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『Lover Days 1〜5』 作者:葉瀬 潤 / 未分類 未分類
全角11576.5文字
容量23153 bytes
原稿用紙約37.65枚
 空がまだ暗い。
 カーテンを閉め切った部屋の中で、俺はあれから眠っていた。
 酒臭い部屋だ。 たくっ、あいつら片付けもせずに帰りやがった。 
 昨夜は、男6人が酒で盛り上がっていた。あとで女が二人加わったらしいが、俺はすぐに酒に酔いつぶれてしまった。
  飲み会がここで始まったのは夜の九時ぐらい。果たして、今何時だ? まだ夜か? それとももう夜明けが近づいているのか。意識が朦朧とした。
 耳のすぐ横で携帯の着信音が鳴った。鳴った瞬間に大音量が流れ、俺はすぐに目が覚めた。誰だよ、こんな夜中か朝早くに電話してくる奴は。けしからん。
「・・・はい、もしもし」
「もしも〜し、ハジメ君ですか?」
 かけてきたのは愛しの恋人。
 電話越しに聞く君の声は、何日ぶりに聞くだろう。もう胸がバクバクしているよ。
「なんだい? 急に電話してきてさ」
 そういえば、君は風邪で学校を休んでいたな。君は体が弱いみたいだし。俺なら二日で治る病気も、君の場合は、一週間近く寝込むはめになったのだから、すごく退屈な毎日を送っているね。だから寂しさが募って、こうして電話
をかけてくるんだ。なんて愛らしい君。
「おはよう」
「おはよう。どうしたの? 急に」
「今から会おう!」 
 君はほんとに突拍子もない発言をするね。俺の今の状況など、配慮する言葉すらかけず、急に会おうだなんて。君の願いはなんでも叶えたい俺だけど、体が重くて、立ち上がれないんだ。残念ながら。
「サチ、今から会うのは、ちょっと無理っぽいかな」
 本当はね、今すぐにでも飛んで行きたいよ、俺は。でもね、今日は肝心の体がまた機能してくれないのだよ。 困ったことにね。
「30分後に、ラクダ公園に集合ね!」
 ねぇ、君は俺の事情というものをわかってくれているのかな。今非常に動けないんだよ。それも待ち合わせ場所がラクダ公園だなんて、俺の自宅からは遠すぎるよ。自転車でも30分かかるんだぜ。
「サチ、もう一回だけゆうよ。 僕はね、今・・・」
「来てくれなきゃ、別れる」
 ぽつりとそんなとんでもない爆弾発言をいわれたら、これは被害がでる前に、俺は出動しなくてはならない。愛する君のため。そして、俺の信念のため。
「今から行く! ちょっと遅れるけど」
「30分後にきてね!」
「・・・・・・・・」
 無理に近いけど、一応頑張ってみるよ。俺は携帯を切った。
 そしてあらためて時刻を確かめた。
 朝の4時半。会うには早すぎるよね。それでも彼女がこの俺に会いたいのなら、俺は努力をしよう。
 数分後、服に着替え終わったときに、また電話が鳴った。もう待ちくたびれているのかい? ハニー。
「もしもし〜」
「もしもし〜。俺、シュンイチだけど。なんか今日はご機嫌らしいね」
「切るぞ」
 たくっ、こんな早朝に電話をかけてきやがって、ほんとに最低な野郎だ。
 酒の缶やビンやらでこの部屋をちらかしやがって。 ここは文句をいう必要があるな。
「シュンイチ。てめぇ、俺が寝ていると思って、そのままにして帰ったな」
「ごめん、ごめん。あの時はほとんど意識がなくて。気がついたら隣りに見知らぬ女の子がいるんだよ! 俺って幸せ者だよな?」
「知らん。てか、なんの用事だ?」
「いや、なんとなくおまえに電話してみただけ」
「腐れ、そして死ね」
「もしかして、この電話で起こしたか?」
「今からサチと会ってくるんだ。さっき電話があった」
 そういいながら、鏡に映った寝癖を直そうと奮闘する。まだ寝ぼけ眼な俺。
「まだ4時だぞ!」
「そうだ。なんかいけないのか?」
「おまえはまだ寝てろよ。俺が代わりにサチちゃんのところにいってやるよ」
「殺すぞ。サチに指一本触れてみろ。確実に仕留める」
 シュンイチがいくら冗談でこんなことをいっていても、俺は彼女を愛している以上、そういう奴らを排除しなくてはいけない。本気だ。 たとえ、電話越しの親友でも。
「冗談が通じない奴だなー。 おまえ以外に、あの子と付き合える男なんてそうそういないよ」
 それは俺をけなしているのか、サチをけなしているのか、そこははっきりさせたいとこだが、もうそんな余裕がなくなってきた。残り15分だ。自転車で飛ばすしか、間に合わない。
「もう行くから、切るぞ。またあとで電話するから」
「お! 珍しいねぇ。おまえからそんなこというなんて」
「まぁね」
 そういって電話を切った。さきほどの会話が腑に落ちない俺だから、あとで追及しなくては。

 バイクをちゃんと修理にしとけば、こんなにもドタバタする必要はなかったんだ。
 シュンイチが緊急でいるっていうからバイクを貸したのが間違いだった。 俺の愛車がボロボロになって帰ってきた始末。一体、あいつは何を起こしたんだと、今でも不思議に思っている。
 さぁ、あの角を右に曲がれば、もうすぐで愛しの君に会える。気持ちを切り替えなくては。君の姿が飛び込んできたら、思いっきり抱きしめてあげよう。なんたって、一週間ぶりに君の微笑んだ顔がみられるのだから、ここでその嬉しさを表現しなくては。
 待てない気持ちが湧き上がり、俺の胸はドキバグして、右に急カーブした。


  
  電話が鳴った。愛しの彼女からだ。
「はい、もしもし」
 俺は疲れきっていた声をだした。ラクダ公園に着いてから思ったんだ、朝から突っ走るんじゃなかったな、と。それと同時に頭痛がしてきた。
「やっぱり会うのは昼にしよう!」
「へ?」
 待ち合わせ場所に、彼女の姿はなかった。俺は慌てた。そう彼女が電話してくるまで。
「朝は寒いから、昼にしよう! 暖かいから」
「うん、そうだね」
 ホッとしたよ。君の声がまた聞けて。君はコロコロと意見が変わるから、そのたびに俺はいつも動揺している。そう、たとえば今日の出来事なんて、初めてのことじゃないんだ。 
 寒い朝なんかにでてきたら、また君が風邪を引いてしまうからね。配慮が足りないのは俺のほうだった。
「愛してるよ、ハジメ」
「僕もだよ」
 彼女は愛の言葉を忘れない。もちろん俺だって。 君の口からこぼれる愛の言葉は、癒しの力をもっているよ。
  俺も大好きだよ。
 
 自転車をひきずりながら、自宅に帰る。
 彼女のいうとおり、朝は寒いね。俺が風邪を引いたらどうしようかと、そんな心配をしていた。


        ****************


 それは突然のことで、俺は夢だと思いたい。授業なんて始めから真面目に聞く俺ではなかった。シュンイチをみると、隣りでぐっすりいびきを掻いている。このやるせない気持ちをぶつけてみるのもいいが、ここは優しい俺。 まさか親友にそんな大それたことはしない。多分。
「ねぇ、ハジメ聞いてくれる?」
 それは朝だった。サチといつものように通学路を歩いている時のことだった。長引いていた風邪が治り、また愛しい君とこうして一緒にいることに、俺は至福のひと時を感じていた。
「どうしたの?」
 まさか『別れたい』なんていうわけがないよね。内心焦ってみたけど、今の僕たちに何の障害があるのだ。
 平常心を保っても、やっぱり心の準備をした。
 そして、彼女はさらりと言った
「今日から禁煙です!」
 正直、そっちの準備はできていなかったな。頭が真っ白になって、もう一度聞き返した。
「へ? 今なんと言いましたか?」
 いや、これはきっと聞き間違いだ。俺の唯一の楽しみを制限するどころか、禁止なんて。ねぇ、愛しい君。いつものように冗談だと言ってくれ。
「禁煙です。もう一回言ったほうがいい? 禁煙!」
 もう充分伝わりました。彼女の前では快く承諾したつもりでも、心の奥では泣きそうだった。彼女のみえないところで、がっくりと肩を落とした。ため息さえでてしまう爽やかな朝。
「明日からでいい?」
「駄目。今から禁煙」
 俺の手が、ズボンのポケットに入れているタバコの袋に触った。ごめんよ、相棒。今の悲しい気持ちを、そっと伝えた。

 シュンイチに渡した。昼休みの食堂裏。
「これ、おまえのタバコじゃん」
 ラーメンをすすりながら、シュンイチは不思議そうに俺の顔をみた。
 それでもありがたい様子でズボンのポケットに仕舞った。
「俺、禁煙するんだ」
「まぁ、頑張れ。俺もやってみたけどさ、あれは根気がいるね!」
「へぇー、禁煙とか考えたことあるんだ」
「その時な、めっちゃ惚れてた女がいたんだよ。『禁煙しないと別れる』なんて言い出してさ。結局はうんざりした俺が終わらした恋さ」
 ラーメンの汁を一気に飲んで、シュンイチは食べ終わった容器を横に置いた。
「とにかく! 今のおまえには選択肢が二つあるんだ」
 俺はパンをかじりながら、親友の話に耳を傾けた。
「愛ある人間をとるか、不健康な人間になるか、だ」
「フツーは愛だろ?」
「なら、禁煙するしかないぞ!」
 俺の顔は歪んだ。
 サチをとるか、サチと別れるか。シュンイチ的には面白い展開だろう。横でニヤニヤと笑っている。

 いくら禁煙を言い渡されても、サチがみないところで吸えばいいわけだ。 
 でも、この行為は愛する人を裏切る形しかない。
 そんな罪の意識を感じながら、彼女と帰る夕方。
 彼女は久しぶりの学校に興奮している。友達のこと。授業のこととか。それよりも君を抱きしめたい衝動に駆られて、その耳はほんど何も聞いていない。あぁ、なんて楽しそうな君なんだ。禁煙する代わりに、君とこうして過ごせるなら、俺は根気を持って禁煙できるかもしれない。
「ハジメ、キスして」
 誰もいない帰り道。愛しい君が俺を見上げた。それを聞いて、俺の目が覚めた。
 愛しい君と口づけを交わす。今日の君は大胆だ。彼女の舌が俺の唇に侵入してきた。なら、今日の俺も大胆でいってみますか?彼女の背中に手を回した。
「よし! これでいい!」
 彼女の唇が離れた。さっきまでのいいムードを壊すように、いつもの明るい声を聞いて、俺は意外すぎて言葉がでない。
 まだ舌触りが残る。
「キスするとね、タバコの味がするの。でも、ハジメが禁煙してくれたおかげで、気持ちいいキスができました!」
 そうか。だから禁煙なんだ。俺はやっと納得できた。前々から気になっていたんだ。キスをしたあとにでる彼女の不機嫌そうな顔。タバコが原因でしたか。
 今日のキスは、君に喜びを与えた。

 風呂上り。俺が二階の自室に向かうと、ヤツは勝手に俺のベッドの上に座っている。
 あたりまえのようにびっくりした。
「お邪魔してます!」
「何しに来た?!」
「寝付けないハジメ君のために、子守唄を聞かそうと思って参上しました」
「帰れ」
 タオルで濡れた髪を拭きながら、俺はイスに腰を下ろした。
 結局は、シュンイチの夜更かしに付き合わされた俺。
 
 翌日。愛しい君から、「夜更かし禁止令」が言い渡された。
 
      ***************


 日曜の朝。俺は珍しくベッドの上で目が覚めた。いつもの朝なら、散らかった床に俺が。そして、ベッドにはシュンイチが眠っているという最悪な状況だが、なんだか今日の朝は清清しさを感じる。
 あぁ、これがフツーの俺の日常生活なんだ。カーテンを開け、俺は眩しい朝日を浴びた。
 11時には寝ること。あれから「夜更かし禁止令」が出され、俺は小学生に戻った気分で、只今よい子な少年です。 親友は、そんな俺に引いたのか、最近家に姿を現さない。なぜか俺の両親のほうが彼を心配している。確かに・・・あんなに騒がしいヤツの声すら聞こえないから、物寂しいものだ。 それに、暇だ。
「あぁ、サチに会いたいなー」
 ベッドに倒れこみ、愛しい君を妄想する。
 本当は今日デートをするつもりだった。ところが友達と遊ぶ約束が急に入って、彼女はもちろん友達を選んだ。もし俺とのデートを優先していたら、彼女の印象が最悪になっていたことだろう。
 今日は会えない現実を素直に受け止めて、ゆっくり寝るか。
 そう思っていても、手が携帯に伸び、着信履歴の画面を開いた。
「あ、サチから2件きてるよ。」
 頭がまだ働いていなかった。時間をみるともう10時だ。よく寝たなと目をこすった。
 手の中で携帯が鳴った。かけてきた相手を確かめず、俺は電話に出た。
「はい、もしもし」
「ハジメ? もしかして寝てた?」
 この声はまさしく俺の元気の源。ぼんやりとする視界が晴れて、嬉しさがこみ上げた。
「いや、ピンピンだよ! サチのほうこそどうしたの? 今日は友達と遊ぶって言ってたじゃないか」
 早く聞きたい。友達より俺とのデートを選んだと。君の優先順位が変わったと。
「それがね、友達のおじいちゃんが昨日死んじゃったから今日は葬式に行くらしいの。だから、ハジメの家、今から行くね!」
「うん、どうぞ来てやってください!」
 嬉しくてたまらない。電話を切ったあとも枕に抱きつき、胸の高鳴りが膨れていく。
 彼女が俺の家に来るのは二度目だ。
 初めて俺の家に来たときは、すごく緊張して何もできなかったな。そのかわりに彼女は風邪を引いてしまった。体調がそのとき悪かったかもしれないが、俺の母親いわく俺の部屋が汚かったせいだと、説教をくらった。
 だから、俺は彼女がいつ来てもいいように、また体調を崩さないように、こうして部屋を清潔にしている、つもりだ。
 とりあえず、彼女が来る前に、気まずいものは処分する時間がないので、どこか見つからない場所に隠そう。ベッドの周辺を探り、エロ本の在り処を確認しようとした。
「あ、そういえば・・・シュンイチに全部貸してたな。なら、そっちの心配はしなくていいか」
 なんだか一安心。シュンイチが今日返しに来なければのはなしだが。多分、この調子じゃ姿をださないだろう。
 あとは掃除機で埃を吸えば、完璧だ! 
 彼女が来るまでまだ時間があった。
 朝の番組を一通りみてから動くか。テレビの電源を入れた。
 その時だ。俺は変な気配を感じた。嫌な予感だ。その物音は階段を上り、勢いよくドアを開けた。
「元気ですかぁ!」
 シュンイチが来てしまった。ヤツの手には大きな紙袋がにぎられている。 重たそうにドサと床に下ろし、シュンイチは肩を回した。
「なんだそれ? なんかの土産か?」
「まさかぁー」
 シュンイチは俺の体を引き寄せ、袋の中身を見せた。


 俺はため息をつきたくなった。いや、もうため息だらけだ。
「昨日、部屋を掃除してたら偶然みつけたんよ。んで、今日は返しに来たってわけ」
 俺が貸したエロ本が、たった今返ってきました。
 最悪のタイミングで。
「持って帰れ」
「は?」
「おまえに全部くれてやるから帰れ」
「ハジメ! もらってやってもいいけどさ、こんなもん母親にバレたら、俺の家は大戦争だぞ!」
 嬉しい反面、シュンイチの家庭事情も難しいものだ。俺は少し哀れに思った。
「だから、返す日が悪すぎるんだ」
 もう一度中身を確認しながら、親友に貸したその冊数に驚いた。ごみ収集所には持って行きにくい量だ。この後の始末を考えただけでも嘆息してしまう。
「あ! サチちゃんが来るんだ!」
 シュンイチは確信した。さすが親友と拍手を送りたいところだが、今の状況に圧倒されてそんな場合ではない。サチが、この大量のエロ本を目撃してしまったら、俺のことをいやらしい人間と誤解してしまうだろうか。大きな不安に駆られた。
「いいんじゃない? 男の部屋にエロ本の一冊や二冊ぐらいあったって」
「いや、そんなレベルじゃない。とにかく、これを持って一旦帰れ」
「てか、サチちゃんは何しにくるんだ?」
「何って・・・遊びにだ」
 とはいったものの、彼女が家に来てすることって何だ? ゲームか。お喋りか。それとも・・・。
「ハジメの期待することだったりして?」
 男ならそっちのほうを期待してみたいが、俺は大きく首を振った。
 シュンイチは俺の横腹を小突いて、ニヤニヤした。
「んじゃ、俺はそこの押入れに隠れて、盗聴するわ!」
「はぁ?!」
 シュンイチの足が押入れに向かった。襖を開けると、人が一人入れるスペースが偶然あるではないか。エロ本が入った紙袋を持って、シュンイチは入ろうとした。俺は阻止すべく、後ろからシュンイチを抱きしめた形で、引き出そうとした。
「おじゃましまーす」
 運が悪かった。一階からサチの声が聞こえた。
 慌てた。俺の手が離れると、シュンイチはまんまと押入れに入り込み、襖を器用に閉めた。
 彼女は部屋に来た。
 私服姿を見る機会が少ないので、しばらく見惚れてしまった。
 もし、二人っきりのままいい雰囲気になったら、俺はシュンイチにすべてを盗聴されるのか。視線がたまに押し入れに向く。
「なんか、前より部屋が綺麗になってる!」
「そうかな? 汚いほうだけど・・・」
 やばい。掃除機をかけるのを忘れた。内心焦った。
「なんか、ハジメの部屋って落ち着くね」
 その言葉が、その笑顔が、俺に至福を与える。


 やはりジャッキー・チェン主演の映画は、どこか笑えるな。俺もファンになってぜ、ジャッキー。すっかり見入ってしまった。
 サチが借りてきたビデオをみながら、俺は彼女と貴重な時間を過ごす。
 『男の期待』なんかより、君との何気ない会話で、この日を楽しむことが一番の幸せだと、改めて俺は実感することができた。
 愛する君に感謝だ。


 サチが帰ったのはそれから5時間後だ。
 当のシュンイチにはいくらか地獄だっただろう。


   *******************


 金曜日の夜。
 頑固な親父はチャンネルを変えてくれない。ドリフのスペシャルが見たい 俺なんだが、あいにくリモコンは親父の手の中に握られている。 
「おう、ハジメ」
 親父は重たい体を持ち上げて、俺の存在に気づいた。今日は機嫌がいいかもしれない。時計をみると、ギリギリ間に合いそうだ。
「ドリフが始まるから、変えてくれ」
「今日の水戸黄門スペシャルは見逃せんのだ。悪いな」
 ほんとに申し訳なさそうな顔で、俺をみる。水戸黄門スペシャルとドリフのスペシャルか。果たして、一般の家庭ではどちらをみるのだろうか。
「わたしはモノマネスペシャルがみたいから、よろしくね!」
 台所のほうから母の声が飛んできた。ま、どれでもいいけどさ。とにかく腹のすかした俺は、夕食が待ち遠しかった。
 この家では、母の意見が絶対なのだ。今日のみるテレビが決まった瞬間だった。
「サチちゃん、家に泊めてもいいわよ」
 今夜の母は機嫌がよかった。テレビをみながら、横にいる俺にぽつりと告げた。この人は気分屋だ。親父も俺もそのおかげでかなり振り回された。
「嘘だろ?」
 真に受けない俺。
「ほんとよ。だから明日にでも連れてきていいからね。お父さんだってハジメの彼女がどんな子か見たいのよ」
 途中から俺の耳元でこっそりと話した。親父をみると、夕食を食べながら、テレビに向かって笑っている。
「明日サチちゃんに電話とかで伝えといてね」
「はいはい」
 そもそも、年頃の男の家に、これもまた年頃の女の子を泊めていいものか。それをあっさり許してしまう母親もいいものなのか。こういう時に父親の怒声が聞こえてもいい雰囲気なのに、当の父親は勝手に番組を変えて時代劇スペシャルを見入っていた。
 隙をみて変えるその技は、見習いたいものだ。

 俺はふと思ったんだ。俺の親が許しても、サチの両親が許可するだろうか。俺の家族が楽観的なだけかもしれない。かわいい娘を持つ親としては『お泊り』という単語に敏感なはずだ。それに俺はまだサチの両親に会ったことがないという状況だ。見ず知らずの男の家にサチを預けるなんてできない。
 バカな俺。今更になって、ことの重大さに気づいた。
 サチは笑顔で、『お母さんに聞いてみるわ』なんて爽やかに言わ
れてしまったが、きっとあっちのお母様は・・・。想像しただけでも、愛しい君との誠実な付き合いが誤解されているかもしれない。
 あとはここのベッドで寝るだけ。一階の電話が鳴った。母が慌ててそれに応対した。誰だろう。こんな夜遅くに。お話好きなおばさんか。
 心のうやむやは消えないまま、俺は眠りについた。

 シュンイチはいつものように俺の家にいる。土曜日の昼だ。
 サチがもしこの家に泊まりに来るとしたら、どんなに楽しいだろう。
 あぁ、すべては昨日までのこと。早く忘れるんだ、俺。
 でも! やっぱりサチがこの家で俺と二人っきりで夜を明かすという光景が浮かんだ以上、この妄想は暴走列車化しそうだ。誰かブレーキをかけてくれ。
 枕を抱え込み、俺はベッドの上で何度も転がった。天井を見上げて、俺の動きは止まった。
「そう落ち込むなって。お泊り会が駄目になっただけじゃん」
 やりかけているテレビゲームを消して、俺のほうに向き直った。
「シュンイチ・・・」
 この何気ない励ましにも似た言葉に、俺は感動しかけた。気のせいか、俺は聞き間違いでもしてるのか。
「・・・お泊り会って何だ?」
「だからぁ、お泊り会だろ?」
「いいか? お泊り会っていうのは、大勢が泊まるということであって、泊まるのはサチだけだったの」
「だからぁ、俺もその中に入っているわけ。でも、サチちゃんが駄目なら、泊まるのは俺だけになりそうだなぁ。いや、非常に残念な気持ちだよ」
 シュンイチのいかにもわざとらしい口調が聞こえて、俺の手が後ろにある押入れの襖を静かに開けた。
「入れ。今度は三時間だ」
 ヤツの弱点は知っている。狭所恐怖症だ。あの日の五時間という長い時間をここで過ごした者なら、まさにこの押入れは恐怖の暗闇だ。シュンイチは苦笑しながら、数歩後退していく。
 親友を攻略した瞬間に、俺は不敵な笑みを浮かべてみるもんだ。
 ピンポーン。その時、家のインターホーンが鳴った。
 こんな昼に来客とは珍しい。いつもなら母親が出て行くのだが、あいにく両親は仕事で不在だ。俺は急いで階段を下りて、玄関へと走った。
「はい、どちらさまですか?」
 ドアを開けると、サチが笑顔で迎えてくれた。その手には、大きな荷物―というか鞄を持っている。
「サチ?」
「来ちゃった!」
 これは夢か。まさかと思った。彼女が目の前に現れて、俺に至福の知らせを告げにきた。君は天使だよ。
「泊まりに来ちゃいました!」
 

   ******************
 
 彼女は俺より一つ年下だ。
 俺が高校二年生で、彼女が高校一年生。愛しい君はすごく甘えん坊で、何気に腕を組んで俺の肩に顔を擦りつける。まるで猫のような可愛さと、猫のような気分屋なのだ。
 そんな彼女を愛するのは俺、ハジメである。
 なぜ、急に年齢の話をしたかというと、今夜は彼女と過ごす甘い妄想すら浮かばないでいる、俺の部屋が舞台になった。
 シュンイチが昼間に言っていた《お泊り会》が実現に向かって大きく動いている。てか、もうお泊まり会なんだ。
 シュンイチはこの狭い部屋の中で、例の押入れとは距離を置いて座っている。俺は自分のベッドの上で部屋を見渡す位置にいて、彼女は俺の隣でおとなしくみている。
 そして、恐れていた物音が階段を上がる。
「こんばんわっす!」
 始めに顔をだしたのはナオヤだった。純粋な瞳が似合う俺の同級生であり、悪ガキであるシュンイチに電話番号を快く教えてしまった優しい少年である。
「ここで飲み会なんて久しぶりねぇ」
 次に顔をだしたのがアキだった。根は気の強い女子。一時期はシュンイチと関係にあったが、一週間ももたなかったらしい。お互い未練などはなく、逆にけっこうぶつかることが多い。
 シュンイチがはりきって「お泊り会」を進めてくれたおかげで、この部屋にナオヤとアキが加わった。きわめて少人数なのだが、俺の部屋の規模を考えれば、けっこう多人数。うんざりするのはこの家の長男である俺、ハジメである。
「あんなぁ、アキ」
 俺は頭を抱えて横に振りながら、
「飲み会じゃなくて、お泊り会なんだ」
「え? なにその幼稚園児みたいなお遊びは? フツーは飲むでしょ? ねぇ、ナオヤ?」
 アキは横にいるナオヤに話を振った。
「僕は、シュンイチ君から、失恋を一緒に乗り切ろうって電話で誘われたから、来ただけでありまっす!」
 調子のいい返事。俺がふと彼女がみると、彼女は初めて会う二人にけっこう緊張している様子。目が怯えている。みんな先輩だから当たり前か。そんなところが可愛らしいというか、抱きしめてあげたいというか、早く邪魔な奴らを一掃清掃したいというか、いろいろな衝動に駆られた。
「アキは飲み会。ナオヤは失恋パーティー。おまえって、いろいろんな口実を言ってみるもんだな」
 決して尊敬の念などは抱いてはいない。シュンイチに真っ直ぐに見据えた。
「失恋を一緒に乗り切ろうぜって、おまえは最近失恋してないじゃん!」
 俺が知る限りではそんな訃報は耳にしたことがない。
「その場のノリってやつよ!」
 シュンイチは案外楽しんでいる。親指を元気よく立てた。
 俺は彼女と一階に降りた。二階からはなにやら騒ぎ声が聞こえる。
 あとで追い出すか。そのためには体力をつけなくては。三人に一人だけが立ち向かうのは一苦労だ。
 
 あとで知ったけど、俺の母親とサチのお母様は、とりあえず知り合いらしい。けっこう厳しい人だと勝手に印象付けていた俺なのだが。俺と母親と似ていてけっこう明るい人なのだ。
 一階の台所に入ると、ちょうど電話が鳴った。
 母親より早く、俺が受話器を取ってみる。
「もしもし、小川ですけど」
「あなたがハジメ君ね?」
 おばさんの声ということは母親の知り合いか。それも俺の名を知るとなると、母親の交友関係が広いせいで特定が遅れる。
「夜分すいませんね。サチの母でございますけど・・・・・・」
 サチのお母様ですか。俺の母親は鼻歌を歌いながら、夕食の準備に取り掛かっている。今日はご馳走になるらしい。俺が今まで食べたことのない料理が並びつつある。
「母にかわりましょうか?」
「いえ、ちょうどハジメ君がでてくれたからいいわ」
「あ、そうですか」
「まだこっちの家に顔をみせたことないから、どんな男の子と付き合っているか不安に思ったわ。でも、声を聞いたら、優しそうな人ね。サチが気に入るわけだわ。あの子ね、よく家でハジメ君のことばかり話すのよ。」
 お母様の笑い声が聞こえる。
 そんなサチの意外なところに俺も笑みがこぼれた。彼女に視線がいくと、夕食の手伝いをしてくれている。しばらくみとれて、今だけはお母様の声が上の空。
「サチをよろしくお願いします!」
 お母様の活の入った声で我に戻った。あやうく受話器を落としそうになった。そんな姿に、サチがクスと笑った。
「わかりました。えと、今度挨拶に伺いますので、こちらこそお願いします」
「気軽に家にきてちょうだい! じゃ、おやすみなさい」
 俺は受話器を戻した。手伝いを終えた彼女が、俺の元に歩み寄った。
「誰から?」
「サチのお母様からだよ。娘をよろしくおねがいしますだって」
「他には? 何かいってた?」
「サチは可愛い女の子よって話してたよ」
「ウソ」
「ほんとだよ。俺のことばっかり話すところがね」
「・・・・・・」
 それを聞いて彼女の顔は真っ赤になっていく。俺は楽しそうに紅潮した顔を覗きこんでみた。そして照れのあまりに、彼女から勢いよくビンタをくらってしまったが。正直痛い。
「サチ?」
 ヒリヒリする頬をさする。
「ハジメはあたしのこと、どういうふうにみてたの?」
「どういうふうって?」
「気の強い女とか、扱いにくい女だとか。あたしのこと嫌ってたりする? さっきも殴ったし」
「全部ひっくるめて可愛いよ」
「ほんとに?」
「うん」
 俺は当たり前というように頷き、彼女の唇に、優しいキスをした。
「嫌いになったら、俺はサチにキスなんかしないよ」
 彼女の曇る顔が少しずつ晴れていく。
「ハジメ、大好き!」
 サチが抱きついてきた。「わぁ! 幸せ!」と心から喜びたい気持ち。サチの背後をみると、俺の母親がこちらを凝視しているのに気づいた。
 俺はわざとらしい咳払いをして、彼女を引き離した。「わぁ! 恥ずかしい!」という気持ちのほうが大きかった。
「夕食できたから、シュンイチ君たちを呼んできてね」
 サチとの親密な時間は、またおあずけということで、俺は階段のほうに走った。
 
 今日の夜空は綺麗そうだ。
 君を連れて、こっそり星を見に行こう。

 
 
 
 



   
  
2004/04/11(Sun)12:08:48 公開 / 葉瀬 潤
■この作品の著作権は葉瀬 潤さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 男の子の視点から書きました。
 はっきりいってめちゃくちゃなものです。
 そんな作品でも読んでくれたら嬉しいです!
 読んでいて文章がかなり硬い気がしますので、許してください。
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