- 『輪廻の楔 序章』 作者:深森 / 未分類 未分類
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置き去りにされた少年は、置き去りにした少年の背中を探していた。
なにもない。
そこは営みの場ではなく、ただの焦土だった。
空虚な煙が天を焼き、累々と重なり合った黒こげの肉塊がすさまじい異臭をはなっている。
すべては遅すぎ、すべては早すぎた結果。
……彼はどこに行ったのだろう。
……彼はどうして自分を置いていったのだろう。
歩き出そうとして、すすけた衣服の裾をつかんだ幼い手に立ち止まる。
たったふたりだ。気高き一族の生き残りは。
少年は暮れていく藍色の空を見上げ、ぼんやりと唇を緩ませる。すべてをなくした者だけが浮かべる笑み。
少年は幼い妹を抱きしめて、うずくまった。
切り裂かれた右肩からへそまでの斜めの傷口からは、滝のような血液が流出している。このままでは夜を越えられない。でも、少年にはどうでもいいことだった。
だって、大切なものがもうない。
たったひとりの妹だって、もう目が虚ろで肌が赤いのに青い。
小さな唇からもれる不規則な呼吸は、次第に薄れていく。
ああ、こうやって抱いていても手遅れだ。妹はもう逝ってしまうのだ。
だからこの一族の生き残りは「彼」と少年の『ふたり』。
ふと少年は妹が目を閉じて、冷たくなっていくのを感じ取った。妹は旅立った。永遠の旅路。敬愛する両親のもとへと逝ってしまった。そして少年は孤独になった。
……藍色の空に、美しい三日月が浮かんでいた。
そして少年の血液がほとんど流出し、少年も瞳を閉ざした。
その直前、
少年は、黄金の美神が舞い降りたのを見た。
……これはひとつの終焉。
……これはひとつの過去。
……これは始まりへの産声。
……これは終わりへの足音。
それでも まえへ すすみたいのはなぜ?
ゆめ ひかり きぼう あい みえないものを
もとめつづけることは おろかでしょうか?
ただいきていたいのです
ただあいされたいのです … …
哀しいまでに美しいあなたと、ともに。
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2004/01/28(Wed)17:17:44 公開 /
深森
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■作者からのメッセージ
はじめまして。「深森(みもり)」と申すものです。本当に「初めて」なので、ちょっと緊張してます。ひとことでもいいので感想お願いします。……できれば、辛口は控えてください。
このお話は多分……気持ちよくない内容だと思います……。きれいなものがあまり見当たらないお話です。復讐話ではないですけど。