- 『間違った愛の形』 作者:永吉 / 未分類 未分類
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原稿用紙約9.75枚
そもそもこれは間違いなのか。
・・・・いや、間違ってはないのかもしれない。
ひょっとしたら個性豊かな愛情表現だったのかもしれない。
人間はみんな違ってみんないいなんて言われてる時代だからこんな人がいたっていいのかもしれない。
愛に常識だとか非常識だとかは存在しないのかもしれない。
彼が異常な人間であったとしても、
それがネクロフィリアと呼ばれるものだとしても、
愛の形っていろいろあるのかもしれない。
例えそれが、どんな罪であろうとも。
間違った愛の形
あぁ、チヅル。僕は今最高に幸せだ。
今ここで、たった二人しか居ない空間で、僕はキミを抱きしめている。
綺麗だよチヅル。何て愛しい僕の恋人。
――――今日は二人の思い出を振り返ってみようか。うん、それがいいそうしよう。
僕がキミと出逢ったのは確か二年前のことだったね。僕が高校二年生で、キミが一年生。部活の先輩と後輩だった。写真部はとても楽しかったね。僕は初心者のチヅルに一から教えてあげたなぁ。
キミはそのときライカと使い捨てカメラはどこがどう違うのかって僕に聞きにきたよね?・・・あぁ、照れなくてもいいよ。いいじゃないか。そのときキミが僕にそのことを尋ねなければ二人の出会いはなかったかもしれないのだから。
実を言うと、最初はキミのことなんてあんまり気に掛けてなかったんだ。・・・あぁ、ごめんごめん。でも、会話を重ねるごとにどんどんキミに魅入ったよ。チヅルは美しかったからね。いつの間にか僕のカメラのレンズはキミを追っていた。
キミがバレンタインデーの時、僕に告白してくれたのは驚いたよ。僕もその次の日のキミの誕生日に告白しようと思ってたからね。正直悔しかったよ。どうせなら男から言いたかった。チョコレート、美味しかったよ。チヅルの味がした。一緒に紙袋の中に入ってた手編みのマフラーも僕にピッタリのデザインだったよ。キミも似合ってると思ってくれたハズだ。
そういえば最近編み物しなくなったよね。
初めてのデートは図書館だった。今思い返すとやっぱり色気ないなぁ。まあ二人とも学生だったし仕方がないか。まあチヅルと居られれば僕はどこでもよかったけど。勉強もそのときだけは苦じゃなかった。
大抵勉強を教えてあげるのは僕だったけど、キミは頭がよかったからよっぽど難しい応用問題以外は自力で解けてた。真面目な子だったからねぇ。時々僕の問題も一緒に解いてくれてたし。すごく頼もしかったよ。
図書館とはいえ僕らはお喋りばかりしていた。と、いうか8割方チヅルが喋ってたよね?キミはお喋りが大好きだからずっと僕に語り続けてくれてた。クラスでのこと、ムカつく先生のこと、親のこと、友人のこと。時には真剣に悩んだり、すごく笑ったりして。図書館の館員さんによく睨まれたな。
そういえば最近お喋りしなくなったよね。
僕が三年でキミが二年に上がった時のこと、憶えてる?
「二年生になったから、キスしてください」
って僕に言いにきたんだ。しかも始業式の日に。
僕は思い出した。付き合い始めたときにチヅルが「お互い進級したらキスしよう」と約束したのを。
そしてキスをした。まだ少し肌寒い気候だったし、誰も立ち寄らない中庭でだったから、きっとみんな見てないと思うよ。次の日も噂にならなかったしね。
そういえば最近キミからキスしてこなくなったね。
部活最後の夏の合宿はいい思い出になったなぁ。河本が池に落ちて部員全員で「大きなカブ」みたいに引っ張って助けたり、全員でカレー作って失敗してお米がおかゆみたいになったりして。ルーはチヅルが担当だったから美味しかったけど。三日目の夜には海辺で花火をした。
浴衣姿のキミは綺麗だった。僕らは二人でこっそり岩辺に隠れて何度もキスを交わした。今まででキミを見てきて一番綺麗だと思った。線香花火はすぐ消えてしまったけど、僕らの愛は永遠だと思った。
その後は朝が来るまで二人で目的もなく歩きまわったっけ。星がとてもキラキラしてた。まるで二人の未来を照らしだすようだ。
そういえば最近二人で散歩しなくなったね。
それからちょうど一ヵ月後は、僕の誕生日だった。
キミは料理が得意だったから、僕に手作りのケーキを作ってくれたね。あの時は本当に嬉しかったよ。ちゃんとロウソクまで買ってきちゃってさ、何だか子供に戻ったみたいだった。プレートには僕の名前とおめでとうの文字が勿論チヅルの字で刻まれていて、何だか少し照れくさかった。
それから二人でシャンパンを飲みながらお互いに大好きな映画を観て夜を明かした。二人ともよく眠らなかったよね。今じゃ考えられないな。
そういえば最近映画観なくなったよね。
問題はその後の出来事だった。僕は受験モードに入らなくちゃいけなかったから一時期キミと離れることにしたよね。愛しくて、手放したくなかったけれど、大学に入ってからもっともっと会う時間を作ればいい。そう思っていた。
チヅルはそうは思ってなかったの?
僕は悲しかったよ、もの凄く。
ある日僕が参考書を買いに本屋へ行ったとき、キミと出会ったんだ。チヅル、憶えてると思うけどあのときキミは一人じゃなかったよね?
そう――――あろうことか男と並んで歩いているなんて。
・・・信じられなかった。僕がチヅル以外の人を愛さないと誓ったように、チヅルも僕以外の人を好きになるとは思えなかった。
今なら許してあげられるけどね。悪いところは僕にもあったよ。寂しい思いをさせてごめん。もうずっと・・・ずっと一緒にいるから。
しかしあの時の僕はキミを許せない部分があった。まだ子供だったんだ。でも男は昔から女よりも独占欲が強いんだ。常に僕だけの物であって欲しいと思っていたんだ。無論今でもね。
だからキミを問いただした。僕は凄く怖い顔だったろうね。今思い出すとすこし恥ずかしくて、懐かしい。
キミは涙声で少し震えながら僕に「もう別れよう」と言い出した。僕よりもその男のほうが好きになったからって理由をつけてね。
でも僕は知っていた。それがキミの本心でないことを。僕と会えなくなって、寂しくなった心の穴埋めに、彼を使っただけだろう?ただのインスタントに過ぎないよ、それは。やがてすぐ別れることになる。
僕が冷静な判断でそれをキミに伝えてあげたのに、キミはきちんと受け止めようとはしなかった。
だからこの方法が最善だったんだ。
二人がぎくしゃくし始めた時、僕らは話しあうために僕の部屋に行ったね。僕としては別に話し合うことなんて何もなかったのだけれど、キミがどうしてもって言うから僕の部屋に行ったんだ。
そこでキミは二回目の別れ話を持ち出した。
「もう私達終わりにしましょう」
って。
そのときは本当に悲しかった。
あれはたちの悪い冗談だったんだろう?
本当は僕のことが好きで好きでたまらなかったんだろう?
愛して止まなかったんだろう?
だけどもチヅルがあまりにもおかしな発言ばかりするから、
哀しみに満ちた表情ばかりするから、
僕を見て涙を流すから、
僕はチヅルに一杯のコーヒーを差し出した。
―――キミは飲んだ後、青酸カリの毒に犯された。
それから
編み物をしなくなって、
喋らなくなって、
キスをしてこなくなって、
映画を観なくなって、
散歩をしなくなった。
だけど僕はキミが好きだよ。
世界で一番愛してる。
もう言葉で聞くのは無理だけど、こうして抱きしめていられる。
立ち上がるのが無理ならずっと座っていればいい。僕が支えているから大丈夫だよ。
本当にチヅル、キミが好きだ。
キミも同意見なんだろう?分かっているよ。言わなくても、分かってる。
二人の愛は永遠だってこと。
キミが死体になってしまった今でも、この 愛は変わらないよ。
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■作者からのメッセージ
不思議で、滑稽で、謎で、気持ち悪いけれど少し切ない話を目指して書いてみました。
何か読んだ後に残る小説書きを目指しています。
初投稿なので何かと至らない点もありますがご了承ください。