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『神様の戦争(1)』 作者:小村 睦 / 未分類 未分類
全角2193文字
容量4386 bytes
原稿用紙約6.9枚

神様の戦争

問1:枠の中から出る方法を答えよ。


「いつまで寝てるんだい!全くしょうがない子だねっ」

威勢の良い声が、少年の耳に直に響き渡る。少年は耳を押さえてベッドから起き上がると、その声の主から遠ざかるようにして布団に包まり、怯えたように見上げる。
「ね、姉ちゃん…」
「ホレ時間見てみろや!アンタって子はほんとにのんきなんだから!だから昨日夜更かしするなって言ったの!」
少年の姉・りくは、ベッドの脇に山積みされている本を軽々と持ち上げると、巨大な山を用意されていた段ボール箱にぶち込んだ。
「あぁあ!何て事してくれんだよ姉ちゃん!」
「昨日の夜言った筈でしょ!またあの本を読んで夜更かしして、朝起きられなくて学校に遅刻したらすぐに捨てます、って!」
少年はうっと言葉に詰まる。そう、確かに姉は、昨日の夜、少年が部屋に上がっていく前に念を押すようにその台詞を何回も言っていた。
しかしながらあまり頭の良くない少年は、気付かれまいと必死に本を読み漁ってしまった。

もちろんその本が、この国の歴史や誇りになる内容なら誰も文句は言わなかっただろう。しかし、少年の読みたがる本は、空想世界で繰り広げられるファンタジーばかりだった。箒に乗って空を飛ぶ魔女、森の中で忙しそうに働く小人達、空から舞い降りてくる妖精や精霊、雲の上からそっと現世を見守る天使、そして地下深くの悪の世界でずる賢い考えを巡らせる悪魔。
全てが少年を解放してくれる、安心させてくれる、想像力をかきたててくれる小道具だった。

「…何で」
「…」
姉は、寂しそうに顔を曇らせる少年を見下ろし、少し哀れみを含んだ声で言った。
「掟に反するからよ。現実を見つめなさい」

この国は、とてもとても小さな島国だった。気候は四季折々に変化し、自然を少しずつ壊し、何回も同じような政治の主張を繰り返し、子供達は毎日決められたように学校に行き、大人は皆くるくると忙しく働き、出る杭は打たれるし、打たなければならない国だった。

「下らない」少年はいつもそう感じていた。毎日毎日同じ事を続け、同じ事に喜び、同じ事に苦しめられる事を幸せだと思う人々の住む国であり、思わされる人々の住む国だ。少年はどちらかといえば、後者だった。

それでいて、ここ最近は「この国を誇りに思え」「現実に目を向けて共に闘おう」という、クソみたいな事を言う大人が増え始めた。
最近は貿易がうまくいかず、仮鎖国の体勢を取っているからなのかも知れない。
仮鎖国なんて言っても、もう既にかなり外国に溶け込み、この国本来の言葉などというものは忘れ去られてしまっているのだが、他国のモノが多いファンタジーは、「改訂・国の掟」――自給自足をしなければいけないという事が延々と綴られている物――によって、売買、または所持していた場合は強制撤去し、罰金を命ぜられると記されていた。
しかし少年は、ファンタジー小説を集める為、たくさんの闇ルートも使っていた。
姉はその努力を知っていたので、なかなか捨てさせる事が出来なかったのだが、今度ばかりは仕方ない。

「大改訂・国の掟」により、その類の物は売買、または所持していた場合、強制撤去及び罰金、又は五年以上、十五年以下の懲役と記されていたのだ。

義務教育をやっと終えた姉のりくと、親戚からの雀の涙のような金で成り立つこの家庭に、ここまでの罰金を払う余裕は無い。弟が刑罰を受けると知れば、例え雀の涙でも頼りにしている親戚からの金は、がっくりと減るだろう。
姉までもが、『非国民』のレッテルを貼られる羽目になる。

この最新版の掟は、つい一昨日発表された。あまり弟にショックを与えずに本を捨てる方法として、姉はこれを選んだのだった。


「何で」
りくは呟いた。段ボールの中にぎっしり詰め込まれた本の山。表紙には所狭しと不思議な世界が描かれ、活き活きとした表情を浮かべていた。入手方法のせいもあってか、薄汚れて色あせている本なのに、何故か、まだ不思議な魅力は残っているような気がした。
しかし、りくが抱いたのはそんな疑問ではない。
「何で…こんなに…」
少し、目が潤んだ。


「あーあ、全く姉ちゃんはつれねーなぁ!あのクソババ!こう、何ていうかなぁ、ファンタジーの魅力って物を感じないんだなぁあのババア!下らないっ」
もう口癖になってしまったそれを何回も繰り返しながら、少年は朝の支度をした。姉のお下がりの(さすがにズボンは買ったが)制服を着ると、これまたお下がりの真っ赤なランドセルを背負う。
義務教育が九年間ぶっ通しで行われる「教育学校」で、少年は今七年生。確か昔は、小学校と中学校とかいうのに分かれていたって、歴史の時間に勉強した。
「よし、行くか」
少年は口の中にパンをもごもごさせながら言った。


この国は、決められた狭い狭い小さな枠の中で人々が暮らす、小さくて卑屈な国。
一時期はそれ相応の名前になったらしいけど、今はまた昔の呼び名に戻ってしまった。

少年のランドセルに掛かった、国民である事を示す国旗を象ったキーホルダーが揺れ、微かな鈴の音が鳴る。
その音を聞いたのか、姉が遠くから叫んだ。
「行ってらっしゃい、カルル!」

弟は、小さな声でそれに応じた。
「行って来ます」



この国の名は、『大日本帝国』。小さい人々が小さく暮らす、小さく暮らさせられる、そんな国。


2004/03/25(Thu)11:30:48 公開 / 小村 睦
■この作品の著作権は小村 睦さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
やけに短いです。そんで読みにくいですね…許して下さい。
本編に入ると思います、次は。
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