは藤堂先生が気絶し、柚江が誰か人を呼びに言ったときに、犯人が仕掛けの抜き取ったのだろう」

「なるほど、それならば。鍵がなくても、密室にみえる」

「そして、第二の事件だ。湖西先生の殺され方を見て、俺はあることに気づいたんだ」

「あること?」

「湖西先生は一体いつ殺されたのか?あの殺され方を見ると犯人はよほどの返り血を浴びたことになる。
そして、昨日起こった制服泥棒騒ぎを符合すると、犯人は血の付いた制服を着替えるために、
制服を盗んだと考えられる。そう、この制服泥棒こそ湖西先生を殺した犯人なんだ」

「そして、制服が盗まれたとき、一人だけ嘘の証言をしている人物がいる。
そう、あり得ない場所で絵を描いていた人物。咲間胱の証言がおかしいんだよ」

「君は『あたしは学校の校門で絵を描いていた』と証言しているがそれはおかしい。
学校の校門は今工事中で絵など描けるところはない」

「それじゃあ、犯人は胱さんなの?」

月菜は恭助に尋ねる。

「いえ、もう一人だけいますよ。アリバイがあやふやな人が、そう死んだ比尾井先輩です。
そして、俺は月原先生から聞いた美術部の過去を聞かされて確信したのです」

「その美術部の過去って何なんだよ」

晴夫は恭助に聞き返す。

「美術部では過去、盗作疑惑をかけられた人物がいた。その人の名が比尾井優奈。
現在行方不明中の優衣先輩のお姉さんだ!」

皆の顔が驚きの顔になる。

「ここからは俺の推測なのだが、湖西先生は行方不明の優奈さんの何かを知っていたのだと思う。
そして、優衣先輩はあの事件の真実を知り、憎しみが生まれたんだろう。
だから、湖西先生を滅多刺しにした。たぶん、これは予期せぬ事だったのかも知れない」

「この時、優衣先輩は焦っただろう。で、ちょうど体育で授業中だったクラスの人の制服をいくつか拝借したんだろう。
つまり、湖西先生を殺した犯人は優衣先輩なんだ!」

「でも、それじゃあ。優衣さんを殺したのは一体誰なの?」

「それを話す前に、胱先輩。あなたは何故すぐばれるような嘘を言ったのか」

「そっ、それは・・・・」

「言えないなら言いましょうか?あなたはあの時、絵なんて描いてはいなかった。
あなたはある現場にいたのだから。例えば、湖西先生が殺された現場とか」

胱の顔色がさっと変わる。

「あの時は言い間違えたの。確か校門ではなく裏門で絵を描いていたのよ」

俺は舌打ちをするが続けて言葉をつなげる。

「なるほど、そう来ましたか」

「それにあなたが言っているのは推論であって、証拠が何一つないじゃない」

「・・・・・・」

俺はじっと黙ったままになる。

「言い返せないみたいね。じゃあ、あたしは気分が悪いから帰らせてもらうわ」

そう言って、胱は教室を出ようとするが、その時いきなり扉が開いて。胱の目の前にドクロが現れた。

「きゃあ!!」

胱は一瞬驚いて後ろに飛び上がる。

「ありゃ、どうやら推理ショーが始まっているみたいね」

教室に入ってきたのは一人の女子生徒だった。
その左手にはカエルのぬいぐるみを抱え、右手にはドクロを抱えていた。

「げえげえ!!あんたが推理してんの」

その女子生徒は恭助の顔見るといかにも嫌そうな顔をする。

「そんな嫌そうな顔はするなよ。柚江」

「だってさ。あんただよ。まともに推理できるの?」

柚江は恭助を見て言う。

「大丈夫さ。それよりも、そのドクロは?っていうか何でそんなの持ってるの?」

「ああ、あたし犯人に頭を殴られて気絶しちゃってさ。目覚めてみたら暗い部屋の中で。
そこでこのドクロを見つけたの。さてと、ここからは私にバトンタッチよ」

柚江は強引にそう言うと、ドクロとカエルのぬいぐるみを抱えたまま推理をし始める。

「さてと、この事件の犯人はあたしの頭を殴った犯人。そう、咲間護、お前だ!!」

咲間護をびしっと指さす。いきなりの事なので護は驚く。

「あははは、何で僕が犯人なのさ」

護は頭をかいて笑った。その笑みはどこかぎこちない。

「お前のやったことはすべてお見通しだ!!」

柚江はどこかで聞いたセリフを口に出す。

「あなたは全ての真相の首謀者。湖西先生が比尾井優奈を殺したのも。比尾井優衣が湖西先生を殺したのも。
すべてあなたが仕組んだこと。そして、比尾井優衣を殺したのはあなただ」

「ぐぅ」

「全ての事をこのドクロ、比尾井優奈が教えてくれたよ。そして、過去に何が起きたのかも。
過去の事件の真相はこうだ。あなたは湖西先生に優奈が盗作をしているという嘘の証言をして、
湖西先生に優奈を殺させた。正確にはこの旧校舎の地下に閉じこめたんだ。
そして、今度は優衣に湖西先生を殺させた。たぶん、湖西先生が自首をしようとしたのかもしれない。
そして、最後にじゃまな優衣を殺した。これが事件の真相。そして、その動機は恐るべきものだった」

「地下室の壁には血文字でこう書かれていたわ」

『私をここに閉じこめた湖西先生はきっと、あの子にそそのかされているのだろう。
何故あの子が私にこんな事をするのかはわからない。もしかしたら、あの子は私のことをしっているのかもしれない。
ただ、優衣だけは巻き込まないで欲しい。これを見た誰かが気づいてくれることを祈る。どうかあの子、咲間護を止めてください』

「ふう。やっぱりこうなっちゃったか」

護は肩を上げてため息をつく。

「君をあの時、殺さなかったのは失敗だったかな。でも、どうやって地下室から抜け出したんだい。
あそこには出口などないのに」

「普通の人ならあの地下室からは抜け出せないでしょう。ただ、あたしは普通じゃないのよね」

柚江は片目をつぶる。

「まあ、あなた程度に殺されるあたしじゃないわよ。残念だったわね」

それを聞いて護は納得する。

「なるほど、君もか。君もなんだね」

護はそれだけを言うと、近づいてきた警察に手錠をかけられた。

「胱。それじゃあ、僕は行ってくるよ。後のことは心配するな」

護はそれだけを言って警察に連れて行かれた。その後ろ姿はどこか奇妙に感じた。

こうして学校で起こった殺人事件は咲間護がつかまったことで解決された。
その後、旧校舎の地下から比尾井優奈の遺体が発見され、柚江の言ったとおり、
壁には柚江が言ったことが書かれていた。ただ、そこに書かれていた名前が咲間護と書かれていたわけではなく。
咲間とだけしか書かれていなかった。つまり、護とは書いていなかったのだ。

まあ、護本人が事件を認めていることから、咲間護が犯人であることは間違いないだろう。
その動機が本当に才能をねたましくてやった犯行とはとても思えない。
それ以外にも何か深い恨みというものがあるような気がした。
でも、それを確かめるすべを俺は知らない。だからこのことは深く考えないようにした。


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事件が終わった後、柚江は一度家に帰った。無数の腕に囲まれた柚江は、黒いローブを纏い。チクリスを手に持つ。

「さてと、チクリス。行きますか」

「へ?行くってどこへ?」

「事件の真相を確認するためよ。それと利子を返しにね」

柚江達は学校の屋上に立っていた。そして、そこには一人の少女が立っている。

「やっぱり、来ましたか」

「ええ、そうね。まさか、あなたが本当の意味での犯人とは思いませんでしたよ。咲間胱さん」

「あら、どうしてそう思うの?」

「だって、比尾井優奈が教えてくれたもの。あなたが犯人であることを。
もっともあの壁にはあなたの名前は書いてなかったけどね。真相はこうよ。
恭助は湖西先生が殺したと思っていたみたいだけど、比尾井優奈を殺したのは本当は咲間胱さん、あなたよね。
そして、それを隠すため護は優衣をそそのかし、湖西先生を殺し。
優衣は護に殺され、全ての罪を背負って護は警察につかまった。あなたの罪と共にね」

「そうね。あなたになら全ての真相を語っても良いわ。比尾井優奈はね。本当に絵の才能があったのよ。
数々のコンクールで賞をとり、いつも輝いていた。でも、それは表の顔であり、裏の顔は実に醜かった。
彼女はね、男を喰うのが趣味なのよ。

男の全身をなめ回し、男を喜ばせてイク時は舌をだらけて唾液をぽたぽた落として、その唾液を男にかけて喜んでいるのよ。
あの女はそういう女だったの。でも、周りはそんな事には気づいていないけどね。
そして、あの女はこともあろうに護を喰おうとした。だから、私が殺してあげたのよ。
醜い雌豚は暗い地下に閉じこめられて、のたまわるのがお似合いよ。

まあ、壁に手がかりを残すとは思っても見なかったけどね。
だから、私は後悔はしてないわ。さてと、私の話はおしまい。そろそろ、あなたには死んでもらうわ」

そう言うと胱はナイフを取り出し、不気味に微笑んだ。

「あんな事言ってるよ。チクリス」

「さいですね。マスター。でも、この人、すごく美味しそうですよ。食べてもいい?」

「食べてもいいわよ。どうも、あたしの味覚にはあわないみたい」

「何をごちゃごちゃとしゃべっているの。死になさい!」

「では、いっただきまぁ〜す」

そう言うと、チクリスの頭が巨大化し、胱はあっという間に飲み込まれた。
そう、本当にあっけなく。口をもごもごするチクリスが何かをはき出す。

それは先ほど胱が握っていたナイフだった。そして、チクリスは胱を飲み込んだ。

「なかなか美味しかったぜ」

「あらそう?それなら少しだけもらえば良かった」

「それにしても、最近はいい餌が豊富になりましたね。この前も偉く美味しそうな獲物がいたのに、
誰かに先を越されるし、そいつは食べ残しはするし。マナーがなっていない野郎がこの街にきていますぜ」

「そうね。まあ、そのうち合うこともあるでしょう」

「それと、咲間護はどうするんですか。マスター」

「ああ、あの子ね。まだ、食べるのは早すぎるわ。それに妹を差し出したんだから、案外あたし達の同族かもしれないわ。
もう少し生かして起きましょう。ああいう子は結構好きなのよあたし。自分が助かるためには妹さえ生け贄に差し出す。
もっとも、彼に取っては妹の事などどうでも良かったのかも知れないけどね」

柚江はそれだけを言うと、屋上から飛び降り闇へと消えていった。
2004/06/08(Tue)00:41:15 公開 / 名も無き詩人
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■この作品の著作権は名も無き詩人さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
とりあえず、消滅してしまった分をアップしました。
あまり、感想が無かった作品ですが、第四章も出る予定なので、
第一章や第二章がどんなだったか読みたい人がいれば読んで貰いたいです。
ちなみに、第一章が一番グロイ表現が多く。
また、私が一番張り切った作品です。
それに変わって第二章はグロイ表現は少なく。
第三章では冒頭部分にグロイ表現があります。
私のグロイは表現をなるべく押さえておりますが、
その表現対する感想はあまり無かったのでレベルは
低い方だと思われます。
また、第四章ではもうワンレベルを目指しておりますので
そう言ったものを期待している人はお楽しみに。
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