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『奇 病』 作者:君影草 / 未分類 未分類
全角2849.5文字
容量5699 bytes
原稿用紙約8.3枚
母さんはと父さんに殺されたんだ。

僕は生まれたときから重い病気にかかっているらしく、外部のちょっとした細菌も警戒して15年間世間から隔離されていた。家は豪邸ともいわれるほど広く、気品を漂わしていた。
食事の時はいつも母さんが完全防備スーツとやらを身にまとって清潔すぎる格好で食事を運んできてくれた。僕が人間と会話ができるのはその時だけで、残りの時間はパソコンを通じた一般教育や、TV、ゲームなどにあけくれた。それと1日に1回は必ず完全防備スーツをきた人たちが僕の状態を身に来てくれた。
3月15日、いつもの昼の食事の時間になっても母さんはやってこなかった。10分くらい遅れてメイドらしき人が完全防備で部屋に食事を持ってきた。
僕が母さんのことをメイドらしき人に聞くと、少し間を置いて申し訳なさそうに
『先日お亡くなりになりました・・・』
と、それだけいって部屋を出ていってしまった。

2日間、僕は夜も眠らず泣きつづけた。僕の一番の理解者だった母さん、スーツの中から伝わってきたあの暖かさはもう二度と感じることはできない、そう思うと泣いても泣いても次から次へと涙があふれてきた。

泣きつづけて3日目の夜、僕は泣きつづけて部屋のドアにもたれかかっていた。するとドアの向こうでメイドが、2,3人で会話をしているのが聞こえてきた。僕はドアに耳を押し付けて話を聞くことにした。

「ぇ、奇病?」
「だって私見たもの。奥様の体中に斑点のようなものがでていて、目は血走ってい て。こんなこというのもなんだけど、まるで化け物のようだったわ。」
「じゃあ、やっぱりあの噂は本当だったのね・・・」
「噂?」
「知らないの?旦那様は病原体専門の研究者でしょ。それである組織から生物兵器 の培養を依頼されているらしいの。それでその研究対象が奥様だったっていう話 よ。ちなみにその組織が国家じゃないかっていわれてるのよね」
「なんでよりにもよって奥様なのよ」
「もともと恋愛結婚したわけじゃないそうよ。奥様のご両親もお亡くなりになられ て、重荷だったんじゃないかしら?」

にわかに信じがたい話だが、そんなことはどうでもいい、この胸の奥からにじみ出るようなどす黒い感情が僕の脳を支配する。生まれて初めて抱く感情
『憎しみ』
母さんは父さんに殺されたんだ。

こうしてはいられない。母さんを殺した父さんに生かされるくらいなら死んだほうがましだ。とりあえずこの家から出なくては。それに1度でもいいから外の世界を自由に冒険してみたいというのもあり、迷いはなかった。
しかし、僕の部屋のドアはもちろんのこと、窓など、外部からの影響を受ける可能性のある部位はすべて厳重に防護してあり、15年間運動もろくにしていない僕が壊せるはずもなかった。そこである作戦を立てた。その作戦とはこうだ。
母さんが死んでから食事時になると決まって同じメイドが食事を持ってくる。メイドはこの部屋にはいるためのカードキーをいくつかもっていることだろう。つまりそのキーを奪いさえすれば、こんな広い家だ、外に一人出ようがきずきっこないだろう。


作戦はあまりにも簡単に成功してしまった。ちょっと拍子抜けしてまいそうだが、晴れて自由の身だ。僕は母さんとの思い出だけが残る豪邸を後にした。

家を抜け出し街に出てきたはいいものの、このシルクのパジャマはやはり目立つらしい。まぁ部屋から一度も出たことのない僕にとっては当たり前のことではあるが・・・。
それにしても街はにぎやかく、見るもの聞こえるものすべてが新鮮に感じられた。
ただ、闇雲に歩き回ってまだ15分もたっていないのだろう・・・。すでに足が痛い。僕は街の隅に見える公園のベンチで一休みすることにした。

空はガラス越しでしか見たことのないきれいな夕焼けだ。今ごろ父さんやメイドの人たちは心配しているかな。じっとしているといろいろ考えてしまう。父さんの研究のこと、母さんとの思い出・・・。

ひどく体が寒い。目が覚める・・・。どうやら考え事をしているままベンチで寝てしまったらしい。今は朝の8時くらいだろうか。でも、それにしては人の気配がぜんぜんしない。おかしいと思い、僕は街をいくあてもなく歩くことにした。

公園を出てすぐ、僕は恐ろしい光景を見た。
あちこちで血をはいたまま倒れている人の群れ。恐らく死んでいるのだろう。僕は近くにころがっている10歳くらいの男の子の死体を覗き込んだ。
まさか。僕は目を疑った。男の子の体中に斑点のようなものがあり、目は血走っている・・・。メイドが話していた母の死に方と同じじゃないか・・・。僕はもう一度あたりを見回した。悪い予感は当たるものだ。ほかの死体にもすべて共通して同じ症状が出ていた。

20分くらいそのままだったろうか。僕はふと考えた。この場所にいたら僕まで同じ病気になってしまうんじゃないか。むしろもうかかっていてあと数時間もすれば発病するのではないだろうかと・・・。そしてもうひとつ思いついたことがあった。父なら治せるのではないだろうか・・・。
僕は体だけでなく心も弱いようだ。あれだけ憎しみを感じていた父がいまでは恋しく感じる。しかしただ闇雲に歩いていたせいか、帰り道が全くわからない。どうしよう・・・。と思っている時、後ろから大きな声がした。

「いたぞぉ。早く屋敷に連れ戻すんだ」

見慣れた完全防備スーツをきた、幾人もの兵士のような人があっというまに僕をとりおさえた。僕は家に帰れると思い抵抗しなかったが、それは単なる僕の思い違いだったようだ。

            2日後

僕は前の部屋よりも窮屈で窓もない牢獄のような場所に隔離されている。
こつこつこつ  ガチャ ドアが開いた。入ってきたのは父と数人の研究者らしき人。
「研究は順調のようだね。街一つ失ったが、あれはあれで研究の成果の実績として は申し分ない」
誰かが父にそういった。
「はい、あれは迂闊でした。今後あのような自体が起きないよう二度と人間らしい 生活がおくれないようここで教育しますのでご安心を」
父が答えた・・・。


そう、僕が生物兵器なのだ。隔離されていたのは外部から僕を守るためではなく、僕から外部を守るためだったらしい。僕が父の研究の成果なのだ。

僕が近づいた人間は約12時間後には死んでしまうらしい。感染力も強く、僕が1日街にでただけで、10万人もの人が死んでしまったそうだ。僕は人に触れることは決して許されない存在なのだ。
僕はおそらく後何十年もの間研究の材料にされる。戦争に使われるかもしれない。僕は生物兵器だ。人間じゃない。人間じゃないんだ。

人を殺すために生まれてきた存在ってなんだよ・・・。僕が人間になれたのは外に出た1日だけっだった。でも、1日でも人間であれたことがうれしい。
僕は歯に力を入れて舌を噛み切った。僕には生物兵器として生きる勇気がないから。

僕は最後まで弱い存在だ。

それでも 僕は 人間だ

2004/01/31(Sat)02:42:07 公開 / 君影草
■この作品の著作権は君影草さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
どうもはじめまして。
この作品はとあるTV番組(病原体もの)を見て病原体を使った小説を書いてみたくなって書いたものです。
やたら長いですが、よんでくだされば幸いです。よろしければ感想とかお願いします。
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