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『a precious lover』 作者:ドンベ / 未分類 未分類
全角29382文字
容量58764 bytes
原稿用紙約99.2枚


「さて……何から片づけるかな」
 雑然とした部屋を見回し、小さく呟く。
 埃っぽい六畳間に並んでいるのは、本、CD、書類、手紙類、文房具、集めるだけで楽しかったキーホルダー、今はもう使う機会のなくなったテレホンカード、長期休暇の度に土産だといって渡される置物、果ては学生時代の添削されたレポートまで。
 全て部屋の机まわりから出てきたものだ。
 よくもまぁこれだけため込んだもんだと嘆息しながら、気分転換に窓の外に目をやる。
 気怠い日曜の午後、安アパートの四階から見渡せる児童公園には、幸せそうな家族の姿があった。自分を束縛するロープから解放され、束の間の自由を満喫するように駆け回る一匹の犬と、それを追いかける元気のいい兄妹。母親は子供達が心配なのか、行くあてもない風に二人と一匹のあとに続く。少し離れたベンチで、まだ中年と言うには早いくらいの男が、煙草を吸いながらその光景を眺めている。
 新しい季節が間近に迫った三月、春らしい陽気のせいか、他にも子供達の姿がいくらか目に入った。
「……春だな」
 三月は終わりの季節。今までの現実が終わり、新しく始まる日々までの準備期間。普段は味わえない開放感に浸れるのも、新しい生活に対する期待を抱いたり不安を抱えたりできるのも三月までだ。
 そして三月と言えば、もう一つ。
 引っ越しの季節。
「あぁ……そうだ、片づけ」
 呟いて、視線を部屋に戻す。
 四月から新しい家に住む俺は、学生時代からかれこれ七年世話になったこの部屋と、今月、お別れすることになった。
 つい最近まで仕事が立て込み、忙しかったせいで感傷に浸る暇もなかったが、今、こうしてのんびりと思い返してみると、さすがは七年間。
 これもまた一つの終わりなのだと実感させられる。
 胸の奥に疼く小さな喪失感は、慣れ親しんだ部屋との別れを惜しむものなのか、それともこの部屋に染みついた思い出を惜しむものなのか。
 社会人の辛いところは、そんな想いに浸る暇さえ限られているところだ。
「さて、動くぞ」
 目の前に山となって居座る書類の束に手を伸ばす。
 必要なもの、そうでないものを選り分け、不必要なものはゴミ袋に投げ込む。本やCDに必要性はないが、捨てるつもりもない。文房具の中には、すでにインクが切れたり壊れたりで使い物にならないものが数多くあるが、情が染みこんでどうも捨てにくい。少し考え、捨てるかどうかの判断は後回しにすることにする。次はキーホルダーやテレホンカード。生活が変わったところで必要になるとも思えなかったが、これも捨てるのはもったいない。学生時代のレポートだって価値は完全にゼロだが、少なくとも努力の結果だ。それらの判断も全て後回しにする。土産の置物を捨てようもんなら、あいつに何を言われることか。新生活に余計な軋轢を生まないためにも、これは捨てないことにする。他の雑多なものはどうするか……。
「少しくらい進めておかないと、あいつは怒るよな……」
 そんな調子で三十分がたった。
 片づけは一向に進まなかった。
「……性格か、これは」
 苦笑しながら呟いて、部屋の空いたスペースに寝ころんだ。
 手紙の束を引きよせ、一枚一枚眺めていく。
 その内訳は、年賀状と光熱費の請求書が半々といったところ。手紙を書く習慣もペンパルももたない俺にとって、手紙という言葉はほとんど年賀状のために存在していると言ってもいい。
 だらだらと眺めているうちに、一枚の絵はがきが目にとまった。
 青い空をバックに、肩を組んで微笑む男女が写っている。
「……」
 不意に頭をかすめた言葉。
 体を起こし、全く整理の進まない部屋を見回す。

『例えば、ものを捨てるとき、何を基準に捨てるか捨てないかを決めると思う?』

 あれは二年前のことだ。
 彼女が自嘲するようにそんなことを俺に尋ねたのは。
 明確な意志の込められた答えと共に、当時の記憶が俺をとらえた。

『本当に何一つ価値の無いものって……きっと、捨てようとさえ思わないよね。だからたぶん、捨てられたものは、捨てられた分だけの、価値があったんだよ。だから、わたしは――』


 ― Unprecious Lover ―


 最初は五月だった。六月にはいると半年と言われ、半年が過ぎると一年だと言われた。何事もなく一年の過ぎた今は、三年という言葉を聞いた。
 そこに壁があるのだそうだ、社会人の壁が。
 今の自分や今の仕事に疑問を持ち、精神状態が鬱に落ち込む時期。五月病なんて言われてるあれだ。
 最近じゃユニバーシティシンドロームなんて言葉もあるらしい。大学生が抱いていた理想と直面した現実との差異に戸惑い、夢や希望、最後にはやる気も失うとか。
 俺にしてみれば贅沢な悩みだ。
 社会人になって一年目は、悩む時間どころか冷静に現実を見つめる暇すら感じることも出来ずに過ぎていった。二年目も四ヶ月を過ぎた今は、多少は慣れたが。そもそも抱いていた理想がそのまま現実に投影されることなんてあり得ない。与えられた現実の中に自分なりの価値観を見出すか否か。
 受動的に見えるかもしれないが、それでも十分すぎるほど現実は楽しめるだろう。
「待った?」
「いや」
 現れた彼女に軽く手をあげ、煙草を灰皿にねじ込む。
 久しぶりに訪れた大学の構内は、当たり前のことだが、若者の姿が多かった。
 国立大学、加えて緑の多いかつての学舎は、広く一般に開放されている。在学中はガイド付き観光客の姿をよく目にした。休日の午前中は周辺住民の憩いの場となり、講義室の窓からはしゃぎまわる幼稚園児を見かけたこともある。
 学生時代は随分と一般人の姿が気になったものだが、今日見る限りでは、それほど多いとも思えない。
 たまたま今日、学生の割合が多いだけか。
 それとも俺が一般人になってしまったからか。
「ごめんね。家出るとき、大家さんと会っちゃって。話し込んじゃったから」
 そんなことを言いながら恥ずかしそうに微笑むのは、中学以来の友人であるアミ。
 腐れ縁が一生ほどけないほどこじれてしまった、そんな仲だ。
「この前、東京に旅行いったんだって。お土産もらっちゃった」
「東京バナナ?」
「残念。人形焼き」
「あぁ、浅草か」
 答えながら、座っていたベンチから立ち上がる。
 アミは値踏みするように俺を見ると、
「服装、大人っぽくなったね」
「老けたか?」
「シックになったよ。昔は……ほら、平気で半袖にハーフパンツで出歩いてたでしょ」
「着慣れるとスーツも案外楽でな」
「お昼ご飯、食べた?」
 尋ねられる。
 小さく首を振り、
「さっき起きたばっか」
「じゃ、学食行こうか」
 軽い足取りでアミは歩き出す。
 開放的な空に響く学生の声を聞きながら、その背中を追った。

 俺は今年で二十四になる。もちろんそれはアミも同じだ。アミは大学院に進み、今もまだ学生をやっている。
「仕事はどう?」
 朝食をしっかり食べたというアミは、缶コーヒー片手にそう尋ねてきた。
 俺は安価な学生用の定食を食べながら、
「さすがに二年目だからな。慣れるよ」
「今も土曜日出勤してるの?」
「土曜出てるのは仕事遅い奴。特別なことでもない限り、残業でなんとかなる。最近は週休二日だ」
 立ち上がり、少し離れた場所にある給湯器でお茶をいれ、戻ってくる。
「話すきっかけ探すほど浅い仲でもないだろ」
「えっ?」
「相談、あるんだろ?」
 聞くと、アミは困ったようにうつむいた。
 今日呼び出されたのは、俺にしか話せないと言うその相談を聞くためだった。社会人になって一年、別に疎遠になったわけではないが、それでも学生の頃に比べれば、顔を合わせる機会は随分と減った。学生の頃は、ほとんど毎週三人で顔を合わせ、酒を酌み交わし思い出話に花を咲かせた。
 今日相談されることが、三人のうち残るもう一人に関することなのは、聞くまでもなく想像できた。
「世間話はダメだった?」
「嫌とかじゃなくて。……まぁ、俺も大体、話の内容は想像できてるし」
「就職を控えたわたしが、一足早く社会人になったタカユキに人生相談するのは?」
「ダメだな。俺に問題がある」
「問題?」
「人生相談されるほど、俺は出来た人間じゃない」
 言うと、アミは楽しそうに笑った。
 飲み終えたコーヒーの缶を、指で二・三度叩いて、
「タカユキはいい人だと思うけどな」
「誰と比べて?」
「そういう質問は……ちょっと、ずるいと思うな」
 呟いて、アミは困ったようにうつむいた。
 それから立ち上がり、空き缶をゴミ箱に捨てて戻ってくる。
 そして、
「アカネちゃんは、今年、三年生だったっけ?」
 再び腰を下ろしたアミは、そう言った。
 アカネ……その名前は、今俺が考えていた“残るもう一人”の名前ではない。
 よほど話しにくいのだろう。
 小さくため息をこぼし、しばらくは世間話に付き合うことにした。
「お気楽だよ、あいつは」
「三年生のこの時期って、一番楽しい時期じゃない?」
「そうなんだろうな。旅行ばっかだ、あいつは」
「あ、またどこか行ったんだ」
「今度は長崎」
「お土産は何だったの?」
「ビードロだって。あんな壊れそうなもん、俺の部屋に置かせて何がしたいんだか……」
 ぶっきらぼうに答えてみたが、それが上手くいったかどうかはわからない。
 アカネは俺の彼女の名前だった。
「わたしは、お土産買ってきてくれるだけまだいいと思うな」
 アミはその声に羨望を滲ませながら呟いた。
 それから、慌てて口元を押さえる。
 声に出してから気付いたのだろう。
 今、自分が誰のことを考えていたのか。
「場所変えるか」
 そう言って立ち上がる。
 食器の乗ったトレイを持って、返却カウンターに向かう。
「あ、ちょっと……」
 アミの声はまだ迷っていた。
 迷うだけの理由があることも知っていたが、結局いつか吐き出さないと耐えられないのなら、それは早いほうがいい。
 自分勝手にそう判断し、学食を出た。

 校舎と校舎の間に広がる芝生の一角で、ベンチに腰を下ろす。夏の強い日差しは木々の葉に遮られ、さわやかな風が俺の髪を揺らす。
「相談っていうか……ただの愚痴なんだけどね」
 腰を下ろし、アミはゆっくり話し出した。
 中学以来の友人は、もう一人いる。名前はカツヒコ。高校時代は、某有名マンガになぞらえて、お互いをタッちゃん、カッちゃんと呼び合った仲だ。俺、タカユキと、カツヒコ、アミの三人は、同じ中学から三人だけその高校に進んだこともあって、あの頃から急速にその距離を縮めた。
 カツヒコはアミと同じで、今は大学院に通っている。性格は明るく過度に人なつっこい。顔も良く、幅広い話題に通じていることから、交友範囲も広い。感情に素直で弱さも隠さないから、その手の男が好きな女には、とにかく受けがいい。そしてあいつは、それを全て知っている。
 感情に素直というあいつの長所さえ、疑いたくなるほど。
「……相変わらず、か」
 一通り愚痴を聞き終えた。
 カツヒコは昔から学業の暇を見つけては、所属していたサークルの飲み会に顔を出していた。飲み会が終わる頃には下級生の女と“いい雰囲気”になっていて、そのまま“いい関係”になることも多い。
 別にそれ自体は問題じゃない。顔が良くて移り気な男がいれば、二ヶ月に一回彼女がかわろうと、誰も文句は言えないだろう。
 問題なのは、カツヒコとアミが、付き合っていること。
 少なくとも俺の認識では、二人は付き合っているはずだった。
「なんかね……この前、友達からメールもらって」
「いつものあれか」
「そう。カッちゃんがまた、女の子ひっかけたって」
「なに考えてんだかな、あいつも……」
 辟易しながら呟く。
 カツヒコの悪癖が始まったのは、大学に入って三年目の頃だ。アミがさっき、三年が一番楽しい時期だと言ったのも、無意識にそれを思い出したからかもしれない。
 確かに楽しいのかもしれない、とは思う。別に快楽を求めるだけじゃない。それなりに他者に弱さを見せ、弱さを見せられ、普通の他人より少しだけ深い仲になる。ただの友達と言う言葉が指す関係は、友達という言葉が白々しく思えてくるほど浅い。考えれば考えるほど、相手が自分に対して気を許していないことを実感させられる。カツヒコが気まぐれに身を浸す関係は、たぶんそんな虚しさを埋めてくれることだろう。
「タカユキは……どう?」
 不意にそう声をかけられる。
 言葉の真意を計りかね、振り向いて尋ね返す。
「なんだ?」
「ほら、男の人って……その、長く付き合ってると、飽きたりするのかなって……」
「……」
 言葉につまった。
 簡単に答えられる質問じゃない。
 肯定したって否定したって、アミは傷つく。
「……俺には無理だな」
 少し考え、素直に答えることにした。
「そもそも俺は、人付き合いが苦手だから。そう簡単に心を許せるとは思えないし、何より俺を受け入れてくれる女がどれだけいるだろうって……ま、そんなのは結局、俺自身の問題だけど。俺がどれだけ容姿に恵まれていようと、それは無理だよ」
「タカユキ、アカネちゃんとラブラブだもんね。聞いたわたしが馬鹿だったか」
「別にそんなんじゃない」
「あ、ごめん。嫌味じゃなくて。……純粋に羨ましいの、そういうの」
 ポケットの中から、煙草と携帯灰皿を取り出す。
 酒でも飲みながら話すべきことだと思ったが、三時という時間から開いている居酒屋はあるはずなかった。
「……長すぎるのかなぁ」
 アミがこぼすように呟いた。
 煙草の煙を勢いよく吐き出しながら、昔のことを少しだけ思い出す。
 二人が付き合い始めたのは、高二の夏休み直前だった。
「長い間そばにあったものって、そこにあるのが当たり前になっちゃって、もう何の意味も持たなくなったりするよね」
「……ん?」
「タカユキは、例えば、ものを捨てるとき、何を基準に捨てるか捨てないかを決めると思う?」
 真っ直ぐに目を見て尋ねられた。
 それは随分と意味深な言葉に思えた。
 突然の質問に戸惑っていると、アミは視線を外し、木漏れ日の下をゆっくりと歩く老人の夫婦を眺めながら、言った。
「本当に何一つ価値の無いものって……きっと、捨てようとさえ思わないよね。だからたぶん、捨てられたものは、捨てられた分だけの、価値があったんだよ。だから、わたしは――」
「おい」
「――わたしは、きっとカッちゃんにとって、いてもいなくても同じ、なんだよね」
「そんなことは……」
 そう言ったところで、アミが俺に視線を戻す。
 悲しい笑顔で、早すぎた始まりを悔やむように。
「当たり前すぎて、捨てようとさえ思わない。だから……カッちゃんは、平気なんだよね」
「……」
 呟いたアミの頬を、涙が一筋、伝った。

「わたしは、まだ……こんなに、辛いのになぁ……」


   ◇ ◇ ◇


 その年ももう残り一月をきった頃になって、カツヒコから電話がかかってきた。
 二ヶ月ぶりの電話だ。
 あの出来事については……アミは、自分たちの問題だから、とだけ俺に言った。
『よー、元気だったか?』
 携帯電話から響いてくる声は、いつもと変わらず明るい。
 最近、カツヒコとの電話を苦痛に感じるようになった。
 それはカツヒコのせいではなく、言いたいことを口に出せない俺の責任だったが。
「……お前は相変わらずだな」
 テレビの音量を下げながら、ため息と共に答える。
「就職活動とか大丈夫なのか?」
『あれー? 俺、言ってなかったっけ?』
「決まってたか?」
『違う違う。俺、ドクター進むから』
「……そうなのか?」
 驚いて、思わず聞き返していた。
 大学院の修士課程は、一般にマスターと呼ばれる。ドクターとは、さらにその上の博士課程のことだ。
『なんかさ、研究が楽しくて』
「そう言えばお前、昔から勉強はちゃんとしてたよな。私生活はいい加減なくせして」
『やることやるのがいい男の条件だー、なんちゃって』
 せめてもの足掻きにと思って発した俺の皮肉は、あっさり返された。
 電話の向こうから、楽しそうな笑い声が響く。
 カツヒコはひとしきり笑うと、
『そーだ。んでさ、お前、年末に時間とれる?』
 そう尋ねてきた。
 カレンダーに目をやった俺の答えを待たず、カツヒコは後を続ける。
『久しぶりによ、温泉とか、行かねーか?』
「勉強はいいのか?」
『一泊二日くらい平気だって。実家だって、大晦日までに帰りゃ、文句言われねーだろうし』
「温泉、か……」
 考える。
 そう言えば、カツヒコはアミと二人で、昔はよく旅行に出掛けていた。それも大学の二年の頃までだったが。
「男二人か?」
『まーさか』
「じゃあ、他に誰呼ぶんだ?」
『俺はアミ、お前はアカネちゃんでいいじゃんか』
 こともなげに言い放たれた言葉に、少し腹がたった。
 まるで他の誰かでも代用できると言わんばかりの言葉。
「……お前、アミとは上手くやってるのかよ」
 そう聞いた時の俺の声は、きっと邪険になっていたことだろう。
 当然だ、もう何ヶ月もため込んでいた言葉なのだから。所詮他人の色恋沙汰だが、同時に十年以上のつき合いを誇る友人の話でもある。
 成り行きに任せるなんてこと、俺には出来ない。
「ふらふら浮気とかしてないだろうな」
『浮気、ねー……まぁ、それはしてねーよ』
「本当だろうな」
『今日はやたらとからむね。もしかして一人酒か?』
 戯けるようにカツヒコが言う。
 どうしようもない苛立ちが、俺の中に鬱屈していく。
『まー、でも、そうか……お前なら、そう言うよな』
「なに?」
『そう言うだろうなーとは思ってたんだけどよ……』
「……」
 僅かな沈黙のあと、どこか気落ちしたような声で、カツヒコは呟いた。
『こんなコト言ったら、お前は怒るかもしれねーけど……』
「なんだよ」
『最近さ、どうも俺、陰で軽い男だって言われてるらしくて』
「……」
『サークルの後輩とかさ。飲み会とか顔出すと、あんまいい顔されねーんだわ』
 当たり前だろうと言いかけた。
 自分のしてきたことを省みれば、そう思われるのも当然だ。カツヒコを先輩としてしか知らない後輩達に見えるのは、事実の部分だけ。その事実が感情によってどんな脚色をされようと、文句など言えるはずがない。
 そう言いかけたが、結局、何一つ言えなかった。
 まるで相談するように口に出されたその言葉が意味するのは、カツヒコが全く悪意を持っていないこと、そして、俺やアミを心から信じ切っていること……その二点だ。
 アミの抱える悩みも俺が受けた相談も知らずに、全てが上手くまわっていると信じている、そんな言葉だった。
「……後輩だって彼女欲しくてしかたないんだ、それくらいわかるだろ。場を乱すだけじゃなくて、少しは後輩に協力してやれよ」
 しばらくして俺の口から出た言葉はつまらないものだった。
 三流映画の神父のように、筋違いの理屈で悪人を善行に導くような。
『彼女欲しい、ねー……』
 カツヒコはため息混じりに呟く。
 そして、
『そんなもんに協力する気にはなれねーな』
「お前な、それだから疎まれて――」
『知るかよ。好きな女がいるなら自分でどうにかしろっての。他人の協力で成就させたって、後々上手くいくはずがねーだろ』
「……」
 妙に核心をついた言葉だった。
 カツヒコにとって、感情を素直に表現するのは当然の理なのだ。だが、普通の人間はそうもいかない。言葉に出せない想いを抱えるのが普通だ。
 もちろんそれは自分の責任だから、カツヒコに対する後輩連中の嫉妬は、確かに筋違いかもしれない。
 だが、そんなカツヒコの行動がアミに抱かせている感情はどうだ?
 カツヒコにそれを責める権利があるとも思えなかった。
『そっちはどーよ』
 不意にそう聞かれる。
 慌てて意識を電話に戻し、
「なんだ?」
『アカネちゃんとは、どうなん? 最近もいちゃいちゃしとる?』
「……」
 少し返答に困った。
 そしてその間は、疑問を抱かせるには十分だった。
『あっれ? なんだよ、問題でもあんの?』
「いや、問題って言うか……ただ、あんま顔合わせてないってだけ」
『ケンカでもしたんか?』
「ちょっと今、仕事が立て込んでて。それで」
『……』
 カツヒコはしばらく沈黙した。
 俺の言葉に混じった僅かな嘘を探しているのか、それともかけるべき言葉でも考えているのか。
 やがて、
『じゃ、ちょうどいーな』
「……はっ?」
 発せられた明るい声に拍子抜けした。
『ほら、旅行だよ。お・ん・せ・ん。アカネちゃんって、旅行、好きな人だっただろ?』
「あぁ……そうだな」
『部屋も二部屋とる予定。久方ぶりに二人でいちゃいちゃできんじゃん』
「……でも、あいつ来るかな」
『来るに決まってんじゃん。彼氏からの旅行のお誘いだぜ? まっ、お前らにとっちゃ余計なのが二人ほど帯同するけどよ』
 言ってから、カツヒコは明るく笑った。
 だから俺は、また一つ、言い出せない言葉を抱えた。
『日にちは今月の二十六・二十七か、二十七・二十八のどっちか。仕事っていつから休み?』
「二十八の月曜」
『んじゃ、ちょうどいいじゃん。有給必要なし。二十六・二十七は土日だから、とるのは難しいかもしれんけど。ま、決まったらまた連絡するわ』
「あぁ」
『そんじゃ、また』
 明るく言って、カツヒコは電話を切る。
 思い出したようにテレビの音が耳に届き始める。そこには、笑いに包まれたスタジオの風景があった。楽しそうな、笑顔が。
「……なんだかな」
 本当に楽しそうに……カツヒコは、笑った。
 出会ってから、あいつは全然変わってない。しばらく声を聞かない間に生まれた疑念なんて、その笑い声一つで簡単に払拭される。だから、アミも言い出せない。
 言い出すことが出来ないんだ、あいつの笑顔の前では。
 信じることが苦痛になった今の自分や。
 彼氏からの旅行の誘いを……たぶん、断るだろう、アカネのことなんて。
 俺はいつまでだって言い出せないだろうと思った。

 十二月も十五日が過ぎた頃、やっとカツヒコから連絡が来た。
 日にちは二十七・二十八に決まったそうだ。アミも問題なく出席。当然予約は四人、二部屋。生協でとった宿だから、それほど高級な宿ではないと、カツヒコは付け加えた。
 アカネにはあらかじめ、簡単な連絡を入れてあった。携帯電話のメールで送ったものだが、返事は返ってこなかった。本決まりになった日時をメールで送り、参加確認のために電話をかけると、無機質な声で「会いたい」と言われた。週の中日の水曜日、同期の飲み会の誘いを断って、繁華街に出向いていた。
 アカネの指定したメルクマールは、この街出身の高名な彫刻家が手掛けたという、裸婦の彫像。
 恋人同士の待ち合わせによく使われるということは、後になって知った。
「悪い、待たせた」
 待ち合わせの七時を十分ほど過ぎて、その場所に着く。
 アカネは薄手のコートに少し長めのスカート姿で、そこに立っていた。
「ごめん」
「言い訳は?」
「仕事が終わらなかったのと、飲み会の誘いを断るのに時間がかかったのと、二つ」
「そう」
 素っ気なくうなずいて、アカネは歩き出す。
 俺はスーツの上に羽織ったコートの胸元を押さえながら、その後に続く。
「どこに行くんだ?」
「先輩から教えてもらったカウンターバー」
「へぇ。そんなとこ行くのか」
「……男の先輩なんだけど」
「あぁ……うん」
「……」
 信号待ちで立ち止まったアカネが俺を睨む。
 やっぱり機嫌は良くないらしい。
「……」
 最近、アカネはずっと機嫌が悪い。その原因は、一応、わかっている。言われるまで気付かなかったが。それも怒る理由の一つなのだろう。気付かない俺の鈍感さか、それとも気付かないまでに積み上げられた“俺達”の時間か。聞けば納得できる理由だった。そして納得するだけの俺が、アカネの苛立ちに油を注いでいるだろうこともわかっていた。
「旅行のことだけど」
 歩きながら口を開く。
「予定はメールで送った通りだけど。あれで――」
「今はやめて」
「……はっ?」
「後で話あるから。……今、聞きたくないから」
「……」
「こっち」
 細い裏路地にアカネは足を踏み入れた。

 閉鎖的な空間に、縦長のカウンターがあった。中にはバーテンダーであろう男女が二人いて、座席は十五個ほど。店内にはゆったりとしたテンポのクラシックが流れている。穏やかな長調の調べにのって、囁くような声が交差する。
 俺達は店内の一番奥の二席に腰を下ろした。
 目の前にあるカクテルグラスは上品なオレンジ色に染まっていて、液体の中で崩れた角砂糖が微細な泡を立てている。
 注文はアカネに任せたので、このカクテルの名前はわからない。
「……話って?」
 注文したカクテルが出揃ったのを確認して、尋ねる。
 アカネは俺を振り向かず、真っ直ぐに前を見つめたまま、
「また、アミさんと会ったりしてるの?」
「……」
 予想していたとおりの言葉を投げかけられる。
 理由がわからずに不機嫌になられるよりはまだいいが、理由を知ったからと言って何が出来る問題でもない。出来ないことはもうわかっていた。
 それでも、同じ言葉を繰り返した。
「先月会った。会っただけだ。話をしただけで、学食にも入ってない」
「入ってなかったらどうなの?」
「言い訳にはならないか?」
「知ってる? 遠距離恋愛中の恋人は、電話だけで何ヶ月も我慢してるの」
「……なるほど、ね」
 煙草を取り出し、少し離れた場所にあった灰皿を引きよせる。
 場にそぐわない百円ライターで火をつける。
 大きく息をはきだしてから、少しだけ空想する。どんな関係ならば正解だったのか、と。
 アミがカツヒコを信じられなくなったように、アカネも最近になって、俺に対して疑問を持ち始めた。予定が上手くかみ合わずなかなか彼女に会えない男と、その男に恋愛相談を持ちかけた旧友の女。浮気でいうなら定番のシチュエーションなのだろう。いつの間にか俺達の関係はすれ違い始めていた。それは俺が就職してからのことで、就職したのだからその程度のすれ違いはむしろ当然だった。
 アカネだって最初はわかっていたはずだ。少なくとも俺はわかっていると思っていたし、最初の頃はそう見えていた。
 些細なすれ違いが問題を持ち始めたのは、アミが俺に相談を持ちかけてから。その瞬間からすれ違いは意味を変えた。信頼の証から、疑惑の空白へ。
「……わたし、旅行は行かないから」
 煙草を半分ほど吸い終えた頃、アカネは小さく呟いた。
「行きたくないから」
「俺は……来て欲しいけどな」
「そんな言葉、もう……信じられない」
「……」
 信じられない……ならば、昔の俺達は何を信じていたのだろう。
 順調だった頃、信じるとか、信じないとか、そんなことを考えただろうか。
 今の俺は、信じているのか?
 何を、そこまで純粋に……信じているのだろうか。
「……帰る」
 アカネが立ち上がった。
 呼び止める言葉を、俺は、知らなかった。

 電車とバスを乗り継いで、家に帰ってくる。アパートの入口にある粗末なドアを開け、どこかすすけた香りの漂う階段を上がる。
 駅から離れているせいもあり、間取りの割に家賃は安かった。バス・トイレ別、居間の他に六畳の部屋が一つ付いて四万円台。三人で集まるときは、いつも俺の家だった。カツヒコはワンルーム、アミは女子寮住まいだったからだ。アカネが入り浸り始めたのは、カツヒコの付き合いが悪くなり、三人での宴会が無くなったころだ。
 週末は決まってどこかに出掛けた。旅行なんて修学旅行くらいしか記憶になかった俺を、アカネは四半期に一度は知らない土地へ連れだした。初めての旅行は、冬の小樽。ガラス製品を売る店で、雪ウサギのガラス細工を買った。三色ワンセットだったもののうち、俺は青、アカネはピンクの雪ウサギを。本当は残る緑も買いたかったが、サイズの割に高価で、断念したのを覚えている。
 アカネは女友達同士でもよく遠出していたらしく、あいつの買ってきた土産で、もともと家にあった棚はすぐに一杯になった。今使っている棚は、アカネの土産に備えて買い換えたもの。まだ四分の一ほどスペースがあまっている。ここ三ヶ月ほど、その空きスペースは減っていない。
 部屋のある四階に着く。
 古いアパートにエレベーターなんてものは備えていない。疲れた体には微妙に堪えるその階段を上がり終え、廊下で立ち止まった俺の目に、そいつの姿は飛び込んできた。
「こんばんは」
「……」
 手袋に包まれた手を軽くあげ、白い息を吐き出しながら優しい口調で言ったのは、アミ。
 その時俺はどんな表情をしていただろう。
 慌ててうつむき、不自然さを隠すために歩き出す。
「少し、寄ってみただけなんだけど……ごめんね、こんな時間に」
「いや……まぁ、俺も今日は、早く上がってたから」
「飲んできたの?」
「ちょっと一杯だけな」
 ドアの前に立ち、カバンの中から鍵を取り出す。
「……入ってもいい?」
 アミが言う。
 考えてみれば、アカネがこの部屋に入り浸り始めたタイミングは、絶妙だったのかもしれない。
 彼女が出来たと言うのは、ずれ始めた人間関係を誤魔化す言い訳としては、最適だっただろう。
「今さらそんなこと聞く間柄かよ」
「でも……ほら、今日はわたし、一人だし」
「怖いなら帰れよ。俺を信頼してるなら、入れ」
「……そ、だね」
 ドアを開け、アミを見る。
 力無く微笑んで、暗い居間へと続く玄関に、アミは足を踏み入れた。

「今日は……一つだけ、相談あって」
 コートを着たまま灯油ストーブの電源を入れ、座布団を引っ張り出した俺に向かって、アミは言った。
「すぐ、帰るから」
「気使ってるなら、別にいいんだぞ」
 言いながら、心の中で正反対のことを思う。
 こんな男を信じられないのも当然だ……急に疲れを感じた。
「ごめん、すぐ終わるから」
「あぁ……その方がいいな。コーヒー飲むか?」
「お願い」
 立ち上がる。
 部屋の古い灯油ストーブは立ち上がりが遅い。それでも、部屋が冷えているとは言え、台所に立つのにコートは危ない、脱いでハンガーに掛ける。戸棚からやかんを取り出し、水を入れ、コンロに置く。
「アカネちゃん、来るって言ってた?」
「……ん?」
 予期していない言葉に、後ろを振り向く。
 アミは脱いだ手袋を見つめながら、
「旅行。もう話はしたでしょ?」
「あぁ……」
 ついさっきそれを断られたことは、言えるはずがない。
 ただでさえ辛いであろうアミに、これ以上心痛の種を背負わせる気はない。
「……なんか忙しいらしくてな」
「そうなの?」
「まぁ、何とかならないかって、頼んではみたけど……どうなるかな」
 やかんが湯気を噴きだし始める。
 カップを二つ用意し、インスタントコーヒーの粉を入れ、沸騰したお湯を注ぐ。
「……そか。じゃあわたし、どうしようもないのかな……」
「何のことだ?」
 カップをテーブルに置き、アミの正面に座る。
「今日の相談って……旅行のことだったの」
「予定でも入ったのか?」
「ううん。……行きたく、なかったから」
「……」
 さすがにため息が漏れた。
 まだ熱いコーヒーを、少しだけ口に含む。
 いつから俺達の関係は、これほどぎくしゃくし始めたのだろう。
「カツヒコには言ったのか?」
 ストーブがやっと暖まってくる。
 ネクタイを外し、ワイシャツのボタンを二つほど外す。
「あいつはさ……こんなこと言うの、気が引けるんだけど。あいつは気付いてないよ、何一つ。自分の行動がお前を苦しませてることも……もちろん、それだけ悩んでることも」
「知ってる。今は、あんまり会わないようにしてるけど……それでも、たまに電話はかかってきて。それ聞いてたら……本当に、今までと変わらない。自分が馬鹿に思えてくるくらい……」
「その気持ちはわかるけどな」
 アカネを含めた四人の中で、唯一変わらずにあり続けているのが、カツヒコだ。全ての引き金は、あいつの行動であったはずなのに。俺達が自分を守るために口にした嘘を、あいつは一片も疑うことをせず信じ込む。
 だから、一番最初に信じられなくなるのは、自分だった。
「カッちゃんと顔を合わせちゃうとさ、わたし、破裂しちゃいそうで……今まで言えなかったこと、全部、言っちゃいそうで……それが、怖いの」
「良い機会じゃないのか? ……こんなこと言うの、他人行儀かもしれないけど」
「うん、そう言いたいのはわかるよ。でも……そしたら、終わっちゃう。きっと、全部……終わっちゃうから」
「……」
 疑問があった。
 一つだけ、聞きたくて聞けなかったことが。
「……答えたくなかったら、答えなくていいから」
「えっ?」
「もしカツヒコが、別れるって言ったら。アミ、どうするんだ?」
 尋ねた俺の顔を、アミは真っ直ぐに見つめた。長い間、見つめていた。その表情は何かを考えているようには見えず、ただ、口に出すか、出さないか……それだけを迷っているように思えた。
 長すぎる時間を経てなお、アミの答えは変わっていなかった。
「わたし、たぶん、泣く」
「そりゃ、これだけ長く――」
「泣いて、足掻く。別れたくないって」
「……アミ」
「みっともなく足掻くよ。カッちゃんが呆れるくらい。きっとタカユキも愛想尽かせて、相談しても聞いてくれなくなって……それでも、わたしは――」

 それが答えだった。
 どれだけたくさんのものを疑って、嘘をついて、誤魔化して、無視して……それでも変わらないものはあった。
 自分だけが理解できて、自分だけが確信できること。
 その言葉を聞いた時、俺は初めて、カツヒコに嫉妬した。


 俺達の馴れ初めは、マンガなんかじゃよく見る三角関係。
 男二人、女一人の仲良し三人組。距離が近ければ、いずれそこに友達以上の関係が生まれる。その確立は低くはないだろう。男のどちらかが余り物となり、やがて人間関係は嫉妬にまみれ、あっさり汚れ、最後に消える。
 定番のパターンにはちゃんと理由がある。仲のいい三人の中で、二人がくっついてしまった。言い出す機会を逸するのも当然、隠し通そうとする気持ちも理解できる。隠し通せればそれでいいのだろう。ある時点で物語は終幕を迎え、くっついた二人はその後を楽しめばいい。
 俺はあいつらが付き合い始めたその日から、たぶん、その関係を知っていた。
 そして、嫉妬の感情も、一切、持ったことがなかった。
 別に俺の人間性どうこうの話じゃない。
 あの二人が……そう、全てあいつらのせいだ……あいつらの、人が良すぎるから。
 俺はただ、その言葉を垂下するしかなかったんだ。


『俺、アミに告白しちゃった!』
 そんな電話がかかってきたのは日曜日の深夜。
 ただ驚く俺に、カツヒコは喜びを隠そうともせず語った。

『あ、あの、わたし……カツヒコと、付き合うことにしたから……』
 そんな言葉を聞いたのは、翌日の早朝。
 誰もいない教室でアミはそれだけを言い、それから、俺には見せたことのない優しい微笑みを浮かべた。


   ◇ ◇ ◇


 旅行の予定は、出だしから狂った。
 カツヒコは実験が長引いたのを理由に、現地集合と言い出した。アミはカツヒコを車で拾って旅館に直行、俺は一人、予定通り帰省客で賑わう電車に乗り、一時間ほど満員の電車に揺られた。
 降りた駅でタクシーを拾うのに時間がかかったせいか、二人は先に着いて待っていた。ロビーで言われた部屋では、浴衣姿のカツヒコが一人でテレビを見ていた。
「あっれ? アカネちゃんは?」
 第一声で一番答えにくいことを聞かれる。
 コートをハンガーに掛けながら、ぶっきらぼうに答えた。
「来れないって」
「なんだよ、マジでケンカしてんのか?」
「だから来れないって」
「あーあ、なにやってんのかね、お前」
「……アミはどうした?」
 苛々が耐えられなくなる前に、そう尋ねる。
 カツヒコは煙草をくわえ、
「風呂」
「お前はいかないのか?」
「混浴ねーんだって、ここ」
「誰が聞いたよ」
「土産買ってから入るって言ってたぜ。俺はもう入ってきた。土産なんて後でいいと思ったけどな」
 顔を合わせたくないと言っていたとおり、同じ部屋には居づらいのだろうか……などと邪推している間に、カツヒコは冷蔵庫からビールを取り出す。
「飲むべ」
「……早いな」
「飯は六時だって。まだ一時間くらいあるからよ」
「……」
 断る理由も思い浮かばず、冷たい缶を手に取った。

 予定外の事態二つ目は、部屋の間取り。
「……こんな話は聞いてないぞ」
 てっきり二部屋予約したものだと俺は思っていた。
 何気なく開いたふすまは押入ではなく、隣の部屋に繋がっていた。
「あー、そっか。言ってなかったか」
 少し赤く染まった顔で、何が面白いのか、カツヒコは小さく笑う。
「なんかさ、この時期だと、もう予約が一杯らしくて。ギリギリとれたのがこの部屋だったってわけ」
「理由はわかった。でも、まずくないのか? これで」
「いやぁ、俺としては四人みんな恥ずかしいなら、それでもいいかーって思ってたから」
 相変わらずアバウトな感覚だ。
 そこまでわかっていてこんな予約を取るその神経もやっぱり理解できなかったが、知ってはいた。
「あ、来てたんだ」
 その声で視線を背後に戻す。
 濡れた髪をタオルで押さえるアミが立っていた。
「遅かったね」
「電車がな……混んでて」
「そういう季節だもんね」
「アミ、飲むだろ?」
 カツヒコがアミに聞く。
 アミは小さくうなずくと、
「うん、もらう」
 何のてらいもない笑顔をカツヒコに向けた。

 最後の一つ。
 予定外なんて言ったら怒られるかもしれない。予想外ではあった。一番正確にその感覚を表すなら、違和感、だろうか。
 アミは楽しそうだった。
「あー、カラオケしてーなー」
「宴会場の隣にあるって書いてあったよ」
「あ、マジで? サービスいーな、こんな旅館の割には」
「その代わり料金が法外」
「風呂行くかなー」
「言うと思った、それ」
 楽しそうな声を聞きながら、見てもいないテレビに目を向ける。どうせ旅館の酒は高いと思い、家から持ってきた日本酒をちびちび煽りながら。
 嫌な感覚がさっきから消えなかった。
 全てが嘘に思えていた。あの日の言葉とか、早朝の教室で見せた笑顔とか、これだけ苦しんだ理由とか、今も抱えているはずの気持ちとか。
 例えば、忘れることは幸せだろうか。
 辛い記憶を忘れられるから、人は何十年も生きていけるのだそうだ。コンピュータのように全て記録されたままだったら、絶対に耐えられない。ならば、苦しい記憶を全て忘れることが幸せなのか? 楽しい思い出だけを抱えて生きていく、そんなことが出来るだろうか。辛苦の消えた世界に、幸せはあるのだろうか。
 どうしてそんなに辛かったのか、わかっているはずじゃないのか?
 それとも、これからは良い思い出だけを抱えて、生きていくことにしたのか?
「タカユキ」
「……」
 自分を呼ぶ声が聞こえた。
 カツヒコの声だった。
「……あ、なんだ?」
 乱れていた意識が現実に戻っていく。
 灰皿に目をやると、煙草が根本まで綺麗に灰になっていた。
「ぼーっとしてんじゃん。なに? 飲み過ぎ?」
「あ……いや、ちょっと眠くて」
「んじゃ、風呂いかねー?」
「風呂、か……そうだな」
 うなずいて、立ち上がる。
 この気分をぬぐい去るには、ちょうどいい気がした。
「行くわ」
「酔ってねーよな?」
「平気」
「そっか。じゃ、アミ。そーゆーことだから」
「はいはい。のぼせないようにね」
 柔らかい微笑みを向けられる。
 どうしようもなく気分が落ち込んでいく。
「……先行ってるわ」
 そう言って歩き出す。
 少し遅れて、カツヒコの立ち上がる気配。
 部屋を出、しばらく歩いたところで、足音が迫ってきた。
「おーい」
「なんだ」
「どうした? お前、機嫌悪くないか?」
「……」
 立ち止まり、時計に目をやる。
 十時半。
 アカネの顔が思い浮かんで消えた。
「……疲れてんのかな」
「大丈夫かよ。酔ってんならやめた方がいいぜ?」
「いや……うん、平気だ。昨日も仕事出てたから……たぶん、そのせいだ」
 間に合わせのような言い訳の言葉。
 アカネなら、きっと認めてくれないだろう。
 疑うことを知らないカツヒコは、陽気に笑った。
「あー、じゃーやっぱ温泉ちょうどいいじゃん」
「……だな」
「ま、アカネちゃんと別れて気落ちするのはわかるけど、いつまでもいじけててもな」
「……誰が別れたって言ったよ」
「あれ? 違うのか?」
「お前なぁ……」
 脱力して呟き、カツヒコに文句の一つでも言おうと思った、ちょうどその時だ。
 俺が理解したのは。
 険悪な空気を感じながら、それでもアカネに対して何のアプローチもしてこなかった。言い訳を求められたときだけ、言葉を口に出した。嘘もつかなかったし、誤魔化そうとも思わなかった。鈍感と言われれば確かにその通りだ。でも、少し違う。
 疑念も、憶測も、苛立ちも、不信も、全て平気だったのは。
 ただ、その一点だけは、疑いようもなく、明確だったから。
「……タカユキ?」
 カツヒコが俺に向かって尋ねた。
 突然苦笑した俺が、変に見えたのだろう。
「なんだお前? なにか楽しいことでも思い出したか?」
「あぁ、ごめん……違う」
「だったら何だよ」
「タオル忘れてきた」
 カツヒコの言葉に応えず、そう言って振り向く。
「取ってくるわ」
「あぁ……そりゃ、別にいいけど」
「先にいっててくれ」
 そう言い残して、部屋に向かって歩き出す。
 しばらくは背後からの視線を感じた。やがて、静かな廊下に響く足音が二つに増えた。
 特に急ぐこともなく部屋に戻る。
 ドアの前に立ち、部屋番号を確認する。
 酔っていたのだろう。
 ノックをするのも忘れ、部屋のドアを開けた俺の目に映ったのは、涙を流す、アミだった。
「……アミ」
「えっ……?」
 アミが顔を上げる。
 俺を見て、慌てて目元を覆う。誤魔化そうと浴衣の袖で涙を拭くが、次から次へと溢れてくるそれを、止めることは出来ない。
 さっきまでの笑顔と、目の前にある涙。
 苦しませたカツヒコと、相談された俺。
 どちらも本質的には何も変わらない。ただ過程だけが異なった。結果が表す感情は一つなのに、俺は今の今まで気付かなかった。
 当然なのかもしれない。
 俺とカツヒコは、同類だ。
「……どうしたのよ、タカユキ」
 隠すのを諦めたのだろう。
 アミは困ったように笑いながら、そう言った。
 俺は気持ちを落ち着ける。
 俺が言葉をかけるべき本当の相手は……アミなんかじゃなかった。
「タオル、忘れて」
 スリッパを脱ぎ、部屋に上がり込む。
 クローゼットの中からバスタオルと手拭いを持ち出し、
「カツヒコは、先、風呂いってるから」
「そうだと思ったよ」
「……それじゃ、俺も――」
「ごめんね」
「……えっ?」
「普通、怒るよね。あんなこと言ったくせにって……でも、最後だから」
「アミ……」
「最後くらい、楽しい思い出にしたかったの」
 アミの涙が止まる。
 小さくため息をこぼし、そして、
「あとはカッちゃん次第。委ねることにしたの。もう……限界だから。答え聞く、カッちゃんから。……答えの通りにするよ」
「それでいいのかよ」
「いいの」
 アミの瞳が揺らいだ気がした。
 揺らいだのは、俺の瞳だったのかもしれないが。
 心が揺らいだことだけは確かだ。
「……風呂、いってきます」
「うん、いってらっしゃい」
 明るい声で送り出される。
 背を向け、部屋を出る直前、
「アカネちゃんのこと」
「……えっ?」
「ごめんね……」
「……」
 言葉を返すべき相手が、そこにはいなかった。



 ――それって、浮気じゃないの?

 道端ですれ違った女が、突然後ろを振り返り、そんなことを言ったとしたら。
 俺はその言葉に何を思うだろう。
 言い訳を口に出し、慌てて否定し、脱力感を抱えただろうか。
 そんなはずはないんだ、それが道端ですれ違っただけの他人の女なら。

 ――あんたに関係無いだろ。

 ――じゃあ、誰なら関係あるの?

 そんなのは……決まってるじゃないか。



「寒いな……」
 浴場は思っていたより広かった。
 大きな湯船が二つあり、サウナに薬湯なんてものもあった。湯気の立ちこめるその場には、俺と同じく飯を食い終えてから来たのであろう数人の客の姿が見える。湯船につかる三人の中年の声が、独特の残響音を伴って狭い空間に響く。
 湯船の奥の壁は一面ガラス張りで、数日前に降った雪が僅かに残る中庭と、露天風呂が、曇ったガラスの向こうに見えた。
「おー、遅いぞー」
 腰にタオルを巻き、屋外に出た俺を迎えたのは、カツヒコの声だ。
 十二月の空気に、洗ったばかりの体が震える。
 すっかりアルコールの抜けた体からは、白い湯気が立ち上っていた。
「……待たせたか?」
 風呂に肩までを浸し、そう尋ねる。
 カツヒコは首を振り、
「別に? 待つ理由ねーもん」
「だな」
 それからしばらく、俺達は黙って夜の空を眺めていた。
 露天風呂に俺達以外の人間はいなかった。石に囲まれた楕円形の湯船でだらしなく体を横たえ、首から上だけを冷たい外気にさらす。静謐とした空間で、何を思うこともなく月を眺める。曇っているのか、夜空は少しだけ灰色に濁っていた。
「……お前さ、アミのこと、どうするんだ?」
 十分ほど時間が過ぎた頃だろうか。
 自然とそう尋ねていた。
「はっ? どうって?」
「俺が知らないとでも思ってるのか? お前に対する見方が変わったのは、サークルの後輩だけじゃないんだぞ?」
「……」
 答えは返ってこなかった。
 それは、カツヒコにしては珍しい反応だった。
「どうなんだよ。続けるのか? それとも浮気相手の中に新しい女でも見つけたか?」
「浮気ってなー……」
 苦笑する克彦の声。
 上体を少し起こし、カツヒコの方に目をやる。
 カツヒコは濡らしたタオルできつく顔を擦ると、
「……浮気、か。まー、もう何回も言われたから慣れたけどな」
「誰からだよ」
「さーね。今の俺って、四面楚歌なの。嫌みったらしく歌ってる奴らの名前なんて、覚えてられねーよ」
「被害妄想かよ」
 怒るのも忘れて呆れた。
 こんな軽い気持ちでアミを苦しめ続けていたのだとしたら……それは、あまりにも報われない。
 アミはきっと、何度も疑ったことだろう。苦痛を伴いながら、記憶の中にいるカツヒコと、現実のカツヒコとの差異を探したことだろう。カツヒコが変わったのか、自分が変わったのか、環境が変わったのか、世界が変わったのか。疑念が全て否定されたとでも思っているのか? そんなはずがない。肯定と許容を繰り返しただけだろう。
 許容したのは何故だと思う?
 たった一つだけ、変わらない気持ちがあったからじゃないか。
『それでも、わたしは、カッちゃんのこと好きだもん』
 あの時の微笑みは、高校時代のあの日に見た微笑みから、なにも変わっていなかった。
 純粋なんだ、その想いは。
 嫉妬するほどに。
「……俺はさー、浮気って言葉をどう定義するかって問題だと思うんだよね」
 沈黙していたカツヒコが口を開いた。
 いつものこいつからは想像も出来ない力の抜けた声で、焦点の定まらない視線を漂わせながら、カツヒコはゆっくり続けた。
「最近の世の中はさー、俺に言わせてもらえば、全然理解できねーんだよな……ほら、タカユキも前に言っただろ? 誰だって彼女欲しいんだからって……あれ、どーよ? 好きな女どうこうじゃなく、欲しいのは彼女? なーんだかね……そんなこと知るかっての、俺が。俺は心許すよ。簡単に許す。そもそも許すか許さないかなんて問題じゃねーんだよ、俺にとっては。でも……ま、そんな人間がほとんどいないってことも、最近わかった。俺は変人なんだろ。……変人は好かれるねー。ビックリするぜ? ちょっと弱音こぼしただけでよ、みんな同情してくれんだ。同情ついでに体までな。……それは悪いと思ってた。アミには。でも……そう、言いたいのはここだよ。体も心も許した女に対して、俺が何を考えると思う? 何も考えねーんだよ。可愛いとかエロいとかそれくらいだ。好き? ……そんな気持ちが浮かんでくんのは、今でも一人しかいねーんだよ」
 カツヒコの焦点が俺の顔に定まる。
「お前にとってはどこまでが浮気なんだ? 会話か? 合コンか? キスか? セックスか? タカユキ、ぱっと答えられるか?」
「……お前は、気持ちだって言いたいのか」
「そーゆーこと」
 言って、カツヒコは湯船に潜った。お湯がカツヒコのはきだす空気で波打つ。しばらくして「ぶはっ!」なんて言いながら、カツヒコは顔を上げた。
「屁理屈に聞こえたか?」
「あぁ、お前らしい屁理屈だ」
「ははっ。さんきゅ」
 カツヒコはお湯に濡れた顔で笑い、それから勢いよく頭を後方に振った。
 髪の毛から流れていたお湯が飛沫となって散る。月の光を反射して、それは幻想的に輝いた。
「……カツヒコ、いつまでこんなこと続けるつもりだ?」
 何気ない風を装って尋ねる。
 それはカツヒコと、そして自分に向けた質問。
 鏡像が自信満々で答える。
「アミが嫌だって言うまでだよ」
「あいつがそう言うと思うのか?」
「口に出せない気持ちまで推し量れってか? それは無理な注文だぜ。推し量った結果、それが間違いだったらどうする?」
「これからアミとはどう接していくんだ?」
「今までどおりだよ。ここ二・三年と変わらず」
「そういう素直なこと、アミには言わないのか?」
「言えるかよ。恥ずかしーじゃん。そんなもん、わかってるだろうし。疑う前に信じるのが俺の流儀でーす、なんちゃって」
「……」
 ため息がこぼれた。
 これは何だ。
 いくら人生の半分を同じ時間の中で過ごしてきたとは言え、これほどシンクロするものか?
 昨日までの俺が同じ質問を受けたら、カツヒコと全く同じことを答えただろう。
「……これは、俺の今の気分だ」
「あん? なんだよ?」
「よく聞けよ。聞いてるだけでいいから」
 さっき思ったことを口に出す。
 何も考えずに。
 筋が通ってなくても構わない。
 失うよりは、ずっと良いだろう。
「……信頼なんて、どうでもいいんだよ」
「はっ?」
「理解とか信用とかそんなくだらない言葉守ってんじゃねぇよ。そりゃ綺麗だろうよ。満足できるだろう。陰で何をしていようと信頼できる仲? 最高の関係だな……爆笑するくらい最高だ。お前が考えてることの何割が真実だと思ってんだ? 確実に正しいと言い切れることなんて一つだけだろ。たった一つだよ。好きなんだろ? 確かなのはそれだけじゃねぇか。お互いがまだお互いのことを好きだから何とか崩れずにいる関係だ。くだらない。目に見えることしか見えなくて、口に出した言葉しか聞こえないのは当然じゃねぇか。信頼なんて言い訳だろう……くそっ。そんな言い訳、誰が認めてくれると思ってんだ? 誰も認めてくれないに決まってるだろうが」
 そういうことだ。
 俺が馬鹿みたく無邪気に信じていたものは、カツヒコが今、何気なく口に出した言葉その物だ。
 理解してくれているはず、信じてくれているはず……その結果、どうなった?
 今日の俺を見れば全てわかるだろう。
 今、一番となりにいて欲しい人が。
 今、一体どこで何をしているのか。
 わからないんだ。
「以上だ」
 言って、立ち上がる。
 タオルを絞り、腰に巻く。
 カツヒコは慌てて振り向いた。
「タカユキ!」
「何だよ」
「あ、いや……なんて言うか……」
「お前の考えは聞いた。俺の考えも言った。もうこれでいいだろ」
「でも――」
「先に戻ってる」
 露天風呂を出る。曇ったガラス戸を開け、室内に戻る。三十分以上温泉につかり、芯まで温まった体は、そう簡単には冷えない。
 軽くお湯を浴びて、そのまま脱衣場に向かった。
 カツヒコは追いかけてこなかった。

 俺が部屋に戻ると、入れ替わりに、アミが風呂へ向かった。その目はまだ少し赤かった。
 俺が先に戻ってくることを確信していたのか。それとも、そのまま勢いでカツヒコに決断を迫るつもりだったのか。
 誰もいない部屋で、一本だけ、煙草を吸った。
 カバンから携帯電話を取り出して、何もしなかった。
 ドライヤーで髪の毛を乾かして、隣の部屋に続くふすまを開けた。

「あっれ?」
 薄いふすま越しにそんな声が聞こえたのは、俺が隣の部屋で布団に潜り込んでから、五分ほどが過ぎた頃だった。
 テーブルの上に“寝てる”と書いた紙を置いておいたから、心配をかけることもないだろう。
「タカユキ、まだ起きてるか?」
 ふすまが僅かに開く。
 俺は答えない。
「あー……そっか。寝てんのか」
 困ったような呟き。
 数秒の沈黙をおいて、ふすまの閉じる音が聞こえた。
「……」
 隣の部屋に聞こえないよう、ため息をもらす。
 眠れるはずがなかった。体は疲れていて、たぶん精神もそれ以上に疲れてはいたが、眠れる状態ではなかった。
 気分が落ち着かない。後悔が幾重にも重なって俺を襲う。アカネのこと。アミのこと。カツヒコのこと。どれだけ偉そうなことを言ったところで、それはただ単に、俺がカツヒコより少しだけ早く愛想を尽かされたというだけだ。アカネに対して反省したわけでも、アミのことを思いやったわけでも、カツヒコに腹が立ったわけでもない。今のカツヒコは昨日までの俺自身だ。
 現実を受け入れる振りをして、大切な言葉を口にしなかった、昨日までの俺。
 腹が立ったのはそんな自分に対してだ。
「怒ってたよなー、あいつ……」
 しばらくして、そんな呟きが耳に届いた。
 薄く目を開いてみるが、ふすまの隙間から差し込む僅かな光しか目に入らない。
 煙草に火をつけたのだろう、ジッポライター独特の音が響いた。
 それからカツヒコは、独り言を呟き始める。
「そりゃーよー……俺だってずっとアミに頼れるなら、それでもいいんだけどよ……でも、不安じゃねーか。一人しか知らねーなんてよ。……じゃあ俺、アミに嫌われたらどうすんだ? 探してたんだよ……そー、タカユキの言うとおり。世の中にアミと同じくらいいい女がいるってわかれば、安心して頼れるじゃん……そん時はさ、俺だって素直によ……」
 独り言が途切れる。
 立ち上がり、歩く音。たぶん冷蔵庫を開け……そして、缶ビールだろう。
 プルタブをはじく音に続いて、
「……逃げてるだけだけどさ」
 その言葉を最後に、カツヒコの声は途絶えた。

 カチッ……という無機質な音が聞こえた気がした。
 目を開けると、周囲は暗闇。枕元に手を伸ばすと、慣れ親しんだ携帯電話の感触。
 ディスプレイで時間を確認する。
「……一時、か」
 カツヒコがテレビを見だしたのは覚えていた。年末のバラエティ特番でも見ていたのだろう。甲高い笑い声が聞こえていた。
 アミが戻ってきたのには気付かなかった。その時には寝ていたのだろう。
 思っていた以上に疲れていたらしい。
「……」
 ふすまに目をやると、隣の部屋も電気は消えていた。
 寝起きのまだすっきりしない頭で、少し考える。
 二人はもう選んだのだろうか。それともこの旅行が終わるまで、幸せごっこを続けるのだろうか。俺が何を言えることでもない。答えが出たのなら、いずれそれもわかるだろう。
 寝た方がいいかもしれない。
 考えたって、何も変わらない。
「……はぁ」
 無意識のうちにため息が漏れた。
 その時だった。
「よー、起きてるか?」
「……っ!?」
 カツヒコが呼びかけた。
 声をあげそうになるのを何とか堪える。
 これは俺じゃない、俺を呼んだわけじゃない。あいつは俺が寝ていると思っているし、何よりふすまは閉じられたままだ。
 息を殺して沈黙をやり過ごした。
 やがて、
「……なに?」
 アミが答えた。
「ちょっとさ、そっち、いってもいいか?」
「そっちって……待ってよ。何言ってるの? 向こうにタカユキが――」
「寝てるって。気にすんな」
「か、カッちゃんっ」
 アミの悲鳴。
 さっきまでとは別の意味で、息をひそめる。
 衣擦れの音が聞こえ、
「……ちょ、ちょっとカッちゃんっ」
 押し殺したアミの叫び。
 その声には、今までには無かった熱っぽい響きが含まれていた。
 意識はすっかり覚醒し、ことが終わるまで眠れそうにない。
「やめてよっ」
「いーじゃんか」
「良くないって……」
「恋人同士がエロいことして何がわりーの?」
「い、今さらそんなことっ」
 ノイズが消えた。
 狭い空間に再び沈黙が満ちる。
 カツヒコの逡巡とアミの懊悩が痛いくらいに伝わってきた。
 そのまま空気は停滞し、
「……もう、いいよ、こういうの」
 聞こえてきたアミの声は、掠れていた。
「だって……そう言うことでしょ? 知ってるよ、カッちゃんが、色んな女の子に手を出してるの……わかるよ、わたしも。だって、長すぎる。お互いのことなんて、もう、全部わかっちゃって……新鮮味なんてないもんね。これからどれだけ一緒にいたって、わたし達は何も変わらなくて、何となく未来も想像出来ちゃって……そういうの、カッちゃん、嫌いでしょ? 人生楽しみたい人だもんね。……もういいよ。好きな振りなんて、しなくていい。もう……カッちゃんの好きなように、して」
「……」
 カツヒコは答えなかった。
 葛藤しているのか、確認しているのか。
 青天の霹靂と言うほど驚くことでもないはずだ。俺に聞こえてきたことが、アミに聞こえないなんて、そんなことはあり得ない。あいつが楽観主義者でも、そこまで独善的ではないだろう。
 考える時間だってあったはずだ。
 無いなら今考えればいい。
 そして、選ぶ。
 逃げ続けた俺とは違う。
 カツヒコの答えは――、

「じゃー、好きにする」
「えっ――んっ、んんっ!?」
「……さーて。今日の俺は激しーよ? 溜まってるかんね」
「な、なに……それ?」
「好きな女を抱く」
「えっ……」
「好きだよ、大好き。アミのこと大好き。……あー、もー俺ダメっぽいわ。アミ以外無理。考えられねーもん。新鮮味なんていらねーよ。てか、むしろ変わらんでくれ。俺、もうふらふらしねーから……ずっとさ、一緒にいてくれよ」
「……カッちゃん」
「じゃー好きにしまーす」
「ちょっと――あ、きゃっ……」

 それからのことは、あまり思い出したくない。
 俺の人生において最も辛い一時間だった。
 ただ……そう、カツヒコの選んだ結果については、素直に良かったと思う。
 言葉に出せて、本当に良かったと。

 もちろん、そんな感慨に浸ることが出来たのは、翌朝の太陽が昇ってからのことだ。
 あの激しさを聞かされて、冷静でいることなんて出来るはずがなかった。


   ◇ ◇ ◇


 帰り道は車。
 昨日、帰省ラッシュの恐ろしさを嫌と言うほど味わわされた俺にとって、予定外とは言え、車があったのは本当にありがたかった。
「タカユキ、ちゃんと飯二人分食ったかー?」
 ハンドルを握りながら、カツヒコが俺に言う。
 俺はなかなか消えない満腹感に顔をしかめながら、
「……お前が余計なこと言うから、吐きそうだ」
「だってよー、いくら社会人はリッチとは言え、二人分の宿泊料払ってんじゃん? だったら飯もさ、二人分食わないと」
「俺は無駄金でいいって言っただろ……無理矢理食わせやがって」
「気持ち悪かったりする?」
 助手席に座ったアミが、顔だけで振り向く。
「一時間半くらいかかると思うけど……薬局とか寄った方がいいんじゃない?」
「いや、たぶん大丈夫だから」
「タカユキ乗り物強いし。平気だって」
「カッちゃん。誰のせいでタカユキが苦しい思いしてるのよ」
「俺の提案を断れなかった軟弱なタカユキ」
「てめぇ」
 座席の後ろから、カツヒコの頭を殴る。
 カツヒコは悲鳴を上げて振り返ったが、当然、反撃してくることはなかった。
「この時期の上り方向って、本当に空いてるんだね」
 正面に視線を戻して、アミが呟く。
「これなら、思ってたより早く着くかも」
「だなー。まー、市内入ったらこんな楽には進まねーだろうけど」
「それでも向こうに比べたらずっといいでしょ」
 そう言って、アミが対向車線に目を向ける。
 つられて、俺も窓の外に視線を移した。
 郊外へ向かう下り車線にはため息が出るくらいの車列が出来ていた。全く動きが無いわけではなく、一応、流れてはいた。ただ、徐行するような速度で何十分も運転するのは、止まっているより疲れそうな気がした。
「いやー、あんま早く着かれても、俺、困るんだけどなー」
 カツヒコが呟いた。
 あまりにもスムーズに進むせいで、退屈なのだろう。
「家帰ってもやることねーし。一通りやるべきこと終わらせたから、学校行く気にもなれねーし」
「勉強は大丈夫なの?」
「年末年始は休業中」
「もう……」
 外の景色を眺めながら、二人のやり取りを聞く。
 違和感なんてどこにもない。二人はずっとこうだった。そしてきっとこれからも。
 羨ましい、本当に。
 見てるこっちまで幸せにしてくれそうなその関係に、嫉妬した。
「……うち、来るか?」
 何気なく呟く。
 反応が返ってくるまでに、少し時間がかかった。
 アミがゆっくり振り向いた。
「あ……いいの?」
「そっちが良ければ、いつでも」
「マジで? お前、実家帰るのは?」
「もともと今日帰るつもりはなかったよ」
「おー、ラッキー。行く行く、俺は行く」
「アミは?」
「あ、じゃあ……おじゃまします」
「いらっしゃい」
 それから三人で笑った。
 久しぶりだった、こういう空気は。
 心の穴が全て埋まったわけではないけれど……随分と、楽になった気がする。
「よーし。んじゃ、タカユキの失恋記念パーティってことで」
「……だから、お前、まだ別れてないって言ってるだろ」
「じゃあ、どうしてアカネちゃん来なかったんだよ?」
「……嫌われた、から」
「それを失恋というのだ、社会人」
「うるせぇよ」
 苦笑する俺の目に、表情を曇らせるアミがうつる。何を言ったわけでもないが、昨日、気付いたのだろう。
 たぶん、カツヒコは知らないのだろう。アミが俺に相談を持ちかけていたことは。
 だから、
「知ってるよ、全部俺のせいだ」
 わざと大きな声で言う。
 終わったことを蒸し返したってしょうがない。結果が示すのは、俺の努力不足。カツヒコがそれを証明したようなものだ。
 別れてはいない……今はその言葉にすがっておく。
「それでもな、もう一頑張りしたいから。……君らの幸せオーラ、少し分けてくれ」
 カツヒコは明るい声で「好きなだけ」と答えた。
 その横で、アミは恥ずかしそうに微笑んだ。

「んじゃ、適当に見繕って、酒、買ってくるから」
 運転席の窓から顔を出し、カツヒコが言う。
 俺はうなずく。
 場所は俺が暮らす安アパートの前。
「金、後でいいか?」
「どーせワリカンだし」
「だな」
「それじゃ、行ってくるわ」
 カツヒコが車を発車させる。
 近くにあるスーパーに向かったのだ。コンビニで買うより、ずっと安くすむ。
「……さて」
 呟いて、アパートのドアをくぐる。
 一日ぶりの我が家は、さぞ冷え込んでいることだろう。二人が帰ってくる前に、せめて火くらいおこしておかなければならない。
 コンクリートの階段に足音を響かせながら、急ぎ足で四階へ向かう。
 住人のほとんどが学生か若い社会人であるこのアパートは、この時期になると人気がなくなる。近所付き合いなんて気にしたことはないが、それでも人がいれば生活の息づかいは感じる。
 この時期に一人で家にいるのは、本当は、あまり好きなことではない。
「寒いな……」
 四階に着く。
 ついさっきまでファンヒーターの効いた車の中にいたせいで、冷たい空気が堪える。廊下に響く足音が、いつもより大きく聞こえる。
 二人が来るまでに、十分くらいかかるだろうか。
 そう思い、時計を見ようとした時、
「……ん?」
 それは自分の家のドアだった。表札の上には、ちゃんと410と書かれたプレートが張り付けてある。
 自分の家のドア……そのノブに、ビニール袋がぶら下がっていた。
 見慣れたコンビニのマークが入ったビニール袋が。
「……」
 袋を手に取り、中に入っている何かを取り出す。
 それは包装紙に包まれた小さな箱だった。
 包装紙に書かれた文字が目に留まる。やがて視線は釘付けになる。今となっては大昔に感じる記憶が去来する。自分でも信じられないくらい、大きな感情と一緒に。
「あいつ……」
 包装紙をといていく。
 破かないよう、慎重に。
 飾り気のない箱を開ける。
 緩衝剤の紙に包まれていたのは――、
「あっれー? タカユキ、なにしてんだ?」
 克彦の声が聞こえたが、振り返ろうなんて思わなかった。
 それがあいつの出した答えなんだろうと思った。
 俺の手に乗る――小さな、淡い緑色の雪ウサギが。
「あ、綺麗なガラス」
 アミが気付いた。
 俺の手の平をのぞき込み、
「これ、どうしたの?」
「あぁ……うん。ちょっと……」
「おーい、タカユキ、どうかしたのか?」
「いや……」
 俺はこんな所で何をしてる。今はまだ……なんて、かっこつけてる場合じゃないだろう。
 カバンの中から、急いで部屋の鍵を取り出す。
 そして、それをカツヒコに手渡す。
「部屋、勝手に使ってていいから」
「はっ? お前、どっか行くのか?」
「まぁ」
「用事入ったなら、わたし達、別に無理には――」
「違う」
 アミの言葉を遮る。
 それから雪ウサギを箱にしまい、コートのポケットに入れ、
「俺が勝手にそうしたいって思っただけだから」
「何だよ、少しくらい説明しろよ」
「大したことじゃない。……ちょっとな、みっともなく足掻きに行こうと思って」
 言うと、アミの表情が一変した。
 アミは、意味がわからずにため息をこぼしたカツヒコの前に立ち、
「いってらっしゃい」
「……いってきます」
「おーい。なに? もしかして俺だけ意味不明?」
「あぁ、だからそれは――」
「わたしが説明するから」
「……アミ」
「ほら、早くっ」
 体を押される。
 苦笑して、歩き出す。最初、歩いていた足は、やがて早足になり……耐えきれずに走り出し、
「頑張ってね!」
 旧友の声に押されて、加速した。
 大切な一言を、伝えるために。



 ― a Precious Lover ―

 その後のことは……まぁ、何というか、あまりに恥ずかしいので、詳しいことは誰にも言っていない。
 二人にも言わなかった。何も言わなくても通じたと思う。
 四人で酒を飲むのは本当に久しぶりだった。後にも先にも、あれほど美味い酒を飲んだ記憶はない。それだけあの日は特別だった。
「……時間が」
 時計を見る。
 思い出に浸っている間に、長針がまた半周進んでいた。
 ため息をついて体を起こし、絵はがきを裏返す。メッセージはたった二行だけ。質素だが、十分すぎるほどに気持ちの伝わってくる二言。
『念願の学生結婚!』
 これはカツヒコからの結婚報告。
 そしてアミは、
『ありがとう』
 その一言。
 何より幸せそうな二人の写真が全てを物語っている。
 見ているこっちが元気付けられるような、満面の笑みだ。
 今の俺が嫉妬することはなかったが。
「今度こそ動く」
 呟いて、引っ越し用に買い込んだ紙製の紐を取り出す。手紙類をまとめ、傷つけないようにしばる。捨てられないなら捨てなければいい、それだけの話だ。
 他の迷っていたものも、全て持っていくことにする。
 思い出の分だけ手間が増える。そう考えれば苦痛にはならない。
 それからの作業は順調に進んだ。
 一応、これでも仕事は早いほうだ。慣れるのが早いだけかもしれないが、順応性の高さは短所ではないはずだ。やることさえ決まってしまえば、後はそれをこなすだけ。
 時計の針が三時半を指す頃には、さっきまで見えていなかったフローリングの床が半分ほど、顔をのぞかせていた。
「よし」
 手を止める。
 少し休憩しようと思い、キッチンに行く。
 やかんでお湯を沸かしながら時計を確認、また五分ほど針が進んでいる。
「……遅い」
 そう呟いた、その時、
「ごめんっ!」
 叫ぶような声と共に、勢いよく玄関のドアが開いた。
 うるさく足音を響かせながら……彼女が、現れる。
 他の誰よりも愛しい、アカネが。
「言い訳は?」
 聞く。
 アカネはわざと視線を逸らし、
「え、えっとね……あの、目覚まし時計が壊れてたみたいで……」
「他には?」
「そっ、それからっ。なんか電車のスピードがいつもより遅かったような気が……」
「終わり?」
「あ、あとっ! ……これ、家に忘れちゃって」
 差し出されたのは、小さな瓶だった。
 コルクで栓をされたその瓶には、白い砂が入っている。
「星の砂、か」
「そう。自分で集めたの」
「へぇ……」
 受け取った瓶を日の光にかざす。
 アカネは俺の隣に立ち、同じように白く輝く星の砂をのぞき込む。
「楽しかったか?」
「うん。結婚前、最後の旅行だから。いっぱい楽しんできた」
「そうか」
「次は一緒に行こうね?」
「行くだろ、五月に」
「ハネムーンじゃなくて。観光旅行」
「……そうだな」
 うなずいて、星の砂をアカネの土産専門の棚に飾る。
 それからコンロの火を止め、二人分のコーヒーをいれ、アカネを連れて自分の部屋に戻る。
「あ、片づけやってたんだ」
「まぁ、少しくらいはな」
 部屋を眺める。
 机まわりの整理は、大体終わった。服やなんかは、最低限必要な分だけを選り分けて、残りをそのまま箱詰めすればいい。部屋の整理はそれでほぼ終わる。土産品をのぞいて。
 一番面倒なのは、やっぱり土産の棚だ。
 今日はその整理を手伝ってもらおうと思って、アカネを呼んでいた。
「荷物、結構量あるね」
「色々とな」
「いらないものとか、ちゃんと捨てた?」
「ほとんど捨てられない物だったんだよ」
「……なにそれ」
「しょうがないだろ。捨てられないってことは、捨てたくないってことだろ? だったらとっておくしかないだろ」
 アカネは怒ったように頬を膨らませた。
 だが、そもそもそう言うことなのだろう。物の価値なんて本人にしかわからない。ただ、いつまでも持ち続けていられるほど軽いものなんて、きっと一つもない。価値がゼロになると言うことは、所有する意味さえなくなると言うことだ。人間関係に所有なんて概念は存在し得ないと思うが、それでも保つだけでも十分に大変なことなのだ。長く保たれていた関係には、きっと、それだけの意味がある。本人にしかわからない、何よりも大切な、意味が。
 不意に、聞いてみたくなった。
 アカネの答えを。
「……お前は、どうだ?」
「えっ、なに?」
「例えば、ものを捨てるとき、何を基準に捨てるか捨てないかを決める?」
「……」
 アカネは少しだけ考え込んだ。
 本当に僅かな時間、沈黙して、
「好きか嫌いか、かな」
「……なに?」
「嫌いな物から順番に捨てていくの。でも、そのかわり、一番大好きな物は絶対に捨てない。誰になんて言われても、ね」
「……」
 答えたアカネが、得意気に俺を見る。まるで、俺の一生を自分の手にしたとでも宣言するように。
「……その答えは、いいな」
 苦笑しながら呟く。
「でしょ?」
「あぁ。ほっとする答えだ」
「コーヒー熱いよね」
「そのホットじゃなくてだな」
「そろそろ始めようよ」
 アカネが歩き出す。
 足下に注意しながら窓辺の棚の前に立ち、
「また、買い換えなきゃダメだね」
「……だな。動くか」
 うなずいて、コーヒーカップを置く。
 ダンボール箱を引っ張り出し、その中に荷物をつめていく。つめこまれていくのは、記憶。自分にしかわからない思い出。いつか、そんな捨てられなかった物で部屋は溢れるだろう。それはそれだけの思い出を重ねたと言うことにならないだろうか。重ねた思い出を、二人で振り返る時間は……幸せとは、言えないだろうか。
「できるだけ長く捨てないでくれるとありがたい」
「えっ? なに?」
「いや、何でもない」

 手紙を書こうと思った。
 あいつらが呆れるくらいの、写真を添えて。

2004/05/07(Fri)11:03:12 公開 / ドンベ
■この作品の著作権はドンベさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めて投稿させていただきます、オリジナル小説のHPを運営しているドンベというものです。
この小説は、この掲示板の分類でいうなら中編の恋愛小説です。四人、二組のカップルが絡んだ関係を書いてみました。
いろいろな部分に気を使って書いたつもりですが、まだまだ未熟な身です。気持ち辛めの批評をいただけたらと思います。
多少読むのに時間がかかるかとは思いますが、よろしくお願いします。

村越さん、読んでいただきどうもありあとうございました。この話を書くときにもっとも気を使ったのが構成(演出)の部分でした。間の取り方を失敗すると話自体が不自然に見えてしまうので、上手いといわれたことは本当に嬉しいです。これからも頑張るので、次の機会があればまたよろしくお願いします。
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