- 『かたり ことり 』 作者:如月 琥珀 / 未分類 未分類
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全角2739文字
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原稿用紙約8.35枚
〜プロローグ〜
私はベットで横になり、雑誌に目をとめていて、そのとなりでテレビをただボゥっと見ている男。私の彼氏だ。
いつもと同じ二人の時間の過ごし方。でもこの日は少しだけ違ってた。そうただ少しだけ…
「チョコレート一つとってや」
銀紙に1個1個包まれていて1つの大きな袋に入ってる、どこにでも売ってるチョコレート。
チョコレートが大好きな私はよく買い足しては暇があれば食べていた。
『チョコレート一つとってや』そういって頼んだ私にあなたはその袋ごと私に手渡した。
「一つでいいねん」
そっけない私の態度。あなたはただ黙って笑ってた。
気の長いあなたは、いつも私のわがままにも腹を立てずに、まるで子供でもあやしてるみたいにただにっこり笑って頭をなでる。
私はこの時気付いたことが一つあった。
あなたはきっと私の欲しい言葉や行動をいっぱいくれる人だってこと。もっと言うと、いっぱいくれすぎる。
私は一つずつしかそれをあげられない。分からないよね?そんな私があなたはもどかしくて、淋しくて、そして不安にさせてるんだから…
「なんで今袋ごと渡したん?普通一つって言われたら一個だけとるやん」
「一つじゃ足りんのちゃうかなって思った。美奈はチョコ好きやから」
いつもそうだ。なんでも過剰に私のことを思う。甘いのをいっぱい、しつこいぐらいにくれる。いつもそう。息がつまりそう。
私はもっと自由なはず。「あなたの思い」なんて鎖なんかはずしていつでも逃げていけるのに。
代わりの男なんていくらだっているし、すぐ見つかるのに。いつもそうして生きてきたのに…
未だ私はあなたの手の中にいる。
あなたは私の52番目の彼氏。
第一話「育った町 さよなら 水車小屋」
私は 溝上 美里。今年18歳で高校を卒業した。なんにも将来の事も考えないでただ呆然と過ごした高校生活。自分でも呆れてしまう。
私が育ったこの町は京都の山奥で、家と家の間には田んぼしかなくて、最寄の駅まで車で何十分もかかるし、デパートもなければコンビニさえない。学校まではいつも一日10本しかでてないバスで登校していた。
都会に憧れの強い私は雑誌でファッションを勉強して、この辺りでは有名になるぐらいに派手だった。
手足は長いし、背が高い。目は大きくて、化粧栄えした。
みるからに少しまわりと違うわたしを、同級生から良く見られるはずもなく、いつの間にか仲間はずれになってた。いじめ。田舎の暇な少年少女の楽しみなのか?
上履き紛失、靴に画鋲、教科書に落書き、無視。一体あなた達はいくつなの?やりたい奴にはやらせておけばいい。そのうちいじめは鎮圧したものの、仲間はずれはその輪には戻してもらえない。派手ないじめではなくなったが、私はもう別の生き物扱い。でも自分からその輪に戻ろうともしなかった。
その代わりにもっと楽しいことを見つけてそれに夢中だった。その頃流行していた携帯の出会い系サイトで、たくさんメル友をつくることだ。
大阪の地域で登録していた。だから会うつもりもなかったし、メールをやりとりしている時の私は偽りで塗り固められた別人になることに楽しみを覚えていた。
ある時は大阪市内で働くOL。ある時は看護婦、ある時はスチュワーデス、人妻…メールの中でなら私は何にでもなれた。それで男の人をその気にさせるのが楽しかった。
それに、何もすることがなかった休み時間をこれで有意義に過ごせることができた。
実際の恋愛がしてみたい。そう思ったのはこの頃だ。
そんな私に初めて彼氏ができたのは、高2の冬。初めての彼氏は2つ上の人だった。学校前のバス停で声をかけられたのがきっかけ。細身で目が少し鋭い。それに爆発したみたいなパーマ。そんなにタイプでもなかった。でも、流されるままに付き合っていた。
一番目の彼氏、トオル。
好きと言う感覚ではなかった。ただ、今までメール越しでしていたことが現実になっただけ。この男を惚れさせることに喜びを感じていただけだ。
初めてSEXを教えてくれたのはトオルだった。痛みだけのSEX。トオルも初めてだったから、ただ自分の欲望を満たすだけのSEXにただ付き合わされるだけだった。
トオルと付き合って本気で恋愛した訳でもなかったし、一緒にいて楽しかった訳でもなかった。
ただ彼氏がいる、ロストバージンした。そのブランドが私のお気に入りだった。
このブランドさえあれば、私をいじめていた奴らを見返せる。そんな勘違いさえ起こしていた。
実際の恋愛ごっこに味を占めた私。もっとブランドが欲しくなった。私の中でこの時変わったこと。それは、新しい出会いが欲しいと思ったこと。
今まではメールだけだった出会い系サイト。私はその禁忌を破った。
ある日曜日、私はトオルとのデートを断り出会い系サイトで知り合った男と会う約束をした。
22歳、大学生、背は高く細身、趣味サーフィン。京都駅、夕方4時、大階段の前で。あっさりわかる相手の情報、決まる予定。不思議とトオルへの罪悪感はなかった。
朝早く起きてオシャレをする私。妙なドキドキ感。どんな男がくるのか。期待するだけ無駄だと言い聞かせようとした。出会い系サイトでカッコイイ人が来た、上手くいったなんて話聞いたことがなかったからだ。
でもメールのやりとりは私の想像を掻き立て膨らませた。私の中の彼は美化されていた。
高鳴る胸を抑えつつ待つ日曜日の京都駅。人通りが多い大階段の下、メールを受信。『今着いたよ。俺は白いTシャツにジーンズやで!大階段の真中におるよ。』
一つ息を飲んで見つめたその先に彼はいた。
2人目の彼氏ヒロト。
彼は茶色い髪に今時っぽい顔立ち。背は高くてスラッとのびた手足が印象的。カッコイイと素直に思った。
一日デートして私は彼と付き合いたいと思った。
好きになったわけではなく、今の彼氏よりもルックスのいいこの男を新しいブランドにしたかっただけだろう。
気を惹かせる為にくっついて、甘い声で話す。上目づかいで彼を見つめる…総力を挙げてのモーション。ついにヒロトは落ちた。
「今日初めて出会ったけど、俺美里のコト好きになったから付き合ってほしいんやけど…??」
待っていた一言。私は勝利の笑顔でヒロトを見る。
「嬉しい。こちらこそ、よろしくね。」
トオルとも別れてないうちに私は次の彼氏をつくってしまった。でもやはり罪悪感はない。
この日の夜に私とヒロトは体を結んだ。ヒロトとSEXして初めてイクことを知った。トオルとは違う相手のことを考えるSEX。SEXの魅力をここで知った。でも、知るのが少し早すぎたと今では思う。
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2004/02/28(Sat)14:22:51 公開 / 如月 琥珀
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■作者からのメッセージ
どうも☆私、デビューいたしました!今度受賞式で東京にいってきます♪これからも応援してくださいね!