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『讃頌』 作者:仮名 / 未分類 未分類
全角1413文字
容量2826 bytes
原稿用紙約4.25枚
 

 世界が少しずつ明るくなっていく。
 壮大で力強い、生命の色彩を色濃く湛える大地。雄大に構え、生命の源をどこまでも煌かせる海。広大無辺、輝く陽と煌々とした星々を抱く、いつまでも果てなき空。そして無限の命を抱えたこの美しい世界が、生命の光の中、今日も静かに佇んでいる。

 どこかで誰かが、世界中に語りかけるように、吼えるように、力強く言った。
「讃えるべきは大地だ! あらゆる総ての命を湛え、育み、強くこの世界を築き上げてきた大地。我等の立つ場所、世界の支え。この偉大な土を、このなにもかも壮大で美しい大地を忘れたか! 一つでは到底立ち上がることさえ出来ぬ我等を常に支え、命の志すことを教えてくれた大地。我々はその大地の恩寵に応えなければならないのだ!」
 人々は眠るように大地に両手をつき、歌った。その歌は偉大なる大地を揺らし、世界中に響き渡ってゆく。

 どこかで誰かが、世界中に語りかけるように、吼えるように、力強く言った。
「讃えるべきは海だ! あらゆる総ての命を生み出し、慈しみ、優しくこの世界を築き上げてきた海。生命の源、世界の源。この聖なる水を、このどこまでも雄大で美しい海を忘れたか! 一つの小さな存在であった我々を常に擁きしめ、命の、生命の尊さを教えてくれた海。我々はその海の恩寵に応えなければならないのだ!」
 人々は拝むように海を見つめ両手を合わせ、祈った。その祈りは静寂なる海に溶け、世界中に染み込んでゆく。

 どこかで誰かが、世界中に語りかけるように、吼えるように、力強く言った。
「讃えるべきは空だ! あらゆる総ての命を抱き、見つめ、明るくこの世界を築き上げてきたのは、空だ。光とは、世界の息吹とはなんだ! この真実の風を、この広大無辺の美しい空を忘れたか! 一つで闇の中に蹲っていた我々を常に守り、命の目指すべき道を教えてくれた空。我々はその空の恩寵に応えなければならないのだ!」
 人々は願うように両手を上へ広げ、叫んだ。その声ははるか遠い空に浮かび、世界中に降り注いでゆく。

「だが! 貴様らはその大地の恩寵を無下に振り払い、所詮足元の存在だと罵り、ぞんざいに踏みつけ嘲笑うか! 我々は大地を、遥かな土を、強く守る!」
 人々は信念を永久に通しぬく剣をとった。
「だが! 貴様らはその海の恩寵を無下に振り払い、災厄の源と決め付け、おろおろと恐れ逃げ惑うか! 我々は海を、遥かな水を、強く擁く!」
 人々は信念を永久に守りぬく盾をとった。
「だが! 貴様らはその空の恩寵を無下に振り払い、光を眩しいと言って閉じ込め、黒く汚し眼を背けるか! 我々は空を、遥かな風を、強く誓う!」
 人々は信念を永久に貫く槍をとった。
 なにかが叫んだ。
「これは聖戦だ! 我等の夢を! 大地を! 海を! 空を! 生命の光を!」
 総ての人々が叫んだ。
「我等の信念を!」
 世界を咆哮が轟き、その光は血で染まった。
大地を爆風が包み、海を灼熱が襲い、空を轟音が駆けた。

 世界に少しずつ闇が融けてゆく。
大地は赤く爛れ、土は灰と化した。海は涸れ果て、水は煙と化した。空は暗雲に埋まり、風は闇と化した。
世界は汚れ、静寂と化した。
雨が降る。さながら天の涙のように。
涙に打たれ爛れた大地が歌っている。今はもう無き海が祈っている。黒に閉ざされた空が叫んでいる。
世界が、涙で包まれる。
 やがて総てが闇に融け、世界はなにもなくなった。



2004/04/10(Sat)14:22:57 公開 / 仮名
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