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『アダム 〜want a my name〜』 作者:多雨 / 未分類 未分類
全角3237文字
容量6474 bytes
原稿用紙約10.75枚
「HA−38、それがお前の名前。それじゃダメなのか・・・?」


その言葉は、男のうんざりとした気持ちをそのままにしたような感じだった。
男はツヤのない黒髪を手で掻き乱しながら、彼の長身とは反する小柄の少年を見下ろした。
男とは対照的にツヤのある美しい銀髪を肩ほどで整えており、その顔は少女ともとれる綺麗な顔立ちで、紅い瞳は真っ直ぐと男に向けられていた。
HA−36---それが彼の正式名称だ。だから、彼を作った科学者や管理者は『36』と、略して呼ぶ。彼は『HA(ヒューマン オートマトン)』なのだ。
その『HA』の彼が「名前がほしい」と、管理者リドル・ロイディンに言ってきたのは今朝のことだった。今朝はHA−36をさっさと機能テストに連れて行ったので、話は中断されたが、彼の要求はテストが終わったあとも続いた。そしてさっきの言葉。
リドルの役職は管理者であるが、実際の所、管理することはほとんど無く、単なる話し相手という感じだった。そんな彼に『HA』に名を授けるような権利はなく。ましてや冗談という形で付けでもして、『HA』に「人間になれるのではないか」という考えをされては大問題になる。50年ほど前、そういう考えを持った『HA』と人類の大規模な戦争が行われたのだ。

「・・・私は名前がほしいのです。」
HA−36の小さく、そしてしっかりとした声が耳に届く。
リドルは、ため息を吐くとしゃがみ込み、HA−36と目線を合わせた。真っ直ぐな瞳は変わらない。
「分かったよ。そんなに名が欲しいんなら、俺が上のお偉いサンに伝えとくよ。コレで良いか?」
固かった表情が一瞬で明るくなる。
「はいっ!ありがとうございます。本当に、ありがとございますっ!!」
お礼を『HA』の感情プログラム、最大限に言うとHA−36はリドルに背を向けて白い廊下を走って行った。リドルは後ろ姿を見送ると苦笑した。困ったように、申し訳なさそうに、まるで、罪を犯したかのように・・・。
「ったく。礼、なんて言うなよ。俺は、お前を------」



名前がもらえる。そのことが、ただ、嬉しかった。
どんな名前でも良い。『HA−36』なんて番号なんかより、リドルさん達のような名前が欲しい。
『HA』の仲間達は「名前なんかあってもしょうがない」って、言うけど欲しいモノは欲しい。
・・・そういえば、何故私は名前が欲しいのだろう?よく、分からない。でも欲しい。貰ったら、何故欲しかったのか分かるようになるかな。あぁ、待ち遠しい。



『HA−36、管理者リドル・ロイディン。36に問題でもあったのかね?』
廊下と同様、真っ白なホール。そこに数え切れないほどの黒い立体映像受像器が並べられていた。その中の一つから白衣を着た、やや太りぎみの中年の男が映り出されていた。
「自分の管理するHA−36が・・・その、」
『なんだね。私は忙しいのだ、早くしたまえ。』
立体映像が苛ついた口調で言う。たいして忙しくないから出てきたんだろうが、と白衣の男を頭の中で軽蔑しながら、リドルは言った。
「----その、名が欲しいと言い出しました。」
男の顔が驚愕の色に変わる。なにか、叫ぼうと口は開くが言葉が思いつかないのか、そこで止まる。
「今朝から言い出し、無視していたのですが、機能テストLv6(Lvは1〜8まであり、エラーがないか調べることから、戦闘機能までの内容)を終えたあともしつこく要求してきたので、ご報告に来ました。」
『では、機能エラーではないのだな。なんということだ・・・!』


50年ほど前、HA−36と同じようなことを言った、女型『HA』がいた。そいつは望み道理、名を与えられた。名はイヴ。世界で最初で最後の名のある『HA』。
イヴはいつしか人間以外にも、『HA』にも正式名称ではなく、イヴと呼ばれ始めた。そして、混乱は始まった。『HA』達は名のあるイヴに憧れ、嫉妬した。名前がある、それだけで何故こんなにも存在価値が違うのか、名が欲しい、名が欲しい、名が欲しいナガホシイナガホシイ・・・・
イヴに名前が付けられてから、戦争に発展するには、そう時間はかからなかった。


『-----ばいい・・・。』
「はい?」
不意に目の前の立体映像がしゃべったので、間の抜けた声を出してしまったが、男は思い詰めた様子で指摘することはなさそうだ。
『36のメモリーを修正すればいい。戦闘能力は落ちてしまうが、スクラップするよりは抑損ができる。なぁに、4ヶ月ほど修理がかかる程度だ。それに-----』
「ま、待って下さいっ!その場合彼の、36の記憶にはどのくらい影響が及ぶのですか?」
無意識に口を挟んでしまった。男は不機嫌な眼でリドルを睨み付けたが、それ以上はせずに答えた。
『記憶の半分も残ることはない、基礎的な戦闘知識以外は消えるだろう。お前のことも覚えて入られまい。』
嫌みなのか気遣ってなのか、男は無表情でそんなことを言った。
『HA−36、管理者リドル・ロイディン。明日、明朝HA−36を回収室に連れてくることを命ずる。行ってよし』
立体映像が消え、リドルは足早に部屋を出る。
まわりがやけに、静かに感じた。



リドルさんが近づいてくるのが見えた。
泣いてる、そう思った。
でも、気のせいだったみたいだ、リドルさんは笑っている。
いままでで一番笑っていて、私の頭を初めて撫でてくれている。
・・・やっぱり、悲しそうに見えてしまう。エラーかな?
リドルさんが私の肩をつかんで、言った。その、顔を見上げる。


「お前を明日の明朝、ちょっとした修理に出すから。」


言った。出来るだけ軽い口調で言おうと決めていた。
36の紅い眼がよく分からないというふうに、見上げていた。やがて視線は下ろされ、36は動かなくなった。『HA』特有の悲しみの表現。声を上げるわけでもなく、涙を流すわけでもない。
「今日の機能テストでは異状が無かったはずです。エラーもハッキリと確認されていません。私が修理に出される必要は無いはずです。」
体を動かさないまま36は言う。『HA』にとって、修理は2種類ある。人間とそっくりに作られた身体の修理と、金属や導線で構成された内臓の修理。身体の場合、他国との戦争やテロなどで傷ついたときに行われ、部品も普及されているため壊れる可能性は低い。しかし、内臓の場合『HA』によって部品は異なるせいか、壊れる確率は高かった。36の修理は内臓の中でも安全な部分なので壊れることはないが、そのことを言っても36が安心することはないだろう。
「36、お前の修理は少し特別なんだ。どこが悪いのかは言えないが、壊れる事はない、それは絶対だ。あと、名前のことなんだが・・・-----」
36が顔を上げた。話を、修理から名前に移すとこに成功した。
「名前、貰えるのですか?」
リドルは肩に置いていた手に力を入れ、口を開いた。

36は名前を貰った。



『-----リドル君、君を今日ここに呼んだのは、相談したいことがあったからなのだよ。』
「何でしょう?」
白く、広い部屋。立体映像受信機と、そこから映し出された白衣の男。そして、その前に立っている、リドル・ロイディン。何ヶ月か前と同じ構図。
違うのは、話す内容とそれぞれの心境。
『君が以前担当した、HA−36の修理が終わったのだ。』
リドルは予想していた内容をありのまま受け止め、男の次の言葉を待った。
『36の記憶は戦闘基礎を残して全て消えた。そうなるはずだったのだ・・・しかし、彼は訳の分からない言葉を口走るのだよ。君なら分かるかもしれない、彼は-----』


『アダム』
それが私の名前だ。
何故かは、分からない。
誰かに付けて貰った。そんな気がする。
『アダム』
私はこの名前が好きだ。
誰も名前で呼んではくれないけれど、
あの人は最後に呼んでくれた。

あの人、誰だろう?分からない。

戦争になると誰かが叫んでたけど、
私に名前があることがいけないのなら、
呼ばなければいい。
私の名前は私だけが知っていればいいから。
・・・でも、できたらあの人に呼んでもらいたい。


+++++++++++END
2004/02/16(Mon)17:55:38 公開 / 多雨
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■作者からのメッセージ
多雨という者です。初めまして。
小説が上手く書けるようになりたいので、たくさん指摘して頂けると嬉しいです。
出来れば、間の取り方がよく分からないので教えて下さい。お願いします。
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