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『絆 中編』 作者:渚 / 未分類 未分類
全角1011.5文字
容量2023 bytes
原稿用紙約3.35枚
目を開けたとたん、飛び込んでくる白。
桜はうんざりして息を吐いた。この真っ白な四角い箱の中から、もう長いこと出ていない。というか、出れない。
桜は自分の手を窓から差し込む日差しにかざした。骨ばんでいて白い、病人の手。そしてこれは、誰でもない、自分の手。向こうが透けて見えるようになるまであと一歩、といったところだろうか。
達也には言わなかったが、桜はもう立ち上がれなかった。いや、立つどころか、ペンをにぎって何かを書くことさえもできない。病気でエネルギーを奪われ、手や足に力が入らないのだ。
「・・・っぁー・・・。」
低く呻いてから、かざした手を額にことんと乗せる。とがった骨が額に当たった。
小さいころが懐かしかった。あのころは何も不足してなかった。家族、友達、そして健康な自分・・。
今は、何もない。
2年前に離婚した両親。一度見舞いに来たきりで、連絡をよこさない友達。立ち上がることさえもできない自分・・。
このまま自分は終わるのだろうか。この小さな部屋でベットに寝たきりのまま、誰にも気づかれずにこの世から姿を消す・・。
そう思うと、突然怖くなった。じっとしていられなくなった。ひじを突いて起き上がろうとするが、腕に少し体重をかけただけで、ひじのところからかくんと曲がってしまう。裸足の両足をばたつかせても、ただむなしく空を切るだけだった。やけになって思いっきり起き上がると、案の定腕からバランスを崩し、ベットから転げ落ちた。点滴の針が鈍い音を立てて抜け落ちる。
桜はつめたい床の上に投げ出された。もちろん、ベットから降りても立ち上がることはできない。何とか動こうとするが、手に力が入らないので這うこともできない。
しばらく床でもがいていたが、やがて彼女はと動かなくなった。さっきまでばたつかせていた手足は、今は小刻みに震えている。
桜は嗚咽をあげて、泣いた。涙があふれてとまらなかった。止める気さえなかった。ただただ、きれいに磨かれた床の上に涙をこぼした。もう少し気を緩めれば、声を上げて泣いてしまいそうだった。



















「桜?入っていいのか?桜ぁ?」
扉をどんどんとたたく音が部屋にこだまする。
部屋の主は答えなかった。彼女は細い四肢をだらりと投げ出し、目を閉じていた。彼女の顔は穏やかだった。血の気を失った顔には傷ひとつなく、きれいな口は少し開いている。二度と開かれることのない目は、横長に、静かに閉じられていた。
2004/01/24(Sat)23:53:32 公開 /
■この作品の著作権は渚さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
・・まだ中編です;この後に後編があって、それで完結です。もしよかったら読んでやってください。
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