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『プラスティック・ソウル  第1話〜第2話』 作者:小都翔人 / 未分類 未分類
全角3065.5文字
容量6131 bytes
原稿用紙約11.1枚

”これはロックンロールではない!!大量虐殺だ!!”  〜 デヴィッド・ボウイ 『Diamond Dogs』より 〜




第1話



− 橋倉智也 −

S署からの通報を受けた俺は、早速現場に急行した。
今朝未明、若い男性の全裸死体が、コンビニエンスストアの配送員によって発見されたのだ。
現場は繁華街のすぐ近くということもあって、人で賑わっていた。
野次馬をかきわけ、警戒ロープの側まで歩み寄る。
一人の制服警官が、俺を制止した。
「こらこら!勝手に入っちゃいかん!! 」
俺は警察手帳を取り出した。
「本庁捜査一課の橋倉だ。ホトケさんは? 」
「はっ!失礼しました、橋倉警部!どうぞこちらです!! 」
若い制服警官は慌てて敬礼すると、ロープを持ち上げて俺を通した。

若い、十代と思われる男性が、無残にも全身を血に染めて倒れていた。
鋭利な刃物で無数に刺されたらしい。
「死亡推定時刻は? 」
監察医と思われる、白衣の男性にたずねた。
「まだハッキリとは言えませんが・・・・・・、昨夜の午前1時から2時までのあいだでしょうね。 」
「死因は・・・・・・見てのとおりかな? 」
「出血多量によるショック死でしょう。どれも致命的なほど深い傷ではないのですが・・・・・・なにしろこれだけの刺し傷ですからね。 」
俺はセブンスターを取り出すと、火を点けた。



− 加納雅 −

「み・や・び・ちゃ〜ん!! 」
アタシは、急に後から声をかけられてビックリした。
振り返ると、仲良しのユリが笑顔で抱きついてきた。
「やっぱり先に来てたんだ〜!みやびちゃん早〜い!! 」
「だって最近、人が増えてきたじゃん?だから早く来て、イイ場所とらないとさ! 」

ここは新宿のとある路上。
アタシとユリは、ここで行われるストリート・ミュージシャンのライヴを毎週観にきている。
アタシはユリの事を、16歳だという事くらいしか知らない。
ユリもアタシの事は、年齢−17歳−くらいしか知らないだろう。
あくまで2人の関係は、ここで行われるライヴを通してのみの友情だ。
深く知らないだけに、とても楽しい関係・・・・・・。
少し寒いけど、ユリと話してると暖かい気分になる。ユリはバッグから缶ビールを2本取り出すと、1本をアタシにくれた。
時間は7時少し前。もうすぐ”彼”が現れる頃だ。
今夜のライヴも、きっと盛り上がる!!



− デニス・ブラッド −

男は地下鉄の駅を降りると、足早に歩き出した。
擦り切れたリーバイスに、Shottの黒皮のハーフコート。サングラスを掛けた肌は褐色だ。
肩には、大きなギターケースを提げている。
男は口笛を吹きながら、いつもの場所へと急いだ。
「寒いな・・・・・・。 」
今夜は一段と冷え込んでいる。これだけ寒い中、人は集まってくれているだろうか?

彼の名前は”デニス・ブラッド”。国籍はアメリカ合衆国だ。
幼い頃から父親の仕事の関係で、世界のあらゆるところで暮らしてきた。
この日本で生活をしていたのは、彼が13歳から15歳までの多感な頃だった。
本国での挫折。そして彼は再び来日した。

今の彼は、新宿を拠点に活動するストリート・ミュージシャンだ。
週末で人の多い新宿の街を10分ほど歩いた頃、目的の場所が見えてきた。
今夜は彼の予想以上に、多くの人が集まっている・・・・・・。



− 加納雅 −

「キャー!! 」
ユリの歓声におどろいて後を振り返ると、遠めにデニスの姿が見えた。
スラリと伸びた長い脚と腕。髪はいつものようにドレッド・ヘアを色とりどりに染めている。
「デニス〜!! 」
まわりの女の子たちが、一斉に声をあげ始めた。
アタシも心臓がドキドキしている。デニスのライブの前はいつもこうだ。
わずかに残っていたビールを、一息に飲み干した。
デニスが笑顔で手を振っている。アタシも大きく手を振り返した。

もうすぐライヴが始まろうとしている!!






第2話



− 橋倉智也 −

俺は現場捜査に当たった、S署の担当刑事に質問した。
「遺留品は何か見つかったか? 」
「いえ。ガイシャはご覧のとおり一糸纏わぬ姿で転がってましたし、周辺にも何も手がかりになりそうな物は見つかっておりません。 」
俺はガイシャをまじまじと見つめた。
全身が血にまみれているが・・・・・・美しかった。体中に刻まれた、無数の刺し傷。
しかしその顔は、まったく傷つけられていなかった。
死んでもなお、美しい少年・・・・・・。
彼を殺害した犯人とは、どんな人物であろうか?



− デニス・ブラッド −

彼は歓声に包まれながら、人ごみを割って入ってきた。
プロでもない、ストリート・ミュージシャンとしては相当な人気だ。
彼のクルーらしき若い青年たち−みな、いかにもミュージシャン志望といった格好だ−が、機材をセットする。
彼は煙草を咥えながら、ギターのチューニングを合わせていた。
今夜のセット・リストを確認する。彼のオリジナル曲を中心に、構成されている。
「デニス!OK! 」
クルーらしき若者の一人が声を掛けた。
彼はニッコリ笑って親指を立てると、咥えていた煙草の火をブーツの底でもみ消した。
「OK!Let’s Go! 」
重いギターの音色(トーン)が鳴り響いた・・・・・・。



− 大野圭吾 −

俺はデニスのサポート・メンバーだ。
デニスは最高だ!!今まで接してきたミュージシャンの中で、一番素晴らしい。
音楽的にも最高だが、人間的にも最高だ!!
とはいっても、プライヴェートの彼についてはほとんど知らないのだが・・・・・・。
俺も含めてサポート・メンバーはみな、デニスの事を尊敬している。
元々はみんな、彼のファンだったのだから。サポート・メンバーをやっているのだって、彼から頼まれたわけではない。
誰もが自然に集まってきたのだ。
それだけ彼の音楽、そして彼そのものには人を惹きつける”何か”がある。
今夜も彼のライヴに、誰もが熱狂している。
俺の見てきたライヴの中でも、今夜のパフォーマンスは最高じゃあないかな?
おっと、デニスが一息入れるところだ!!飲み物の用意をしなければ・・・・・・。



− 加納雅 −

「あ〜!ホント最高だったねぇ〜!みやびちゃん!! 」
ユリは興奮してはしゃいでいた。アタシもかなり興奮していた。
「やっぱりデニス最高!! 」
2人でコンビニに立ち寄り、缶入りのカシス・ソーダとカンパリ・オレンジを買った。
このコンビニは、未成年でも平気でアルコールを売ってくれる。
まぁ、新宿の中心地ならどこでも売ってくれると思うけど。

「カンパーイ!! 」
都庁の前の石段に腰を下ろして、アタシたちは乾杯した。
今夜のライヴは本当に最高だった。やっぱりデニスはすごいミュージシャンだ!!

しばらくユリと談笑していた。遠くからパトカーのサイレン音が聞こえてきた。
サイレン音は徐々に近づいてくる。
「なにか近くであったのかなぁ? 」
ユリがアクビまじりに言った。
遠めにいたサラリーマン風の男たちが、がやがや話しながら近づいてくる。
その中の一人が、アタシたちに声をかけてきた。どう見ても酔っているようだ。
「お〜、おねえちゃんたち!!こんな時間にこんなとこ、うろついてたら危ないよ!今も物騒な事があったばかりなんだからさ!! 」
「さっきパトカーのサイレンが聞こえたけど、何かあったんですか? 」
アタシはその男にたずねてみた。
「うん。何でもさっき、中央公園でホームレスが殺されてるのが見つかったらしいよ。 」












続く
2004/03/26(Fri)17:54:23 公開 / 小都翔人
■この作品の著作権は小都翔人さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
あえて一人称と三人称とを使い分けております。
序盤はワケがわからないかと思われますが、お付き合いいただけたら幸いです。
11作目は”実験”だと思っておりますので(汗)
感想、アドヴァイス等お願い致します!!
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